私気づいた。銃より拳のほうが強いんじゃないかって。 作:まっしろたまご
気まずい再会から一転、ゲリラ戦の達人とスピードが売りの少女の手によって割り当てられた場所の掃除は瞬く間に終わらせることができました。さすが私たち、他の補習授業部の皆さんに挨拶回りがてら手伝いをして、残るはプールのみと言うところです。
「わぁ……すっごい緑……これを今から掃除するんですか……?」
「はい♡『使う』ならきちんときれいにしておいたほうが気持ちいですから♡」
「な、何言ってるの!?死刑!!」
いつもの、って感じですね。やっぱりブルアカのキャラ達……その中でも補修授業部は特に青春してるのがよく似合いますね。それだけにこの先確定された未来として一悶着二悶着三悶着とトラブルが重なるのが胃痛の種。積極的な介入を決意した以上なんらかのアクションを起こさなければいけないのですが、はてさてどうしたものか。どこにどう介入しても私程度ではどうにもならないような気がしてきます。
「……?どうしたんだホノカ?着替えてこなくていいのか?」
「えっ?あっ……何も聞いてませんでした……」
「やっぱり、
アレ……アレと言うのはやはりクソバ……ベアトリーチェからの情熱的なお手紙でしょう。
確かにそうといえばそうですし、そうではないと言えばそうではない。裏切り前提の計画を立てている以上、どこで聞かれてるかもわからないのに口に出すのはまずいでしょうか。
「ええ。まぁ、どうしたものかと。ゲヘナにもトリニティにも、友人はたくさんいますし。大切にしたい人だってできました。それなのに、マダムの勅命とはいえ従うのは、と」
「そうか」
まぁ、相手が相手ですし大丈夫でしょう。というか、むしろここで言っておくことによって本当の意味でアズサさんと『協力者』になれたら個人的にはベストなのですが。私が背負うことのできる負担は出来るだけ背負いたいですし、個人的にはこの子たちは光の中で生きてほしいと言う気持ちがないといえば嘘になりますしね。
「……ホノカ。よかったら、本当によかったらでいい。お前さえ良ければ私と———」
「あらあら♡秘密のお話ですか?」
「うえッ!?びっく……ちょ、びっくりさせないでくださいよ……」
いつまで経っても着替えに帰らない私たちを心配したのか、背後に現れたハナコに耳元で囁かれました。心の底からほんとのほんとにびっくりした……アズサさんも途中でやめちゃいましたし、今回に関してはバッドタイミングですよハナコ……
「あ、私はちょっと事情があって脱げないので掃除は補助に回りますのでアズサは早く着替えちゃってください」
「……?ああ。分かった」
手足や顔は治すなり隠すなりしているものの、普段人に見せないような場所の傷跡はそのままになっています。
ヒナや他の私を大切に思ってくれている人を悲しませた戒めに、と思って残してはいたが、この体に持ち主がいたと分かった以上、返すまでにはきちんと直しておかないといけないでしょう。このまま引き渡すのは良心が痛みます。
ワンテンポ遅れて着替えに行ったアズサさんの帰りを待って、プールの掃除は開始されました。美少女達のキャッキャウフフする声、光り輝く水飛沫、コハルさんの死刑判決……
道具を運ぶと言う重要な任務を一往復で終えてしまった私は、ボンヤリとそんな様子を眺めておりました。
“やぁ。ホノカ”
「ヒェッ……キヴォトスでは背後から急に現れるがブームなんですか?」
“いや、そんなことはないけど……”
嘘つけ絶対ブームですよ。マジでアズサさんも私も気づきませんでしたからね。ええ、今回も前回も。
“何か物憂げな表情で眺めていたから、大丈夫かなって”
「そんなにわかりやすい顔してました?」
“うん。結構”
えぇ〜、ほんとにござるか〜?どうせ先生が生徒に対しては化け物じみた洞察力してるだけじゃないですかね。きっとそうですよね。
“ホノカは、これからのこと不安?”
「ええ。ここからは、明確な『悪意を持った敵』と相対することになります。ちょうど今のような、美しい青春を送る彼女らを巻き込んでです」
うっかりと不安が溢れてしまいました。ただ、これも致し方なしでしょう。私は
“実は、最近ちょっと『大人っぽくなったかな?』って思ってたんだけど……”
「なんですか」
“やっぱり、まだまだ子供だね”
「……それは自覚してますよ」
“私に出来ることがあったらなんでも言ってね。きっと力になれると思うから”
その時先生の顔を見て、思わず目を見開いてしまいました。
真っ直ぐとこちらを見つめる瞳。まるで見透かされているようであって、不快感はありません。そこにあるのは他者への慈しみと純粋な善意だけ。それでも、並々ならぬ情熱があり、聡明さがあり、どこか引き込まれる。そんな瞳です。
「狡い人ですね」
“それに関しては私も自覚してるかな”
「でも、まぁ———」
「やれるだけ、やってみますよ」
こちらを慮るような言葉を並べる彼に、私はそう言って微笑みかけてやったのでした。
***
その夜、掃除にくたびれたみんながバタバタと眠りに落ちていく中、私はアズサさんに手を引かれて夜の闇の中をひっそりと駆けていました。
これより向かうのはおそらくサオリさん及びアリウススクワッドとの初エンカウントイベント。気が重いったらありゃあしません。
「ついたぞ。ここだ」
「結構近いんですね」
「連絡しやすいに越したことはないからな。この外出は他言無用だ」
「ええ。それはもとより心得ています。じゃあ、行きましょう」
壁にツタの這う廊下を抜け、もはや何回目かもわからない角を曲がり、月明かりの漏れる一室へ。
青白い光の照らす室内には、四つの人影が待ち受けていました。
「……来たか」
「協力者を一人連れてきた。マダムから聞いているはずだ」
「ああ。入れてくれ」
大きく深呼吸、手の震えは無し。コンディションは万全。セリフも事前に用意してきました。
ゆっくりと重い扉を開け、一歩一歩足を進めると同時に、少しだけ相手がたじろぐのを感じました。
「……や。久しいですね。