聖剣の勇者様……の、幼馴染み   作:青い灰

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2つの戦場

 

 

 

 

 

「殺す────!!!」

 

「殺してみろ」

 

 

激昂するエルフに向かい合う。

手に握っているのは長柄の得物……棍か。その握り方、立ち振舞いを見るに、それなりに腕は立つようだ。

さて、獣人の方は姿が消えた。足音から推測するに、回り込んで挟み撃ちを仕掛けるつもりだろう。

 

 

「……」

 

 

いや、違う。

足音は魔法によるフェイク。ならば……

 

 

「ハ。その図体でよく跳ぶもんだな?」

 

「ッ、チィッ!!」

 

 

獣風情が、小賢しい真似をする。

上空、巨大な両刃剣を手にした獣人を視界に捉える。

どちらを迎撃すべきか……決まっている。

 

足を軽く引き上げ、強く踏み込む。

 

 

「ッ!?」

 

 

地面がひび割れ、陥没。

そうやって押し出した周囲の地面をせり上がらせる。エルフの体勢を崩した隙を突き、その頭をわし掴み、その手に力を込めていく。

 

 

「くく、このまま砕いてやろうか?」

 

「っ!? っが、ぁあぁああっっ……!?」

 

 

軋む骨の悲鳴と、エルフの呻き声が共鳴する。

やろうと思えば砕けるが、目的はそこではない。空を見上げれば、巨大な体躯と刃が迫ってくる。

 

 

「させると、思うとるんか!!」

 

「……くくく」

 

 

縦に薙がれる刃を、その場から飛び退いて回避する。刃は地面を斬るばかりか、砕けた地面を吹き飛ばす。獣人の膂力、加えてその体躯。食らえば即死だろう。

 

砂煙が舞い上がる。

それを切り裂いて放たれた風の刃を、首を傾け回避。流石に砂煙の中では照準もままならないだろう。

が、しかし。

 

 

「それなりには出来るか? 素手で十分そうだが」

 

「ッ、舐めるな!」

 

 

再度放たれた風の刃。今度は横一閃か。

屈んで回避し────そして、地面へ拳を叩きつける。

地面がひび割れ、周囲の地面が隆起する。

……屈んで回避するのを読み、相手を地面ごとせり上げ風の刃に命中させようとしたか。

 

大地の魔法。視線の先、エルフの後ろで獣人が地面に手をついている。……恐らくあの獣人の魔法。やはり、あの獣人も厄介だな。それにこの連携も、一朝一夕で出来るものではない。かなりの場数を踏んでいる。

二人とも、だ。

 

 

 

 

 

 

……………面白い。

 

 

 

 

 

 

 

 

「少しは楽しめそうだな。

 すぐに死んでくれるなよ、エルフに獣人」

 

 

隆起した地面が魔力を失い、崩れ落ちる。肩を回し、骨を鳴らして肉を慣らす。たまには肉弾戦もいい。

 

敵の得物は細めの長棍、それに極太の両刃剣。

懐に入ってしまえば大したこともない上、寧ろ相手の得物のリーチを考えれば剣は不得手。拳を叩き込み、内臓、もしくは頭を潰す。

 

 

「……こら舐められとるわ。剣も抜かんのか」

 

「構わん。その油断、後悔させてやる」

 

 

怒り狂っているかと思えば、すぐ落ち着いたらしい。そも怒りに我を忘れるようでは三流も良いところだ。

エルフが棍を両手に、地面を突く。

 

瞬間、崩れ落ちた地面が再度魔力を帯びる。

土煙が舞い上がり、それは竜巻となって視界を奪う。風と地の複合魔法か。両目を閉じ、目に砂が入るのを防ぎながら、意識を集中する。

 

 

「そこか」

 

「ッ……! 勘が良いのぉ!!」

 

 

獣人の一閃を、屈んで回避する。

幾ら視界を奪われようと、俺の体質には意味がない。

 

魔力が一切ない、反魔の体質。

だが、魔法を防ぐ以外のメリットも多くある。

幼子が無意識に身に付ける魔力での身体制御がなく、それ故の素の身体能力の著しい向上。それに加えて、身体が魔力を異物と認識するため、その流れ、そして魔力を帯びたものの動きを読めるようになる。

 

つまり、魔力の探知。

魔法の属性、術式、威力に、魔力を帯びた者の動きは目を閉じていても手に取るように分かってしまう。

 

 

 

竜巻に穴が開き、そこから獣人が飛び込んでくる。

 

 

「だ、らァ!!」

 

「ハハハ……」

 

 

振り下ろされる両刃剣の切っ先をステップで回避し、更に地面を抉りながら迫る振り上げを身体を逸らして回避しながら、がら空きの懐へと潜り込む。

 

そして、その腹へと横向きに左手を添える。

 

 

「ぬ─────!?」

 

「さぁ、耐えられるか?」

 

 

添えた手に、一気に突くように力を込める。

 

 

 

 

 

「ガ───────ッ、ァ……!!?」

 

 

 

 

零距離での掌底。

命中した部分から響くように衝撃を分散させ、筋肉を破壊、壊死させる一撃。内部への衝撃はないが、その動きを止めるには十分だろう。

 

………が、どうも手応えがおかしい。

 

 

「ッ、ぐぅ、ァ……うおぉあッ!!」

 

「おっと」

 

 

振り回される両刃剣の嵐から飛び退いて距離を取り、そしてその乱舞によって竜巻が飛び散る。

……しかし、魔力で防御された気配はなかった。

獣人は獣の姿へと筋肉を変質させるという話を聞く。その応用か、また獣形体の体毛で威力を分散したか。

肉体の破壊は出来なかったが、攻撃は通っている。

 

エルフは背後に回っている。対処はそちらが先だ。

 

 

「はぁッ!!」

 

「ぬるいな」

 

 

棍による大振りの一閃。

振り向き様に指先で振るわれる棍に触れ、その軌道を無理やり上に逸らす。頭上で棍が空を振り、エルフはその翠緑色の瞳を大きく見開く。

 

 

「な、っ!?」

 

「得物はもっと強く握ることだな」

 

「ご─────ッ!?」

 

 

腰を落として右腕を引き絞り、横薙ぎにエルフの腹を打つ。瞬間的に魔力で肉体を硬質化し防御されたが、エルフはその身体をくの字に曲げて吹き飛んでいく。

 

それを見送り、少し下がる。

あの獣人もまだ動けないらしく、腹を押さえている。エルフの方は派手に地面を転がり、だが腕を立てた。

 

 

「ぐ、ごほっ……バケモンが……!

 おいッ、無事か!!?」

 

「っがほっ……げほっ……っ、

 はぁ、はぁっ……何とか、だが……」

 

 

異種族だというのに、連携も上手く信頼もある。

なんとも不思議なことだ。しかしこれで忌み者だけは蔑むのだから残念なことだが、やはり滅ぼすべきか。まぁ、別に滅ぼうが滅ぶまいがどうでもいいが。

 

……にしても、化物とは。

よく言われはするが、周りの連中は俺が得体も知れぬ化物に見えているのだろうか? 自分の見目が良いと思っているほど自惚れてはいないが…….

 

 

「ならば、これではどうだ─────!」

 

「!」

 

 

大気の魔力が沈み始め、周囲の気温が急速に下がる。魔法の攻撃はともかく、魔法によって引き起こされる気温の変化などの2次効果は受けてしまう身としては、氷や炎系統の魔法は苦手だ。

これも反魔のデメリットと言えるだろう。

触れさえすれば消せるが、火傷も霜焼けも嫌いだ。

 

 

「寒っ…」

 

 

周囲の魔力が幾つも収束していく。

魔力により氷の刃が周囲に生成され、俺を取り囲む。簡単そうにやるが、素晴らしい精度の魔力操作だ。

やめてくれ。

 

 

「凍れ!!」

 

「はぁ…」

 

 

吐いた息も白くなるではないか。

腰を折り、両手に石や土くれを掴み上げる。こちらに向かって一直線に向かってくる氷の刃は、逃げ場こそないが動きは分かりやすい。攻撃範囲は扇状。

 

迎撃は、容易い。

 

 

 

「────────落ちろ」

 

 

 

土を握る両手を胸の前で交差させ、一気に放つ。

何の変哲もない、ただの石礫だ。

 

 

「────は?」

 

「ヒュー、完璧」

 

 

そのただの石礫でも、力を込めて放てば氷の刃程度もこの通り──────簡単に砕けてしまう。

口笛を吹く。一度の礫で氷を全て砕いてしまえた。

普段から射的は鍛えているのだ。余裕である。

腕を払い、手についた土を落とす。

 

 

「どうした? これだけか、エルフ」

 

「っっ……!」

 

「ハハハ……そう睨むなよ。

 なら、もう一発見せてやろうか」

 

 

靴先で地面を蹴り上げる。

舞い上がった土くれを右手に掴み、左足を踏み込む。

 

 

「ッ、あかん!!」

 

 

獣人が動く。

距離は遠い。風穴とまではいかないか? まぁ良い。

右腕を引き絞り、踏み込んだ足に力を込める。

 

 

「ッ───ハァ!!」

 

 

腕を振るい、再度、石礫を放つ。

 

 

「ぬぅ!!」

 

 

獣人が両手を地面に突く。

地面から岩壁がせり上がり、石礫の防壁となる。

石礫はその石壁に突き刺さるだけだが、それと同時に地を蹴って走り出す。防壁は悪手だろう。

 

 

「そら、来るやろなぁ!」

 

「今度は外さんぞ!」

 

 

と、その石壁の後ろから二人がそれぞれ横に出る。

分かってきたではないか。

獣人は両刃剣を構え、エルフは棍のない片手に短杖を握っている。まずは魔法、獣人が突っ込んでくる。

──────と。

 

 

「足止めとしては、拙いな」

 

「並の魔法耐性ではないか……!」

 

 

砕け散った足元の氷の刃、それが形を変えて足に絡み付いてくる。が、魔法は効かない。踏み潰す。

触れさえすれば、あらゆる魔法は無意味だ。寒い。

だが、それだけではない。

 

 

 

「『混沌 壊滅 嵐の欠片』」

 

 

 

風の魔法の詠唱か。

魔術の詠唱は必須のものだが、魔法の詠唱は不要だ。しかし本来不要である詠唱を行うことで、その出力は格段に上がる。詠唱はその魔法が何か相手に伝わり、中断すると魔法が不発となり魔力が無駄に使われる、というデメリットもあるが……

 

しかし、詠唱は長ければ長いほど強力になる。

一節程度は問題ない。二節なら掠り傷。

三節も詠唱されれば俺も流血するほどの出力になる。

それを見す見す見逃すほど、俺も馬鹿ではない。

 

 

「余所見たぁ、余裕じゃなぁッ!!」

 

「その余裕も今消えたがな」

 

 

こうして標的を絞られると面倒だ。

両刃剣の初撃を獣人の動きの魔力探知で回避し、渋々立ち塞がる獣人と相対する。

 

 

「今度は内側から壊そうか。

 頭か心ノ臓なら一撃で楽に逝けるぞ?」

 

「そう何度も近付けさせぁせん!!」

 

 

見た目に反して、この獣人は俊敏だ。

大柄とはいえ十分に技量もある。こちらも一撃貰えば楽になれそうだ。貰えば、その話だが。

極太の両刃剣の乱舞。重く、かつ、速い。

 

捌くなら剣を抜いてもいいのだが、その重さに流され体勢を崩されるのは目に見えている。だが隙はある。ならば全て避け、最低限を素手で捌くまで。

 

一瞬の隙を突き、咄嗟に()()()()()()

 

 

「臆したか!!」

 

「いやぁ、別に?」

 

「っ!?」

 

 

着地の瞬間に体勢を低くし、両足に力を込めて、高く跳躍する。相手の頭上を越え、そして──────

 

 

 

「『我が手に集いて 曇天を裂け』」

 

 

 

「『風の太刀にて 蒼天を示す』」

 

 

 

 

三節の詠唱。想像以上に詠唱が速い。

これは─────

 

 

 

 

「『空断』!!!」

 

 

 

 

しくじったか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

懐から、黒い魔石を取り出す。

迫り来る嵐の太刀に合わせ、それを砕く。

 

瞬間、魔石から溢れた魔力が俺を包む。

未だ反魔は敵に勘づかれてはいない。まだこの手札は使えるのだ。失うには勿体無い。故に、ここは防ぐ。

 

 

「「何!!?」」

 

 

嵐の太刀は俺を包んだ魔力に相殺され、消失する。

叫ぶ二人の言葉が重なる。

 

 

 

【魔喰石】。

魔石は魔力を吸収する性質を持ち、それに属性ごとの魔力を吸収させたのが主に使われるが、これは逆に、空の状態にある魔石から魔術により魔力を吸い上げ、一種の枯渇状態にしたものだ。

 

砕けば、周囲の魔力を即座に消滅させる。

本来は握っているだけで危険な代物なのだが、元より魔力のない俺はその影響を受けない。ちなみに相手に押し付けて砕くだけでその者を魔力枯渇に陥らせる、という使い方も出来る。

 

ちなみに製作過程では殆どの確率で魔石が崩壊する。そのため希少なものだ。俺しか使わないが。

 

 

 

「フ……ハ、ハ、ハ。

 エルフの相手だ、備えくらいあるさ」

 

 

着地。それと同時に横へ飛び退き、挟撃を避ける。

だが二人は動かず……いや、動けず、が正確か。

余裕を持って離脱することが出来た。

 

 

「……さあ、次だ。

 もう出し惜しみはやめても良いだろう?」

 

 

今のは良かった、だが全力は出していない。

まだ余力を残している。敵は俺だけではない、という考えからだろうが、それでは詰まらん、面白くない。

これで全力なら殺してしまっていいのだが。

 

 

「………しゃあないわ。

 こうも手も足も出んなら、言う通りにしたる」

 

「あぁ、もう余力を考えてはいられない。

 恐らくお前は、この場で最悪の脅威だ」

 

 

そうこなくては。

獣人の方は、全身の筋肉が膨れ上がる。

エルフの方は、纏う魔力が濃くなってゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「が、ァあァアぁァア……!」

 

 

獣人は、人と獣の二つの形態を持つ。

自在ではあるが、利便性がある人型の者が殆どだ。

だが、一部の者だけが使える形態があるという。

 

それが、間獣と呼ばれる形態。

人の形を維持したまま、獣の力を最大限に引き出す。それは最も歪な姿であり、無理やり姿を維持するため肉体の負担は凄まじく、常に激痛に襲われるという。

 

その姿は、爪牙を剥き出した二足の狼。

隆起した筋肉や、逆立つ体毛は獅子のようでもある。

 

 

 

 

 

 

「───────ふぅ、ぅ……ッ!」

 

 

エルフの方だが、こちらは完全に予想外だった。

【覚醒】────────

 

曰く、あらゆる生命には枷があると。

その枷が外れた時、その力は竜にすら匹敵すると。

かの【将軍】でも辿り着けなかった境地の一つ。

それは、魔力による強化の秘奥とも云える。

永い時を生き、人ではないエルフだからこそ、そこに至りやすいのではないか、という話も聞く。

 

視認できるほど濃く、立ち上る魔力には底が見えず、今まで見てきた中でもそれは最も大きいほどだ。

魔王にも匹敵するかのような凄まじい圧力。

 

 

 

 

 

 

 

「……いいぞ。もっと、もっと力を引き出せ。

 命を燃やせ。死力を尽くせ。全霊を見せろ」

 

 

 

高鳴る鼓動、全身が熱を帯び、打ち震える。

口から出たそれは、己への言葉でもある。

 

 

拳を固める。

 

 

 

 

 

 

  さぁ、全てを賭けて、存分に殺し合おう。

 

 

 

 

 

 

 

───────

 

────────────

 

 

 

 

「ハハハハッ!!

 遅ぇ遅ぇ、欠伸が出るぜ!!」

 

 

襲いくる巨大な世界樹の根を足蹴に、更に雷で加速。空中を自在に駆け巡り、根に張り付いて魔法を飛ばすエルフどもに移動時に触れながら灼いていく。

 

だが、これだけの規模の力。

恐らくは魔法でも、ましてや魔術でもない。襲いくる巨大な根は一軒家を越えるほどだ。考え得る可能性は【権能】と呼ばれる、魔法や魔術からは完全に外れた異能、もしくは元より()()()()()()()()()

 

その理由になるかは知らないが、あの女もおかしい。

()()()()()()()()()。これは、有り得ない。

 

魔法を使えるのならば誰でも分かる、視認さえすればその魔力の有無が判別できる。が……あの女はルインと同じように、魔力が全く感じない。

だが、反魔ではない。今周囲に流し続けている微弱な電磁波は、確かにあの女を捉えている。ルインと同じ反魔ならばこれすら掻き消してしまうからだ。

 

 

「確かに、速いですね。ですが」

 

 

女が錫杖を鳴らすと同時に真下で交差する大樹の根。

視線を下ろせば、そこに巨大な黄色の蕾が現れる。

 

 

「(………? なんだ、この感じ……)」

 

 

あの蕾の内部から、自分にでも分かるほど強い魔力。移動しながら分かったが、人間大ほどもある。流石に看過していいものではなさそうだ。

 

 

「……面倒そうだ。灰にしてやる」

 

「させるとでも思っているのですか」

 

「!? いつの間に……!」

 

 

声は背後。近い。

即座に魔法で周囲の電磁波に干渉を開始する。

 

この魔法は、威力はあるがそう便利なものでもない。

雷魔法の発動に必要なのは、道と指向性。

道は、詰まるところ電気の通り道。

そして指向性は、その道へと進む方向と速度。

 

だが、電磁波でその両方は確保されている。

指向性に関しては自由自在。

無理な軌道では魔力と同化した状態のため身体の形を保てない、そのため最低限の速度しか出せない。が、それで十分。

 

正面に飛び、蠢く大樹の根の側面に剣を突き刺す。振り向く。そこには、錫杖を振りかぶったあの女。

女も、こちらを捉えている。

 

 

「……やはり単騎では無理がありますね」

 

「そうだな。オマエだけは、だけどな」

 

 

言葉を返す。

展開している電磁波は、電気を流すものを透過する。

大気は勿論、人の身体もだ。この電磁波は攻撃範囲。

 

電磁波内で流れた電気は帯電し、そして拡散する。

数が多ければ多いほど、消費魔力は減る。

 

そして現在広げている範囲は世界樹の根元全て。

世界樹はその樹皮の厚さにより透過出来ないのだが、おかしいのは、その点ではない。

 

 

 

あの女は、電磁波を通していない。

 

 

 

魔力もなく、電気を通さない。

まるで土人形(ゴーレム)のようだ。

 

 

 

「─────人じゃねぇな?

 人間でも、エルフでも、魔物でもねぇ」

 

「………」

 

 

 

女の動きが止まる。

足元に大樹の根を持ち上げさせてその上に降り立った女は、纏っている薄緑の衣へと目を落とす。

 

それは、水で濡れている。

回避の際に、常備している水の小瓶を投げつけた。

電気を流さない魔物などの敵への対抗策。

 

指を鳴らす。

展開している電磁波を通して、魔力が輝きを放つ。

 

 

 

「オレぁ本を読むのが好きでよ。

 極東から仕入れた本で見た記憶があんだが……

 例えば、数百の年を経たモンには魂が。

 数千ならば、それには意思が宿るって話があった」

 

 

 

輝きが収まると、黒焦げた女は根の上に倒れる。

そしてそれは、ボロボロと崩れ、灰になり、ぶわりと吹いた風にさらわれていく。

 

 

 

「そして、それを極東では【付喪神】という。

 こっちの言葉で言い変えるとすれば───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────【精霊】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、あの巨大な蕾から魔力が消失する。

ゆっくりとそれは開花を始め、そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「如何にも」

 

 

「私たちはこの世界樹に宿る者」

 

 

「世界と、その意思の代行者」

 

 

「エルフと呼ばれる子らは私から派生した種族」

 

 

 

張り巡らされた大樹の根。

そこに、凄まじい量の蕾が現れていく。

電磁波でも感知しきれない量だ。

 

 

 

「世界は告げている」

 

 

 

「終焉の産声」

 

 

 

「そしてそれに呼応した」

 

 

 

「2本の剣の目覚め」

 

 

 

蕾が花開き、その中から次々と、女が現れる。

それらの全てが、一つ、また一つ、言の葉を紡ぐ。

 

 

 

「貴女もまた」

 

 

「終焉の産声に感化された一人」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雷霆の担い手よ」

 

 

 

 

「私たちは」

 

 

 

 

「貴女を」

 

 

 

 

「排除します」

 

 

 

 

 

電磁波を、魔力で強化する。

その光に備えて、オレは目を閉じた。

 

身体が浮く。

 

 

 

 

 

 

自由落下の中で目を開く。

そして再度、電磁波を魔力で展開する。

 

 

 

 

 

 

全ての絶縁体を含めた反応を、消失させた。

 

大樹の根を、蕾も、女も、全てを焼き尽くす。

 

 

 

 

 

 

だが、新たに大地を捲れ上がらせて大樹の根が出現。

蕾が複数現れ、その中から大量の女が現れる。

 

 

 

「全ては無意味です。ひれ伏しなさい、猿」

 

 

 

何を言ってるのかはサッパリだ。

大して興味もない。

…………ただ、一つ興味あるとすれば。

 

 

 

「オマエ、処女(ヴァージン)か? 精霊様よ」

 

 

 

 

 

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