私気づいた。銃より拳のほうが強いんじゃないかって。 作:まっしろたまご
『穏やかじゃないですね』
アビドス高校、廃校対策委員会本部にて、季節外れの自己紹介の儀式が行われていた。
「風音ホノカです。いろいろとやらかしてシャーレに出向処分になりました。よろしくお願いします」
「一応聞いておくけれど、銀行強盗の件ではないわよね?」
「ミレニアムで大暴れしました」
「戦えなくて欲求不満なのはわかるけど、だれかれ構わず襲うのは控えるべき」
「ぐう正論ですけどシロコさんには言われたくなかったです」
一旦歓迎の拍手がなり、先生により状況の説明が行われる。ミレニアムでの戦闘、政治的な問題に発展しかけたこと。そしてそれの罰と、ホノカの責任感が決定的に欠如しているということ。
そして、先生のもとで反省を促すことになったということ。あらかた聞き終えたところで、端末をチェックしていたアヤネが口を開いた。
「半径十キロ以内で爆発を確認!」
「空爆やガス爆発ではなく、C4の連鎖爆発のようです。より詳細な場所は……柴関ラーメン?!」
「はぁ?!なんであそこが狙われる訳?!」
「セリカさん落ち着いてください。あれだけの爆発、負傷者がいるはずです。そちらを救護しなければ死人が出るかもしれません」
原作でこそみんな怪我くらいで済んでいるものの、この世界は現実として存在している。物語でないのであれば当然人は死ぬし、そもそもここが本編世界かプレナパテス先生の世界か分からないのだ。兎に角、万全を尽くしておきたい。
「用具室に災害救助用の道具一式と救急キットがあるはずです。それを持っていきましょう」
「アヤネさん。ありがとうございます。私はそれを探してから向かうので皆さんは先に行ってください」
「一人で来る途中襲われるかもしれない。一緒に来た方がいい」
「民間人を狙ったテロ行為かもしれません。犯人の目的が見えない以上、戦える人が先に現着しておくべきです」
きっと、私を心配してくれているのだろう。無理はない。この爆破が便利屋68によって起こされた物だと知っているのは私だけなのだから。普通に考えてまず真っ先に疑うのはカタカタヘルメット団。じきに学校へ襲撃が来るかもと考えるのが自然だ。
話し合いは平行線、時間だけが過ぎようとしている。コレはまずい。
“みんな。ここはホノカを信じて行こう。風紀委員ならこういった状況にも慣れてるはず”
まさに鶴の一声だった。進展の見られなかった言い合いを両断し、アビドス面々の意見が固まる。それぞれガンラックから銃を取り出して出撃の準備が整った。
「ホノカちゃん。気をつけてきてくださいね〜⭐︎」
「勿論です。ご心配なく」
それぞれ軽く挨拶をして、先生と4人は飛び出して行った。
では、私も私の仕事に取り掛かるとしよう。他の学校の用具室を物色するのは気が引けるが、状況が状況。許可もとってあるし遠慮なく行かせてもらおう。80リットルほどのリュックサックにパンパンに詰められた災害救助用具。ありがたいことにシャベルもセットだ。コレといかにも救護キットですという見た目のバッグ。中身を軽く確認してみたがまだまだ使えそうだ。
あとはそこら辺に転がってたメガホン。民間人の避難に役立つかもしれない。持っていくべきはこんなものか。重量だけが心配だったが、思っていた数倍はすんなりと持ち上がった。これならそこそこの速度で走れそうだ。
やっとのことで荷物をうまくまとめてアビドス高校を出発できたのは、彼女らが出発したちょうど十分ほど後のことだった。
荷物をぶつけたりしないよう細心の注意を払って走ること数分。私が現着した頃には既に便利屋とのドンパチが始まっていた。『あんたたち許さない』を見逃したのは残念だが、状況が穏やかじゃなさすぎる。早いところ避難誘導と救助活動に移ろう。
息を整えてメガホンを構える。音割れするぐらいの感覚で叫ぶ。
「民間人の方はアビドス高校方面に避難してください!!怪我人は応急処置をしますのでわたしのところへ!!」
一瞬静寂。銃声すら静まり返り、視線が私に集中する。声デカすぎたなこれ。まあ撃ち合いをやめてくれる分には無問題。戦力を温存したまま風紀委員会戦に突入できるのは好都合だ。
「嬢ちゃんこっちだ!足を挟まれちまった!」
「すぐに向かいます!」
対策委員会編第一章。クライマックスからの参戦になってしまったがなんとか間に合った。
VS風紀委員会戦の前哨戦、VS便利屋68戦があらためて開戦した。
周囲の人をあらかた逃し終わり、応急処置も終わり。最寄りの病院には事情説明をして受け入れてもらえることになりました。『
目指すべきは甚爾君じゃなくてシュワちゃんでしたか。
さて、そろそろ戦闘に参加しようと瓦礫の影から出ると、偶然飛来してきた砲弾に吹き飛ばされました。
なんだよもおおおおおまたかよおおおおおお!!!
はい。落ち着きました。原作ではここ便利屋が吹き飛ばされるはずなんですけどね。おかしいですね。それとも戦力としてかなり警戒されているということでしょうか。
世界がスローモーションに見えます。これが走馬灯ってやつかとか考えていると向こうのほうで吹っ飛ぶ便利屋が見えました。なかなかシュールです。そんなシュールな光景を楽しんでいると、地面に激突。世界は等速に戻ってしまいました。残念。
「アビドス高校の生徒たちが見えますがどうしますか?」
「構うな。任務を邪魔するものは全員敵だ」
出たわね。ゲヘナ風紀委員会。そして名台詞、迫真の全員敵だ。ちょっとテンション上がってきました。
小走りで風紀委員会の前に飛び出すホノカ。アビドスからは困惑、ゲヘナからはどよめきが上がる。
「や。イオリ。久しいね」
「昨日ぶりだろ……」
そう。銀鏡イオリは困惑していた。そこそこな問題を起こしかけ、
「便利屋を捕まえにきたんですよね?」
「あ、ああ。ホノカもこっちで作戦に参加を……」
「嫌ですけど?」
「……は?」
イオリの困惑は加速する。おかしい。コイツは何を言っているんだ、素直にそう思った。委員長とは付き人としてよく行動を共にしている。エデン条約についても知っているはず。ならばどうして。そう思考が回り始めた頃に、ホノカが口を開いた。
「ここ、アビドスの自治区ですよね。それなのに無断で軍事行動を起こすなんて。私が言うのもなんですが、外交問題でも起こしたいんですか?」
「それは
「仲間が道を外れようとしているなら止めるのが普通でしょう」
まさに一触即発の空気感。ビリビリとした緊張感が周囲を支配する。
「これが最後の警告だ。戻ってくるか、そこを退くか、選べ」
愛銃を構え、しっかりと狙いをホノカの眉間に定めるイオリ。つられて、後続の風紀委員たちも構えに入る。
「私、この世界で三つだけ許せないものがあるんですよ」
向けられた銃口を物ともせず、ホノカは続ける。臆することなく、言葉を紡いでいく。
「一つ、NTR。二つ、百合の間に挟まる男。そして三つめは……
「しかし、驚きました」
「何にだ」
「こ〜んな銃口のひん曲がった銃で脅しになると思ってる脳みそに、ですよ」
その場にいる誰もが、彼女を捉えられなかった。しかし、伸ばされた右手はたしかに
壮大な煽り文句に、現場指揮官クラスの実質的な戦闘不能。
ここに、戦いの火蓋が切られた。
目の前で起こった出来事にフリーズしているイオリを足払い。そのまま足を掴んでがっちりとホールド。
「先輩。一応お聞きするんですが、ぐるぐるバットのご経験は?」
「まて。待て待て待て!何をするつもりだお前———」
風音ホノカは回転を始めた。ぐるりぐるりとロングヘアを舞わせ、彼女らは加速を続ける。
やがて周囲のものの目にはゆっくりと逆回転を始めたように見え始めた頃。不意に、ホノカが手を離した。
銀鏡イオリであろう物は視認がほぼ不可能な速さで人波を突っ切り、ボウリングの要領でかなりの人数を吹き飛ばした。
「ボウリングしようぜお前ボールな……ってとこですかね」
フッと鼻で笑い、周囲を見渡す。鳥かごのように自分を取り囲み、銃を構えるモブちゃんたちが目に入った。
彼女、風音ホノカの魂はもともとこの世界のものではない。当然凶器を突きつけられれば怖いと思うし身もすくむ。それだから圧倒的なスピードで叩き潰してきたというのに、ついこの間それが通用しない相手と戦闘になり敗北した。
先の敗北は彼女の中に深く刻まれ、今も蝕み続けている。
だが、今日の彼女は一味違う。原作の名シーンにギリギリ間に合ったという喜び、ほぼ諦めかけていたアビドス編への関与。そして何より前日の朝方まで行っていた引き継ぎ業務、により引きづっている深夜テンション。
「……死が急速に迫ってくる時が、一番生を実感する……生きてるって感じがします!!!」
とどのつまり、彼女は今『ハイになって』いた。
突っ込む直前、ホノカは『正面の大隊は自分が何とかする』と言い残していった。そして現在、見事にあの人数をさばいて見せている。
さすが、ヒナが直々に目をかけている風紀委員会の精鋭、と言っても研修中であれはさすがに強すぎやしないか。戦闘能力だけで言えばヒナに次ぐくらい、ステゴロ勝負ならヒナともいい勝負ができそうなくらいである。時々ゲラゲラと笑い声が聞こえてくるのはご愛嬌だ。
“アル、十時の方向から増援だ。便利屋のみんなで向かって”
「ええ、承知したわ!」
戦況は一進一退と言ったところ。むしろ
それでも、状況は芳しくない。むしろこのままではじわじわと削られて終わり。ジリ貧というやつだ。
そしてその状況を作り出しているのは。
“……アコ”
「なるほど。これが『シャーレの先生』の指揮能力というわけですか。感服せざるを得ませんね」
統率の取れた組織でも、指揮官が無能であれば敗走まっしぐら。逆を言えば優秀な指揮官と統率の取れた部隊が数人でも確保できれば一騎当千の戦力を発揮できるということ。
「しかし……まさかホノカさんから邪魔が入るとは。優秀な後輩なのですが、どのような手品をお使いになったのですか?」
“何もしていないよ。アコ。あの子は、自分の信じる正義に従っているだけだ”
会話の裏でも、戦闘は続いている、
やがて、増援に駆けつけてきたモブちゃんたちを横に避けさせ、一つの小さな人影が姿を現す。
「……ホノカ」
「やぁ。早かったね。ヒナ」
「あなたに呼ばれたなら、何時でも駆けつけるわ」
その人影の主は柔らかな微笑を浮かべ、ホノカに駆け寄っていく。暖かな雰囲気を醸し出す二人とは対極的に、風紀委員会たちに極度の緊張が走っているのがうかがえた。
そのはず、本来この場に存在し得ないはずの絶対的な強者、空崎ヒナが現着したのだ。
パトロール中であるはずの風紀委員長が。
風紀委員長、空崎ヒナの参戦。それは風紀委員会達に、便利屋に。そしてアビドスに、極度の緊張が走る。
それもそのはず、彼女は文字通り戦況をひっくり返す力を持つのだから。
「い、委員長!?パトロールに出ているはずでは!?」
「アコこそ、これがあなたの言う
「戻ってくるとしてももっと後になるはずです……いや、まさか!」
「そう!!私がチクりました!!」
満面の笑みにダブルピースでぶいぶいと言ってみせるホノカ。苦虫を噛み潰したような顔のアコを横目に十数時間ぶりの歓談に興じる。
「で……ですが!ホノカさんも暴力行為などの余罪が———」
「アコ。委員会室で大人しくしていて。お互いの処遇はまた後で決める」
ブツリと通信が途絶し、ヒナが先生の方へと近づいていく。何を話しているのかはホノカには聞こえないが謝罪やカイザーについてだろう。あらかたの会話が済んで戻ってくる。
「ホノカ。ご苦労様」
「ヒナこそ。急に呼び出してごめんね」
「別に謝ってほしくてやったんじゃない。あなたのためだから」
「……そうだね。ありがと」
気心の知れた友人同士、これ以上の言葉は必要ない。それぞれ満足気な顔を浮かべた後、風紀委員会を引き連れてヒナが退却したことによって、この騒動は一時の終幕を迎えることとなった。
どうも。アビドスもといシャーレへ出向になったその日のうちにゲヘナに呼び戻された風音ホノカです。正直今すぐにでも帰って惰眠を貪りたいほどのハードスケジュール。それでも帰るわけにいかないのが風紀委員の性なのです。
ま、性とか関係なしに今夜は帰してもらえなさそうなんですけどね。そんなわけでイオリ、アコと共にヒナ委員長の前で正座です。ほんの少し前にもこんなことがあったな〜なんて思うのは気のせいだろうか。いや、気のせいではない(反語)。
我々問題児三人衆はそれはもうだんご3兄弟が如く並べて正座な訳ですが、唯一戦闘に参加しなかった……むしろ止めたチナツさんは高みの見物ですと言うか憐れむような目でこっちを見るな。
っと、そろそろ罰が言い渡されます。大人しく聞きましょう。
「アコ。反省文400枚」
「続いてイオリ。反省文200枚」
「そしてホノカ。出向期間の延長」
「何か文句がある人はいる?」
誰も口を開きませんでした。むしろここで反論できる人間がいれば見てみたいと言うものです。いやほんとに冗談抜きで。
兎に角、この罰を甘んじて受け入れた私は再びアビドスへと舞い戻ることになるのでした。
帰りぎわ、武器を傷つけたり怪我をさせてしまったりした子たちに菓子折りを持って謝罪参りしたのは、また別のお話です。