聖剣の勇者様……の、幼馴染み   作:青い灰

7 / 17
第1章 灼熱のブロセリア
新たな任務/ルインの疑惑


 

 

 

 

「大体よォ、その雷魔法ぶッ放して

 反魔の猟犬が突撃でいいんじゃねェの?

 (おのれ)ら含めた大抵の奴ならそれで全滅じゃん」

 

 

第二位【壊魔】シャイタンは頬杖をつき、ぼやく。

 

 

「それはそうじゃが、少しでも情報が欲しい。

 殲滅戦なら皆殺しでいいんじゃが、

 普通に戦闘となれば捕虜も残さねばならんしの。

 そこまでの細かい調整は無理じゃろ?」

 

 

第四位【賢老】サピエンテスは髭を弄り、そう聞く。

 

 

「んまぁ、確かに無理だな。

 集まられてるとどうしても感電して死んじまう。

 要塞都市でも全員死んじまったし、加減がムズい」

 

 

第六位の片割れ、隣のルイーズはため息をつく。

 

 

「ならばやはり今まで通り兵を出さねばならんな。

 兵の練度が落ちることも避けたい。

 ルイン、新兵の鍛練の結果は出ているか」

 

 

第三位【伯爵】アルベールは腕を組み聞いてくる。

 

 

「模擬戦やら魔獣の討伐ならそれなりだ。

 問題は対人での実戦経験が少なすぎることだ。

 結束があるのは良いんだが、もし仲間内で

 死者が出たとなれば間違いなく士気が落ちる」

 

 

第六位の片割れとして、俺は率直に答える。

 

 

「ふふ、困ったものね。どうせなら

 今回の作戦に投入してみたらどうかしら」

 

 

第五位【赫耀】スカーレットは妖しく微笑む。

 

 

「元よりその予定だ。

 陛下の到着次第、詳細を説明する」

 

 

第一位【白焔】ブランシュは資料を各自に回す。

 

 

 

 

王城の最上階、円卓。

そこに、新たに第六位として加わった俺とルイーズを含めた余燼が集結、次の作戦について話を進める。

ブランシュから大まかに説明はされたのだが、改めて魔王が来てから詳細を、ということらしい。

 

そして。

 

 

 

「総員、集結したようだな」

 

 

円卓の更に最奥、扉が開く。

魔王国の統率者【魔王】ヴォーティガン。

彼は歩みを進め、そしてあの時のように、玉座に腰を下ろして足を組み、頬杖をつく。

 

 

「第一位、ブランシュ・カーネリアン」

 

「第二位、シャイタン・バロック」

 

「第三位、アルベール・ブラッドストーン」

 

「第四位、サピエンテス・ダイオプサイト」

 

「第五位、スカーレット」

 

「第六位、ルイーズ・パライバトル」

 

「同じく第六位、ルイン・カーネリアン」

 

 

 

「ここに【余燼】、集結しました」

 

 

 

全員が名乗り、ブランシュが纏める。

それに、ヴォーティガンは薄く笑みを浮かべた。

 

 

「ブランシュ・カーネリアン。

 再度、皆に作戦の説明を頼もうか」

 

「は」

 

 

ブランシュが返事を返し、円卓の中央を向く。

 

 

「今回の作戦は【余燼】4名で行われる。

 出撃する余燼は第二位、第四位、第六位の両名。

 まずは作戦内容を簡潔に説明する。

 各自、資料に目を通すように」

 

 

言われた通り、回された資料に視線を落とす。

そこに描かれているのは、凄まじく巨大な樹を中心に形成された巨大な集落の地図だ。

そこに、数個の円や矢印が刻まれている。

 

 

 

 

 

 

 

「この大陸の南に広がるブロセリア大樹海、

 その中央にある大樹、通称『世界樹』の根元。

 そこに住まう獣人とエルフの集落を襲撃。

 ─────標的は二種族双方、一人残らず殲滅する」

 

 

 

 

 

殲滅戦。

確かにこれは、ルイーズと俺、シャイタンは適任だ。そして同じエルフであり、連中の魔術に精通しているサピエンテス。確実に全滅させるための人選だろう。

 

 

「獣人とエルフは古くよりアルビオンの領地拡大に

 抵抗し、200年ほど前より樹海に集落を移した。

 それからは互いに膠着状態が続いていたが……」

 

 

歴史を学ぶのならば必ず通る話だ。

アルビオンの民と、獣人、エルフは複雑な関係性で、大昔には魔法や魔術の交流があったりしたらしいが……アルビオンが戦を始め、巨人族、小人族らを滅ぼし、大陸を征服し始めた頃から敵対したという。

 

歴史書は改竄が付き物のため、本当かは怪しいが。

アルビオン王都では征服時に獣人とエルフが裏切り、自らの領土権を広く主張し始めた、となっていた。

 

さて、続きを聞こう。展開が動くらしい。

 

 

「要塞都市陥落を受け、アルビオンの王が動いた。

 聖剣の担い手を和平の象徴として送り込み、

 同盟を狙った動きがあるという情報を得た。

 世界樹の根元の動きについては……サピエンテス」

 

「うむ。50年ほど前より森の資源も減ってきての。

 現在も獣人とエルフは表面上には関係良好を

 保ってはいるが、裏では資源争いをしておる。

 関係は悪化するばかりじゃが……聖剣の存在は

 今でも変わらず、奴らの間でも英雄的象徴じゃ」

 

「厄介なのはそこだ。

 かの聖剣の担い手が現れたとなれば、

 二種族は嫌でも矛を納めなければならない。

 そして獣人の戦力、エルフの魔術が王都の

 戦力に加わることだけは阻止する必要がある」

 

 

……成程。

アルビオン王都と、獣人とエルフの同盟阻止。

及び、今後の障害となるであろう二種族の殲滅。

これが目的という訳だ。

 

 

「要塞都市の陥落は二種族にも伝わってはおるが、

 その要塞都市から世界樹までの距離により、

 あ奴らは慢心しきっておる。戦力の整備は

 同士討ちで損耗しとるし、叩くなら今じゃな」

 

「最低限の撃破目標は二種族の正規部隊だ。

 獣人側にはシャイタンとサピエンテスの私兵、

 エルフ側には私の猟犬とルイーズが担当する」

 

「ワシは後方支援に徹させて貰う。

 面倒な魔術は妨害するからの、存分にやれい」

 

「はぁ……」

 

 

ブランシュとサピエンテスの言葉にシャイタンは深いため息をつく。ひどく残念そうな顔だ。

 

 

「猟犬と雷女の実力も見たかったが、

 こうなっちまえば仕方ねェ、ってか。

 爺さんの私兵は自由に使っていいんだよな?」

 

「昔、あ奴らを殺し尽くすためだけに作った

 時代遅れの土人形(ゴーレム)どもじゃ。自由に使え」

 

「んじゃ、ルイン。オレが雷、オマエ突撃な」

 

「いつもの」

 

 

ルイーズの頭の悪い作戦に、だが俺も賛同し頷く。

彼女の広範囲雷撃に飛び込み、生き残った奴を殺す。簡潔に、速攻で終わらせる単純な作戦だ。

防壁を展開されることもあるが、今回は魔術の天才、サピエンテスがいる。爺さんが解除するハズだ。

 

 

「注意するべき敵としては、二種族の統率者の他、

 大柄な獣人の男、そして隻眼のエルフの女だ。

 遅れを取る相手ではないが、頭に入れておけ」

 

「兵の動きはどうする?」

 

「あぁ、それに関してじゃが……

 まずは爆薬石で敵を集落外へ誘き寄せ、

 部隊を分け、獣人とエルフを同時に奇襲する。

 奴らは互いの動きに敏感になっている故な、

 上手く行けば、あ奴らの同士討ちを狙えるからの」

 

「あいつらに出来るかね……」

 

「出来なければ死ぬだけじゃが」

 

「……まあ、初陣としてはそれくらいがいい」

 

 

ため息が出る。

まぁあいつらのことはともかく、作戦は十分だ。

内輪揉めに慢心とは、やりやすくて助かる。

 

 

「軍長、王都軍の動きはどうなっている?」

 

「戦力整備が始まりつつあるが……

 こちらに対しては仕込みは終わっている。

 目下のところ我々が注視すべきは聖剣の担い手だ」

 

「……………」

 

 

仕込み、か。

先見の明のあるブランシュのことだ、信頼は出来る。

そして、先から出てくる聖剣の担い手だが……

 

 

「襲撃時に出会す可能性はあるだろう。

 その時は殺してしまってもいいのか?」

 

「いや、殺すな。聖剣の担い手が死ねば

 王都も国を挙げて本気を出してくるだろう。

 今はまだ、その時期ではない」

 

「ん、了解した」

 

 

成程、確かに理に適っている。

俺は頷いて椅子に座り直す、その時。

 

 

 

 

 

 

「そういえば、軍長の猟犬。

 お前、聖剣野郎とオトモダチだったって?」

 

 

 

シャイタンの言葉に、場が凍り付く。

 

 

 

「陛下の御前だ、私語は控えろ」

 

「いいや、こりゃァだーいじなコトでしょ。

 今後の猟犬が、本当にこの国に従うか、とか」

 

 

 

アルベールの言葉に対し首を横に振り、シャイタンは何の躊躇いもなく円卓に乗り上げて向かってくる。俺も椅子から立ち上がり、そして、向かい合う。

 

 

「なんでもウチの軍長サマと交渉してェ、

 聖剣野郎を見逃してもらった、って話じゃねェか。

 交渉材料はァ……人権か? それとも命か?

 まァそんなもんだろ。………で、実際どうなのよ」

 

「野郎ってのは間違いだな。

 聖剣の担い手は18の女だ」

 

「訂正するのそこかよ……」

 

 

俺の横にいたルイーズが静かに突っ込む。

とはいえ、不味い雰囲気だ。ブランシュに頼んで隠し通していたが、やはり限界も来るか。それが今とは、なんともタイミングの悪い……

面倒な展開だ。

 

 

「……お前の言葉は事実だ。

 それにもう3年も前の話になるが」

 

「はいそうですか……

 って信じるワケにゃいかねェのよ、その言葉。

 余燼っつう重役にいさせるには────────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───────疑い深過ぎんだよ、お前」

 

 

 

 

 

一気に低くなったその声音が、恐怖を煽る。

とはいえ、怖気づくワケにもいかない。

感情のない三白眼を、正面に捉える。顔が近い。

 

 

「なら、その疑わしい俺に死ねと?」

 

「いやァ、そうは言っちゃいねェ……

 事実、お前はどんな任務でも忠実だったしよ。

 同族殺しに躊躇いも見せやしなかったしな」

 

「…….」

 

「……………」

 

 

沈黙。

最悪今からこいつの首を刎ねるか……と思考を巡らせていると、突如シャイタンはニィッと笑みを浮かべる。そして顔を離すと、円卓から飛び下りて背を向ける。

 

 

「………なんてな!ハハハ!カマかけて悪かったよ!

 己は『お前にゃこういう経緯がありまっせ』、

 なんつってハッキリさせたかっただけだって!」

 

「…………」

 

 

その言葉に、その場の全員が呆れた表情を浮かべる。だが、その視線は俺を警戒し始めるのが分かった。

 

不信感。

向けられた視線に乗る感情は、まさにそれだ。

………してやられた。

始めからこれを狙っていたか。

 

焦りで気付くのが遅れたが……手を出さずして正解か。シャイタンの狼藉があるとはいえ、もしもここで剣を抜いてしまっていれば、この場にいる全員が、本気で俺を始末しに来ていただろう。

危ない橋を渡っていた。

 

 

「………はぁ、まぁ、そういうことだ。

 黙っていて悪かった。それに会議を中断させた」

 

「構わん。シャイタン」

 

「んー?」

 

「お前は減給だ。円卓に乗るな。

 給仕の者たちにも謝罪して回れ」

 

「えぇー……己ホントに国のことを

 考えてのことだったんだけど」

 

「時と場合を考えろ。

 事実、ルインは私の命にも忠実だ。

 お前が言うべきことではないだろう」

 

「ハハ、しっかり手綱は握っておけよ?

 飼い犬に寝首かかれて天下の軍長サマが

 死んだとなりゃァ、面目丸潰れだろ」

 

「言われるまでもない」

 

 

………。

事実、あの男は強い。純粋に強靭な肉体はそれだけで驚異になる。第二位の席につき、【壊魔】と称されることにも納得がいく。そんなヤツが何故ブランシュや魔王に従っているのか……そも、どうもあの男の思考は掴めない。飄々としているかと思えば、人が変わったように厭世的な言葉を吐くのを見たこともある。

 

……余燼では、こいつの方が警戒すべきだと思うが。

席に戻ったシャイタンに、ブランシュは咳払いする。

 

 

「………話を戻すぞ。

 聖剣の担い手だが、機会と余力があれば

 今回の作戦でその実力を測っておきたい」

 

「「…………」」

 

 

ルイーズとシャイタンが俺を見て息を吐く。

……自然とその適任が俺になるから、であろう。

 

 

「俺がやれば良いんだろう」

 

「何度も言うが、機会と余力があればで構わん。

 可能であれば聖剣の担い手の到着までに

 標的を全滅させておくのを勧める。

 聖剣の力は未知数だ。盤面を返されるなよ」

 

「了解した」

 

 

俺の返答に、ブランシュも頷きを返す。

 

 

 

「では、同時進行する別作戦についてだが─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────

 

──────────

 

 

 

 

「らァ!!」

 

「──────!」

 

 

ルイーズの放った一閃を弾き上げ、そのまま片手で大上段に構える。かぁん、と心地のよい音が遅れて響き渡る。構えは半身、それに片手ではあるが今の弾き上げである程度の距離は確保した。

 

軽く、足を上げる。が。

 

 

「ッ────!」

 

「!」

 

 

流石に露骨過ぎたか、重すぎる反撃を察知し、彼女は雷を纏った神速で素早く離脱。逃げられた。踏み込むために上げた足をやや前へ、そして重心を前にして、半身を戻し、強く、踏み込む。

 

離脱した方向へと飛び出す。逃がしはしない。

 

 

「そう来ると思ったぜ───!」

 

「っ!」

 

 

が、それを予想済みとばかりにルイーズは笑い、高く剣を振り上げていた。即座に腕を前に引き防御姿勢。

放たれたルイーズの渾身の振り下ろし。

それを何とか受けた剣が、致命的な音を上げる。

 

地に叩き落とされ、何とか姿勢を立て直してから上を見上げる、が、ルイーズの姿はそこにはない。

瞬きの瞬間に魔力を察知、背後に回り込んできたか。

振り向くと同時に、剣を振り抜く。

 

 

「「─────!!」」

 

 

再度、木刀の音が鳴り響くと同時に俺の手に握られた木刀がへし折れる。ルイーズが笑い、更に踏み込んで握る木刀を大きく引き絞り────────

 

 

「ぐぅ!?」

 

 

鳩尾を狙った突きを半身で回避して、木刀を投げ捨て突きを空振ったその腕に左手で掴みかかる。そして、驚きに彼女の脇下から右手を差し込み、突きの勢いを利用して彼女を投げる。

 

 

「うぉおあっ!? ────ごぇっ!?」

 

 

ルイーズは腕を掴まれ木刀を振るえず、更に初見だ。掴んだ腕を下に引き、その体重を持ち上げた右手を、脇から離して腹に当て、彼女を床に叩きつける。

 

極東の投げ技には相手の力を利用するものが多いが、これはその最もたるものだろう。雷を纏う高速攻撃はこういった反撃にはどうしても弱くなる。

……そも、雷を纏った彼女に触れるだけで感電する故にこの手を取れるのは俺だけなのだが。

 

 

「っげほッ、げほっ……!

 はぁ、はぁあぁあ……クソ……ふぅ、はぁ」

 

「息が上がり過ぎだ。もう少し肩の力を抜け」

 

「なんで木刀折られて何の反応もしねぇんだよ……

 なんで木刀無しでオレが伏せられてんだよ……

 納得いかねぇ……」

 

「……ふぅ」

 

 

彼女のぼやきを聞きながら、俺も息を整える。

へし折れた木刀を足で押しやり、腰に手をやる。

 

 

「お前の動きは直線的過ぎる。

 距離を取って変則的に攻めたらどうだ」

 

「距離取ろうとしたら詰めてくるのは誰だよ……」

 

「事を急ぎ過ぎるのは悪い癖だぞ」

 

「オマエに言われたくねー……」

 

 

壁掛けから手拭いを二つ取り、彼女に投げ渡す。

 

会議終了から暫く。

夕刻に出発とのことで、それまではあと半日もある。そのため、俺は彼女に誘われて軽く訓練をしていた。訓練場は城下にある大きな広場で、普段は新兵たちの指導や訓練を行う場所だ。

現在は新兵らは休憩中で、俺たち二人だけ。

 

 

「はぁ……軽く打ち合いやんねぇか。

 ちっとばかし話したいことがあんだよ」

 

「? 別にいいが」

 

 

新しい木刀を取り、神妙な顔の彼女の再度相対する。彼女も立ち上がって、軽く剣先で床を叩く。

俺も、木刀の剣先を床に垂らす。

軽い打ち合い、というのも言葉通り木刀で打ち合いを何度か繰り返すだけだ。話をする余裕も十分にあり、たまに彼女とこうして気を抜いている。

 

 

「よし、行くぞ」

 

「あぁ」

 

 

彼女が先に打ち込んでくる。

下段からの切り上げを、左手に握る木刀を引き刀身で防御する。そこまで重くもなく、十分見切れる速さ。

 

 

「で、話って言ってたが」

 

「オマエの話だ」

 

「俺の過去か」

 

 

反撃に、水平切りを二連で叩き込む。

一連目は同じく刀身で防御、二連目を上に弾かれる。

 

 

「そうだ。聞いてねぇぞ」

 

「言ってないからな」

 

 

弾かれたそれを、振り下ろす。

彼女も再度下からの切り上げでそれに対応。

かぁん、と音が響き、俺も彼女も後退する。

 

 

「命をかけてでも助けた相手なんだろ」

 

「………なんだ、嫉妬か?」

 

「阿保。んなワケねぇだろ。

 ……なんでこっちについて戦ってんだ」

 

 

俺より先に彼女が踏み込み、水平切りを放つ。

それを剣先で頭上へ逸らして空を切らせる。

 

 

「命を預けた相手はブランシュだ。

 文字通り、あいつの犬として俺は動くだけ」

 

「オマエがそれで満足してるとは思えねぇがな」

 

 

が、彼女は強く踏み込み逸らされた方向から無理やり切り下ろしを放ってくる。身体を後退させ、回避。

その目は細められ、いつも以上にギラついている。

 

 

「疑ってる、と」

 

「何企んでんのかな、ってよ。

 別にどうこうする気はねぇから安心しろ。

 オレが国に忠誠なんてないのは知ってんだろ」

 

 

彼女が更に攻め立ててくる。

反撃に移さない連続での叩き込み。それを、一つ一つ丁寧に、確実に捌いていく。

 

振り下ろし、受け流し。

二連水平切り、防御。

再度振り下ろし、弾き。

 

少しずつ、一撃が重くなっていくのが分かる。

 

 

「………」

 

「んだよ釣れねぇ、(だんま)りか?」

 

「苛ついてるな」

 

「イラつきもするっつーの。

 これでも3年一緒にやってきたんだ、

 そんなにもオレに言いにくいことかよ」

 

 

弾かれるように、横薙ぎの一撃が放たれる。

咄嗟に両手で木刀を握り直し、防御姿勢を取る。

………重い。

明らかに、打ち合いでは見ない一撃。

それに、俺も観念する。後ろに跳び、距離を取る。

 

 

「……違和感がある」

 

「あ?」

 

「魔族は種族間で姿が違うが、そこに差別はない。

 これは魔獣や人間……明確な『敵』がいるからだ」

 

「………まぁ、そうだな」

 

 

彼女も頷く。

俺は木刀を軽く払い、その刀身に視線を移す。

 

 

「それは人間、獣人、エルフも同じのハズだ。

 たった一つ、【忌み者】という存在を除けば」

 

「………」

 

 

魔族は寛容であり、また【忌み】もない。

黒髪が魔族には発生しやすく、また髪色や、目の色が違うというところからの差別は殆どない。故にこそ、この魔族の国で人間の忌み人が暮らせるのだ。

 

そも、忌み者とは、だが。

ごく稀に産まれる黒髪黒目の者を、そう呼ぶ。

だが、その髪色と目色は親のそれに対応しないのだ。

仮に忌み者同士が子を成したならばその子も忌み者になるのだが、たとえ親が両方、また片方が忌み者ではなかったとしても、子が忌み者になることもある。

 

これが起こるのは、魔族以外の人型種族だ。

かつては巨人族にも存在したらしい。

 

 

「当たり前だが、そう仕向けた()()がいる。

 恐らく、この【人間と魔族が敵対する】状況も

 仕向けられてるような気がしてならない」

 

「そりゃあ……ふざけた野郎だな。

 いるとすれば教会のエセ神官どもか?」

 

「………さぁな。その影響もありそうだが……」

 

 

仕向けられたものだとするのなら、まず、間違いなく教会の連中は関わっている。そもそも忌み者の定義は奴ら教会が発したもの、どの歴史書にも忌み者という存在の始まりは描かれていないのだから。

教会の上層は一枚噛んでいるだろう。

だが、何故? 寧ろ神聖視されてもいいハズの出自、だというのに迫害する理由は何だ?

 

 

「要塞都市攻略の最後で

 オレが教会騎士を相手にしたのは覚えてるか?」

 

「んー……? あぁ、そういやそうだったな。

 あの娘、いい顔してたじゃねぇか。

 あんま可哀想なことすんなよ?」

 

「……………お前の趣味に口を出すつもりはないが、

 お前、まさか戦場でも女漁りしてるのか?」

 

「見定めてるだけだっつの。んだよ、嫉妬?」

 

「嫉妬だ」

 

 

ニヤニヤと笑うルイーズにそう返すと、彼女は全身をビクッ、と震わせて硬直する。無論、冗談である。

 

 

「………は? えっ? えっ、はあっ!?」

 

「冗談だ」

 

「た、頼むからやめてくれ真顔で冗談言うの……

 オマエのそれマジで心臓に悪いんだよ」

 

「なんだ、俺がお前の女漁りに嫉妬してたら

 そんなに真面目に考えてくれるのか?」

 

「オマエが言いそうにねぇからビビってんだよ!

 ゾッとするわ!」

 

「っは、酷いな」

 

「酷ぇのはオマエだー!」

 

 

走りかかってくる彼女の雑な斬り込みを軽くいなす。

 

……なんだかんだ、嫉妬はあるかも知れない。

俺は魔法が使えず、そのため彼女に頼ることも多い。それを理由にはしたくないが、感謝している。

 

 

「話を戻すぞ」

 

「あ、そうだったな。何の話だったっけか?」

 

「要塞都市での教会騎士だ」

 

「あぁ……で、そいつらがなんだって?」

 

「奴らは実質教会上層の手駒だが……

 思想はそこまでだ。そこらの村人と変わらん。

 恐らく、教会の最上層が忌み者の迫害の真相に

 近付く何かを知り、それをひた隠しにしている」

 

「………きなくせぇ話だ。

 アルビオンの三大派閥の一つの上層が、ねぇ」

 

 

ルイーズの攻撃を捌きながら、隙を見て一閃。

上手く入った、と思ったが易々と弾かれてしまう。

 

アルビオンは三つの派閥に分かれている。

主として、アルビオンの国王による『王政』、そして次に教会による白竜を崇める宗教である『竜賛教』、最後に冒険者を名乗る元傭兵らの国防組織『黎明』。

 

その関係性は、先のエルフや獣人らと変わらない。

表面上は三大派閥が協同し国の指針を決定している。だがその裏では国の実権を握るための争いを、というよくある話だ、が……

 

 

「俺は恐らく、三大派閥は繋がってると思う」

 

「そりゃどうしてだ?

 連中の仲の悪さはオレだって知ってるぞ」

 

「連携が出来すぎている」

 

「…………成程な。要塞都市での救援か」

 

「理解が早くて助かる」

 

 

要塞都市の長は旧貴族。つまり、王政の管轄だ。

それに救援があるとすれば、王国騎士であるのが常。だが実際はどうだ、救援として訪れたのは教会上層の手駒である教会騎士どもだ。恐らくだが、連中は敵の実力を測る捨て駒として送られている。

 

事実、連中は弱すぎた。

飛竜がいたとはいえ、老いた将軍の実力を過信した、というのは考えにくい。大陸を統一したアルビオン王直属の王政、それとしのぎを削る派閥の教会上層が、新たな脅威に対してあの程度の連中を送り出すか?

 

………これ推測でしかないが、恐らくは要塞都市陥落は連中としても予測済みの事態であろうが、解せない。何が引き金となったのか……聖剣か、いや、だとしても

魔族の襲撃は異様なほどに早かった。聖剣の担い手を狙って、というのは恐らく嘘だ。魔族は、いや魔王は何を狙ってあんな何もない村を──────?

 

 

「…………」

 

「ルイン」

 

「なんだ」

 

「一本取ったぞ」

 

「えっ」

 

 

気がつけば、俺は棒立ちになっており。

そしてその首元に、ルイーズの木刀が添えられる。

 

 

「作戦前だ、ちったぁ力抜いとけよ?」

 

「………はぁ、分かったよ。すまん」

 

「オレもオマエの考えについては興味がある。

 何か進歩があれば聞かせてくれよ」

 

「……あぁ。まずは作戦を成功させよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

この戦の裏に、一体、何がいるというのか。

どうにも、嫌な予感がする。

 

 

……全て杞憂であれば、良いのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。