聖剣の勇者様……の、幼馴染み   作:青い灰

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決別/ブロセリア襲撃戦 終結

 

 

 

雷によって火が着き、そして本体を失った大樹の枝が樹海へと降り注ぐ。森全体が炎に包まれるのも時間の問題だろう。これだけの森だ、焦土になるか、または火が消えるのが先か……

 

 

『天沼鉾』。

簡潔極まりない純粋な『落雷』の最終地点、とはいえその威力は無詠唱で地形を変化させるほどのものだ。

恐らく今のは完全詠唱だろう。さっきから馬鹿デカい大樹の根が動き回っていたし、それだけ厄介な敵だと認識したのだろうが……世界樹ごと消し飛ばしたか。

いや全く規格外にも程があるだろう。

 

 

「……世界樹が……消えた………!?」

 

「夢……でも、見とるんか……!?」

 

 

呆けてしまうのも無理はないが、しかし敵を前にしてそれは頂けない。剣を手に、足を強く踏み込む。

 

 

「ッ、アイリス!!」

 

「ほう」

 

 

飛ぶように、滑るように地面を駆け抜ける。

そうして振るう剣を受け止めたのは、それにいち早く勘づいた騎士服の男だ。

気配は消していたつもりだったが。

 

 

「っ、ルイ……!!?」

 

「ッぐ……重、っ……!?」

 

「遊んでやろうか」

 

 

剣を引き、即座に二度、水平に打ち込む。

一度は安定して防御されるが、二度で態勢が崩れる。見立ては間違いではないだろうが、まだ甘いな。

 

 

「っ、ぐぅ……!?」

 

「体幹が緩いな。

 魔獣相手でもないなら腰を落とせよ、三流」

 

「が、ごあッ!?」

 

 

足を払うように脛を蹴りつけ、倒れる瞬間にその顎を蹴りあげる。まだまだ。

 

 

「そらッ!!」

 

「ご、は──────ッ!?」

 

「レオさん!」

 

 

隙だらけ。地を蹴りつけ身体を回転させ、回し蹴りをその横腹へと叩き込めば、その身体はくの字に折れ、真横に吹き飛んでいく。肋骨を幾らか折った、すぐに死ぬことはないだろうが、内臓に折れた骨が刺されば放置で死ぬだろう。

 

どちらにせよ、修道女がそれを追って走り出す。

 

 

「ルイ……!」

 

「……斬れるか? アリス」

 

「っ……」

 

 

アリスも聖剣を構えるが、その剣先は震えている。

そう言葉にしてやれば、彼女は目を見開きその動きを固くする。………これは駄目だな。

 

 

「………」

 

「っ、あ……っ……」

 

 

向けられた聖剣の刃を、指で押しやる。

じり、と痛みが走り、だが簡単に剣は矛先を変える。そしてそのまま、彼女に近付く。

彼女は肩を震わせ、ただこちらを見ているだけ。

 

 

「っ!? アリスさん、逃げて下さい!!」

 

 

修道女の叫びにまたその肩を震わせる、が。

もう、すぐそこだ。

 

 

 

剣を振るえば、殺せる距離。

 

 

 

更に、近付く。

震える紺碧の瞳が、だが真っ直ぐにこちらを映す。

空よりも深く、けれど潤むそれが、胸の深い場所へと針刺すような痛みを走らせる。

 

 

「……ル、イ」

 

 

名前を呼ばれる。

 

 

 

 

 

 

その薄紫の髪も、紺碧の瞳も。

眉の形も、輪郭も、肌の色も、唇の艶でさえも。

 

 

 

「本当に、変わらないな」

 

「……………」

 

 

 

なのに、これだけが分からない。

今、何を考え、どんな思いを巡らせている?

 

この惨劇に怒っている?

この事態に悲しんでいる?

それとも、この出会いを喜んでいる?

 

 

 

 

「お前は、お前でなければいけない」

 

 

「え………?」

 

 

 

 

想ってはいけない。思ってはいけない。

それが赦されることはなく、故にそれは罪だった。

 

そして罪とは、誰かが背負うべきものだ。

 

思うことが罪だというのなら、受け入れよう。

そして、受け入れたうえで、決めなければならない。

 

疑うことは赦されない。

否定することも赦されない。

ならば、それすらも受け入れるべきなのだ。

 

この在り方を。

 

 

 

 

「疑うな。信じ続けろ」

 

 

「なにを……言ってるの……?」

 

 

 

 

さぁ。

 

 

 

 

「アリス」

 

 

「……」

 

 

 

 

決別の時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「     」

 

 

 

「───────え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、一仕事終えて

 迎えに来てやったらこりゃどういうこったよ」

 

 

 

声。

 

 

 

「ッ、あ……!?」

 

 

 

バチ、という弾ける音と共に、彼女が離れる。

俺もまた、それに合わせて後ろに下がった。

そして視線を上げ、声のした方向へ向ける。

 

 

「ルイン、オマエそういう感じか?

 まぁオレは別にいいけどよ……

 ここは敵地だってこと、忘れちゃいねぇよな」

 

 

視線が声の主を捉える瞬間、更に稲妻が迸る。

そして、その声は俺の鼻先にまで近付いていた。その黒い双眸に浮かんでいるのは、怒りにも似たなにか。しっかりしろ、というのが伝わってくる。

……分かっているさ。

 

 

「……ルイーズか」

 

「他の誰に見えんだよ」

 

「……………」

 

「はぁ、オレぁ忠告に来てやったんだぜ?

 どうすんだ、オマエ」

 

「変わらない。これまでも、これからもな」

 

「ならいい」

 

 

溜め息をつくルイーズは俺の胸を押し、離れる。

俺たちは改めて『敵』へと視線を、そして、身構える彼らに剣の切っ先を向ける。

 

 

「話は終わりだ。言うべきことはもうない。

 首を差し出すか、最期まで抗うか、選ぶといい」

 

「そういうこった。悪いが仕事なんでな」

 

 

剣を構え直す。

抑えていた殺気を放ち、ルイーズも稲妻を走らせる。

だが、相手も黙ってはいないらしい。

 

エルフと獣人が立ち上がり、得物を構える。

 

 

「ここは任せて貰えへんか。

 残念やけど、ここはもう終わりや」

 

「だが、お前たちが逃げるくらいの時間は稼ぐ。

 それに私たちにも意地というものがある」

 

 

勇敢というか、蛮勇というか。

どちらでもいい。黙ってそれを見届ける。

 

 

「………っ、あ……でも……」

 

「分かりました。

 レオさん、立てますか」

 

「問題ない、走るくらいは出来る……!」

 

「アイリスさん、ここは退きます。

 あの敵は……私たちでは、どうしようもない」

 

「……っ、っ……分か、った。ごめんなさい……!」

 

 

最後、彼女が逡巡を繰り返し、だが三人は森へ走る。思えば来てすぐに押し返されただけか。しかし目的は別だ。どこへ逃げようと構わない。

そしてそれを遮るようにエルフと獣人が立ち塞がる。

 

 

「そら、追わないんか?」

 

「目的外だ。そもそもこの広い樹海に集落、

 恐らく案内役がいるものだとな。

 まさかそれ無しで出会すとは思わなかった。

 幸運なのか、もしくは不幸なのか」

 

「それこそ〝貧乏くじ〟だろう」

 

「あぁ、それか」

 

 

悪い笑みを浮かべるエルフの返しに、俺も笑う。

どうやらこちらの関係性を推測でもしたのだろう。

そういえば、こいつらと会ったときにはそんなことも言ったが……そもそも、だ。

 

 

「貧乏くじを引いたのは、お前らだがな」

 

 

獣人はそれに目を見開き、は、と乾いた諦めの笑みを浮かべ、やれやれというように首を振る。

 

 

「……参ったなあ、最期まで何も言い返せへん。

 あれだけ啖呵も切っとって、ほんま恥ずいわ」

 

「だが、希望は託せた。

 まさか、あんな人間にとは思わなかったが」

 

「けどそういうもんやろ、

 勇者ってもんはいつだって、敗北を知っとる」

 

 

 

 

 

「で……話は終わりでいいんだよな?」

 

 

ルイーズが告げる。

その手は正面、その二人に向けられている。

 

 

「命乞いくらいなら聞いてやるぞ?

 気を楽にしろよ、一瞬で死ねるぜ」

 

 

彼女の最後の慈悲。それに、彼らは。

 

 

 

「──────負けないさ、私たち、ヒトは」

 

「あぁ、この意思も、消えはせん」

 

 

 

見事。

それぞれ得物を手にこちらへ駆け出してきた二人へ、稲妻が迸る。

 

 

 

 

「じゃあな」

 

 

 

 

放たれた雷鳴が、小さく燻る火を吹き消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かに、思えた。

 

 

 

 

「──────ただでは、死なん、ぞ……」

 

 

 

 

 

「「!」」

 

 

眼前で、光が膨れ上がる。

これは─────────召喚石か!?

 

 

「ぐっ!?」

 

「──────!!」

 

 

ルイーズの腹に手を回し、即座に後方へ飛び退く。

瞬間、その地面を巨大な顎が抉り取る。

ルイーズを後ろに転がし、新たな敵へ剣を構える。

 

 

「っ……またかよ」

 

「まだ手持ちにあったらしいな」

 

 

起き上がるルイーズの恨めしそうな声音にそう返し、現れた敵を見上げれば、それと視線が重なった。

 

 

「「「■■■■■■■………!」」」

 

 

黒毛に包まれた巨大な体躯。

地面に突き立つ四足は巨大かつ鋭利な爪を携え、また地面を抉り取った複数の顎、そしてそれら顎の上部に輝く、六つの燃えるような紅の眼光がこちらを刺す。

 

──────三つ首の魔獣(ケルベロス)

詠唱無しの強大な魔力を用いた強制顕現。ルイーズの雷を利用されたな。それに加え、雷魔法の魔力により暴走状態にされたうえ、雷への耐性まで付与された。

 

 

「面倒くせぇことしやがって……

 ルイン、まだやれるよな」

 

「俺一人で十分だ。下がってていいぞ」

 

「あ? あぁそういやオマエ、犬嫌いだったな」

 

「あぁ、任せてほしい」

 

「なら頼むわ、オレは生き残りがいないか探す」

 

 

ルイーズが雷に乗ってその場から消える。

確かに犬は嫌いだ。剣を振り、切っ先を向ける。

 

 

「久し振りだな、あの頃のようにはいかないぞ」

 

「「「■■■■■■■■■─────!!!」」」

 

 

何年振りだ。あの時は後ろに──────

………いや、余計な思考は不要。召喚獣とはいえ所詮は魔獣と代わらないが、暴走し、更に雷の力まである。

 

 

「適当に遊んでやろうか」

 

 

ゆらり、と身体を揺らし、駆ける。

その巨体は確かに脅威だが、それだけに死角は多い。例えば───────

 

 

「先ずは、足」

 

 

その前足へ剣を振るう。が。

消えた。いや、跳躍して逃れたか。上を見上げると、その三つ首の牙の隙間から、炎が漏れ出る。

その眼光は赤光を放ち、ただ殺意だけを向けてくる。もはや生物としての本能すら狂気に呑まれているか。

 

 

「多少は小賢しくなったか? だがな」

 

 

巨体の跳躍により、その地面は砕けている。

 

 

「「「───、───■■■■■!!?」」」

 

 

その余波に舞い上がった石を左手で掴み、その首元を目掛けて即場に投擲、それは炎の息吹を放とうとした首へと突き刺さり、火炎は強烈な刺激に耐えきれず、派手に暴発。三つの首が、炎に包まれる。

 

 

「改めて、まずは足だ」

 

 

予定通り、まず四肢を落とす。

両足を軽く折り、跳躍。空中で自爆した三つ首魔獣へ接近する。が、流石は召喚獣といったところか。

 

 

「「「■■■■■!!」」」

 

「気付くか」

 

 

魔獣の振り下ろす爪を、剣を振り上げて弾く。

たとえその巨体であっても、踏ん張る足場がなければ形無しだろう。金属音が上がり、散る火花を掻き分け身体をひねり、袈裟斬りをその持ち上がった前足へと見舞う───────が。

 

 

「「「■■■■────!!?」」」

 

「浅いな」

 

 

その傷は鮮血を大量に溢れさせるも、残りの皮一枚で斬り飛ばせない。滞空も限界となり着地と同時に再び地を蹴って駆け出す。どちらにせよ、その左の前足は既に使い物になるまい────とは、いかないのがこの魔獣の厄介な点か。

 

傷口の肉がボコボコと隆起し、そしてそれが、離れた足先と繋がり、付着。完全に再生した。

再生能力。首を一つや二つ落とした程度でこの魔獣は死ぬことはない。とはいえ、大体五秒以内に三つ首を落とす、もしくは全身に深い傷を負わせれば、再生も追い付かずに殺せる。もしくは欠片も残さずに一撃で消滅させるか、だ。

……それが出来るのは手練れの魔法使いくらいだが。

 

故にこそ、その厄介な機動力の元である足を。

それからは、嬲りながら首を落としていこうか。

 

 

「「「■■■■───!」」」

 

「!」

 

 

回り込み、今度は左足を落とす─────そうして、再び接近した瞬間。その左足が、黄金の光を放つ。

足を踏み込み、力を反対へ。その場から飛び退く。

 

その場を、轟く雷が貫く。

 

 

「……悪いが、それはあいつだけのものだ。

 お前は生かしてはおけんな」

 

 

紫電を纏う前足の踏み込み。

 

 

「「「■■■■■■!!」」」

 

 

着地と同時に蛇行するように地を蹴り、落雷のような踏みつけを回避しながらその懐に潜り込む。そして、手にした剣を大きく引き絞る。

 

 

「一つ──────!」

 

 

強く、右に踏み込む。

すぐ背後を落雷が撃ち抜き、だがその衝撃すら加速に利用する。限界まで引き絞った腕、その手に握る剣を打ち出すように振るい、左前足の肉へ叩き込む。

刀身の根元から切っ先まで全てで肉を抉る感覚、だが減速を許さずそのまま切断する。

 

 

「「「■■■!!?」」」

 

「──────────二つ!!」

 

 

鮮血が噴き出す瞬間に右足を踏み込み、急停止する。しかしその勢いを殺さず、それを利用して次は左足を踏み込み、飛ぶように地を蹴りつける。

打ち出した剣を握る腕を、振り抜いたままの方向へと再度引き絞る。

 

 

同様。

 

 

右後足を切断。

 

 

 

「「「■■■■■■────!!!?」」」

 

「ふ、ッ─────!」

 

 

背後で魔獣は突然前後二本の足を失い倒れ伏す。

再度踏み込みで勢いを全て殺し、瞬間踏み込んだ膝を折る。その反動で背面飛び。

 

冷たい風を浴びる。

寂れ、静寂に呑まれたエルフの集落には、今は、ただ弱った魔獣の驚愕の唸り声だけが木霊している。

 

剣の血を払い、動揺し怯んでいる魔獣の背に、着地と同時に剣を突き立てる。

 

 

「「「■■■!!?」」」

 

「ハ、ハハ、ハハハハ────!」

 

 

身体をひねり、回るように肉を削ぎ斬る。

 

そして再度剣を背に突き立てたまま、尾から頭にかけ走り抜ける。美しい並びで血飛沫が舞い上がり、また首の分岐前で剣を引き抜き、真ん中の首を刎ねる、と同時に前方へ飛び上がり、身を翻し着地、血を払う。

 

 

「三ぃいぃいっつ!!」

 

「■、■■──────

 

 

払い飛ばした血が地面に飛び散るより速く、再度足を踏み出し急加速、二つの首が炎を溜め始める瞬間に、地面に伸ばされた右前足へ剣を勢いのまま振り抜いて叩き斬り、切断する。

 

 

「「■■■■!!!」」

 

「ハハハッ!!」

 

 

炎が迫るよりも速く、左手で二本目の剣の柄を握る。その剣を抜くと同時に、鞘と柄を固定する留め金具がバキン、と音を立てて外れる。そして炎が来る瞬間に踏み込んでいた足に力を込め、身体を強くひねり横に回転しながら飛び上がる。

 

三つ首による視覚や嗅覚、また聴覚があったとしてもその認識を上回る速度で動き、対応の手段を一つずつ確実に潰していけば、この魔獣を恐れることはない。

 

既に四肢を三つ、首を一つ落とした。

もはやこの魔獣に背後への攻撃手段は存在せず、またその再生を待ってやる慈悲など持ち合わせていない。傷は増えれば増えるほど再生が遅れる。それは体質であって、再生する部位を選べる訳ではないのだから。

 

 

「しぃいぃあッッ!!!」

 

「「■■!!? ■■、■■■■■■■!!!!」」

 

 

独楽のように回転しながら飛び上がり、左手に握った剣をその背に突き刺し、回転する勢いのままに右手の剣を更に突き刺し、そしてまた、左手の剣を突き立て一直線に切り刻んでいく。

 

〝巨獣裂き〟

 

肉に食い込む剣を力で押し込み、その勢いを利用して更に加速。それに伴い刃は深く沈み込み、その傷跡を少しずつ大きくし、そして最後に切り抜ける瞬間には同時にその巨体の内臓ごと斬り裂き、ぶちまける。

 

 

「しゃああああァッ!!!」

 

「「──────■■!」」

 

 

着地、そして再生が始まろうとする両前足へ向かって駆け出し、左手の剣で左前足を、その振るった勢いで身体を回し、二つの顎下を抜けて右手の剣で右前足を斬り飛ばす。そのまま叫び、左手の剣を右側の顔面へ投擲、その頭に、剣が深々と突き刺さる。

 

 

「四おぉつ!!!」

 

「■■■!!?」

 

「ハ、ハハハハハハハハ!!!」

 

 

その剣に飛び付き、柄を押し込んで回し抉る。

首がぽろり、と千切れ落ち、再生しかけの中央の首を蹴りでぐしゃりと身体へ叩き潰す。落下しながら再度身体をひねり、両手の剣を使い、最後の首を刎ねる。

 

 

「■」

 

 

着地、その場から飛び退く。

そして両手の剣を強く握り直し、そして。

 

 

「どうした……ああ、死んだのか」

 

 

戦意が、冷める。

三つ首はそれぞれ地面に落ち、押し潰れ、宙を舞う。出来上がった肉の塊は、光を放って粒子に変わると、空に溶けるように消えていく。

 

なんだ、随分と呆気ない、詰まらない。

……準備運動が終わっていたのが良くなかったのか?

何はともあれ、これで全て終わり……いや。

 

剣を払い、歩き出す。

 

 

 

「まだ息があったか」

 

「───────」

 

 

見下ろすのは、エルフの女。

瞬間的に魔力で雷撃を防御したのだろう。素晴らしい瞬発力だが、ルイーズの魔法は魔力を呑み込む性質があり生半可の魔力防御は貫通する。そのため素の魔法耐性が著しく高くなければ耐えられない、が。

 

この女はそれを耐えきった。

魔法耐性はその者が魔法に長けるほど低くなる。俺がいい例だろう、魔法耐性の高い者は魔法の才がない。うつ伏せのエルフは指で土を掻き、こちらへ向かってそれでも手を伸ばそうとする。喉が焼け、話すことも出来ずにいるというのにまだ、足掻こうとするか。

 

 

「───、────」

 

「安心しろ、すぐに楽にしてやる」

 

 

最後の最期まで抗うその意思に、敬意を。

剣の切っ先を、黒く焦げた首に添え、狙いを定める。ゆっくりと、剣を持ち上げていく。

 

 

「悪く思え」

 

 

振り下ろす。

 

 

 

 

─────

 

──────────

 

 

 

「どうだった?」

 

「建物ごと全部焼き払った。

 取り敢えず、これで任務は完了ってワケだ」

 

「…………まぁいいか」

 

 

雑だかその完璧な仕事振りに思わず苦笑いが浮かぶ。確かに彼女の向かった方向からは炎と黒煙が上がり、建物は瓦礫の山へと変わっている。しかし彼女が纏う魔力は多少薄くなっているとはいえ未だ健在、完全に魔力を持て余している。ガス欠を知らんのかこの女。

 

 

「さーて、新兵どもを迎えに行ってやろうぜ。

 まさか全滅してるなんてことはないだろ」

 

「そうだな……ん」

 

 

空を見上げ、異変に気付く。

上空を覆っていた赤い結界が消失した。彼女もそれに気付いたのか、隣で空を見上げる。

 

 

「どうやら俺たちが最後だったらしいな」

 

「そりゃそうだろ。

 要注意の二人はこっちで纏めて相手したんだ、

 軍長にそれだけ報酬上乗せしてもらおうぜ」

 

 

結界が解けるのは作戦終了の合図。

もう報酬をせびろうとしているルイーズに、俺もまた呆れながらも体の緊張を解く。そして握っていた剣を納め、息を吐いた。……少し、疲れたか。

 

 

「………オマエ、本当に良かったのか?」

 

「何がだ」

 

「とぼけんじゃねーよ。

 今のオマエ、勇者サマと同じ顔してるぞ」

 

「何度も聞くな。問題ない」

 

 

 

「いいや聞くね。

 

 あ、れ、で! 良かったのか!? あ!?」

 

 

 

その今にも雷が落ちそうな圧力に、俺も観念する。

……事実、この疲労はそれが原因だろう。

じりじりと詰め寄ってくるルイーズに、俺は無意識に泳いでいた視線を合わせる。

 

 

「………少し、疲れた。

 あれで良かった……と思う」

 

「思うってなんだよ」

 

「伝えるべきことは伝えた。

 後はあいつ次第で……俺は、俺の道を行く」

 

「…………」

 

 

あれだけの言葉で、伝わったのだろうか。

いや、どちらにせよ全ては彼女、アリス次第なのだ。

俺がこうやって頭を悩ませる必要はない。その役目は彼女、そして彼女と共にいた仲間たちのもの。

 

だから、これでいい。

だがルイーズは、俺の言葉に不満げに口角を下げる。そして、深いため息をつく。

 

 

「相も変わらず、他人行儀な生き方だな。

 そりゃあ疲れもするだろうよ。

 もっと自分を労ってやれねぇのか、オマエ」

 

「自分を労れるような生き方はしていない」

 

「そういうとこだっつーの、不器用め」

 

「っ!?」

 

 

指で額を小突かれると同時にビリッ、と閃光が視界で弾ける。後退り、なんとか転倒せず体勢を立て直してルイーズへと顔を向ける。

 

 

「なにを……」

 

「いつものオマエなら指を向けられた瞬間には

 反撃してんだ。無理して平静保ってんじゃねぇ」

 

 

無理は、していないつもりだ。

いつもと同じように、している筈だ。

だが………だとしたら。

 

 

「………ルイーズ」

 

「あ? なんだよ」

 

「分からない」

 

「なにが」

 

「自分の労り方だ」

 

「………」

 

「………」

 

「…………….オマエ、ほんと不器用だよな」

 

 

 

そう言ってルイーズは溜め息をつき─────

 

 

そして、呆れた笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

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