この世界のデュエルモンスターズ未経験者が初めてデュエルをする時に、まず必要なものは何だろうか?
一緒にデュエルする友達? なるほど、デュエルモンスターズは対戦ゲームなのだから相手は必要である。
だがこの世界の住人は老若男女大半がデュエリスト、見知らぬ人でも一声かければ即決闘が始まるくらいの距離感なので相手探しには困らない。
ならばデュエルモンスターズのルールブックか? 論外である。
そもそもディスクを使用したデュエルの場合は、本人が理解しておらずとも機械が勝手に正しい処理を進めてくれる。テーブルデュエルでも複雑な裁定でない限り、小学生以下の子供同士でも問題なく進められる程度にはルールが浸透しているのが世の実情だ。
偶に最強サイクロン*1が通用していることもあるが、当人たちが納得しているのなら基本は楽しけりゃいいよの精神である。
では、デュエルモンスターを始めるにあたって絶対に必要なモノはなにか――すなわち、己のデッキである。
当たり前の話だが、カードゲームなのだから、とにもかくにも手元にカードがなければプレイ以前の問題である。
最低限、40~60枚から成る『メインデッキ』を所持しなければ、ゲームそのものが始められない。
その大前提の上で――俺は御巫たちに問いかける。
「なあ……ハレ、君たち御巫カードが効果を発揮するために必要なのは何だっけ?」
(ええと……装備魔法だね)
「ニニ、このデッキに入ってる御巫カードの数は?」
(…………二種類ね)
「もひとついいかな――君たち以外の御巫装備魔法、どこいった?」
((…………君のような勘の良いご主人は嫌いだよ))
とんだ紙束デッキじゃねぇか……っ!!
悪びれもせずに――むしろネタが成功してちょっと嬉しそうにハイタッチ決めているハレたち。お前らどこでそれ覚えたのよ、確かに綺麗な流れだったけどさ。ちくしょう俺も混ぜろや。
イエーイと御巫たちと手のひらを合わせてから、けれども一転真面目な顔で指摘する。
「お前たち……ノリのいいとこ悪いけど、装備魔法がない御巫とかほぼバニラカードだからな」
(はうっ!)
(うぐっ!)
まるで鋭い錐で貫かれたように胸を押さえる二人だが、謙遜でも何でもなく素の状態の下級御巫は壁くらいにしかならないモンスターだ。
なにしろ攻撃力守備力が共に圧巻の0である。自身の戦闘におけるダメージを無効化するという共通効果を有してはいるものの、それなら素直に高ステータスのモンスターを守備表示で出しておけばいい。
以前にも言ったが、御巫テーマとは儀式と装備魔法を駆使して戦うカード群だ。彼女らがその真価を発揮するには、装備魔法が必要不可欠……なの、だが。
「なんでデッキに入ってる装備魔法が『闇・エネルギー』*2一枚なんですかねぇ」
お前らどっちも装備できねぇじゃねぇか! どころかデッキにこのカード装備できるモンスターがいねぇよ! せめて悪魔族採用しろよ!!
てっきり最初にハレたちと出会ったから勘違いしていたが、前世のマスターデュエルで御巫デッキを使っていたからと言って、今世にそれらのカードを持ち越しできるなんて甘い現実はなかったようだ。
現在、俺の所持しているデッキはシナジーのまるでないモンスターカードが六割に、やはりシナジーのない魔法・罠カードが四割と、適当に四十枚カードを集めましたレベルの紙束だった。
いや本音では俺もこんな言い方したくないのだが、マジでこれ以外の表現が思いつかねぇ。もしこのデッキでデュエルに勝てるとしたら、それはもう伝説の
「そう言えば、俺のデッキってマジで適当に八パック剥いて組んだだけのカードだったわ」
今更ながらに前世を思い出す以前の記憶が蘇る。小学校に入学したのだから、そろそろデュエルモンスターズの勉強を始めましょうねと両親に買い与えられたカードパック。
彼らからすればそこから自分の意思でカードを集め、デッキを強化していくことまで想定していたのだろう。生憎と当時の俺は生ける屍状態だったわけで、現在まであり合わせデッキを更新していなかったのだが。
つまり、自業自得というわけだ。しかも所持カードピッタリで作ったデッキだから、予備カードすら一枚もないという。
天を仰ぎ見、ため息をつく。
同時に冷静に思い返せば、この時点で不可思議な点があることに気づいた。
「待てよ……そもそも前世で御巫カードが発表されたのは、初代遊戯王が完結してからかなり後の事だったはずだ。なんでこの時代に存在してるんだ」
俺はマスタ-デュエル専門でリアルの
今世の時間軸で言えば、現在は初代アニメのストーリーが終了して数年のはず。どれだけ多く見積もっても十年は経っていない。もしカードの発売時期が前世と同期しているならば、御巫カードは存在すらしていないはずなのだ。
「よく見れば他にも何枚か発売していないはずのカードが混じってるし、俺の知らないカードもある……」
紙で刷られていた分だけでも一万種類を超えていたカードなので、俺もそのすべてを記憶しているわけではないが……ここまで見覚えのないカードだと、初めからOCGには存在していなかったようにも思えてくる。
「……デュエルの前に、まずはカードプールの調査だな」
俺はデッキケースとディスクを手に取り、外出の準備を始めるのだった。
@@@
今日も仕事に出ていた両親には書置きを残し、俺はハレたちを連れてひとまず自宅から一番近いカードショップに訪れていた。
比較対象としては微妙かもしれないが、外観から測る規模としてはアニメ遊戯王の主人公である武藤遊戯――その実家である双六爺ちゃんが個人経営している玩具屋よりもよっぽど大きい。敷地面積なら倍以上あるだろう。
ドアベルを鳴らして入店すると、入り口傍のレジカウンターに座っていた恰幅の良い店員がジロリと目を向けてきた。
(うわっ、随分と雰囲気のある店員じゃん)
(胡散臭い方ですわ)
「(お前ら……)」
常人には視えないことを良い事に、好き勝手酷評する精霊たちに口端が引き攣る。
だがまあ、確かに強面の顔に黒い丸サングラス、ニット帽とジャージの姿は初見の相手にそう受け取られても仕方ない程度には怪しげなのは間違いなかった。
入る店を間違えたかと逡巡するも、見渡した店内は意外にも明るく綺麗に掃除されており、壁際のショーケースにはレアカードが値札付きで大量に陳列している。
奥に設置されているテーブルエリアでは、丁度俺と同じ年頃の子供たちのグループがデュエルしているようだった。随分と盛り上がっており、新たに客が店内に入ってきたことに気づいた様子はない。
人は見かけによらないとはこのことか……などとコッソリ考えていると、その当人の方から声がかけられて少しばかり慌てる。
「見ない顔だな。初心者か?」
「あー……まあそうですかね。少なくともデュエルの経験はほとんどないです」
イマイチ自分でも納得しがたいが、前世では散々にマスターデュエルをプレイしていても、今世ではボッチの根暗デュエリストだ。対戦経験は両親との数戦しかない。
ふんと鼻を鳴らした店員は俺の煮え切らない返事に僅かに訝しげな表情をしたものの、カウンターの裏側に身を屈め、ゴソゴソと何事か荷物を漁る音を立てる。
しばしして差し出されたのは、まだ未開封のカードパックだった。
「新人サービスだ。今後とも御贔屓に」
「え、ありがとうございます!」
メッチャ良い人!? 外見で判断してたのが申し訳なくなるくらい良い人だ!!
遊戯王ワールドでは人生の岐路である進学から就職までもが、デュエルモンスターズの腕前次第で左右される。なんなら住民登録にデッキが必要な町すらある。*3
必然的に、カードの価値は前世とは比較にならないほど高い。レアカード一枚に何百万という値が平然とつくし、それだけに初対面の相手に無料でサービスしてくれた店員への感謝が募る。
ひとまず受け取ったパックを大事にしまうと、ぶっきらぼうな口調で店員が尋ねてきた。
「それで、なんか探してるもんあるのか? ウチはそれなりに品揃えあるぞ」
「そもそもカード自体を全然もってないので、汎用カードをあるだけ……それと装備魔法カードも見せて欲しいんですが」
なにしろ今の俺はサイクロンすら一枚しか持ってないのだ。当然、直接的な除去カードもなく、もし戦闘耐性のあるモンスターを使われたらその時点で詰む。
「装備魔法だぁ? またマイナーなもんを……よく使われる汎用カードは向こうのショーケースにまとめてある。装備魔法に関しちゃ専用のエリアは作ってねぇ、滅多に買いに来る奴がいねぇからな。一部は先の汎用魔法と一緒に展示してるが、残りは奥のばら売りのボックスに突っ込んであるはずだ。自力で探せ」
ほーん、装備魔法は人気がないのか。まあ装備対象を選ぶカードも多いから、単品で機能しにくいのが原因だろうか。
そう言えば、小学校の同級生たちが休憩時間にデュエルしているのを横目に聞き流していた記憶もあるが、装備魔法を使っている子はほとんどいなかったな。
改めて店員に礼を言った俺は、彼の案内に従って汎用カードの並べられたゾーンへと進む。
そのついでにと道中のショーケースに飾られているカードに視線が向くが、そのラインナップと値段に目玉が飛び出るほど驚愕した。
「(はぁっ?! 『ゴブリン突撃部隊』が五千円!? 冗談だろ……)」
(どうしたのさ、ご主人)
(このカードに何かありまして?)
思わず足を止めてしまった俺に、ハレとニニが不思議そうに問いかけてくる。
視線を辿って彼女たちも俺の見ているカードを把握しているはずなのに、何故驚いたかが理解できていないようだった。
ゴブリン突撃部隊は攻撃力2300と、召喚にリリースが不要な下級の中では最高クラスのステータスを持っている……が、攻撃後に強制的に守備表示になってしまう効果を併せ持つ、いわゆるデメリットモンスターの一つである。
しかも守備力0であり、次の自分のターン終了時まで表示形式を変更できない制限もついているので、返しのターンにはほぼ確実に戦闘破壊されてしまうモンスターだ。
モンスター効果を永続で無効にする『スキルドレイン』や、『最終突撃命令』などで表示形式を固定することができれば優秀なアタッカーになれるのだが、それらを考慮しても値段に見合った価値とは言い難い。
ショーケースに陳列されている他のカードにも目を向けるが、『ブラッド・ヴォルス』に『アレキサンドライトドラゴン』、『ジェネティック・ワーウルフ』などの効果がないが高ステータスのモンスターや、やはり高レベル高ステータスのモンスターばかりに高値がついている。
あまりのデメリットの重さから、前世で使う人がほぼいなかった『絶対服従魔人』*4が五十八万で売られていたのには、あまりの価値観の違いに気が遠くなったほどだ。
「ステータス至上主義にもほどがあるだろ……」
アニメ初代遊戯王では作中屈指のパワーデッキ使いである海馬瀬人が、主人公のデッキに入っていたクリボーを雑魚モンスター呼ばわりしていたことがある。
当時視聴していた俺は海馬の性格や嗜好からの発言だと認識していたが、もしかすると彼ほどのデュエリストでもまずステータスを重視してしまうのがこの世界での一般的思考なのかもしれない。
「しかし、そうなると……」
(ほへー)
(……ふーん)
ショーケースのカードを感心するような――あるいは羨望の眼差しで眺めるハレたちを見やる。
――俺の今世の相棒たちは、世間一般の価値観からすれば反論の余地なく雑魚カードらしい。
そんな残酷な真実に、これからはもう少し彼女らに優しくしようと決意した。
多分、初代遊戯王ワールドの価値観だとマジで御巫テーマは弱小カード扱いされてそう。
今回でデッキも調整できたし、次はようやく初デュエルに入れますね。