私気づいた。銃より拳のほうが強いんじゃないかって。 作:まっしろたまご
公共交通機関を乗り継いで1時間とちょっと。這いずる様にしながらもなんとか帰宅。緩慢な動きで鍵を開け、玄関に身を投げ出す。
「つっかれた〜……ただいま〜」
「ククク……おかえりなさい」
流石に跳ね起きた。声の主は明白だが、一応警戒する形で声のしたキッチンの方を覗き込んでみた。
真っ黒な顔に白いひび割れ。きっちりと着こなされたスーツに……花柄のエプロン。
家庭料理をテーブルに並べ、例のポーズで黒服がお出迎えしてくれた。
「きっっしょ。なんで家わかんだよ。しかも居るんだよ」
「私の手違いで怪我をさせてしまいましたので。誠意を見せようかと」
「洗濯物は?」
「片付けてあります」
「掃除は?」
「しておきましたよ」
至れり尽くせりすぎて逆に気持ち悪い。なんなんだこいつ。しかも今手違いで怪我をさせてしまったって言ったか?
「ま、利き手折れてるから食えないんだけどな」
「そうですか。それは残念です」
心なしか黒服がしゅんとした様な気がする。やめろ。ちょっと申し訳なくなるというか良心が痛む。
「……別に食べさせてくれてもいいけど」
「ククク……」
「あんだよ。冗談だろ」
「いや、まさかそうくるとは思っていなかったので。相当弱っていらっしゃるようですね」
どうぞ。と言いたげに焼き鮭を突き出してくる黒服。段々とシチュエーションがおかしなことになってきた。生徒の家に大人が入り込んでいて、その上あーんで食べさせるだなんて完全に事案だ。なんなら黒服ファンの皆さんに刺されてもおかしくない。
おそらくこのキヴォトスにおいて、現状好感度でトップを爆走しているのがおそらくコイツという事実。もしかしたら観察対象としての保護とか興味かも知れないけれど、個人的にはやはりネルやヒナの好感度を上げていきたい所存。もちろん原作に影響を及ぼさない範囲で。
晩御飯を食べさせてもらいながら、そんなことを考えていた。
「んでいつ帰るの君」
「貴女が眠ったら帰宅しますよ。安心して眠ってください」
「そうか。じゃ、おやすみ」
「はい。おやすみなさい」
もはや諦めた。というか状況に慣れてきた自分に驚いたんだよね。とりあえずさっさと寝てしまおう。寝て起きれば骨折ぐらい治るでしょうと思ったけどこの感覚もおかしい。段々と元の人格というか記憶が淘汰されていっている気がする。残っているのはあと口調ぐらいなもんだし、その口調も普段は抑えてるし。だから実はちょっと黒服には感謝してたり……してなかったり……
***
おっはよーございます。風音ホノカです。今日はトレーニングはお休み。怪我はあらかた治りましたがまだまだ療養が必要そうですね。いやしかし寝て起きただけで骨がくっついているとは思いませんでした。今日も朝ご飯から始まる、素晴らしい一日を過ごしましょう。
「ククク……おはようございます」
デジャヴな光景だった。例の如く花柄のエプロンをつけた黒服がいそいそと朝ごはんの調理をしている。
「寝たら帰るんじゃなかった?」
「ククク……いえ。ひどくうなされているようでしたので置いて帰るのも忍びなく……」
マジか。コイツに情とかあったのか。というかもはやできる男とか色々通り越してお母さんに見えてきた。し、その評価はあながち間違いじゃないと思う。一旦感謝して席に着く。
黒服の手料理を食べて、今日一日の予定を考えた。