私気づいた。銃より拳のほうが強いんじゃないかって。 作:まっしろたまご
イベント盛りだくさんの1日も一段落、最後の来訪者に備えて思考を巡らせながらそれぞれの学習進捗をまとめていた頃。部屋のドアがコンコンとノックされ、彼女を知らせました。
「どうぞ。開いてますよ」
「……失礼します」
「いらしてくださったんですね。ありがとうございます」
「いえ。私からお願いしたことなので、これくらいは当然です」
そんなことを言いながら部屋へと入り、流れるような手つきで後ろ手に鍵を閉めたのはハナコさんでした。約束の時間にはまだ早いはずではありますが、それほど彼女のいう『相談』は切羽詰まっていることなのでしょうか。
あるいは、これも既に彼女の策のうち、とか。
「相談、でしたよね。私でよかったんですか?」
「よかった……とは?」
「先生の方が、色々と適していることもあるでしょう。総合的な問題解決能力も彼のが上です。それを差し引いても———」
「ええ、ホノカちゃんじゃないといけない理由があります」
個人的にレスバに限らず喧嘩は得意な方だと思っています。*1といっても、入念に準備をした上で自分のペースを保ったまま、という前提条件はありますがね。しかし、しかしですよ。これがハナコさんに通用するとまでは私も思い上がってはいません。ですがせめて、彼女がなぜこのタイミングでコンタクトを取ってきたのか、なぜ私を選んだのか。この二つだけは明らかにしないといけません。
「アズサちゃんについて、お聞きしたいことがございまして」
「アズサさんについて、ですか」
「旧知の仲であるホノカちゃんであればわかるのではないか、と」
「なるほど。そういうことであれば何なりと」
いやー困りました。旧知の仲なのはカザネさんの方なんですよね。また記憶を深く辿ろうとして肉体の主導権が移ったら目も当てられません。というか今更ですが私が動いてる時はあの子意識あるらしいんですよね。
(あるよ〜!)
私は完全に眠ってしまって何が起こったのかの把握から始まるのに、ちょっとフェアじゃなくないですかこれ。あとサラッと思考に入ってこないでください。頭にアルミホイル巻いて練り歩きますよ?
「あの……大丈夫ですか?心ここに在らずと言った様子ですが……」
「ああいや、失礼しました。最近少し激務続きでしたので」
「お忙しそうなので、この相談はまた別の機会にさせていただきましょう。流石にこれ以上ホノカちゃんの負担を増やすわけには」
「大丈夫!大丈夫です!!あーなんだか元気が湧いてきた!……っと冗談はさておき、悩みを抱えたままでは勉学にも身が入らないでしょう。そこもきちんとケアして青春を送るお手伝いをするのも、私達……シャーレの仕事ですよ」
いや、多分そこまでじゃないですけど。いやでもでも多分先生も同じようなこと言いますよね。それとも彼なら“大人の仕事だよ”って言うんでしょうか。
「……では、ご厚意に甘えさせていただきますね」
申し訳なさそうな笑みを浮かべるハナコさん。とてもこの人が昼間下ネタを連発しまくっていたとは信じたくありませんね。
「実は最近、アズサちゃんが夜どこかへ出かけていくのをよく見かけるんです。本人にそれとなく聞いてみても、『トラップを仕掛けていた』と言われるばかりで……」
「……本人がそう言うのであればそうなんじゃないですか?」
「確かに、
あ、風向き変わりましたよ。というか妙ですね。昨日は私も一緒に連れ出されたはずなんですが……?
「合宿所を抜け出したアズサちゃんは、不審な人物と密会をしていたんです。それだけならお茶目な女の子で済ませるのですが、現在のトリニティの内情なんかを細かく共有していまして」
「……へぇ。それで?」
「だからこそ、お聞きしたいんです。
あ、終わった。終わりましたよパトラッシュ。これバッチリ私もあの場にいたことを踏まえて聞きにきてる感じですね。いやー。これはたしかにせんせいにはききにいけないわけだなー。ふざけてる場合じゃないですよ?どうするんですかこれ。
(わたしがなんとかしてあげよっか?)
気持ちだけ受け取っておきますね。
(ちぇっ)
冗談はさておき、本当にどうしましょう。とりあえずしらばっくれるのはありえないとして、『あの子迫害された学校からきた子でトリニティとゲヘナを滅ぼそうとしてるグループの内通者ですよ〜』なんて口が裂けても言えません。というかそんなことを言おうものなら舌を噛み切って死にます。自称IQ53万の私のスーパー脳内CPUにしてもこれは難問ですよ。中途半端に教えても結局不信がられそうですしねぇ……
………
……………
…………………?
あ、そうだ。
じゃあ逆に、全てを教えてあげるのはどうでしょう。
吐けることは全て吐く。むしろ、不必要な情報も押しつけて混乱させてやるぐらいの気概でいきましょう。 *3
「あー……知ってますよ。少なくとも、ハナコさんの知りたいことは間違いなく」
「……では、教えていただけますか?」
「ええ、お話しましょう。一から十どころか、ゼロから百まで」
この合宿、もとい補習授業部はおかしい。初めて召集があった時から、ハナコはうっすらとそう感じていた。『成績や素行の怪しいものを集めて、落第を人質に取った勉強会』といえばまだまともなように聞こえるが、どうもそうではないような、確証のない違和感。
成績も、素行も怪しい生徒はもっとふさわしい者がいるはずなのだ。
まず、阿慈谷ヒフミ。おそらく、彼女は桐藤ナギサから信頼されている。定期的に
次に下江コハル。彼女は普通に成績不振で巻き込まれたのだろう。気の毒なことだ。
問題は自分と白洲アズサだ。自分に関しては言わずもがな、日常的な素行の悪化と成績の急速な下落。アズサに関しても成績は芳しくない。だが、それとは別にあの子はかなり
そして昨夜、ホノカを連れて外部の人間に接触するのを目撃した時。どこか合点が行ったのだ。「ああ、これが桐藤ナギサが危惧していたことか」と。
これはトリニティだけの問題ではない。少なくとも外部の組織が一つ、もしかしたらゲヘナを巻き込んで何かを企んでいるかもしれない。そんな大謀略に巻き込まれるのは勘弁願いたい。だからこそ、確かめる必要があったのだが。
(……まさか、ここまでだとは思いませんでしたね)
運が良ければ判断材料をこぼすか、ぐらいの心持ちで行ったはずが、ホノカは全てを白状した。それはもう、拍子抜けするほどペラペラと。
この合宿の本当の意味、密会相手の素性、彼女らの目的、これから起こる、未曾有の同時テロ。嘘と切り捨てるのが賢明とは理解しているものの、ホノカの言葉にはまるでそれを一度見てきたかのような真剣さがあった。
「仮にそれが本当のことだったとして、信じられると思いますか?」
「別に信じなくても大丈夫ですよ。私はただやるべきことをやるだけであって、信用や信頼は後からついてくるものですから」
そう言って、風音ホノカは薄く微笑んだ。その奥には覚悟や闘志といったものが静かながらも揺れているのをハナコは肌で感じた。
「何故、あなたはその未来を知って尚…………」
「簡単なことですよ。だって———」
「女の子が理不尽に苦しんで、涙さえ流さなければならない物語って、ちょっと胸糞悪くないですか?」
真っ直ぐと目を合わせて告げたそれこそ、打算抜きでかつホノカの唯一絶対の本心だった。