筆者の中で遊戯王GX熱が高まったので投稿。
デュエリストとしては未熟も良いところなので、何か間違いがあったら優しく指摘してくれると嬉しいです。
ふと、目が覚めるような感覚だった。
『俺』という自我がまず最初に認識したのは、妖精のように宙に浮く二人の女の子。
((ごしゅじーん、ごしゅじーん……いい加減返事してよぉ……))
なんとも情けなくなる泣き顔と声を晒しながら、フヨフヨと俺の視線の先で漂っている少女たち。どちらも全長三十センチほど、手のひらに乗る程度の大きさしかなく、半透明の身体は一瞬幽霊かとも誤解してしまう。
身に着けているのは脇、腹、太ももなどが大きく露出した改造巫女服モドキで、輪切りにした蜜柑に似たデザインの紋が衣装の一部についている。仮に現実でこんな服を着ればコスプレか、そうでなくとも痴女判定は逃れられないだろう格好だ。
「――
それぞれ赤と青の色彩が特徴的な少女たちの姿に、無意識のうちに俺は一つの名を呟く。
御巫とは、遊戯王というトレーディングカードゲームにあるテーマの一つ。儀式と装備カードを駆使して戦うそれらのカード群を俺が知っているのは、単純にプレイしていた『遊戯王マスターデュエル』のアプリで最後に握っていたデッキだからだ。
((ごしゅじーん、ごしゅじー……ん?))
思わず疑問の声を漏らして彼女らを凝視する俺に、ひたすらご主人botと化していた二人は一時停止。顔を見合わせると揃って不思議そうに首を傾げ、ゴシゴシ目を擦ると無言でこちらを見つめ返してきた。
「…………」
((…………))
重なる三つの視線。沈黙が痛い。なんだこのスペキャ空間は。
((……ごっ、ご主人が喋ったぁぁあああッ?!))
「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!」
((ミャァァァアアッ?!?!?!))
ジリジリとした静寂を破ったのは、御巫たちの方からだった。
今時使い古されたアニメのように飛び上がって縦長に驚く二人。合わせて悪ノリで叫んだ俺。更に絶叫する二人。とても良いリアクションだ。
……いやなんだこれ? 自分でやっといてなんだけど、本気でなんだこれ?
(ってちがーう!! ご主人がようやく返事してくれたんだよ!!)
(そうよ! どうして今まで反応してくれなかったの! 間違いなく私たちが視えてるみたいだったのに、かれこれ数年間も無視されるのは流石に心が折れるわ!?)
「え、いやあの。ご、ごめんなさい?」
ハッと我を取り戻した二人が怒涛のような勢いで詰め寄ってくる。状況はまったく理解できていなかったが、捲し立てる二人の剣幕は反論を許さないものだった。
二つに括った赤い髪と装束をした活発な印象の少女――『剣の御巫ハレ』は、感極まった様子で涙目になりながら懐に一直線に飛び込んできて。
一方、青い髪と装束のどこかイタズラな雰囲気を感じる少女――『鏡の御巫ニニ』は、猫目を吊り上げプンスカと不平不満を吐き出し責め寄ってくる。
俺は宗教とやらにはまったくもって無縁な人生を送ってきた身ではあるが、そんな彼女たちに僅かながらも神秘性、あるいは神聖さを感じるのは、ある程度御巫テーマの背景ストーリーを知っているからだろうか。
もっとも、事前知識なしにこの醜態を目の当たりにして、同じような感慨を抱けたかどうかはわからないが。
(――そうだご主人っ!!)
(――そうよご主人っ!!)
ひとしきり泣いて騒いで怒って。正直赤子をあやす方が楽だと思うほど興奮した二人をどうにか宥めていると、突如何かを思い出したのかグイっと真剣な表情で顔を近づけられた。
まるでスイッチを切り替えたような感情の落差に呆気にとられていると、彼女らはお互いグヌグヌと頬を付き合わせて睨みあう。
わぁ、モチモチほっぺだぁ……などと呑気な考えが現実逃避気味に脳裏を過ぎるが、やがて御巫たちは弾かれるように視線を切り、競って俺に向けて口を開いた。
((
「……どういう、ことだ」
いきなりの命令に、『まるで意味がわからんぞ!』と大量の疑問符を頭上に召喚した俺を、はたして誰が責められるだろうか。
@@@
――あ、ここ遊戯王ワールドだわ。
左右から御巫達のありがたくないASMRを聴き続けることしばらく、俺はようやくこの意味不明な現状を理解し始めていた。
もちろんそれは終始賑やかし要員だった彼女達のおかげではなく、開幕早々のインパクトで吹っ飛んでいたこの身体の記憶とやらが蘇り始めたからだ。
まず名は……そう、
年齢は十歳、今年の春で小学四年生になった少年である。歳はともかく、名前が『俺』と一緒なのは偶然か必然なのか。その点は違和感がなくてありがたい。
裕福な家庭の一人息子で、両親は共に機械関連の技術者。それも
そう、漫画を原作とする『遊戯王』の世界において、主要人物の一人である海馬瀬人が社長をしているあの会社である。
その会社名をきっかけとして、脳裏に溢れだす存在しない……じゃなく、きちんと実際に体験した記憶。
もはや生活の一部として世界規模で流行しているカードゲーム『デュエルモンスターズ』のこと。
困ったことがあれば大体デュエルで解決を図る学校の同級生たちと、それを黙認どころか奨励する周囲の大人たち。
数年前、揃って過労で死にそうな顔をしていた両親。原因はKCが開催した第一回バトルシティトーナメントであり、何とか休みをもぎ取った両親に挟まれテレビ放送されていた本戦を見ていたこと。
そして現在、
うーん、これは遊戯王ワールドですわ間違いない。
「これは憑依……いや、どっちかというと転生か? 別に死んだ記憶とかないんだけど」
あくまでも感覚でしかないが、前世の記憶が蘇る前の俺も『俺』だという実感がある。
そもそも前世の記憶までを含めた今の状態が正常で、これまで欠損していた方が不完全だったのだと、誰に言われるまでもなく俺は確信していた。
今世の記憶を辿れば、これまでの円居優司は原因不明の体調不良で寝込む日がとても多い。そうでない日も、一日中ぼんやりと座り込んでいることがほとんど。自発的な行動があまり見られなかった。
現に今も、『俺』の意識が浮上するまで自宅の子供部屋で何をするでもなく、ただ虚空を眺めていたくらいだ。
「というか、我ながらこの部屋も随分と殺風景だなぁ。ミニマリストでももう少し物を置いてるぞ」
十畳ほどの室内を見渡せば、横にランドセルが掛かった子供用の勉強机と教科書の収まった棚、小学生が使うにはやや大きなサイズのベッドが一つだけ。
本当に生活に必要なものだけを厳選したような部屋模様には、呆れ果てて苦笑すら浮かばない。
唯一余分なモノをあげるなら、ベッドの枕元に置いてあるクリボーと
両親から贈られたこの二つの人形だけが、部屋の主人の僅かな人間性を表していた。
そりゃこんな人間味の薄い子供じゃ、口さがない小学校のクラスメイトから「『さまよえる亡者』*1みてーなヤツ」とか揶揄されるわ。
同時に、そこで出てくる例えがカードのモンスターな辺り、小学生ながら実に頭
((ごしゅじーん、無視しないでよごしゅじーん……))
「あ……悪い」
一人納得して頷いていると、いい加減反応のない俺の態度にハレ達が当初のようなシオシオと情けない状態になっていた。
最初はあまりに人の話を聞かずにうるさいものだから意図して無視していたのだが、状況整理のため予想以上の時間思考に没頭していたようだ。
「……ふむ」
ごしゅごしゅ鳴いている二人組にふと思い至るが、コイツらは数年間もずっと抜け殻みたいな俺の傍に付いていたんだよな。
話しかければ茫洋と視線を向けはする。けれど言葉は交わさないし、自分たちのカードを使うでもない……あれ、これ普通に虐待なのでは? 気付いた事実に冷や汗をかく。
カードの精霊なんて前世にはいなかったし、参考になるのがアニメで見た王様とクリボー、ブラマジやブラマジガール達の関係くらいだが、少なくとも自身が良くない方の所有者であることはわかる。
なんなら精霊側が積極的に自分のカードを使って貰いたがる描写もあった気がする*2。
それらを踏まえるに……問答無用でクソ野郎認定では?
普通に最低じゃね?
「…………あー、なんだか急にデュエルがしたくなってきたぞぉ」
((えっ、ホント!?))
ワザとらしいくらいに棒読みな独り言に食いつくハレたち。もう瞳が物理的にキラキラ輝いている。シイタケみたいな目をしやがって。
お前ら、ちょっっっっろ!! と反射的に喉から出かかったが、言っても誰も得をしないのでため息とともに飲み込んだ。
「ああ、それって徹夜コース? おかわりもいいぞ!」
((わぁーい!))
脳死で適当なことを並べつつ、御巫たちのカードが入ったデッキと
ディスクは記憶を探れば一年前の誕生日に両親が最新型のをプレゼントしてくれていた。それも使用せずにクローゼットの隅で埃をかぶっていたが。やはり罪深い。
不可抗力とは言え、これまでの所業に否応なしに罪悪感がのしかかるが、同時にデッキとディスクを手にすればそれを上回る高揚感が身を包む。胸が弾み、血潮が加速するのを自覚する。
正直、未だにわからない事、整理がつかない事も多いが、少なくとも一つだけ確かなことがある。
生まれ変わっても俺は、やはり遊戯王が大好きだということだ。