俯瞰追憶
──────鐘の音が、聞こえる。
重い、鐘の音。
それは、終わりを告げる音。
身体が悲鳴をあげて。
魂を呪詛が蝕んでいく。
殺す。殺す。殺す。
──────或いはそれは、産声のよう。
紅色の歓声に、包まれて。
見知らぬ誰かの手を取って。
踊る。踊る。踊る。
夢の底。
暗くて冷たい、泥濘の中。
暗く黒く、魂の内側で震えるものがある。
それは衝動。それは本能。それは声。
絡みつく怨嗟すら呑み込むそれは、どろりとして。
そしてそれは、吠え続けている。
咆哮するように。誇示するように。絶叫している。
苛む。
その叫びが、紛れもなく己のものが故に。
苛む。
その叫びが、紛れもなく本物だから故に。
苛む。
その叫びが、おぞましくて堪らないが故に。
蟲が、身体を這い回る。
表皮を、肉の内側を、心を、もぞもぞと。
気色が悪くて堪らないというのに。
だがそれを振り払えば、衝動が溢れそうになる。
絡みつく怨嗟も、這い回る蟲も、罵声罵倒も。
全て、同じように叫ぶのだ。
全て、俺に、囁くのだ。
『殺せ』
『潰せ』
『壊せ』
『『『 全ての 命を 』』』
壊せ。 世界を。
潰せ。 全てを。
殺せ。 なにもかも。
────────沈む。
泥濘の底へ。己の内へ。夢の中へ。
その暗闇の中で、輝くものに手を伸ばして。
────────
酷く、寒かった。
流れる水の音。鐘の音はいつか消えている。
強い喪失感。ああ、これには覚えがある。
初めて、人を殺した、あの時の。
あの時は、必死だったとはいえ。
殺したのが、俺じゃなかったとはいえ。
けれども、あの子を見殺しにして、生き延びた。
その事実が、深く、深く、魂に突き刺さる。
分かる。これは、夢だ。
夢を見ている。
懐かしい、もう戻らない、追憶の夢を。
「大丈夫!?」
ほら、そうだ。この声は。
瞼と顔を、ゆっくりと持ち上げる。
その眩しさは、今でも記憶に焼き付いている。
忘れない、忘れられない、あの日、あの時。
生まれて初めて差し出された、あの手を。
「…………ぁ」
掠れて出たのは、そんな声。
その白い手が、なんなのか、分からなくて。
ただ、ひたすらに泣きそうだった。
顔を上げる。
薄紫の長い髪が揺れる。深い青の瞳が映す。
酷い、夢だ。
本当に。
彼女の、彼女の、名前は、そう。
──────アイリス。………アリス。
「待ってて、今引き上げるから!」
腕を、彼女の白い両手が掴む。
その暖かさに、再度、強い微睡みが瞼を重くする。
俺は、この時に意識を失った。
……そうだ。
これは、夢だ。
追憶の俯瞰。
思考が、行動が、昔に引き摺られている。
この意識もまた、糸が切れたように、沈んでいく。