聖剣の勇者様……の、幼馴染み   作:青い灰

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幕間
聖剣の勇者の旅路 2


 

 

 

あれから、数日。

 

森を『案内人』の手を借りて逃げ出すことに成功した私たちは、王都に戻って国王陛下に報告をした。幸い咎められることはなく寧ろ休息を勧められ、私たちは王都に宿を取ってもらって一時の休息を過ごすことになったのだった。

 

特に、レオはルイの攻撃に酷い傷を負ってしまった。今もまだ教会で治療を受けている。それに私も色々と考えたいことがあるので、こう言ってはレオに悪いがこの休息は丁度良かった。

 

 

「それで、俺も動けるようにはなったんだが」

 

「話があるって言われて集まったわけだけど」

 

「はい。これからのことについてです」

 

 

ソフィアが指を組み、真剣な顔つきで言う。

優しそうな顔付きではあるのだが、それだけに真剣な表情は少し凄味を帯びている気がする。そんな彼女に教会の一室に集められ、今はテーブルを囲んでいる。

 

これから、というのは……

 

 

「先日のブロセリア樹海の戦い……いえ、

 もはや戦いにもなりませんでしたが、

 色々と分かったこともあります」

 

「うん」「……」

 

「敵が強すぎる」

 

「「分かる」」

 

 

声が重なる。

私はつい食いぎみに、レオは肩を落とし頭を抱える。彼には本当に悪いのだが三年振りに会えた幼馴染みがまた強くなっているとなると、前に色々あったせいで自分のことのように嬉しく感じてしまう。

ていうか世界樹消えたし。なんだったのあれ……

 

 

「……ですが多分、相手も全力で来ていたはず。

 私たちは運悪くそれに会敵してしまった……

 というのが、私の推測です。

 恐らく、あの『案内人』もそれを見越していた」

 

「……騙された、ということか」

 

「はい。推測ですけど」

 

「でも全力で来てたって、なんで?

 まぁそれにルイを出すのは分かるけど」

 

「「………」」

 

 

二人が私を凄い顔で見てくる。

え、なんか私悪いこと言った?

 

 

「前から思ってたんですけど

 その絶大な信頼はなんなんですか……」

 

「俺にも幼馴染みはいるがそんな信頼は流石に……

 しかも敵だってハッキリしただろ」

 

「えっおかしい?」

 

「「おかしい」」

 

 

そうなのか……そういうものじゃないの?

確かに同年代の子たちのことはあまり知らないけど。

 

 

「こほん、話を戻していいですか」

 

「あ、うん」

 

「全力で来ていたのはどうしてか……

 その理由はエルフと獣人の戦力にあります」

 

「……確実に潰すため、か。

 こちらに同盟を結ばれる前に先手をとられた」

 

「はい。同盟を阻止しようとする意向、

 そして先月の要塞都市陥落。これらは、

 間違いなく同じ者たちによるものでしょう」

 

 

ソフィアはそう言い切る。

私はそう頭がいい方ではないので首を傾げていると、ソフィアは「今から説明します」と頷く。ちらり、とレオを見てみると、彼も顔をしかめていた。

 

 

「増援の教会騎士の方々から聞いたのですが、

 要塞都市の上空では雷が頻発していたそうです」

 

「雷……」

 

「そういえば樹海を進んでる時も

 世界樹の周りで雷が鳴ってたが……まさか」

 

「恐らく……雷魔法の使い手。

 あの時、アイリスさんとルインさんが

 接触したときに現れた女性がそうでしょう」

 

「っ……!!」

 

 

思わず、立ち上がる。

ふつふつと沸き上がるのは、怒りにも似たもの。けどそれは、もっと黒い感情。

 

 

「ア、アイリス?」

 

「一体どう────」

 

「………でしょ」

 

「「え?」」

 

 

 

「あの娘絶対ルイのこと好きでしょ!!!!」

 

「「…………」」

 

 

 

「色ボケの嫉妬はともかく、話を進めます」

 

「なんで!!?」

 

「大事な話なんですけど。声量落として下さい」

 

「こっちも大事でしょ!!?」

 

「声落とせって言ってんだよ」

 

「二人とも落ち着け。ソフィアは口調」

 

「失礼しました。聖女です」

 

 

どこがだよ、と思いつつ椅子に座り直す。

ソフィアの手も腰に回っていた辺り教会武装の聖釘を抜こうとしたらしく、しかし抑えたらしい。かくいう私も聖剣に手が伸びかけていたのだけど。

 

そして今度はレオが切り出す。

 

 

「一番の問題は、雷魔法っていう点だ。

 アイリス、気持ちは分からないが一旦我慢」

 

「ちっ」

 

「………。ともかく、あの動きは雷魔法を

 完全に制御していなければ出来ないと思う。

 俺は現れるまで気が付かなかった。二人は?」

 

「私も」「私もです」

 

「無策に戦えば間違いなく全滅する。

 俺たちは幸運だ。あそこで死ななかった」

 

 

死んでいない。それだけで、幸運。

確かに、ルイとあの女を相手にして生き残れたのは、本当に奇跡といっていいのだろう。あの時に、ルイに言われた『あの言葉』も、そうなのだろう。

 

 

「問題は、そこですよね」

 

「……そうか、私たちを守ってくれた、あの二人も」

 

「あぁ、即死してもおかしくない筈なんだ。

 それにあの瞬間移動なら、森を焼き払って

 俺たちに追い付くのも簡単だった。

 なら、どうしてそれをしなかったのか」

 

「…………あの者たちの後ろに、何かがある。

 恐らく、私たちの知らない魔族の国が」

 

「ここまではただの推測に過ぎないが、

 恐らく俺たちは〝生かされた〟んだろう」

 

 

………魔族、部隊、軍長。

魔族の国なら、確かにそれが出来る。もしも私たちを殺しに来たのなら、私たちは生きてはいない。

 

 

「あと気になることは、アイリスさん。

 ルインさんに何を言われたんですか?

 なんとなく、聞きにくくて」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝お前は、お前でなければいけない〟

 

 

〝疑うな。信じ続けろ〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今は、逃げろ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………逃げろ、って。

 あとは、言葉の意味が分からない」

 

 

私の返答に、二人は目を丸くする。

当たり前だ。私もそうだった。あと距離が近くて少しどきどきした。邪魔したあの女は許せない。あの女もそのあと距離が近かったし。

 

 

「……逃げの提案、妙に聞き分けが良いと

 思ったら、そういうことだったんですね」

 

「それは……俺も思った」

 

「驚く所そこなの!?」

 

 

私そこまで頑固だと思われてるの?

確かにちょっと迷ったけれども。

 

 

「はぁ……しかし、そうなると……

 ルインさんの考えが気になりますね。

 もしかしたら、こちらに引き込めるかも」

 

「本当!!?」

 

「一番その人知ってるあなたが

 全く知らない私に聞かないでくれませんかね。

 あと私は引き込むのは反対です」

 

「はぁっ!!!?」

 

「うるっさ」

 

「悪いが俺も反対だ」

 

「なんで!!!?」

 

「何度も言わせんじゃ」「聖女(ソフィア)」「失礼」

 

「ちゃんと理由はありますよ。

 あと三度目です。声量は落として下さいね」

 

 

聖女としてのガワが取れかけのソフィアはともかく、その理由とやらを聞いてやらねば。椅子に背を預けてテーブルに頬杖をつく。行儀は悪いが今の私は勇者で貴族ではないのだし。

 

 

「まず、あの時も言いましたが

 彼の纏っている死の気配が強すぎます」

 

「…………なんで」

 

「凄まじい量の魂の怨念が彼を縛っていました。

 恐らく洗礼を受けている教会武装では

 傷付けるどころか逆にこっちが呑まれかねない」

 

「…………戦う想定じゃん。

 なんで仲間にするの反対か聞いてるんだけど」

 

「それだけ纏う気配が強いんです。

 つまりルインさん、何百と人を殺している。

 しかも、本人がその怨念を受け入れているという

 可能性すらあります。正気の沙汰ではない」

 

「だから、なに」

 

「何百人も人間を殺した人を、

 私は受け入れることは出来ません」

 

「…………………」

 

 

………目を、背けようとしていた事実。

ルイは昔から死に対して軽薄だ。あの時も、私たちと同じ言葉を使う魔族を何の躊躇いもなく殺した。

 

でも、あの時はどうしようもなかったのだと。

私が、そう思いたかった。

 

だが彼だって辛い筈だ。

だって、あの人は─────────

 

 

「俺も、大体は同じだ。

 お前はともかく、俺たちが殺されかねない」

 

「で、でも私が言えば……」

 

「忌み人は、あいつは、俺たちを憎んでる。

 昔からの知り合いのお前は違うかもしれないが、

 その他の人間は、どうだろうな」

 

「っ………」

 

「忌み者は、穢れてる。

 世界にはそう考えてる人間が殆どだ。

 俺もそうだし、お前も心のどこかならそうだ」

 

「ちが……」

 

 

言葉にされて、嫌でも理解させられる。

忌み人への忌避感。ルイ以外の忌み者、魔族に、私は優しく出来るだろうか。道端で倒れ、飢えに苦しんでお金と食事を乞う、そんな人たちに、私は、何も。

 

 

「違わないだろう、きっと」

 

「……………」

 

「あいつらは俺たちを憎んでるだろう。

 お前もそうだと気付いたら、仲間でも

 いつかは剣を向けられるかもしれないな」

 

「……………、……」

 

 

何も、言い返せない。

私へ向けられる、あの人の軽蔑の目を考えるだけで、吐き気がするようだ。彼に、彼にだけは。

 

私に失望されたくない。

私に絶望してほしくない。

 

なのに私は、何も出来やしない。

いつか彼に向ける目が変わる自分が、怖い。

 

 

「………」

 

「………はぁ」

 

 

ソフィアが、息を吐く。

いつの間にか俯いていた顔を上げる。

 

 

「……なので、これから、と言いました。

 あなたの目的は、ルインさんとの再会。

 そして次の指針次第では、私は旅をやめます」

 

「………その時は俺もそうさせてもらう。

 命が幾つあっても足りないし、

 悪いが俺には俺の目的があるからな」

 

「…………」

 

「急だとは思います。

 でも、私だって死にたくない」

 

 

私から顔を背けるように俯くソフィアの肩は、微かに震えている。視えるからこその、恐ろしさだろうか。その気持ちだって、私も分かる。分かってしまう。

 

あの時、剣を向けられて。

 

『首を差し出すか、最後まで抗うか、選ぶといい』

 

私は、怖かったから。

皆だって、そうだった筈だ。

 

 

「………」

 

「時間は、まだあります。

 決まったときは、教えて下さい。

 この教会にいますから」

 

 

ソフィアが立ち上がる。

その言葉は、優しかった。察してくれてるのだろう。そしてそれに続いて、レオも立ち上がる。

 

 

「俺は、まだ少し休む。教会の二階にいる」

 

 

………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝お前は、お前でなければいけない〟

 

〝疑うな。信じ続けろ〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分は、自分であって。

 

それを疑わず、信じ続ける。

 

 

 

 

(アリス)には、(アリス)の道がある。

 

 

 

 

そう、言いたかったのだろうか。

少なくとも、今、私が出せた答えは、これだ。

 

 

 

 

私は、何がしたい?

彼に会って。拒絶されて。それで、私は?

 

 

 

 

 

……………変わらない。

 

そうだ、最初から、何も変わりはしていない。

 

 

 

 

 

私は、彼を救ってみせる。

きっと戦うことでしか、そうできないとしても。

 

 

 

 

 

 

「戦うよ」

 

 

 

二人が、振り向く。

……………どこかで、彼が、私を見ている。

 

 

 

「私は、戦って、あの人を救う」

 

 

 

「戦って、勝って、私は、救ってみせる」

 

 

 

 

 

 

 

 

「好きな人たった一人救えないままで、

 私は、勇者になんてなれやしないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

私の言葉に、二人は頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてあの人は、背中を向けて、歩き始める。

 

 

 

 

けれど、道の交わる先で、待っていてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

その背中に、私は絶対に追い付いてみせるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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