私気づいた。銃より拳のほうが強いんじゃないかって。 作:まっしろたまご
トリニティ総合学園補習授業部、その合宿が今日から始まる。
部員の四人に加え、顧問である先生を合わせて5人。そこに、合宿開始に合わせ、追加のメンバーが紹介される。
“この子がこの間言ってたもう一人。シャーレ所属の生徒として協力してくれるよ”
「どうも。風音ホノカと申します。よろしくお願いしますね」
深々と頭を下げる彼女に対し向けられる視線。
突如現れた友人との再会に困惑しつつも嬉しそうな表情を浮かべる者。
普通の生徒とは違い、どちらかといえば『先生』に近しい雰囲気を放つ彼女に警戒を引き上げる者。
正義実現委員会のエリートとしてゲヘナの制服を身に纏った彼女を奇異の視線で見る者。
そして、突如行方をくらました妹分が目の前に現れ、当惑を全く隠しきれない者。
“ホノカは副顧問として合宿に参加するから、仲良くしてね”
各々の意識を現実へと引き戻したのは先生の号令だった。
一度仕切り直し、直前の話題へと回帰する。
「えっと……大掃除の話でしたね!では、ホノカちゃんの案内がてら私が———」
「いや、私にやらせてくれ。地形や構造物の把握はあらかた済んでいる」
「あ、アズサちゃんの案内を受けられるなら安心ですね!お任せしましょう!」
掃除場所と使用する器具の場所を確認し、各々足を運ぶ。少し強引に引っ張られる様子で校舎の奥へ消えていくホノカを、ハナコだけが訝しげに見つめていた。
***
ホノカ視点
***
補修授業部の皆さんとの挨拶もそこそこに、私はアズサさんに手を引かれて埃を被ったベッドが数個置かれている部屋に連れて来られました。
さて、どこから掃除したものかと考えながらとりあえず窓を開けようと手を伸ばすと、肘あたりをぐいと掴まれて、そのまま壁際に追いやられてしまいました。いつの間にやら反対の手も同様に拘束され、ちょうど頭の上で手首を掴まれて万歳の形。あまりにもスマートな制圧、私は見逃しました。
私とアズサさんの身長差は約10センチほど、それを頭の上で手を固めて捕まえているのですから顔がとても近いです。あまりにも美しすぎるご尊顔、いやぁ直視できない。思わず目を逸らしちゃいます。
「……どうして、こっちを見てくれないんだ?」
バレてました。いや、ご尊顔を拝めない云々は冗談でございまして、今の私にはまともにアズサさんと交流を持ちづらい理由があるんですよ。
そう、その理由こそ過去の私です。以前ここを訪れた時、私は過去の記憶を見て、自分が転生や転移ではなく憑依であったと知りました。そして、自分がアリウス自治区の生まれであったことも。
なんなら、アズサさんのことは『お姉さん』と呼んで慕っていましたし。
早い話、相手視点からすれば妹分として可愛がっていた後輩がいきなり消息不明になって、思いがけず再会できたと思ったら中身の違う全くの別人でした……ってなわけで。
そんなことがあって曇らないことがありましょうか。いや、ない。黄金の精神を持つ彼女とてそれが発揮されるのは困難に直面した時、友達が問題に巻き込まれたり傷ついたりしようものなら深い深いダメージを負う女の子だったと記憶しています。
だとすれば、どうするか。答えは明白です。この0.02秒の思考の中で、弾き出されたその答えこそ———
「ご、ごめん……ちょっと久々すぎてどう接してたかな〜って……」
過去の風音ホノカを演じることッ!!出来るだけ穏便にことを済ませてなんかいい感じのタイミングでいつかネタバラシをする!!!ええ!!!後回しですとも!!!
「……ホノカ?どうしてそんなにたじろぐことがあるんだ?私とホノカの仲だろう」
危機的状況ーーッ!!どういう仲だったんですか過去の風音ホノカと白洲アズサは!!ええい!!!それもこれも全部陸八魔アルって奴が悪いんだ!!殺してやるぞ陸八魔アル!天の助!!ついでにベアトリーチェ!!
「い、いや……こ、こう……久しぶりだと……どうしても緊張してしまいまして……」
「ホノカは敬語を意地でも使わない」
ナチュラルに失礼ーーッ!そんなんもう初エンカウントの時点で*1詰みじゃないですか!!やだーーー!!
「その……あの……えっと……」
「いや、もういい」
拘束していたうちの片手が離れ、やれやれなんとかなったかと思ったその矢先。無防備だった首筋にひんやりとした何かがあてがわれます。
キヴォトスで生活を始めて早い事に数ヶ月、幾度となく向けられてきたのでもう感覚でわかります。
銃口。それもゼロ距離で。首筋に。
「お前は……誰だ?」
「やっぱり、咄嗟には嘘をつけませんね」
「答えてくれ。撃ちたくはない」
「言われなくても。まずは、騙すような真似をして申し訳ありません」
さて、どう話したものでしょうか。選択によってはホノ・即・斬になりかねません。
慎重に、慎重に行きましょう。
「敵意がないとアピールするのに手っ取り早いのは……これですかね」
「それは……」
ポケットから取り出したるは今朝方受け取ったクソバ……ベアトリーチェからのラブレター。
襲撃に協力しろという旨と直筆のサイン。
手渡された文書を目で追えば追うほど、彼女の顔が曇っていくのがわかります。
ヒナといいアズサさんといい、どうしてこうも私の決断は人を曇らせてしまうのでしょう。アビドス然り、今然り、憂鬱の極みです。
「ま、毛頭そんな事に協力するつもりなんてないですけどね」
「……え?」
「むしろ、計画をぶち壊しにするつもりでもあります」
「それは……いや、そうだな」
「ええ。ですので、今は
計画はぶち壊しますし、ことが終わればなんとかしてこの体も元の私に返します。
……出来るかはさておき、嘘はついてませんね。
「……ごめん。やっぱりホノカは変わらないな」
「……ぇ?」
「嘘を吐くのが下手なのも、本当のことを話す時だけしっかりと目を見ることも。それと———絶対に諦めない、絶対に曲げない芯があることも」
そんなこと言いましたっけ私……存在しない記憶溢れてないですか?大丈夫?
「ところでホノカ」
「はい。ホノカです」
「羽根はどこにやったんだ?」
「私にもわかんないです……」
カザネ(あ、ホノカちゃん私の真似へったくそ……言ってくれればいつでも変わるのに)
アズサ「嘘を吐くのが下手なのも、本当のことを話す時だけしっかりと目を見ることも。それと———絶対に諦めない、絶対に曲げない芯があることも」
カザネ(似て……似てる……?)