私気づいた。銃より拳のほうが強いんじゃないかって。 作:まっしろたまご
今日も今日とて風音ホノカの朝は早い。朝日と共に目覚め、日課のランニングを開始します。
透き通るような晴天。流石はブルーアーカイブの世界。
今日もアビドスの郊外まで行って見ましょうか。そう考えながら、私は風と共に加速を始めました。
走り心地がいいとはあまり言えない道を抜けていつもの自販機にたどり着きます。小高い丘のようになっている道沿いからはアビドスを一望でき、一休みがてら景色を楽しんでいると優しい春風が頬を撫でていきました。
「ん、今日もいた」
「あ、シロコさん。おはようございます」
シロコさんとはここで知り合いました。ランニング中に発見した場所で、『ここにシロコさえいれば見たことあるイラストの絵になるはずなんだけどなぁ』なんて考えていたときに話しかけられた時に知り合いました。
それ以来、ここで顔を合わせてはよく一緒に休憩する仲です。全くもって奇跡ですね。
「今日もゲヘナから走り込み?」
「ええ。近々大きなイベントが控えてまして。そのための体力づくりです」
「オーバーワークにならないように、少しは休むべき」
「休むべきところでは休んでますよ」
そんな感じで、割と他愛のない話をする。互いのトレーニングの話とか、今度一緒に走りに行こう、とか。アビドスに転校してこないかとかも。そんな日常会話の中で、ひとつだけ聴き逃せない話がありました。
「そういえば、『シャーレの先生』がアビドスに来てくれたから、借金問題もなんとかなるかも」
「それはおめでたい話ですね。お赤飯でも炊きましょうか?」
「ん。気持ちは嬉しいけどまだ気が早い」
「私に出来ることがあればなんでも言ってくださいね。友達のためならどこへだって全速力で駆けつけます」
「ん。なら遠慮なく呼ばせてもらう」
校外に『友達』ができたことがよほど嬉しいのか、普段クールなシロコは頬を綻ばせていました。眼福眼福。
隣の可愛いシロコは置いておいて、先生は今アビドスを攻略中。ならば近いうちに銀行襲撃や風紀委員会とのドンパチが起こるでしょうこれから忙しくなりそうです。
そろそろ朝日も登ってきたのでシロコに別れを告げ、行きの1.3倍ほどのペースできた道を駆け戻ります。
帰宅後、今日はジャムを握り潰さずに済んだと喜んだのも束の間。遅刻ギリギリで登校したのでありました。
「ホノカ。今日は珍しく平和だし、早めに上がりなさい」
「じゃあご遠慮なく」
「全く貴女は……もう少し躊躇とかないんですか?」
「ヒナがいいって言ってるからいいじゃん!んじゃ!私帰るから!」
「ちょ、委員長を名前で呼ぶのは……ってもういない……」
「いいじゃない。アコ。一年生らしいというか、元気がもらえて」
「委員長がそうおっしゃるのであれば……」
放課後、そこそこに珍しい風景。万魔殿や便利屋68、美食研究会といった数々の
現に今日、天文学的な確率で業務から解放された私は、一般生徒用の制服に着替えた後、意気揚々とブラックマーケットへと繰り出しておりました。
「来た......ついにプライベートで来れたぞ!!ブラックマーケット!!」
喜びもつかの間、スマホから着信音が響きます。恐る恐る確認してみると、どうやら仕事の呼び戻しではなかったようでまずはホッと一息。電話はなんとシロコさんからでした。
『ん。やっと繋がった』
「どうしたんですか?電話なんて珍しいですね」
『突然だけど、ブラックマーケットの地理に関して詳しかったりする?』
「そりゃあまぁ何回か仕事で来てますし......一応は」
『それじゃあ座標を送るから今からきて。説明はあとでするから』
そう言い残して、シロコはぶつりと電話を切ってしまいました。ブラックマーケット、地理、アビドス......嫌な予感しかしないですね。が、とりあえず送られてきた地点へと向かいましょうか。
意外ともしかしたら非売品の自転車のパーツがあった!とかかもしれませんし。
「......よし」
希望的観測でこそあるものの、呼ばれたからには致し方なしです。座標は比較的わかりやすい地点だったので、迷うことなくたどり着けそうですね。
「……きた」
「ねぇ先輩……この人なにも知らないんじゃ……」
「初めまして〜⭐︎」
「貴女がシロコ先輩の助っ人……よろしくおねがいします」
「うへ〜君こないだの子じゃ〜ん。久しぶり〜」
“やぁ。初めまして”
想定通りのメンバー。トリニティのペロロジャンキーがいないあたりまだ割とストーリー序盤でしょうぁ。
まあそんなことはどうでもいいんです。
これが『シャーレの先生』。中性的な顔立ちに中性的な声。身長は170センチ中盤ぐらい。徹底的に性別を匂わせる要素を排除しているような感じですね。分かることといえば顔が良いことといい匂いがするぐらいです。いやほんとにいい匂いだな?
紙袋を被っていたり鉄華団団長だったり、田中角栄だったり異様に顎が長かったらどうしようかと思っていたが杞憂に済んだようで安心……
「私は風音ホノカです。シロコさんの友達で———」
「だ、誰かーー!!た、助けてくださーい!!」
クソッ!!完っ全に巻き込まれた!!今の声はペロキチでしょう。さようなら、素行のいい私。こんにちわ、問題児の私。
いや、トリニティの生徒を保護するためならまだ情状酌量の余地があるのでは?帰ってこい、素行のいい私。
先頭をかけてくる不良ちゃんにラリアット!そして倒れ伏した足をしっかり掴んで流れるようにジャイアントスイングへ移行ッ!!
「なんだコイツ!?近づいてくんな!!」
「うるッせぇですよ不良共!散れ散れ!!!」
無我夢中で不良を蹴散らし、阿慈谷ヒフミを確保。アビドスの面々に押し付けます。
しばし鑑賞。ほぼ原作通りのやりとりがなされているのをニコニコと見つめていると、先生が近寄ってきました。
“改めて、初めまして。急に呼び出しちゃったみたいでごめんね”
「構いませんよ。風紀委員会や委員長に怒られたら庇ってくれるだけで問題ありません」
“結構ちゃっかりしてるね……”
「これでも風紀委員見習いですから。悪いことを見逃すわけにはいかないのですよ」
軽く話してみた感じ、やっぱり先生です。というか聖人すぎてホントにイオリの脚を舐めたのと同一人物か疑いたくなりますね。コイツがヒナを吸ったりアコをお散歩するってマジ?
「ん。ホノカもくるよね」
「申し訳ないんですけど何も聞いてませんでした。なんて言いました?」
「手がかりを探してこの辺りを見て回る。ここまできたなら付き合うべき」
「OK、ちょうど暇でしたし、護衛は任せてください」
もうほぼヤケになりながら行動開始。ぶらぶらと辺りをほっつき歩く途中、巻き込まれた者同士少しヒフミと話をしました。自分はゲヘナの生徒だと伝えると一瞬たじろぎましたがそれでもそのまま接してくれました。『これくらい普通』と言っているがやはりいい子ですね。
私と会話をする中で善良なゲヘッパリであることを察してくれたようで、なかなかに会話が弾んみました。
ひと休みに買った鯛焼きはホシノと分けました。
小さな口で鯛焼きを頬張るホシノはとてもかわいかった。眼福。
「ねぇ、あの現金輸送車……」
小休憩中、セリカさんが気づいてしまいました。着々と銀行を襲う計画が組み上がる中、そっと逃げようとしていると、シロコに肩をがっちりとつかまれてしまいました。
「ん。ゲヘナの生徒なら銀行強盗もお手のもの。リーダー補佐として付いてくるべき」
「ちなみに逃げるっていう選択肢は……」
「ない」
「ないですね……」
「ないですね〜⭐︎」
「ないねぇ〜」
「無いわね……」
“なさそうだね……”
「あはは……」
やっぱり終わった……グッバイ素行のいい私。
ブラックマーケット路地裏に、1から6の数字が刻まれた目出し帽を被った少女達が集います。
手作り感満載の1〜4に、ほんのり鯛焼きの匂いが香る5、そして極め付けはそこら辺に落ちていたゴミ袋を被った6こと私です。
“それじゃあ、作戦通りに”
「「「「「「「了解!」」」」」」」
一時的に周囲の防犯カメラの映像が差し替えられます。時間は長く見積もって五分程度。ですがこの『覆面水着団』にはなんの問題はありません。
それぞれ武器を構えて突入。私は丸腰だったためそこら辺に落ちていたバールのようなもので参戦です。リーダーであり個としての戦闘能力が比較的低めであろうファウスト様の護衛につきます。
またしばし鑑賞。決してガチ勢とまでは言えなかったものの、それでも生前やっていたソシャゲの名シーンを生で見れたとなるとそこそこクるものがありますね。こんな調子で
「一歩でも動いてみなさい!サブリーダー様がただじゃおかないわよ!」
「え?」
完全にこっちに来ないモノだと思っていました。まずい。
メンバー、人質共からの視線が私に集中します。思わぬキラーパス。本当に銀行強盗に感極まって何も考えていませんでした。それでも何か言わなければ場が一気にギャグみたいな雰囲気になってしまいます。そう思った瞬間思考が加速を始め、最適解を求め始めました。
味方を鼓舞しつつ恐怖を振り撒ける一言。そんな魔法の言葉を私は知っている。この間0.02秒の思考でありました。
「一歩でも動いてみなさい……こう、なんていうか……こうして……こうして……こうです!」
ここ数ヶ月気合いで育ててきたこの体、筋肉に聞いてみたところ『イケる』との返答を得られました。ええ、バールを捻じ曲げてやりましたよ。そりゃもうぐにゃぐにゃに。少し離れたところに座っているアル社長が白目を剥くのを感じました。
◆◇◆◇◆
それから少し逃走を挟んで数十分後。他の6人が便利屋にノリノリで名乗りをあげているのをまた鑑賞していた時のこと。意外なことに、伊草ハルカさんに話しかけられました。
「あのぅ……今お時間宜しいでしょうか……」
「ええ。構いませんよ」
「貴女はサブリーダーとしてリーダーの護衛に当たっているように見えました……それでその……私にもお守りしたい方がいて……そうすれば貴女のような力を身につけられるのかお聞きしたくて……」
ゴニョゴニョと早口で続けるハルカ。要は『社長を守りたいから鍛え方を教えてくれ』ってことでしょう。
「それなら簡単です。有事の際誰よりも早く動ける様に瞬発力を、誰よりも長く戦い続けられる継戦力を身につければいい。攻撃や防御といったことも全て基礎体力の上に成り立っていますから」
「ええと……それは一体……」
「ゆったりと考えればいいですよ。自分で答えを見つけてこそですから」
撤収の時間が近づいてきました。覆面水着団もただの少女達に戻り、日常へと回帰しなければなりません。
「何処かでまた、お会いしましょう」
「……!はい!」
◆◇◆◇◆
社長に連れられて銀行で融資の相談をして待っていると、突然強盗が押し入ってきた。
5人の制服はアビドスのもの。後の2人はそれぞれトリニティとゲヘナだった。
凄まじいチームワーク。強盗達はものの5分ほどで大量の札束を奪い去っていった。
社長は『あれこそ真のアウトローよ!』なんて言ってヒーローショーを見る子供みたいになってるし、ハルカはゴミ袋の人に目を輝かせながら質問している。
それから何日かして、社長が裁縫を始めて、『便利屋の覆面を作る』なんて言い出したし、ハルカも時間を見つけては筋トレに励む様になった。どっちも悪いことじゃないんだけど、ムツキはニコニコして止めないし。
影響受けすぎ感あるけど、これはこれでまぁ、悪くないかも。