聖剣の勇者の旅路 1
ルインが、生きていた。
その事実に、私は歓喜した。
心を折られて、けれど生きて帰ってきたお姉ちゃんの状況も、どうでも良くなるくらいに。
正直、家族はあんまり好きじゃなかったけれど。
だって、心のどこかで死んだと思っていたから。
生きているような気がしても、確信なんてなかった。
だから、本当に嬉しかった。
でも、姉が言うには。
あの人は多分、魔族の仲間になっていた。
黒い飛竜に命令して、教会騎士を食い殺させた。
実際、港に辿り着いて目にしたのは、要塞都市の生き残りだと言う人たちと、その救援に行った後続の教会騎士たち、そして彼らに守られた、震える姉の姿。
港町の、小さな宿屋。その一階の食堂。
詩人が奏でる音色の中で、椅子に座って水を呷る。
「「………」」
そんな私の話を聞いて、私の旅を共にする二人は顔を見合わせて押し黙る。片方は旅を始めることになった王都から着いてきてくれた、教会の聖女の証、純白の修道服を着たソフィア・パシフローラ。
そしてもう片方は、旅の途中で助けた町の護衛団一の剣士、レオ・グラジオラス。
まぁ、分からなくもない。納得は出来ないけど。
彼は忌み人だ。私がこの3年間で訪れた町でも忌み人の彼を探していると聞いてみても、良い顔はされない。
どうして、こうも世界は忌み人を嫌うのか。
私には、どうしても……今も、分からないままだ。
「アイリスさん、あなたはどう思うんですか?」
「…………まだちょっと、混乱してる。
ルイは、確かにちょっと容赦はないけど。
命を軽々しく扱うような人じゃなかったし」
「………偽者という線はないのか?」
「ない、かな。ルイ、首と腕に傷があるから。
特に首の傷は目立つから、一目で分かると思う」
「「……………」」
二人も、また黙ってしまう。
答える度に、否が応でもその人がルインだと分かる。分かってしまう。……とても、複雑な気分だった。
生きていたのは、嬉しい。けれど、だとしたら。
「敵……だろうな」
「…………」
忌み人の指揮していた魔族の部隊。
彼らが、私たち……人間を恨む理由は分かる。ルインは話してはくれなかったけれど、過去に何かあったのは分かりきっている。
小川に倒れていた彼は、傷だらけだった。
首と腕には枷の跡がくっきりと残っていて、苦し気な表情で、酷くうなされていたのを、覚えている。
その身体中にあった傷は、今になってやっと分かる。あれは、考えたくもないような酷い扱いの数々。
火傷、打撲、切傷、噛傷……思い出せば、きりがない。
見ていて辛くなるようなそれを。
皆は、陰で笑ってた。
そしてずっと彼は、皆を憎んでいたんだ。
……………もしかしたら、この剣を抜いた私のことも。
「……………」
世界は、どこまでも残酷だ。
たった3年の旅でも、それを実感した。
魔獣に襲われた村があった。
人の憎しみが起こした事件があった。
忌み人たちの集団が滅ぼそうとした町があった。
殺された人も、殺した人も、いた。
その誰もが、自分の正しさのために戦っていた。
正しさって、何だろう。
忌み人。魔族。狂暴な魔獣。
それを、ただひたすらに打ち倒すことが……?
いつだって彼は、私を見てくれた。
私の欲しい言葉をくれた。
彼に会えば、分かるだろうか。
その答えを……私にくれるだろうか。昔のように。
ずっと続けばいいと思っていた、あの頃のように。
もう届かない追憶の中で、
いつか見せてくれた、あの笑顔を。
また、私にくれるだろうか。
「………なら、探そう。
ルイに、会って聞かないと」
でなければ、私は、強くなんてなれない。
「あぁ、それが一番早いだろうな」
「……そうですね」
二人も頷いてくれる。
ならまずは、今の目的を達成しよう。
「次は、世界樹を目指そう。
獣人とエルフの人たちと、同盟を結ばないと」
私は、窓から見える大陸一の大樹を見やる。
─────そこで、最悪の再会をするとも知らずに。