私気づいた。銃より拳のほうが強いんじゃないかって。 作:まっしろたまご
「———は?」
薄緑のロングヘア、長い前髪から覗く瞳。鈴のような声音。
(……何故。何故ここにいる?お前はあの時———!)
その瞬間、錠前サオリの脳内に溢れ出した、
「ねぇ。サオリお姉さん」
「どうした?ホノカ」
夕刻。ちょうど訓練がわった頃、撤収の用意を進めるサオリの元へ同じく訓練を終えたホノカが駆け寄っていった。
何やらモゴモゴと口を震わせるばかりで、なかなか次の言葉を発さない。サオリは黙って続きを待つ。
やがて意を決したように頬を叩き、しっかりと目を合わせる。これは何か大切なことを言おうとしていたり本心からぶつかっていく覚悟をした顔だ。
「ねぇ」
「ああ。聞いている」
「わたしが一人前になったら、『スクワッド』に入れてくれない?」
想定から大きく外れ頼み。思わず眉間に皺が寄ってしまう。しかしそれはすぐに元の仏頂面に戻り、口元からは小さな吐息が漏れた。
「……なるほどな。てっきり、お前の憧れはカオリが独占しているものだと思っていたのだが」
「うーん……憧れてはいるけど……ちょっとお姉ちゃんとわたしとじゃベクトルが違うかな」
訓練所が施錠されるまで居残っていたのはこの二人しかおらず、銃声の鳴り止んだ辺りはしんと静まり返っている。
妙な不気味さからか、そそくさとその場を後にし帰路に着く。建物の影に沈もうとする西日の最後の足掻きが眩しかった。
「わかった。マダムに打診してみよう。単純に戦力の補強にもなる」
「ホント?!ありがとう!!!」
「打診するだけだ。望む通りにいくかはわからない」
「でもありがと。大好きだよ!サオリおねーさん!」
(なんだ……これは……記憶が溢れて……完結しない……?)
***
風音姉妹がマダムに呼びつけられて早四時間。簡単な用事だと伝え聞いていたものの、こうも出てこないと心配にはなってくる。
何か問題でも起こったのではないかと思い立ち、マダムの拠点の前まで足を運んだものの突撃するわけにもいかず入口前でオロオロとするばかりだった。
ひとしきり辺りをうろついた後サオリが少し冷静になり、自分の根城へ帰ろうかと思い立った時。唐突に扉が開かれ、ホノカを胸に抱いたカオリが姿を現した。
「しかしまぁ、なんと美しく透き通ったいい天気だろうか」
駆け寄ろうとした足が思わず竦む。
細かな語気、立ち振る舞い、ヘイローの消えたホノカ。
まるで、そこにいるのが『彼女』ではないような。本来ここにいるべきではない
「『ああ……君は確か……錠前サオリだったか?』いや、すまない。サオリ。少しいろいろあってな。まぁ、追って説明はするよ」
「……解った。その……ホノカは……」
「死んだよ。さっきな」
頭を殴りつけられたような衝撃だった。本の数時間前までニコニコと駆け回っていた人間が、次姿を現した時に突然『死んだ』なんて言われて信じることができるだろうか。
それが親しいものであったなら尚更である。
閉鎖的な環境で育った都合上、『死』というものを肌に感じることは多々あった。しかしこうも目の前に現実として突きつけられると困惑ばかりが燻るばかりだ。
「一体中で……マダムと何があったんだ……」
「追って説明はする。今はこの子を外へ連れて行ってやらなければいけない。急がなければいけないから、私はこれで」
「待て。いや、待ってくれ。それで納得なんて―――」
会話はそこで終わった。その後はぼそぼそとうわ言をつぶやきながら去っていくカオリの背を呆然と眺めることしかできなかった。
***
「なんだ……これは……?」
サオリの頬を一筋の涙が伝う。それはやがて音もなく地面へと吸い込まれ、元の廃墟の一室だけがサオリの眼前に残った。
回想を終え、改めて目の前の少女を見やる。あの時はぐったりとして微動だにしなかった少女が今は元気そうに目をぱちくりさせている。
「いや……すまない。それで要件はなんだ?顔を見せにきただけ言うわけではないだろう」
「
「ああ。事が済んだ後にな」
「それで要件なんだけど、実は———マダムとの『面会』がしたくって」
ホノカ(えっちょっとなんですかこれ体の自由がががが)
カザネ(もう!ホノカちゃんお姉さんの扱い下手すぎ!)
ホノカ(誰ですかあなたは)
カザネ(え?)
ホノカ(え?)