聖剣の勇者様……の、幼馴染み   作:青い灰

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VS【将軍】

 

 

 

「ルイーズ、竜を」

 

「あぁ、そっちも頼むぜ」

 

 

ルイーズが紫電を纏い、凄まじい速度で駆け出す。

だが、将軍も動いている。

剣を手に、俺もルイーズを追って地を蹴った。

 

 

「行かせると思うか」

 

「っ、マジか!?」

 

 

が、なんと将軍はルイーズを越える速度で追い付き、太刀を大きく振りかぶっている。

……が、それも既に予想済みだ。即座に割り込み、剣で太刀を受け止める。

 

 

「ッ……助かった!!」

 

「ふむ、これを止めるか」

 

「重いな……!」

 

 

細い刃とは思えぬほどの重さ。

刀身が悲鳴を散らし、その火花を稲妻が掻き消す。

竜はルイーズに任せる。俺は、将軍を始末する。

空へと逆上がる雷を見届け、改めて視線を向ける。

琥珀と視線が交錯し、足を踏ん張り剣を受ける。

 

 

「その眼……尚も血に渇くか、まるで鬼だ」

 

「悪いが、ただの忌み人だ」

 

「さて、それを試させて貰おう。

 どちらにせよ、逃がしはしないが」

 

「そりゃ好都合……!」

 

 

一瞬剣から力を抜き、瞬時に太刀を弾く。

と、同時に踏み込みから振り下ろし。

だが、まるで読みきられている。易々と剣を受け流し瞬時に反撃の横薙ぎが襲ってくる。

 

 

「……俺も、お前の首を貰うつもりだ」

 

「出来るものなら」

 

「必ず殺す。今からな」

 

 

互いに笑う。一瞬の油断で首が飛ぶ。

ならばせめて笑って殺ろう。そして死のう。

 

襲い来る剣閃を弾き、動きを窺う。

に、しても。

 

 

「(速い─────!)」

 

 

ルイーズに追い付く速度も頷ける打ち込みの速さ。

あれだけの長刀ならば隙もあって良いだろうに、その速度は瞬きすらも許されないほどだ………が。

 

 

「──────しッ!!」

 

「!」

 

 

隙を無理やりこじ開ける、渾身を込めた強撃。

当然受けられる、が、再度踏み込み、押し込む。

 

 

「……!」

 

「──────、──!」

 

 

体勢が崩れた。……いや、違う。

わざと、体勢を低く────!!

 

 

「っ、ちッ……!」

 

「反応するか。

 やはり、ただ若いだけではないな」

 

「………!!」

 

 

下段からの切り上げ。

咄嗟に相手の肩を蹴りつけ、後ろに飛び退く。

ブーツの先を斬られた。一歩遅ければ全身を両断され即死していた。油断でも選択不適当でも死ぬ。

着地し、剣を振り構える。

相手に追撃の様子はない、今のうちに呼吸を整える。

 

 

「………一撃一撃が見事に急所を狙ってくるか。

 私も一太刀貰えば立ってはいられないだろう」

 

「別に意識しちゃいねぇよ。

 つかこっちのセリフだ、それは」

 

「無意識か。戦場でもたまに見る。

 若いのに人を殺し過ぎたな、君は」

 

「若い、ね。死ねばそれまでの戦場に、

 老いも若いもないだろう」

 

「確かに、的を得ている」

 

 

【将軍】は顎に手を当て、片手で鞘に太刀を納める。だが、まだ油断は出来ない。

警戒したまま、体力回復のため話を続ける。

 

 

「とはいえ、だ。君のような若者に、

 そんな考えにはもうさせたくないものだが」

 

「耄碌したな、爺。

 俺は忌み人で、お前たちと同じ人間じゃない。

 それに、どんな時代も異常者はいるものだろう。

 それこそ、あんたみたいな強者とかな」

 

「私は強くなどない。

 仲間の死を、何も出来ずただ傍らで見送る死神。

 私は()()()()()()()()()()()()だ。

 それに髪や瞳の色が違えども、君もまた同じ人だ」

 

 

……………。違う。それは、違う。

覚えている。憶えている。

あの牢の向こう側の、村の連中の、俺を見る眼を。

 

 

「お前はそうかもしれんが、世界は違う」

 

「世界を変えるか」

 

「あぁ、邪魔者は全員排除してな」

 

「…………危険だな」

 

 

刀が振り抜かれている。黙視できぬほどの抜刀速度、それが刃を飛ばしたか、もしくは風魔法の応用か。

どちらにせよ、人の極致、剣の極致。その全力。

 

 

 

【将軍】が、地を蹴る。

速い。一瞬で距離を詰められた。

 

 

 

振り下ろされる太刀を、正面から受け止める。

その衝撃は腕にまで伝わり、痺れすらも感じるほど。だが、まだだ。こんなものではないハズ

 

 

 

全力を以て太刀を押し返し、首筋を狙い突きを放つ。

 

 

突きは太刀により首から逸らされ、火花が散る。

 

 

 

一気に攻めかかる。

剣を水平、袈裟、縦、突きを、一撃で絶命させる場へ撃ち込んでいく。捌き続けることにも限度があろう、まずは体力を削り、相手の手札を切らせる。

 

 

 

刀が鞘に納められ、【将軍】は腰を落とす。

アレが来る。先は何か見抜けなんだが、次はどうだ。

いつでも回避出来るよう、備える。

 

 

 

「─────!!!」

 

 

 

天地が、割れた。

 

そう錯覚するほどの凄まじい衝撃。

大気の魔力を揺らすそれに、俺は回避を諦める。

剣を握らぬ手を刀身の腹に添え、魔力の核を狙う。

 

剣に、魔法の斬撃が衝突する。

全身が吹き飛びそうになるのを踏ん張って堪える。

 

 

「(───────やはり、風の魔法!!

  飛ぶ斬撃を、更に風で強化しているか!!)」

 

 

不可視は魔力で風を纏い、空気と同化しているため。『飛ぶ斬撃』などという馬鹿げた技術を、更に魔法で強化して速度と威力を段違いに引き上げている。

 

足を一歩踏み出し、魔法の術式を霧散させる。

 

 

「ならば、これでどうだ──────!!!」

 

「っ、チッ────!」

 

 

再度、【将軍】が納刀。

今度は目が慣れ、抜刀の瞬間を捉えられた。

 

縦に、更に水平斬りが重ねられる。

───────十字の斬撃。

 

先の衝撃で体勢を崩しそうだ、もう受けられない。

剣が振り抜かれると同時に地を蹴り、回り込むように跳躍、そしてその勢いのまま駆け出す。

 

背後で、石造りの塔が倒壊する音。

まともに貰えば死ぬ。防御も剣が持たない。ならば、もう撃たせない。竜や超大型の魔獣といった戦術兵器

並みの破壊力があるだろうが───溜めさせない。

 

 

「捉えるか─────口だけではないな」

 

「俺よりよっぽど化物だな、お前!!」

 

 

相手が再度刀を納める前に、斬りかかる。

にしても、魔法ならば何かがおかしい。魔法の収束が一切ないなど、そんなことは有り得ない。何かある。

斬りつけ、そして反撃を防御しながら相手を探る。

 

魔力の揺らぎ……刀を納める動作……だとすれば。

 

 

「(……その腰の、鞘か!!)」

 

 

白い鞘。恐らく特製の魔力収束装置か。

斬撃を魔法で強化する動作を、鞘の中で行う魔道具。ならば─────太刀を弾き、鞘を狙って蹴りを放つ。

 

 

「─────!

 気付いたか、洞察力も持ち併せているな」

 

「っ、足を──────!!」

 

 

蹴りつけた足を、掴まれる。

完全に意表を突いたつもりだったが、その反応速度も馬鹿げている。全力の剣戟を易々と捌ききられるのはあまり気分の良いものではない。というより、問題はそこではなく──────

いや、今はいい。身体を捻り、軸足で跳び相手の肩へ蹴りを放って掴まれた足を離すと同時に離脱する。

 

 

「っ……!」

 

「……!」

 

 

流石に老体、物理攻撃なら体勢も崩れるか。

着地と同時に石畳を蹴り、距離を詰めて斬りかかる。今度は腹を狙った水平斬り、だが、それも阻まれる。火花が散り、反撃の切り上げを打ち下ろした剣で弾き落とし、正面から剣を撃ち合わせる。

 

やはり、だ。間違いない。

相手は俺の攻撃に追撃する様子を中々に見せない。

それに加えてこの動き………

 

 

「読んでやがるな」

 

「………視線、動き、姿勢。

 覚えれば予知するのも易いものだ」

 

「軽い未来予知か、ひでぇもんだな」

 

 

完全に動きを先読みされている。恐らくはその精度も完璧に近いものだろうが、馬鹿げた反応速度も、またその予知に頼りきったものではない。でなければ先の蹴りも躱されている。

 

 

「それを使った私の反撃をこうも上手く

 捌いて見せたのは【伯爵】以来、君が二人目だ」

 

「そりゃ光栄だ、なッ!!」

 

 

太刀を押し退け、今度は腰を落とし腕を引く。

ただ腕を引くのはフェイク。本命は。

攻勢に移ろうとする相手に合わせ、左足を引き右足を

滑らせて前へ出し、そしてその足にかける。

 

 

「な────!?」

 

 

足払い。単純極まりないうえ、分かりやすい搦め手。だがそれ故に、それに引っ掛かる者もいる。こうして直立している相手ならば崩し難いが、十分。

行動予測をさせ続ければ、動きを完全に覚えられる。ならば予想外の動きで対応すればいいだけだ。

 

体勢を崩し、隙が晒される。

その首を狙い、今度こそ───────

 

 

「───────!!」

 

「ぐ────!?」

 

 

瞬間、とんでもない風が全身を打つ。

 

強風に身体が浮き上がり、後方へと吹き飛ばされる。魔法────だとしても、この出力は凄まじい。

本職の魔法使いだろうとこれほどの風を起こせるのはそういないだろうと思うほど。そも、俺を吹き飛ばすこと自体がその出力の高さを証明している。

 

なんとか着地し、体勢を立て直す。

 

 

「っ……仕留め損なったか」

 

「あの場で足払いとは、完全に意表を突かれたな。

 視えたのは突きか水平斬りだったが……」

 

「そりゃわざと剣を引いたし……いねぇだろ、

 お前にこんな児戯仕掛けるやつは」

 

「いや、若い頃に東の武芸者にな。

 一度肩を並べばしたが……懐かしい」

 

「いたのか……」

 

 

少し、いやかなり意外だ。

何はともあれ、仕留め損なったという事実。

さっさと終わらせねば───────

 

 

 

 

 

 

「「!!」」

 

 

咄嗟にその場から飛び退く。

【将軍】も同様に、大きく横に跳ぶ。

 

瞬間、紅蓮の閃光がその場を埋め尽くす。

竜の息吹(ブレス)─────恐らく狙ったものではない。

だが、この様子だとルイーズも健闘しているらしい。

 

剣を振り、地を蹴って閃光に飛び込む。

灼熱が全身を打つが、この程度。

 

 

「「───────!」」

 

 

なんと、その真横を凄まじい暴風が吹き抜けてくる。どうやら考えることは同じらしい。

即座に踏み込んだ足で急停止、その足に力を込める。そして、その勢いを利用し遠心力と全力を乗せた剣を斜め下から斬り上げるように振るう。

 

 

「「ッ─────!!!」」

 

 

衝撃。

 

閃光が晴れると同時に火花が散った。

全力を込めた一撃に、互いに剣が大きく弾かれる。

踏み込んだ足から一瞬力を抜き、再度込め、跳躍。

相手が動くよりも早く追撃を仕掛ける。

 

「し─────ッ!!」

 

「ッ!!」

 

叩きつけるように剣を振り下ろす。

だがそれは引き戻された太刀に防御され、更に空中の俺は剣ごと強く押し返される。が、想定内だ。寧ろ、これを狙っていた。

 

押し返される瞬間に重心を移動、逆立ちの姿勢から

──────相手を、()()()()()

 

 

「─────何!?」

 

「ハハッ、どこを見ている!!?」

 

 

当然、首は後ろまで曲がらない。

そして視界から外れれば、行動予測も追い付くまい。

 

今は滅びた小人族の戦士が習得していたという軽業。死角から襲撃する暗殺術の基盤となったそれは、ただ視認されない状態でなければ使えないワケではない。

身体を捻り、その勢いで背中へ剣を振るう、が。

 

「づ、ッ─────!」

 

「(浅い─────!

 前屈みになって傷を最低限に留めたか!!)」

 

着地と同時に振り向き様の水平斬りが襲ってくる。

剣を両手に持ち、腹を肩で支え衝撃を分散し、防御。

 

「─────ッ!」

 

反撃に太刀を弾き返し、柄尻を顎に向けて打つ。

 

「ッ! ぐ、ぬ────!!」

 

「─────!」

 

が、空いた左腕で防御される。骨の砕ける音。

その腕からは血が噴き出し苦悶の表情が見て取れる。脳震盪の怯みを狙ったつもりだったが、代わりに骨を犠牲にしたか。

 

 

「ッ!」

 

「く、ッ─────、吹き飛べ──────!!!」

 

 

追撃の斬り上げを弾かれ、再度爆風が襲い来る。が。

 

先程の勢いは、既に無い。

魔法の風は、俺の狙いを逸らすのみ。

 

 

 

吹き飛ばすには、至らない。

 

 

 

 

 

 

 

「(そこ────────!!!)」

 

 

「────────!!!」

 

 

 

 

 

 

 

体勢を僅かに崩されはしたものの、十分。

その低くなった体勢のまま、剣を両手に地を蹴る。

 

 

 

 

鋼が、白い軍服に深々と突き刺さる。

踏み込む。

 

 

 

 

「─────────が、ふ」

 

 

 

 

腹を裂き、斬り抜ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────────見事、だ」

 

 

 

 

 

 

 

【将軍】が、膝をつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「反魔─────私も、立ち、会うのは、初めて、か。

 まさか、それに驕らず、隠していた、とは」

 

 

「……………」

 

 

 

魔力特異抵抗性体質───────通称『反魔』。

魔力による直接干渉をほぼ無効化する、特異体質。

 

防壁を突き破り、雷を無効化し、風を破った。

俺のそれは、反魔と呼ばれる特異体質によるもの。

回復魔法や解毒魔法などの支援も受け付けないという短所もありながら、攻撃魔法ですら殆ど無効化する。

 

閾値を越えた出力では耐えきれず効力を受け、それに魔道具による転移など間接干渉でも効力を受ける。

そして、自らも魔法の使用を禁じられる。

 

 

故に、剣一本でここまで成り上がった。

 

 

吹き飛ばされた際の暴風は、常人ならば死んでいた。鋭い風が肉を切り刻み、バラバラになるほどのもの。

とはいえ風刃は流石に貰えば死んでいただろう。

あれは、斬撃が元になっていた。

魔法部分は無効化出来ても大元に両断されたハズだ。

 

だからこそ、風刃のみを防御、回避した。

有効打があると思わせるために。

 

暴風は咄嗟に放ったもの、出力は考えられていない。

だからこそ、相手に動揺はなかったのだろう。

あの時は焦らされたものだ。バレたのでは、と。

 

 

 

 

「ご、ふっ……確かに、私も……耄碌した、な……

 この程度で……もう、身体が……動かん、とは……」

 

 

「………いいや、強かったとも。

 俺の知る中では、あんたは一番だった」

 

 

「………強さの、先に……何を、求めて、いる?」

 

 

「特に何を求めているワケでもないが」

 

 

「…………、……いいや……ちが、う…………

 君、には……………理由が、ある、はず、だ」

 

 

「…………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そう、か………君は…、……───、─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ばさり、と。

 

白は、血の赤に沈む。

 

 

「…………死んだか」

 

 

死に、崩れ落ちて尚。

その手には、太刀が握られていた。

 

 

「…………………」

 

 

瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■!!!!」

 

 

絶叫と同時の衝撃に、地面が揺れる。

石畳に亀裂が走り、思わず顔を腕で覆ってしまう。

 

 

「────ぐ、うおおおぉおおあああぁッッ!!!!」

 

 

そして、雷鳴のような咆哮は人間のもの。

噴き上がる血の噴水が、雨のように降り注ぐ。

 

 

「ふ────ッ、ふ───ッ……はぁッ、はぁ、ッ……」

 

 

そして遂に動かなくなった竜の亡骸の上で、女は剣を竜の喉元から引き抜いた。

 

 

 

「ルイーズ、無事か」

 

「あァ……無事に、見えるかよ……」

 

 

ボロボロになっていたルイーズは、空を仰ぐ。

全身の打撲痕は、尻尾で打たれたか、吹き飛ばされて都市の外壁に衝突したか。

 

何はともあれ、竜を相手に原型を保った。

その事実が、その強さを何よりも雄弁に物語る。

 

ふらり、と竜の上から落ちてくる彼女へと駆け寄り、その軽い身体を抱き止める。

 

 

 

「助かった。流石だな」

 

「………なんで、てめぇは殆ど無傷なんだよ……」

 

 

 

彼女は最後にそう言って、意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

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