迷宮都市に〈憤怒の罪〉が迷い込むのは間違っているだろうか   作:俺っちは勝者の味方ー!

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キャラ崩壊しないよう気を付けてるつもりなんですが、もしかしたら喋り方が変かもしれない。
誤字脱字等の報告も何卒よろしくお願いします。



異界からの刺客

 

 

 

 オラリオは北区に位置する、あるファミリアの本拠(ホーム)にて──。

 

 

 

 

「まったく…理解に苦しみますわ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()など、団長様は一体何をお考えで?」

 

「私は私の『正義』に従ったまでよ、()()。すごく困っているみたいだし、彼女の助けになりたいの」

 

 

 アストレア・ファミリアの団長と副団長(ツートップ)が互いの意思を主張し、揉めていた。普段は滅多なことで衝突しない二人故、語気を強めて言葉を交わし合う光景は非常に珍しい。

 その渦中には先ほどアリーゼたちが街の巡回中に出会った女性…エリザベスの存在(姿)があり、当事者たる彼女は広間の椅子の一つに腰掛け、一連の会話を真剣に聞き届けていた。

 

 一触即発──と言うほどでもないが、広間を包む空気は僅かにぴりついており、黒髪美人の大和撫子ことゴジョウノ・輝夜が呆れからくる溜め息を以てアリーゼの言い分に答えを返した。

 

「あなたのその気持ちは理解できる。…だが、今のファミリアの状況もよく考えてみろ。同僚(ネーゼ)たちが長期のクエストで都市外に出払っていて人手が足らんのだ。とてもそちらの御仁の世話を焼いている暇は無いぞ」

 

「っ」

 

 『理想』を抱くよりも『現実』を見定めて物事を図る輝夜の言葉は、現状を客観視した上で導き出された紛れもない正論だった。かくいうアリーゼもファミリアにあまり余裕が無いことを重々承知していたために、次に紡ぐはずだった言葉を詰まらせてしまう。無言の睨み合いが暫し続いた。

 

 …お互いに一歩も引く様子はない。冷めるどころか両者の熱がさらにヒートアップしていくと思われた、そんな時。

 

 

「………あー、やめやめ。客人(ほっぽ)りながら、お前ら二人が言い争ってどうすんだよ」

 

()()()の言う通りです。もう少し冷静になってください、二人とも」

 

 この刺々しい雰囲気に耐えかねた桃色髪の小人族、ライラと金髪妖精(エルフ)のリューが両者の間に割って入った。

 このまま話し合いを続けても、平行線を辿る未来が目に見えて分かる。そんな不毛な争いに終止符を打つためにライラは「これ以上エリザベスに辛そうな(申し訳ねぇ)表情させんな」と、一言添えてアリーゼ(輝夜)を制した。

 

 

 

「──そうね…まずは本人の口から話を聞いてみましょうか。でないと何も始まらないわ」

 

 と、二人の仲裁を契機に鶴の一声を掛けたのは、この正義のファミリアが主神…アストレアであった。どこぞの邪神が『膝枕されながらヨシヨシされたい女神ランキング堂々の一位』と評するほどのこの神物は、持ち前の包容力でエリザベスの緊張と不安を和らげる。

 

 ──その想いがとても暖かかった。

 

 まるで優しさと清らかさの権化のようなアストレアの柔らかい視線を受けて、エリザベスはある決心をした。

 

 

「話してくれるかしら、エリザベス」

 

 

 

 

「────分かりました。全てお話いたします、アストレア様。私の…私()()の身に起こった、一連の出来事について」

 

 およそ誰にも信じてもらえないような()()を明かす決心を。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後。

 

 

「────という経緯で、アリーゼ様とリオン様に助けて頂いたのです」

 

「ほう…遥か遠い異国の地からこのオラリオにいきなり飛ばされてきたと?」

 

「俄かには信じ難い内容(はなし)ですね」

 

 

 全て話してみたがしかし…、周囲の反応はメリオダスの時と同様あまり芳しいものではなかった。

 

 ただ()()を除いて──

 

 

「どうでしたか? アストレア様」

 

 

 

 

 

 

「………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今の彼女の話は、全て紛れもない事実よ」

 

「「「「!!」」」」

 

 

 「私も思わず己の権能を疑ってしまったわ…」と付け足したアストレアの言葉に、アリーゼたちは驚愕する。

 

 “神の前で嘘はつけない”──これは、オラリオに住まう者ならば誰もが周知している常識だ。彼らを前にしてホラを吹くような輩は都市に着いて間もないお上りさんくらいなために、彼女らの驚きはひとしおだった。

 アストレア本神が虚偽を述べている可能性もなくはないが…『正義』を司る彼女に限ってそんな悪戯なことをするはずがない。──何より、アストレアの真剣な眼差しと僅かに動揺を孕んだ表情が全てを物語っていた。

 

 

「それに…ブリタニアはまして、リオネスという王国の名もこれまで一度として聞いたことがない。

 もしかするとエリザベスは、この世界の理から外れた異邦人(イレギュラー)なのかもしれないわ」

 

「……彼女は()()()()()()()()()()()、ということですか?」

 

「ええ。おそらくはきっと」

 

 次いで明かされるアストレアの推測。それを聞いたエリザベスは『嗚呼、そんな…』と、気が遠くなるような感覚に襲われた。

 幾ばくか収まっていた不安も再び息を吹き返してくる。血の繋がりが無くても自分を本当の()のように可愛がってくれた家族、己の腹を痛めて産んだ愛する我が子(トリスタン)、共に運命に抗った(魔神王を討ち滅ぼした)〈七つの大罪〉の面々やエレインに会うことすら叶わない。

 ──加えて、現状ではメリオダスと再会できるかどうかも怪しいところなのだ。

 

 厳しい現実を突き付けられたように錯覚し、今まで気を強く保っていたエリザベスが本拠(ここ)に来て初めて目を伏せてしまいそうになった。

 

 

 

 

「──それなら、私たちがエリザベスを支えてあげれば万事解決ね!」

 

 

 …そんな時、普段と何ら変わらぬ良い笑顔を浮かべるアリーゼが、重苦しい雰囲気を断ち切るように声を上げた。

 周囲は唖然となる。が…あまりに突拍子もない彼女の言葉を受けて、輝夜が最も早く再起すると同時に難色を示した。

 

 

「団長。藪から棒に何を言っている? アストレア様の話を聞いていなかったのか?」

 

「もちろん。一言一句聞き逃さなかったわよ」

 

「ならば、何故──」

 

「決まってるじゃない。例え相手が違う世界から来た人であっても、私たちが為すべきことは変わらないわ。

 それに…輝夜は突然知らない場所に放り出されて、心が折れずにいられる? オラリオにおけるエリザベスの心の拠り所は、絶対に必要だと思うの」

 

「……ッ」

 

 今度は輝夜がぐうの音も出ない正論を食らった。

 このファミリアの在り方やエリザベスの身の上を引き合いに出されてしまっては良心を殺し切ることは難しく、何も言い返せなかった。

 

 

「私もアリーゼの考えに同意よ。エリザベスが当分オラリオで過ごすことを考えれば、安心して帰れる場所は不可欠だもの。

 …何より、困っている子どもを放っては置けないわ。例え生を授かった世界が違えども、ね」

 

「──まあ確かに。私らで庇護しちまえば他の神々は容易にエリザベスに手が出せなくなるだろうし…身の安全を確保すんならうちで面倒見るのが一番だな」

 

「ええ。元々どんな結論に至ろうと彼女の力になるつもりでいましたが、アリーゼのおかげで私の意思もより強固になりました。もう迷いはありません」

 

 

 輝夜が理性と本心のジレンマに陥っていると、彼女の主神や仲間たちが次々とアリーゼの意思に触発され始めた。…いや、むしろ『腹を決めていった』、と言う方が正しいのかもしれない。

 悩みに悩む輝夜だったが、周囲の声を聞いて次第に己の考えに変化が生じ始める。細事に拘るあまりエリザベスの感情を度外視していたことを恥じ、正義の眷属として自身が為すべき行動を思う。

 

 

 

 

 

 ──助けを必要としている人間が目の前にいるのに、ファミリアの状況を言い訳にして逃げるのか? …御冗談でしょう。

 

 

 

 

 

 覚悟を決めるは早かった。

 

 

 

「………すまない、エリザベス。よもやお前が複雑な事情を抱えているとは思わずに、酷なことを散々口にしてしまった。私は大馬鹿者だよ」

 

「輝夜様…」

 

「世界を渡る(すべ)など私たちは持ち合わせていない。

 ──だから、お前がちゃんと故郷に帰れるよう、せいぜい力になってやる」

 

「輝夜…あなたという人は、もう少し良い言い方があるでしょうに」

 

「五月蝿いぞ青二才。これが私なりの素直な表現なんだ。お前に口出しされる謂れはない」

 

 反省しているのか否かよく分からない口ぶりにリューが溜め息を漏らし、輝夜はそれをどこ吹く風と聞き流す。…そんなアストレア・ファミリアの日常風景が蘇り、アリーゼが、ライラが、そしてアストレアが笑みをこぼした。

 雰囲気の変わり様に吃驚して一瞬だけ目をぱちぱちさせていたエリザベスも、段々と口元を緩め笑顔を取り戻していく。──彼女の表情は、胸につっかえていた感情(もの)が取れたように晴れやかになった。

 

 

「それじゃあ改めてよろしくね! エリザベス」

 

「はい。こちらこそよろしくお願い致します。アリーゼ様、皆さん」

 

「うんうん! いい返事! ──あっ。それと()()()()、定期検診に行ってる団員がいるから、彼女のことも後で紹介してあげるわ!」

 

 

 

「そういえばそうでした…。事後承諾になってしまいますけど、彼女は聞き入れてくれるのでしょうか」ボソッ

 

「あのクソババアとてそこまで鬼ではあるまい。事情を説明すれば大丈夫だろう。…………多分」ボソッ

 

「絶対、とは言い切れねぇもんなあ」ボソッ

 

 歓迎ムード全開のアリーゼの陰で、リューたち三人がそれはそれは重要なことを思い出した。今この場にはいない、ファミリアの絶対的強者の存在を。

 彼女は果たして、エリザベスを保護する件について首を縦に振ってくれるのだろうか? …正直不安なところである。

 

 

 ──そんな風に皆が噂をしていた時、玄関に続く広間の扉が開かれた。

 

 

 エリザベスがそちらを見遣る。するとそこには、長い灰髪(はいはつ)を靡かせる見目麗しい女性の姿があった。なぜか両の瞼を閉じたままだが、それでも思わず瞠目してしまうほどに美しい。

 また、その身に漆黒のロングドレスを纏いながらも、彼女の放つ気配は完全に武人のそれである。ただ立っているだけでもひしひしと感じられる強大な魔力が、エリザベスの肌を撫でた。

 

 ───その女性の名は、()()()()()

 紆余曲折を経て、最凶の派閥(ヘラ・ファミリア)から正義の派閥(アストレア・ファミリア)へと改宗(コンバージョン)した第一級冒険者である。

 

 

「おかえりなさいアルフィア! ちょうど今あなたの話をしていて─────何かあったの…?」

 

 溌剌として声を掛けるアリーゼ。だが、帰還したアルフィアの様子が普段と異なることに気がつくと、その五月蝿さ(快活さ)の鳴りを潜める。『静寂』の二つ名を冠するアルフィアに似つかわしくない焦燥の念が、彼女の表情に滲み出ていた。

 

帰る道中(つい先ほど)群衆の主(ガネーシャ)の眷属から要請を受けた。闘技場の近辺に…また()()()()が現れたらしい」

 

「! ──被害の状況は?」

 

「今のところは出ていない。【象神の杖(アンクーシャ)】と【象神の詩(ヴィヤーサ)】の率いる掃討部隊の尽力のおかげでな」

 

()()()()たちが…」

 

「ああ。──だが、今度の敵は飛空能力を有していると聞いた。民衆に被害が及ぶのも時間の問題だろう」

 

 …と、アルフィアの報告を受けた正義の眷属たちは直ちに行動を開始した。戦闘衣(バトル・クロス)と装備を確認し、各々の獲物を手に取り、息つく暇もなく準備を整える。──四人が本拠を出発するためにかけた時間は、本当に僅かなものだった。

 

「ったく、(やっ)さんもこういう時くらい空気読んで欲しいぜ。折角新しい仲間が出来たってのに」

 

「…ごめんなさい、エリザベス。歓迎会を開くのはもう少しだけ待っていて。──やらなくちゃいけないことができたから」

 

「アストレア様、アルフィア。彼女のことをお願いします」

 

「ええ。任せてちょうだい。──あなたたちも、どうか気を付けて…」

 

「はい!」

 

 神という超越存在(デウスデア)でありながら闘いの表舞台に立つことができない己の零能に歯痒さを覚えつつも…アストレアは眷属(子ども)たちの無事を祈り、そして見送った。瞳を心配で染める彼女の顔は、まるで慈悲深き母親のようだ。

 

 

「………」

 

 

 そんなアストレアの表情にやられ、エリザベスも自身の胸がきゅっと締め付けられる思いになった。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 アリーゼたちがいなくなると、『星屑の庭』はそれまでの賑やかな雰囲気から一転。…ひどく寂しい静けさに包まれる。一秒、十秒、一分と──時間だけが無情に過ぎていった。

 

 

「あの、アルフィア様……でいいのでしょうか」

 

 

 そこにエリザベスの透き通るような声色が優しく響く。名を呼ばれたアルフィアは、静寂を傾聴する(感傷に浸る)のもそこそこに…初めて言葉を交わすことになる女性(エリザベス)へと意識を向けるのだった。

 

 

「それで合っているぞ、小娘。──して、お前の名は何という?」

 

「私はエリザベスと申します。アルフィア様、一つお聞きしたいことが」

 

「…なんだ?」

 

「先ほどおっしゃっていた()()とは、一体どのような相手なのですか?」

 

 

 と、曇りなき(まなこ)で見つめられたアルフィアは息をついて語り出す。

 

 

「読んで字の如くだ。先日から都市の内外で出現するようになった異形の者共。いずれも体躯は黒色であり、大きいものから小さいものまで…サイズや容姿は多岐に渡る。

 ──が、迷宮(ダンジョン)で生まれ落ちるモンスターとは根本的に違う相手と断言できる。絶命すれば灰のように消えるのは同じだが、奴らからは畜生共のような生命(いのち)の息吹がこれっぽっちも感じられん。何とも不可解なことにな。…まるで中身のない()()()()()のようだよ、アレは」

 

 

 実際に例の化物を相手取った経験を持つアルフィアは、忌々しげにそう吐き捨てた。彼女の言う(知る)モンスターとあまりに乖離した存在故、その手に感じた違和感がどうにも拭い切れないらしい。

 

 ──過去メリオダスから聞いた話とアルフィアの情報を照らし合わせてみると、やはり共通する点は多い。

 …となれば、次にエリザベスが取るべき行動は一つ。

 

 

 

「アルフィア様。アストレア様も…、改めて聞いてください。私は────」

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

「魔導士部隊、砲撃用意! ───放てぇええ!」

 

ギェアア!!

 

 

 

 円形闘技場(アンフィテアトルム)は大いなる戦火と恐怖に支配されていた。

 

 

 

 戦場に木霊するガネーシャ・ファミリア団長、シャクティ・ヴァルマの号令は、地の底から轟くようなおぞましい咆哮に相殺される。

 ファミリアの男性冒険者たち(皆一様に象の仮面を装着した)の魔法が炸裂するも、上空を飛び回る怪物に対する有効打にはなり得なかった。むしろ、火に油を注いだかのように敵の攻撃はどんどん過激になってゆく。

 

 

ギシャアッ!

 

 “ヘル・フレイム”‼︎

 

 

「ぐっ…! 熱いっ!?」

 

 

 鳥にも蝙蝠にも似つかない巨大な有翼獣は、その口から灼熱の炎を生成し四方八方に解き放つ。すると、戦闘の余波でフィールドの至る所に発生していた火事の規模がさらに拡大。掃討部隊にさらなる混乱と動揺が生じる。

 

 

「狼狽えるな! 水、もしくは氷の魔法を扱える者は直ちに鎮火に向かえ。──あの怪物は絶対に此処で仕留めるぞ!」

 

「「「おお!!」」」

 

 

 されど、シャクティの叱咤激励によって、乱れていた意志は再び一つに纏まった。

 神聖な舞台を荒らすこの敵がどれだけ強くとも、おめおめ背中を晒して逃げる訳にはいかない。場外にいる大勢の無辜の民の命が懸かっているのだ。「ここが正念場だな…」と、シャクティは己に言い聞かせるように呟いた。

 

 

 ──そして、奮闘しているのはガネーシャ・ファミリアだけに非ず。

 

 

「【今は遠き森の空。無窮の夜天に(ちりば)む無限の星々。愚かな我が声に応じ、今一度聖火(せいか)の加護を。────」

 

「うちが頼れんのはリオンの魔法だけだな。火力も射程も十分あるし、きっと空にいる()もぶち抜いてくれるはずっ────はあっ!」

 

「まったく、私たちが炎に慌てふためく様を高みの見物とは……獣の分際で良いご身分ですこと」

 

 

 つい先ほど増援に駆けつけたアストレア・ファミリア。その参謀とも名高いライラが、冷静に戦況を分析した。

 迫り来る業火を木の葉のようにひらひら躱し、尚も詠唱を続ける妖精(リュー)。そんな彼女に負けじと、ライラも自身の得物(ブーメラン)を全力で投擲する。敵の狡猾さにうんざりしつつも居合を駆使して炎を断ち、道を切り拓く輝夜の技も見事なものだ。

 

 さらに、その道を駆けるのは──。

 

 

「【アガリス・アルヴェシンス】!」

 

 

 我らが団長アリーゼである。彼女の持つスキルによって増幅された正義の(魔法)が燃え盛り、降りかかる破滅の炎を次々と無効化していく。

 アリーゼは疾く走る。戦乙女が如く戦場を舞う彼女は敵の攻撃(火炎)を物ともせずに接敵し、いずれ(きた)()()()()の到来を伺い続けた。

 

 

 …それから間も無く。

 

 

「──星屑の光を宿し敵を討て】!」

 

 “ルミノス・ウィンド”

 

 

 膨大な魔力が溢れ出すと同時に、光玉の形を為した無数の緑風がリューの周りを踊り漂う。これこそが彼女の有する最大最高の魔法にして…アリーゼが首を長くして待っていたチャンス(切り札)である。

 ──魔力に反応した獣が吼える。受けに徹するばかりだった冒険者たちの反撃が始まった。

 

 

「ふんっ…!」

 

 

 詠唱を唱えた直後。リューはまず比較的小さな光玉を弾丸のように素早く放ち、標的の視界を奪う。そこに生じた隙を突き、アガリス・アルヴェシンス(炎の付与魔法)を纏うアリーゼともう一人…片手剣を持つ()()()()()()が瞬時に敵を挟み込んだ。

 

 

「アーディ! 私に合わせて!」

 

「オッケー!」

 

 

 その名をアーディ・ヴァルマ。

 ガネーシャ・ファミリア団長(シャクティ・ヴァルマ)の実の妹にして…自身もL()v()4()の域に到達している第二級冒険者。アストレア・ファミリアの面々と幾多の闘いを乗り越えきた彼女は、アリーゼと共に阿吽の呼吸で駆け抜ける。

 ──そして、十分に勢いが付くと同時に、二人は宙へと飛び出した。

 

 

「今だよリオン!」

 

 “───魔法を!!”

 

 

 アリーゼとアーディの声が重なる。リューは風の指揮者となりて己の魔法を意のままに操った。

 丁度よく威力を調整した(弱めた)光玉を二人の足元へ飛ばし、空を舞う敵に近接攻撃を仕掛けるための()()として活かす───こと魔法の扱いに長けたエルフの…否、努力を惜しまず研鑽を積んできたリューにしか出来ない離れ業である。

 

 …悠々と地面を見下ろすだけだった獣は、己の命が危ういことをこの時初めて実感した。左右非対称の歪な翼を広げて高度の上昇を試みるが、時すでに遅し。

 

 

「逃がさないっ!!」

 

「はああああぁぁ!!」

 

 

 刹那、二振りの片手剣が敵の体を交差──突貫する。十字が如く斬り裂かれ、化物は堪らず悲鳴を上げた。しかし、痛みに悶える猶予は与えないと言わんばかりに、猛攻は続く。

 

 

 

「──受けなさい」

 

 

 

 リューが強き意志を籠めて言い放ち、この瞬間のために温存していた攻撃用の(本命の)光玉たちを一斉に標的に食らわせる。風と光…二つの属性を併せ持つ強力な魔法が全方向から襲い掛かり、かの獣はたちまち袋の鼠となる。

 

 

 ──そこから連鎖するように魔力が爆発し、緑風が渦を巻いた。

 

 

 上級冒険者による波状攻撃…もとい超高度な連携が決まったことで、戦場にいる冒険者の誰もが勝利を確信した。例えこれで殺せずとも致命傷は与えられたに違いないと、そんな考えが皆の脳裏をよぎったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 が───

 

 

 

 

 

 

 

 『グルゥエエエエェェッッ!

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 ───堕ちた魂が本性を現し、神々の眷属に牙を向く。

 

 

 

 劫火暴発(ブレイズ・バースト)”‼︎

 

 

「「「「「「!!??」」」」」」

 

 

 追い込んでいたはずの獣が一際大きく咆哮するとその巨体を中心に大爆発が起こり、リューの魔法をいとも簡単に打ち消してしまう。

 …さらに爆発の余波がアリーゼたちを直撃し、皮膚が焼き切れてしまいそうな激痛を齎した。

 

 荒れ狂う獣──メリオダス(ある男)()()()()()()と称する“それ”は、悶絶する冒険者たちに容赦無く襲い掛かる。

 

 

 

──ギイッ!

 

 

「がっ──!」

 

「リオン!

 

 !? ──がはっ…!」

 

 

 

 今の今まで鈍重だった“それ”が突如俊敏に動き、先端に鋭い突起の付いた尾を鞭のようにしならせる。熱による痛みで僅かに反応が遅れてしまったリューはその強撃をまともに食らい、勢いよく地面を転がった。

 

 至近距離にいたアリーゼがリューの名を叫ぶが…、直後。彼女も同様に“それ”から一撃を受け、吹き飛ばされてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「──────え?」

 

 

 

 …アーディの呆けた声が漏れる。

 最愛の友人たち(アリーゼとリュー)がたった一瞬で叩きのめされたかと思うと、“それ”の大きく開かれた嘴が今度はこちらに迫っていたのだ。真っ暗闇の口内がはっきりと見え、全身に悪寒が走る。

 

 奇声を上げながら急接近する怪物。対するアーディは、肉体的疲労と絶望にも近い驚愕が同居してすぐに動くことは叶わなかった。

 

 

 …絶体絶命。

 魂諸共アーディの体が煉獄の獣に食われかけた、まさにその瞬間(とき)──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「聖櫃(アーク)”!

 

 

 

 ──眩い光を放つ球体が、獣の体を包み込んだ。

 中では謎の力場が発生しているのか、獣は一切の身動きを封じられ口を開いたまま固まっていた。

 

 

『ギ…ギ…ギギィ!』

 

 (そう)」!

 

 

 ─どこか聞き覚えのある─凛とした詠唱が()()から響くと、球体は凄まじい速度で宙に浮かび上がり…、

 

 

 (れつ)」!

 

 

 地面に急降下──激突と同時に中身の獣ごと破裂した。一点に集中し煌いていた光が傷ついた冒険者たちを照らすように舞い散り、戦場に張り詰めていた剣呑な空気を霧散させる。

 

 敵を圧倒した謎の攻撃と目の前の神秘的な光景にアリーゼは唖然となった。また同時に、なぜこの場にいないはずの()()の声が聞こえてきたのかと疑問に思う。

 

 

 

 

 

 

 ───が、その問いの答えはアリーゼやアーディを敵から庇うように()()()()()()()()()()。穢れなき純白がアリーゼの視界()に映る。

 

 

 

「間に合って良かった…」

 

 

 

 ドレスの裾を翻しながら現れたのは、背中に()()()()を生やしたエリザベスであった。

 

 心底安心したような表情でこちらを振り返る神々しい姿に、アリーゼが…冒険者たちが息を呑む。元の見た目の美しさもあり、ふわりと翼を広げる彼女を見た誰かが「女神だ…」と、思わず呟いた。実際、エリザベスから溢れ出る魔力(オーラ)は神の持つ“神威”に限りなく近いもので、勘の鋭いアリーゼもそのような印象を受けた。

 

 

 ──けれど、かと言ってこんな夢みたいな現実をすぐに受け止められるかと聞かれれば……答えはノーだ。いくらなんでも突拍子が過ぎる。

 

 

 

「エリザベス、あなた。その翼と()は一体…?」

 

「───ごめんなさい…。この戦いが終わったら、今度こそ全て話すわ」

 

 

 

 だから…、と言葉を繋ぎ、エリザベスは再び手のひらに『聖櫃(アーク)』を顕現させる。

 彼女の揺るがぬ覚悟を象徴するように、光の粒子が先程よりも強く輝いた。

 

 

 

 「ここは私に任せて」

 

 

 




戦闘描写が上手く書けねぇ…。
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