私気づいた。銃より拳のほうが強いんじゃないかって。 作:まっしろたまご
公園を抜け、おしゃれなカフェの立ち並ぶ駅近くへ。そのまま裏通りに入り埃臭い路地裏を歩く。まがる。また歩く。キラキラとしたイメージの強いトリニティ自治区にもこんな場所があるのかと少し驚かされる。私はもともとゲヘナにいたし、アビドスにいた間は時間を縫って人のいない街をちょろちょろと駆け回ったものだ。もちろん、それらと同じと断じれる様な雰囲気ではないが、『一般的なトリニティ』とのイメージのギャップがすごくて新鮮な気持ちになる。
「ついたよ」
「ぐえっ」
急に止まったカオリさんの羽にダイブしてしまいました。なんでちょっと頬を赤らめてるんですか気まずい。
「……なんか、思ったより隠れ家感ありますね」
「そりゃあまぁ、隠れ家なんだし隠れ家感が出るのは当たり前だろう」
「って言っても、トリニティのお偉いさんの秘密基地ってなんかもうちょっとこう、屋根裏とかに続く隠し階段が〜みたいな感じでイメージしてて……」
「そう言うイメージがついているからこそ、なかなかこう言う場所はいい立地だと思うんだけどね」
だからと言って、こんな路地裏奥深くのポツンと一軒家である必要はないと思うんですが。こう言うところに隠れる人って普通に反社会的な力を持ってる人でしょう。アリウスの民だし実際反社界勢力といえばそれまでですが……これは流石にジョークがブラックすぎる?この話やめましょうか。
ドアを開け、廊下を抜けた先。視界に飛び込んできたのは想像とは全く異なる一室だった。
箱入りのレーションとミネラルウォーター。そして、夥しい量のノート。
壁に、床に、机の上に。とにかく目につくすべての場所にノートが散乱していた。
「いやぁ、すまないね。ここはセーフハウスの中でも特にトップシークレットでね。人を招くつもりはなかったんだ」
「……調査書112?」
「ああ、デカグラマトンや先生、ゲマトリアや時間軸なんかの調査、考察をまとめたノートだ。もちろん結論は頭の中にあるがね」
「キヴォトス人ならデジタルなデバイスにでも保管してるものかと思いましたが」
「デジタルはカスだよ、ホノカ。一度ネットに接続すればどこから覗き見られるか分かったものじゃないしね。ミレニアムの連中は言わずもがな、アリウスの諜報やゲヘナ情報部だって未だ謎が多い」
故にアナログ保管というわけだよ、とドヤ顔をかましたカオリさんはまたガサガサと片付けを始めた。人を招くつもりはなかったとはいえ流石にこの散らかりようはないんじゃなかろうか。素晴らしい手際でノートをきちんとまとめていく様子を見るにできないではなくやらないのタイプらしい。
「……さて、お見苦しいところをお見せしたね。じゃあ本題に入ろうか」
「ええ、あんまり遅くなると勘繰られますから」
カオリさんに促されるがままにパイプ椅子に腰掛け、向き直る。意味深な行動の後に密室に連れ込まれた手前と怪しげな雰囲気にじっとりとした緊張が背中を伝った。
「さて。何から話したものかな?」
「さっき言ってたこと……
「ああ、いいとも」
———転生や憑依、成り替わりなんかを題材にした創作物を鑑賞したことはあるかな?
例えば既存の人物になって未来をどうこうするとか、あるいは中身が入れ替わったことを悟られないように必死になるだとか、あるいはそれらはフレーバー程度の要素に過ぎず、与えられた第二の生を謳歌するだけのものとかもね。
こういった創作物では大体
みみっちい話をしよう。具体的に言うなれば
元々肉体の住人としてそこで暮らしていた彼ら彼女らの記憶や自我……魂と言い換えてもいいね。それらはどこへ向かうのだろうか。
死亡した肉体に主人公が宿るケース、同じ肉体に同居するケースなど様々だがほとんどは申し訳程度に描写されたあとはもう完全にないものとして扱われることの方が多いかな。だって現実世界でうまくいかないみなさんが求めるサクセスストーリー的な異世界冒険譚にそんな暗い要素はノイズでしかないからね。
———強火ですね?
いやはや失敬、話が逸れたね。
とどのつまり、私はこう言いたいのさ。
完全に自我が消失するか、同居してうまくやっていくかのどちらかだろうね。ちなみに私は後者だ。
思春期のまだ不安定な時期の少女にとって、全く別の人間の人格や記憶を流し込むなんて鬼畜の所業だろう?私もそう思うね。だが我らがマダムは目的のためならそのくらいやってのけそうな“スゴ味”があるだろう?これは一切褒めてるとかそういうわけじゃなくてね。
だが、君の場合は違った。注がれた君の魂にホノカは耐えられず深く沈み、君もまた目を覚まさなかったわけだ。
これは自慢だが私はマダムの優秀な駒として重宝されているからね。異物を注ぎ込まれてもなおそれが揺らがないかどうかという忠誠心の確認のために君の処理を命じられたわけだ。
他自治区郊外への遺棄ということで手打ちにさせてもらったさ。どういうわけか君は息を吹き返してホノカと同居を始めたようだけどそれはまぁ……完全に死体だったから早急に回収か監視体制の確立をしろとどやされたけどね。いやぁ、失態失態!!
———とりあえず、どういう経緯で私がここにきたのかは分かりました。けど、どうしてそんなことを。
儀式をもってキヴォトス外の存在を身に宿し、全てを救うことが大人の義務であると考えていることは知っているだろう?そこを踏まえて考えてみたまえよ。
———ぶっつけ本番で自分自身に儀式を行うことはリスクが高い。なら、その予行演習としてモルモットを用意し小さな規模で実験をを行うため……とかでしょうか。
正解と言えば正解、だがまだ足りない部分が多いね。
生徒がキヴォトス外の存在に触れた時、『神秘』は『恐怖』に反転する。この世界じゃああくまで細々とした言い伝え程度なものだ。だが、万一にもそれが実在するとしたら。
それを駒として手にした時、彼女はより『救済』に近づくことができるわけだ。
———だから、洗脳済みで優秀な生徒を選んで実験台にした?
いい筋だね。主神格ではないにしろ私たちの神秘は特別でね。肉体、神秘、精神が異物と均衡を持って初めて
そして、君が目を覚ましたわけだ。歪な力をものにして圧倒的な力でブイブイ言わせてたんだからすぐに見つかったよね。だが、回収を試みたときにはもう君の存在はあまりにも大きくなり過ぎていた。一歩でも間違えばアビドスとゲヘナ……下手すればトリニティとミレニアムの一部も敵に回る。シャーレも超法的な力をフルに活用して嗅ぎ回ってくるだろう。そうなると面倒極まりない。
———だから、泳がされていた?
だが、それももうすぐ終わるね。君の思想はあまりにも
——意味がわかりません。
説明に不足はなかったと思うけど?
——あなたにここまでしてくれる義理はないはずです。ベアトリーチェの手駒なら尚更。
ベアトリーチェの手駒だからだよ。私はここから動けない。だからこそ、たった一人だけ同じところからこの世界を見ている君に任せるんだ。
……それに、
——よく言われますよ。
さぁ、伝えるべきことは伝えた。考えることは後にしてさっさと出ていってくれ。
——急に辛辣じゃないですか?!さっきまでの真面目なムードは?!
うるさいぞ君。ここは秘密の場所なんだ。探しにきた誰かとこの付近でかちあったら目も当てられない。だから早く行きたまえよ。
——はい……
連載開始から一年経ったらしいです。
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