私気づいた。銃より拳のほうが強いんじゃないかって。 作:まっしろたまご
(ねぇ、ホノカちゃん。本気なの?)
「本気って何がですか?」
(先生を討つって、殺すってことだよね?)
アリウス自治区を抜けて市街地に入った頃、不意にカザネさんに語りかけられました。長くなりそうなので先生には『ランニングに行ってきます』と連絡を入れておきましょう。
「あれはまぁ……ハッタリのようなものですよ。ただ、提示した条件に説得力は持たせられたでしょう」
(ああ、びっくりした〜。てっきり、ほんとにやっちゃうつもりなのかなって)
「まさか。そんなわけないじゃないですか」
(ね。
痛いところを突かれましたね。いやまぁできることなら殺したくはないですけど……取引だって、
・原作知識を用いて計画を言い当て、情報の正確さを担保
・先生の排除
・ゲヘナ内情(マコトがヒナをここで消そうとしている旨)
・研究材料として結晶化させた神秘a.k.a.バリアのかけらの提供
これらと引き換えの飛行船襲撃取り止めですからね。先生の排除に関してはハッタリですし安い安い。
(ま、いいや。私が言いたいのはそういうことじゃないんだよ)
「……じゃあ、何を?」
(とぼけないでよ。さっき、わざわざ二人っきりで話してたんだからさ。その時仕掛けちゃえば、それで終わりの話だったよね?)
「……でも、それだと原作が」
(ホノカちゃんの言う原作がどんなに素晴らしいものなのかは知らないけどさ、あそこで殺しておけば、少なくとも調印式の襲撃はおじゃんにできたよね?)
「……でも」
(
「……ぐうの音も出ませんね」
(誰も泣かせたくないとか、自分で何とかするって意気込むのはいいけどさ。意気込むだけで何もしないなら———いいよ。わたしだって
「……え?」
引き留めの言葉を吐くことすら許されず、体に襲いかかってきたのはとてつもない脱力感。そして何より、視界にかかる真っ黒な前髪でありました。
あーーーー。体がだるい……というか重い。ここに来るまで窓に写してみた自分、完全にゲヘナの服着た正実モブちゃんに逆戻りしてましたよ。うわぁぁぁぁぁぁぁあああああぁあぁあぁぁぁあやらかしたあぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁああぁぁあ!!!
しかも去り際にとんでもない正論ぶちかまされましたし……
いや、そう。そうなんですよ。あそこでベアトリーチェに飛びかかって負ける道理はありませんし警備を振り切って逃げ切る脚力はあった*1しって感じなんですよ。
Q.じゃあなんであそこでやっちゃわなかったんですか?
A.原作崩壊バッドエンドが怖いからですよ?
原作時点の分岐ですら些細なことで沢山のバッドエンドがお出しされてるんですよ。この大バタフライエフェクトの中心で竜巻やってるみたいなもんなんですよ。そりゃあもう波風なんて立たせたくないに決まってます。
……けど、それでチキって誰も泣かないハッピーエンドなんて到底叶いませんよね。
まずはその考えを念頭にこれからの行動を考え直して、どっかで溜まった副委員長タスクをこなして便利屋に連絡して対策模試作って教えてえええええ……
「やることが……やることが多い……!」
「やることが多いのにこんなところにいていいのかな?」
「お……姉ちゃん……?」
「カオリでいい。で、どうしたんだいきみは。イメチェンってわけじゃなさそうだね」
「あー……っすえっと。そのー……はい。ちょっと穏やかじゃなくて……」
「……もしかして、ホノカと何かあったか?」
「……ッス」
うわ〜〜バレた〜〜。流石に勘が良すぎますよなんなんですか反省しろ!反省するべきは私ですね。ええ、わかっておりますとも。
「よっこらせ……さて、何が起きたか聞かせてもらおうじゃないか」
そう言って私の隣に腰掛けるカオリさん。ああ、凄まじきシゴできオーラ。間違っても早朝の公園の隅のベンチでゲヘナの制服着てうなだれてる怪しげな一年生の隣に着席していい人のそれじゃない。ほらだんだん人も増えてくる時間帯ですしティーパーティーで空席の代理やってる人が犬猿の仲の学園のそこそこ偉い人*2と仲良くピクニックしてる構図なんて下手したら文春砲案件じゃないですか。
ええ、ええ、わかっておりますとも。わかっておりますのでめっちゃ足を組み替えるのはおやめください、急かされてる感じがして気まずいです……
「実は、とある人と喧嘩してしまいまして……」
「そんなことだろうとは思ったよ」
「私がウジウジしてたところに喝を入れられた感じで……」
「まぁ、あの子は昔からせっかちなところがあるからね」
「ええっと、あのその……」
「くどい」
「えっ」
「私は君と同じ視点で
同じ視点でこの世界を生きている。私と?それは一体どう言うことなのでしょうか。周囲より達観した視点を持っていると言うこと?それとも
「……あれ?」
私、なんでゲヘナにいたんでしょう。というかなんでカオリさんはトリニティにいるのに私だけ?スパイ活動のためだとしたら綺麗さっぱり記憶のない状態で放り出されるってハードモードどころじゃないですよ?
「……一つ、いいですか」
「なんでも」
「なんで、私は記憶を失ってゲヘナに居たんですか」
「知りたいかい?」
ここで知りたいと言えば、あなたは答えてくれるんですか。そう言いかけて思わず息を飲みました。じっと見つめる瞳が、まるで魂すら見抜くようで。そよ風に揺れる髪が、スカートが、何か周りとは違う気がして。
ああ、そうでした。久しぶりのこの感覚、黒服と対峙した時のようなこれは……
「場所を変えよう。ここで話すにはちょっと、ね」
カオリさんはそう言っていたずらっぽく笑い、私の手を引いて立ち上がりました。