迷宮都市に〈憤怒の罪〉が迷い込むのは間違っているだろうか   作:俺っちは勝者の味方ー!

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大罪パートからスタート。誤字脱字等の報告もお願いします。



未知の世界へ

 

 

 

 

 

 ───澄み渡る青空と雲の中を、天空魚の親子が悠々と泳ぐ。

 

 

 ブリタニア北部に位置するリオネス王国は、有力な聖騎士が数多に集う大国である。…だがしかし、その王都では現在、聖騎士たちを翻弄し他種族までもを巻き込む大問題が起きていた。

 

 

「陛下! 陛下ぁ!!」

 

 

 荘厳な城内を一人の衛兵が慌ただしく駆ける。本来はご法度であるものの、この場に彼を咎めるような者はいなかった。王都に住まう誰もが、問題(こと)の深刻さを重々理解しているためだ。

 そして、玉座の間に着くや否や、彼は息を切らしながら新たに寄せられた報せを国王に述べる。

 

 

「こっ、今度は白金(プラチナ)の聖騎士がっ…“神隠し”の被害に遭ったそうです…!」

 

「ふーむ、今週はこれで26件目か。先週のペースを軽く越してやがる」

 

 

 玉座に腰掛け、衛兵からの報告を聞いていた金髪の少年…メリオダスは、「こりゃまずったな」と眉間に皺を寄せる。

 

 

 ───“神隠し”

 

 

 誰がそのように吹聴したかは定かではないが、すっかり国中の噂になっていた。

 

 …曰く、『何もない空間に(ひび)が入ると、それの最も近くにいる人物は忽然と姿を消してリオネス王国のどこかに転移させられる』という。

 

 実際に被害に遭った聖騎士からの証言も内容がそれと合致している。一方で、罅の生じた場所と彼らが飛ばされた場所については、皆それぞれに違いがあった。

 

 例えば、南門付近に出現した暴れ肉蟲(ワーム)の討伐に赴いていた聖騎士長(ハウザー)は任を終えた直後にバステの跡地に飛ばされたと聞くし、施薬院の院長を務める元二大聖騎士長(ヘンドリクセン)に至っては患者を治療している最中に“神隠し”に遭ったそうだ。

 

 その名に違わないなんとも不確定要素の多い事象だが、()()()()()()()()のみがこれに巻き込まれている。

 つまるところ、一般市民の被害報告は()()ゼロであり、主に聖騎士と、王都を往来している妖精族・巨人族の行商たちが面倒を被っている次第だ。

 

 …とは言え、これ以上被害が悪化や拡大をしないとは断言できない。

 

 

「その聖騎士の安否は?」

 

「運良くソルガレス砦の近辺に飛ばされたらしく、身体に異常は見られないとのことです。…現在も宮廷魔導師たちを派遣して“神隠し”発生の原因を調査していますが、未だに手掛かりと呼べるものは見つかっておりません」

 

「手掛かりなし、か。…歯痒いな」

 

 

 〈七つの大罪〉(かつての仲間)に協力を仰ぐか?

 ……いや、あいつら(彼ら)には今ある幸せを大事にしてほしい。自分(てめぇ)の国の問題は自分(てめぇ)で解決すべきだとメリオダスは思考を切り替える。

 

 そして、警邏の徹底と、聖騎士は称号を問わず必ず二人以上で行動することを衛兵に命じようとした瞬間、玉座の間の扉が勢いよく開かれた。

 そこに居たのは蒼玉(サファイア)の聖騎士の一人で──

 

 

「大変です陛下!」

 

「! 何があった?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ───事態が大きく動き出そうとしていた。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「がっ、ぐうっ…!」

 

「頑張れ! 耐えるんだ、ドレファス!」

 

 

 ヘンドリクセンは己の腕の中で悶え苦しんでいる友に声を掛けながら、必死に癒しの魔力を施し続ける。

 …しかし、ドレファスの顔色は一向に良くなる気配を見せず青く染まったまま。まるで生気を吸い取られてゆくような友の姿に、ヘンドリクセンは甚く傷心した。傍らで父の身を案じ、涙するグリアモールの存在も胸の疼きを助長させる。

 

 最も病状が篤いのはドレファスだが、一般の民衆の息もまた浅い。玉のような汗を絶えず流している彼らには城に仕える治癒師がついているものの、人手も回復の効果も…全てが不足していた。

 

 ──絶望の二文字が頭を()ぎる。これ以上打つ手がないものかと思われた、その時だった。

 

 

「なっ!? あなたは───」

 

 

 グリアモールが息を呑む。治療に専念していたヘンドリクセンも、彼の視線を追ってその人物の顔を見遣った。

 

 

 

 

 

 

()()()()()、様…!」

 

 

 彼女の出立ちと、瞳に浮かび上がる神々しい紋様を目にして、ヘンドリクセンは一筋の涙を流す。どうして王妃が下々の街にいらっしゃるのか、などと野暮な疑問は抱かなかった。

 

 なぜならば、そう──この状況におけるエリザベスは、まさに希望そのものであったから。

 

 

(やす)らかなれ” !!

 

 

 誰も…誰も死なせたりしない」

 

 

 彼女から放たれるは毒気を払う女神族の魔力(ちから)。優しい光が人々を包み込むと、彼らの容態はみるみる回復していった。

 

 

「───ん、俺は…一体」

 

「! 父さんっ」

 

「嗚呼、無事で良かった…! ドレファス」

 

 

 昏倒していたドレファスが意識を取り戻す。それを見たエリザベスは彼の無事を喜び穏やかに微笑んだ。そして、毒に侵され体力を消耗し切った人々のために、さらに魔力を高める。

 

 

(すこ)やかなれ”

 

 

 かの癒しの魔力を受けて、彼らの体を蝕んでいた苦痛は完全に消失する。起き上がったドレファスが、民衆が、エリザベスの献身に感謝の意を表した。

 「この国の女王として当然のことをしただけよ」と、彼女が謙虚な姿勢を示しながら受け答えをしていると、見覚えのある金色のアホ毛がぴょこりと跳ねる。

 ──聖騎士の報せを聞いたメリオダスが一足遅れて到着したのだ。だが、まさかエリザベスがこの場に来ているとは思ってもみなかったようで、彼は驚愕を露わにしている。

 

 

「エリザベス! お前、どうして此処に…」

 

「ごめんなさい。城で侍女から話を聞いて、居ても立っても居られなくなってしまったの。

 懸命なヘンドリクセンたちの姿をただ傍観しているだけなんて、私にはとても耐えられなかったわ」

 

 

 …言葉が喉まで出かかって、メリオダスは口を噤む。これ程まで健気なエリザベスの想いを知ってしまった後では、とても口出しなんて出来なかったのだ。

 

 

「───そうか。

 

 お前のおかげで大勢の命が救われたよ。きっと俺一人じゃどうにもならなかった。…ありがとな、エリザベス」

 

 

 「にしし」と安心したように笑うメリオダスの言葉に、エリザベスの体温はほのかに上昇していくのであった。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 倒れていた市民─今はすっかり元気である─の送迎やその他被害の確認等は聖騎士たちに一任することとなった。

 

 国王と王妃が従者を連れずに城下を出歩いていた件について皆何か言及したい様子だったが、エリザベスのおかげで多くの命が救かった事実がある。

 故に、「例え侍女でも構いません…今後は絶対誰かを伴って行動してください」というお咎めを受けるだけに留まった。

 

 しかし──

 

 

「ありゃ相当オブラートで包んだ言い草だったな」

 

「そうね…。みんなに心配を掛けるのは悪いし、次からは気をつけましょう」

 

「おう」

 

 

 先の反省を踏まえたメリオダスとエリザベスは、二名の兵士を後ろに控えさせ、城への帰路に着く。

 

 

「そういやトリスタンは?」

 

「実は、その…勢いで父上に任せてきちゃって」

 

「あの孫バカにか。今ごろエリザベスのおっぱいが恋しくて泣いてるんじゃねぇの?」ニヤニヤ

 

「もう!/// 街中でそんな恥ずかしいこと言わないで!」

 

 

 エリザベスの顔が羞恥に染まるのを見て、メリオダスは「わりぃわりぃ」と素直に謝る。もう数え切れないほど交わしたやり取りだった。

 

 そうして、他愛もない会話に一旦の区切りがつくと、先ほどドレファスと行っていた事情聴取の一部始終がふと頭の中に思い浮かぶ。

 

 

 

 ────────

 ───────────────

 

 

 

『あれは…本当に一瞬の出来事でした。普段と同じ時間、同じ道を通って修練場に向かっていたところ、いきなり私の目の前に鈍く輝く“罅”が現れたのです』

 

『…けど、()()()()()()()()()()。そうだろ?』

 

『──ええ、仰る通り。例の“罅”は周りの大気を吸い込みながら、罅から亀裂へ、亀裂から穴へと変化していきました。そして、私は丁度その穴を目の当たりにしたところで意識を失い…』

 

『エリザベスに救われ今に至る、と』

 

 

 状況から察するに、“罅”はドレファスの魔力に反応して出現したと考えるのが妥当だろう。

 だが今回、ドレファスは何処かに転移されることなく、彼の近くにいた住民諸共毒に侵された──

 

 

 ……危惧していたことが現実と化し、メリオダスの表情は険しくなる。

 

 

『一つ確かなのは、あの毒が何らかの()()()()によるものではないことでしょうか。あれから魔力らしき気配は感じられなかった』

 

『ふむふむふーむ。となるとやっぱり…』

 

『メリオダス?』

 

 

 “一つだけ心当たりがある。”

 彼がいつもと変わらない口調でそう言うと、周囲は唖然とした。

 

 

『ほっ、本当ですか?』

 

『ああ。けど、くれぐれも内密にな。あんまり騒いで国民の不安を煽りたくはねぇ。

 

 一連の“神隠し”騒動の原因…そいつは───』

 

 

 

 ───────────────

 ────────

 

 

 

「───()()…あんな恐ろしい世界とリオネスが繋がりを持ってしまうなんて…」

 

「…不安か?」

 

「ええ、とても…」

 

 

 エリザベスは自分の腕を抱いて、静かに震える。

 今この瞬間も、リオネス全土が危険と隣り合わせであるという現実が、彼女にはかなり堪えているようだ。

 

 

 …皮肉にも、今回の事件が起きなければ、この結論には至らなかった。

 

 ドレファスたちを侵した猛毒は自然に由来するものであり、かつヘンドリクセンの治癒の魔力を以てしても容易に回復することができないときた。

 

 “魔界の瘴気”という線も考えられたが、現世に一瞬漏れ出た程度ではあれは人体に害を及ぼさない。特性上、魔界の瘴気はじっくりと時間をかけて全身を蝕む(巡る)ものだから。

 ──何より、これを癒すとなればヘンディの治癒(ドルイドの術)は効果覿面のはずなのだ。全く効かないというのはまずありえない。

 

 

 …よって、メリオダスの知り得る、もしくは考え得る選択肢から絞られた最悪の可能性というのが、()()だった。

 

 何の因果か、煉獄の境界がリオネス各所に時空の(ひず)みとなって出現し、“神隠し”を頻発(被害を増大)させている。そして今回、一つの歪みが()へと昇華し、一瞬だけとはいえ現世と繋がってしまった──

 

 

 これは早急に手を打たなければ、事態の深刻化は避けられない。そう確信したメリオダスは腹を括り、エリザベスに()()()()を持ち掛けた。

 

 

「……なあ、エリザベス。俺は─────!!」

 

「きゃっ─────!!」

 

 

 直後、()()()()()()()()()()()()()()()()が、二人の視界を覆う。それは目が眩むほど強い輝きを放っており…心なしか光に向かって体が吸い寄せられていくような気がした。

 

 

 

 

 

 

『いきなり私の目の前に鈍く輝く“罅”が現れたのです』

 

 

 ドレファスの言葉を思い出す。

 

 

 まさかと思い、メリオダスが咄嗟にエリザベスの手を取ろうとした時には、もう遅かった。

 

 

「エリザ────」

 

 

 輝きが一層強くなる。そして……

 

 

 

 

 

 

 

「! メ、メリオダス王と…」

 

「エリザベス様が…!?」

 

 

 ──光が収まると、二人の姿は消えていた。

 

 送迎を任されていた兵士たちは慌てふためき、王と妃の失踪の報せは瞬く間に国中に知れ渡ることとなる。

 聖騎士たちは過去の騒動と同様に国のあちこちを必死になって捜索するも、二人を見つけることは終ぞ叶わなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───だが、無理もなかった。

 

 何せメリオダスとエリザベスはもう…リオネスはおろか()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「───んぁ?」

 

 

 意識が浮上する。

 

 間抜けな声を漏らしたメリオダスは、重い瞼をゆっくり開けると、眼前に広がる光景に釘付けになった。

 

 

 “…どこだここ?”

 

 

 そこは、全く見覚えのない空間だった。

 苔に覆われた大樹が無数に群生し、根元には鮮やかな、しかし初めて見る小花がちらちらと生い茂っている。

 

 そして、

 

 

 “───何かいやがる。”

 

 

 ……()()()()()()()()()()()()()()()を感じ取り、メリオダスは警戒心を高めた。

 万が一の事態に備えて城から持ち出(用意)した「魔剣ロストヴェイン」を、いつでも抜剣できるように。

 

 

「“妖精王の森”、なわけねぇよなあ」

 

 

 しばらく周囲を観察した(のち)、思案に暮れていたメリオダスはぼやく。自分の知る森の様相と比べ、ここは些か閉鎖的な印象を受けたのだ。

 頭上で絡み合っている枝のせいで少々分かりにくいが、空は確認できないし…風が吹いている気配もない。

 

 ──もしかするとここは、外ではなく洞穴(なか)なのだろう。

 

 

「うっし。とりあえず出口探しに行くか。うだうだしててもしょうがねぇし」

 

 

 兎にも角にも行動あるのみだ。

 この場にいないエリザベスを捜すためにも、メリオダスは力強く一歩を踏み出した───

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二時間後。

 

 

「うーむ、迷った」

 

 

 メリオダスは自信満々の表情でそう告げる。

 

 

 …至極当然の結果だった。

 地図も無ければ、土地勘もゼロ。ヤマカンを頼りに進むしか道がなく、出口と思しきものは一向に発見できていない。無論、エリザベスも。

 

 となると、当然腹も空いてくるので、道中出くわした()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を調理してやろうと思っていたのだが、これらは仕留めた途端に謎の石っころを残して灰と化してしまうため、食糧の確保もままならなかった。

 

 仕方なく湧き水を飲んで飢えを誤魔化そうとするも、メリオダスの意思に反して腹の虫は鳴り続けた。

 

 

「いっそ天井をぶち破ってみるのも……いや、どこかも分からない場所で下手な真似を起こすもんじゃねぇな」グゥ〜

 

 

 ()()()()()()()()()()()()焚き火を焚くメリオダスは、強引な手段を取る考えを捨てた。

 勿論、最優先事項はエリザベスだが、ここはもっと冷静になって────

 

 

 

 

 

「───お?」

 

 

 メリオダスの小さな影が、それよりもさらに大きな影に飲み込まれる。

 

 焚き火という目印を辿って現れたのは、肩高が20フィート*1にも及ぶ巨大な怪物(モンスター)。この世界の住人ならば、それをマンモス・フールと呼ぶだろう。

 

 

『バオオオオオン!』

 

 

 この森の大樹にも見間違う極太の前足が、メリオダスに降り掛かる。

 ……空腹という邪念のせいで僅かに反応が遅れるも、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しかし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【ファイアボルト】!」

 

 

 ───それを避けるまでもなく、怪物は()()()()()()()()に撃ち抜かれた。

 

 

 身構えていたメリオダスは呆気に取られ、「ほー」と感嘆の声をあげる。

 

 炎雷の放たれた射線を目で追ってみると、その先には()()()()()が特徴的な細身の少年の姿があった。少年…ベル・クラネルは安堵したように胸を撫で下ろすと、メリオダスの目を見て優しく声を掛ける。

 

 

「──怪我は、ありませんか?」

 

 

 

 

 ───出会うはずのない英雄たちが、邂逅を果たした瞬間だった。

 

 

 

 

*1
約6M(メドル)













迷い込んだのも出会ったのも全然迷宮都市(オラリオ)じゃない件について(今更)
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