聖剣の勇者様……の、幼馴染み   作:青い灰

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中途半端になったため再投稿。
3話を予定していた話を追加しました。




序章
要塞都市襲撃


 

 

 

 

─────3年前。

 

 

 

 

 

『お前は死んでもらうには惜しい。

 その剣、その技、その血肉を、あの御方に捧げろ。

 彼処におわす我等が統率者、魔王陛下に』

 

 

暗い穴を抜け連れて来られたのは、王城だった。

そして、その言葉に従い見上げた先には。

 

 

『……』

 

 

圧倒的。

そうとしか言い様のない存在感に包まれた男だった。玉座に座る男は、頭に角が、腰から黒い鱗に覆われた尾がありながら、人の姿をしていた。

竜人─────伝承にのみ残る、魔族の最高位。

歪でありながら美麗、荘厳ともとれる上位存在。

 

成程。竜人ならば魔王などと御伽話の存在を名乗り、魔族の生き残りを編成、その王国を作り上げることが出来るほどの力があるだろう。

だが、解せないのは───────

 

 

『何故、俺のような忌み人を利用する』

 

『……陛下、申し訳ありません。

 以後、口には気をつけさせ────』

 

 

その時だった。

 

 

 

『───────よい』

 

 

 

空間が、震えた。

地鳴りを錯覚するほどのそれが、体の震えだとすぐに気付くことすら出来ないほどの凄まじい威圧。

たった一言で、肌を突き刺すような冷感が駆け巡る。

 

 

『我が威厳を知り、今後は口を慎むが良い』

 

『っ…………は、い……っ』

 

 

気に入らない。見下ろすな。不遜は、お前だ。

口では返事を返しながら、魔王を睨む。

その黄金の目と、視線が重なる。

 

 

『………良い眼だ。

 命すら躊躇わず、それに我をも恐れぬか』

 

『……………』

 

『良かろう。何故貴様を利用するか、だったな』

 

 

そして、重圧にも似た威圧は消える。

体に少しずつ力が戻っていくのが分かる。

 

 

『我が目的は、統一よ。

 全ての生命が魔に依るものと成すこと』

 

『…………理解出来ない』

 

『ならば分かりやすく言ってやろう。

 全ての生物を魔族へ作り変える』

 

『はぁっ!!?』

 

『……!』

 

『同じ見目ならば差別、偏見はいつか消える。

 違うならば、全て『同じ』にすれば良い。

 これこそが我が最終到達点よ』

 

 

……理屈は、理解出来た。

 

ならば、その手段は?

だが、その問いは───────

 

 

『まだ、言うべきではない。

 まずはアルビオン、その周辺都市を全て滅ぼす。

 そうなった時、我が軍全てに伝えよう。

 無論─────お前にもな。

 それまでは、我が軍に入り力を捧ぐが良い』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今の俺の肩書きは、魔王軍強襲執行部隊。

精鋭の忌み人のみで構成される、敵の戦力の要となる重要戦力の排除を目的とした部隊。

……とはいえ、部隊人数は俺と、偶然同時期に魔王軍に入隊することになった、魔王国ガリア出身の忌み人のルイーズ・パライバトルのみ。

 

俺の飼い主……というか、3年前のあの女、

軍総長ブランシュ・カーネリアンの命令だ。

 

 

飼い主、というのも、俺はあの時に命を捨てた。

ブランシュはその命を預かるという名目で、俺にそのカーネリアンの姓と家を分け与えられた。詰まる所、俺はカーネリアン家の養子として迎えられた。

命を預けた相手には、それなりの礼節を。

敵だったとはいえ、言葉通り契約を守った相手だ。

それに世話にもなった。ならば、尽くすのみ。

 

 

という経緯。

魔王国は世界の西端だ。広大な荒地を越えた先にある要塞都市を攻略し、アルビオンへの足掛かりとする。

 

要塞都市……古くはアルビオン貴族の地。

古代、地を支配した悪魔との戦において最前線だった場所であり、そのために都市を囲う大壁が建設された人類最後の砦だった場所。

かつての聖剣の担い手によって悪魔が倒された後は、貴族らはこの要塞を放棄しアルビオンに渡り、残った部下らがこの都市の管理を任された。現在の都市主もその末裔が担っていると言われている。

 

俺たちの目的は、魔族ら本軍の侵攻とは別に、飛竜に乗り都市を背後から強襲、挟撃し、そして要塞都市の守衛長、【将軍】ガイウス、ついでに都市長の殺害。

かつてのアルビオンの大陸統一戦争にて、単騎で砦を攻め落とし、そしてたった1000人の軍で1万の軍勢を撤退させた若き将。今でこそ老境とはいえ、その剣に衰えはないと言われる【将軍】。

 

 

「まさか将軍が相手とは、面白い作戦だ」

 

「結局は首を持って帰りゃいいんだろ。

 将軍の方は頼むぜ、ルイン」

 

「ルイーズは都市長を頼む。

 恐らく【将軍】はその護衛だ、俺が気を引く」

 

「ま、その前に探さにゃあな。

 さぁて、何処にいやがる……?」

 

 

血を払いながら燃える町を駆け抜け、暫くすると。

 

 

「っ!? 増援……いや、な、何者だ!」

 

「おっと、こりゃあついてるな」

 

「そのようだ」

 

 

兵士、いや、ただの兵士ではない。

魔法耐性に優れた蒼鉄の甲冑に、片刃の武器。

要塞都市の近衛府に属する精鋭兵。

今回の標的、将軍の直属の部下にあたる者たちだ。

 

相手が身構える前に急加速し、一番前にいた近衛兵の首を刎ね、そのまま二人目の甲冑の肩間接部を狙い、得物を握る腕を根元から斬り落とす。

 

 

「ぎっ、あ、ぁあぁああぁぁ……!!」

 

「悪いな、聞きたいことがあるんだが」

 

「貴様───!」

 

 

だが、流石は精鋭といったところか。

仲間の死にも動じない辺りはよく訓練されている。

 

 

「びっ─────────か……はっ」

 

 

まぁ、それだけだ。

黄金が真横を抜けていき、その近衛兵を吹き飛ばす。

 

 

「おいおいその眼、節穴かよ?

 二人いるだろ。ちゃんと見えてるかー?」

 

 

迸る雷を剣に纏わせ、ルイーズが煽る。

生半可な魔法耐性では即死する、雷撃の魔法。

その力は魔法という枠に収まっているだけに過ぎず、使うことが出来た人間は歴史上でも数えるほど。

そして本来、人間には制御出来ないほどのもの。

 

 

「か、雷魔法だと!? 馬鹿な…!」

 

「ハハハ、いや馬鹿で節穴だったか。

 オレらを敵に回したんだ、当然だよなぁ?」

 

 

だが、この女だけは例外だ。

ルイーズは雷魔法を完全に制御している。それはあの魔王ですら成し得ない神業であり、彼女が軍に入ってたった三年で精鋭にまで選ばれる要因。

本人曰く、『高威力と魔力消費が難点』とのこと。

その割には連発出来るほどの魔力も持ち合わせているが、それは彼女の日頃の努力の賜物だろう。

それはともかく。

 

 

「さて、改めて聞きたいことがあるんだが。

 お前たちの衛士長、あと都市長殿はどこにいる」

 

「お、教えるものか!!

 都市を守ることが我等がしめ─────ぎ、っ」

 

 

首を落とす。

あと二人。

 

 

「衛士長と都市長の居場所はどこだ」

 

「き、貴様────か、は」

 

 

落雷。

あとは、腕を落とした一人。

 

 

「……教えてくれれば、助けてやってもいいが」

 

「っ、あ……ほ、ほんとう、なの、か?」

 

 

剣を、その首へ添える。

 

 

「言え」

 

「お、おし、える! だから、やめて、くれ!!」

 

「……」

 

「と、都市の、中央……

 管理塔の、地下に、お二人は、隠れて……」

 

「あぁ、十分だ」

 

「え」

 

 

首を落とす。

ルイーズへと視線をやる。

 

 

「らしい。行くぞ」

 

「ひでぇな」

 

「楽にしてやった」

 

「ッハハハ! 二重の意味でな!」

 

 

愉快そうに笑うルイーズ。

都市の中央、管理塔。

顔を上げれば、成る程、かなり目立つ塔がある。

恐らくあれが管理塔だろう。

 

根元から破壊したとしても、地下ならば。

そして軍が撤退した後に逃げおおせる、もしくは軍が油断したところを後ろから突く、という作戦か。

どちらも有り得るが……さて。

 

 

「ルイーズ、どうする?

 相手も居場所の判明は織り込んでいるだろう。

 罠に突っ込むようなものだが」

 

「………誘い出す。うん、これでいこう」

 

「どうやって」

 

「部下どもを吊るす。

 将軍は部下どもからの信頼もあるようだしな」

 

「なぜ」

 

「簡単だろ。さっきの奴『お二人』っつったし。

 近くに本人はいねぇうえ、死に際でも

 そういう敬意を忘れねぇのはそういうことだろ」

 

「……成程な」

 

 

ルイーズは荒々しいようで、かなり頭がキレる。

こういうところが頼りになるのだ、彼女は。

やり口としては妥当だ。部下からの信頼に厚いなら、その部下の悲鳴を聞かせてやれば出てくるだろう。

 

 

「他には爆薬石でも投げ込むって手もあるぞ」

 

「……それもアリだが、前者で行こう。

 管理塔の護衛もいるんだろう。

 そいつらを全員、四肢を一つ落として吊るす。

 籠城されると厄介だが……入口を陣取るか?」

 

「その時考えりゃいいだろ。

 相手の出方次第だしな」

 

「そうだな、じゃそれで行くぞ」

 

「あぁ」

 

 

 

 

 

───

 

─────

 

 

 

「……! ルイーズ、下がれ」

 

「あ?」

 

 

雑兵を殺しながら路地を抜け、管理塔付近へ。

その角で、ルイーズを下がらせて覗き見る。

 

 

「んだよ、なんかあったか?」

 

「陣形だ。どうやら本隊も苦戦してるらしいな、

 100はいる。魔法使いが結界も展開してる。

 お前の魔法でも撹乱は狙えないな」

 

「チッ、めんどくせぇ……」

 

 

舌打ちするルイーズ。確かに、面倒な状況だ。

恐らく相手の陣形は魔法使いを後衛、兵士を前衛と、典型的な、だが厄介なものだ。それに防衛戦となれば裏を突くという弱点が消えるため、この陣形はさらに強固なものとなる。

ドーム状に張り巡らされた青白い結界───魔法結界は恐らく奇襲を防ぐためのもの。ルイーズの魔法ですらこの結界の破壊は困難だろう。

結界を崩壊させるにはそれを形成している魔法使いを殺すしかない。俺なら突破出来るが、あの数……

 

 

「………まぁ、行けるな」

 

「は? おい待て、まさか」

 

「突貫して魔法使いを殲滅する。

 結界が消えたら俺ごと焼き払え」

 

「いやあの数は流石に────!」

 

 

角を出て、塔へ向けて真っ直ぐに駆け出す。

本隊は待つだけ無駄だ。防衛都市として機能する核、将軍と都市長を殺し、敵の意気を完全に挫く。

 

敵は100。武装兵を抜けて魔法使いを優先する。

 

 

「っ、な、何者だ!? 総員警戒せよ!!」

 

「手前にいたお前が悪い」

 

「っ、な、がはっ!!?」

 

 

剣を手に、一番手前の兵士を鎧ごと貫く。

そしてそのまま、肉盾ごと兵士を吹き飛ばしていく。

 

 

「う、後ろだ!! 後ろを狙え!!

 敵正面は横に避けるんだ!!」

 

「───────!」

 

 

止まる必要もない。構える暇など与えない。

そして肉盾ごと、陣形を突っ切った。

肉盾は塔の壁面に衝突して事切れたが、役に立った。

 

剣を引き抜く。

そして、振り返れば。

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村に流れ着く前には、友達がいた。

奴隷の牢、その隣同士。

脱走の計画を立て、石壁を削って穴を開けた。

 

………友達は、見つかって殺された。

貴族の子供が、飼い犬をけしかけて。

 

 

あいつは、生きたまま喰われて死んだ。

俺に助けを呼んだ。

逃げた。

憎悪を叫ばれた。

 

 

 

夢を見ていた。

きっと、俺は外に出て、幸せになるのだと。

 

 

 

 

 

 

俺が触れたのは、悪意ばかりだった。

 

 

 

 

 

世界は、俺の想像以上に醜かっただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

一握りの優しさも。

誰かの悪意で、脆くも崩れ去るように。

 

ならば、世界は変わるべきだ。

醜さなどない、在るべき姿のために。

ならば、俺は変わるべきだ。

世界を変える、強さのために。

 

 

 

 

 

強くなりたかった。

牢から出て、世界を知るために。

 

強くなりたかった。

悪意に触れて、それに負けぬように。

 

強くなりたかった。

大切だと思えたものを、守れるように。

 

 

 

 

強く、ならなければ。

その背中に、骸の山を築くことになろうとも。

 

 

たとえ、理由など捨て去ってしまっても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

笑ってしまうほどの、敵。

 

髪と目の色だけで、俺たちを下に見る下衆ども。

反撃の狼煙は、既に上がっている。

これまでの絶望の、対価を。

俺たち忌み人の憎悪の、確認を。

 

………いや、違う。

俺が、強くなるために。

 

 

 

強者も弱点も、一切合切、等しく殺す。

尊きも卑しきも、善も悪も、敵も、いずれ味方も。

 

強さのために。

 

 

 

 

「殺す」

 

 

 

 

剣を、振るう。

 

 

 

 

 

 

 

────

 

───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ、魔法使いを死守! やつの狙いは結界だ!

 囲め!! どれだけ強かろうと

 数で押し潰せばどうにでもなる!!」

 

 

成程、分かっているやつもいるか。

確かに俺は数で囲まれれば苦しくもなる。

だが、いい。

この程度一人で十分とすら思えなければ。

強くなれる訳もない。

剣を振るい、壁沿いに敵を切り捨てていく。

 

 

「……!!」

 

「そこ」

 

「っ、ご、ぎっ───!?」

 

 

だが、背後に追い付かれるのも問題だ。

振り向き様に上段蹴りを放ち、兜ごと首をへし折る。

鉄を蹴るのは反動の痛みもあるが、必要経費。

 

聞こえる音に、耳を澄ます。

横、前から来る風切り音と強い踏み込みの足音。

 

正面から突き出された槍の柄を掴み引き寄せ、左から振り下ろされる大剣がその槍持ちの兵士を叩き潰す。

 

 

「が、ぎゅ……っ……!?」

 

「な!? そ、そんな」

 

「馬鹿が」

 

「きさ────か、ひゅ、っ」

 

 

剣を逆手に握り振るい、喉笛を裂く。

その胴を蹴り飛ばし、その後ろの連中の体勢を崩す。同時に潰れた死体に埋まった大剣、その柄を手に取り背中へ、後方からの攻撃を大剣の広い腹で防御する。

 

 

「ぬ、ぅううあッ!!」

 

「「「が、ぁぁっ!!?」」」

 

 

そして体を軸に大剣を大きく振り回し、投げる。

やはり片手では重過ぎるが、威力は十分。

回転しながら飛ぶ大剣は複数の兵を纏めて薙ぎ倒し、陣形を大きく乱した。

と、ここで。

 

 

「っ、け、結界を解除!!

 魔法使部隊、一斉攻撃だ!!」

 

 

青白い結界が消失、詠唱が始まり兵が退いていく。

巻き込まれないようにするためだろうが、まだ甘い。にしても、あの指揮官は中々正確な指示を出す。

撤退され本隊に合流させるわけにはいかない、早々に死んで貰おう。

 

骸から槍を奪い取り、声の聞こえた方向へ。

 

 

「か、回避!!」

 

 

腕を引き、槍を思いきりぶん投げる。

それは空を裂き、狙った指揮官とついで一人を纏めて貫く。絶命とまではいかないが、十分だ。

そして、その時。

 

 

「……やっとか」

 

 

炎の紅蓮が、空を埋め尽くしている。

そして、その紅蓮の空を。

 

 

 

 

 

黄金が、引き裂く。

 

 

「なに、が────!?」

 

 

結果、降り注ぐのは炎を呑み込んだ雷撃。

それは俺もろとも塔周囲の兵士らを焼き尽くす。

無論、雷など浴びれば俺も即死は免れない───が。

 

 

「おーおー、すげぇ暴れっぷりだったなぁ。

 生きてるかー? 避けるように撃ったけど」

 

「問題ない、助かった」

 

 

けらけらと笑いながら歩いてくる彼女に礼を言う。

あのままでも大丈夫だったかもしれないが、ともあれ助けられたのは事実だ。

見回せば、黒焦げになった兵士らが転がっている。

あれだけの数を纏めて倒せるのだから、魔法は凄い。俺はとある理由で魔法が一切使えないため、こういう便利な魔法は羨ましいことこの上ない。

 

 

「ならいいんだけどよ。

 お前、凄いことになってるぞ……」

 

「ん……おぉ」

 

 

そう言われ自分の様子を見てみると、全身が返り血で凄まじいことになっていた。文字通り血染めとなって黒い軍服は見る影もなくなっている。

これ洗って落ちるか?

………いやそれより、ちょっと待て。

 

 

「ルイーズ、全員殺したか?」

 

「…………そう言うと思って、気絶で済ましてる。

 かなり弱めたつもりだけど……わかんねぇが、

 探せば10人くれぇは生きてるだろ」

 

「すまん、完全に忘れて殺し尽くすつもりだった」

 

「だろうと思った」

 

 

苦い顔をするルイーズ。様々である。

 

 

「ったく、抜けてんのか冷静なのか……」

 

「すまん」

 

「わーったから謝んなよ、

 オレもお前に助けられたことあったろ」

 

「ん……なら、貸し一つだ」

 

「やりい、ラーキア酒を瓶で頼むぜ」

 

「またお前地味に高いやつを……分かったよ」

 

 

なんだかんだ言って助けられてばかりな気もするが、ここは彼女の優しさに甘えておくとする。遠く北方の蒸留酒であるラーキアは俺も好きだが、価格が高い。まぁ帰ったらそれくらいのご褒美はあってもいいか。

そう考えていると、ルイーズがこちらへ寄ってくる。そして、突然顔を何かで拭われる。

 

 

「んぅ……なんだ」

 

「顔だけでも拭いとけ。

 血生臭ぇんだよ、臭いがついたらどうすんだ」

 

「俺は別に気にしないが」

 

「オレが気にすんだよ。………よし、まぁマシか」

 

 

ぐしゃぐしゃと顔を拭き回され、それが済んだ後には満足げなルイーズの顔。そして、彼女はそれを振って血を払い飛ばす。手拭いだ。

 

 

「悪い、汚させた。戻ったら新しいのを買おう」

 

「は? いいっての別に。

 そんな高いもんでもねぇし」

 

「いや、ただの礼だ。貸し借りもない」

 

「……なら貰うけどよ。

 お前、変なとこで律儀だ──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────!!」

 

「ぐぉ!?」

 

 

咄嗟に、自分の身体ごと彼女を押し倒す。

瞬間、背中の上を凄まじい暴風が吹き抜ける。

─────これは、まさか。

 

 

「二人纏めて一撃で終いにする腹積もりだったが。

 流石にこの数を片付けた猛者ということか」

 

 

低く枯れた、だが、重厚感のある声。

身体を起こし、ルイーズと共に立ち上がる。

 

 

あの兵士に騙された──────いや、違う。

一歩遅かったのか。

 

確かに都市長は塔の地下にいるのだろう。

見張りか或いは迎撃か、この男は()()いなかった。

そして今の騒ぎを聞き付けた、といったところか。

 

幸か、不幸か。

それはこれから決まるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最近の若者には驚かされる。

 そして私もまた、老いたものだ」

 

 

何が『老いた』。

 

肌が、空間が震えるような、強い威圧感。

魔王とも違った、静かな強者の放つ存在感は、たとえ遠く離れようとも脳裏に焼き付いて消えないだろう。

事実、この存在は、俺の一生涯において凄まじく強い印象を残すことになる。

 

 

 

 

 

それは、嵐の到来。

 

視界に映るのは、老兵。

その他のすべてが霞んで見えるほどの存在感を放つ、ただの、たった一人の老兵だ。

 

吹いていないハズの風で揺れる白髪。

何もかもを見透かしているかのような琥珀の瞳。

太刀と呼ばれる極東の長刀を腰に帯び、白のコートと軍服は、アルビオンにおける最高位の軍人の証明。

 

 

 

【将軍】ガイウス・ペルシクム。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけでは、ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■■!!!」

 

 

耳をつんざくような、甲高い咆哮。

そして、灼熱。

 

互いに両側に跳び、飛来した熱線を回避する。

空を見上げれば、そこには。

 

 

「ドラゴン……!!?」

 

 

白銀の鱗に覆われた天空の覇者が、空を舞う。

遥か昔より、アルビオンの大地を守護する白竜。

その白竜の子らは、白竜の死した後、その身を石へと変えて人間たちに力を貸したという。

 

それ即ち、竜の喚び石。

白竜が認めた者にのみ応える、白き目覚め。

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いが、君たちの首を反撃の狼煙としよう。

 

 

 

 ──────ガイウス・ペルシクム、参る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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