社会人ナナミンと出会うなどというハプニングはあったが、この人が呪術師にもかかわらず常識人で善人なのはこの一連の流れから嫌というほど体感した。
ついでに俺の師匠になってくれるか聞いてみたものの
「嫌です」
と、一言でキッパリ断られた。どうやらNOと言える日本人のようだ。
「私にも都合というものがあります。時間外労働は私のポリシーに反する」
そらそうだ。
原作でも時間外労働と言って時間的縛りを設けるような人である。こんな何の旨みもないようなことを二つ返事で了承してくれるほどお人好しではないか。
その後も七海さんと会話をしていると、このような疑問が投げかけられた。
「先ほど、呪術師にはなりたくないと言っていましたが、呪術には興味があるようですね」
まあ、尤もな意見だ。
「ああ、いや、なんかファンタジーじゃないですか。呪術なんて。マンガでしか存在しないようなものが現実にあると知ったら、さすがにテンションが上がりますよ」
俺がそう言うと七海さんはフッと笑った。
「あなたは、どこか大人びていましたが、健全な男児らしくて安心しました」
あー、うん。まあ、今の会話の流れとしてはそういう解釈になるよね。
厨二病判定食らったようでちょっと恥ずかしさはあるけど、まあいいか。
「呪術師に目を付けられたくないというあなたに、少しばかりお節介を。あなたは独学で呪術を学んできたため自覚はないのでしょうが、あなたのその呪力量と精密な呪力操作は呪術師としてもかなり上澄みです。見る人が見ればあなたの才能は一瞬で見抜かれる」
ファッ!?
呪力量は、俺もちょっと多いのかなとは思ってたけど、呪力操作の精密性?あれか?小手先の技術たちを訓練しすぎた?
「一般人に紛れる練習をしておいた方が良いでしょう」
……確かに!
危ねぇ、このまま渋谷事変に突入してたら呪霊どもに俺が呪術師だとバレる可能性があったのか。そうなってしまえば完全に詰みだ。
「……一般人に紛れる練習とは、具体的には?」
「呪術師は無意識に呪力を制御していますが、非術師は呪力を常時垂れ流しにしています。ですから、あなたも呪力を垂れ流しにする訓練をするのが良いかと」
「なるほど……」
「呪術を学んでどの程度経ちますか?」
「六年くらいです」
「かなり長いですね。そこまでの期間呪術に触れているのであれば、無意識下で呪力の制御をするように体が覚えてしまっているでしょう。その精密な呪力操作も相まって、矯正するのは多少骨が折れるかもしれません」
ああー。なるほど……。
確かに無意識下で呪力を制御してしまっている。七海さんに言われてから実感した。
言われたのでちょっと制御をせずに呪力垂れ流してみたが、なんだか気持ち悪い。
あれだ。蛇口の水を意味もなく出しっぱなしにしているような感覚。めちゃくちゃもったいない。
そんな俺の様子を見て何か思ったのか、七海さんは俺に質問してきた。
「藤原君は、どの程度まで呪術を習得しているのですか?」
これは、言ってもいいのか?それとも言わない方が良いのか?
とことんまで俺の情報を流さないようにするのならば言わない方が良いのだろう。しかし、七海さん側からしてみれば、俺が情報を秘匿する理由がない。
「あの、絶対に誰にも言わないでくださいね」
「……では、縛りを結びましょうか」
あっ。縛りってこういう使い方もできたのか。
「私はあなたの情報を誰にも言わない。その代わりに……私はあなたに呪術を教えない。という縛りはどうでしょうか」
うぐっ!
……これは、ちょっと究極の選択だなぁ。
これを逃せば今後呪術について聞ける機会が無いかもしれない。そう考えるとこの縛りはきつい。だが、確実に俺の情報が七海さんから漏れないというメリットがある。
だがなあ。七海さんって俺がお願いすれば俺について秘密にしてくれるくらいには精神が成熟してるでしょ。
「……そこまで悩むほど、藤原君は高専が嫌いですか」
「いえ、関わりがない組織を嫌うほど、人間として終わっている自覚はありませんけど……」
上層部が腐ったミカンなのは知ってるけどね。
でもやっぱり、呪術に関しての情報が欲しい。
ここまで善人な呪術師に会える確率なんてそうそうない。てか呪術師そのものがクソみたいな性格なやつの方が多い。
やはり、リスクリターンを考えると縛りを結ぶほどでもないか。
「縛りを結ぶ必要はありません。しかし、もし七海さんが呪術師に復帰する機会があったとして、俺のことを誰にも言わないと確信を持って言えるのであれば、ですが」
「分かりました、それで構いません。しかし、これもお節介ですが、もし白髪でサングラスや目隠しなどで目を覆っている長身の男性に見つかった場合、あなたのことは秘匿できません。絶対に」
五条先生のことじゃん。
「絶対に?」
「はい。絶対です。たとえ藤原君が呪力の流れを完璧に一般人として偽装できたとしてもです」
はぁ、六眼か。
どんだけチートなんだよ。
つまり何か?あのバカ目隠しに見つかったら俺は強制的に高専に連行されると言うわけか。やめてよ。
「さて、先ほどの質問に答えて頂けますか?あなたはどこまで呪術を使えるのかについて」
さすがに領域については言えない。術式について聞かれた時に俺はとぼけているからだ。領域が使えると言ってしまえば、術式を持っていると言っているようなものだ。ここでそんなガバはできん。
「これを見てください」
そう言って俺は鞭に変化した呪力を見せる。極力七海さん以外の人物の視界に映らないような角度を意識しながらだが。
「中々、できることではありませんよ。これは」
表情があまり動かない七海さんでも、これには驚きを隠せないようだ。
「いくら精密な呪力操作が可能とはいえ、ここまで変化させるにはかなりの時間が必要だったのでは?」
「まあ、年単位でかかりましたね」
「並の術師では、習得にあなたに比べて倍の時間が必要になる可能性もありますし、この技術は唯一無二かもしれませんね」
言外に五条悟を除く。みたいなニュアンスを感じた。
まあ、あの人はこんなことしなくても無下限使ってバカスカ殴るだけで十分強いもんな。『蒼』を使った確定クリティカルとか、七海さんのお株を奪っているのでは?と感じるし。
はぁ。やっぱあの人バケモンやなぁ。そうなると必然的に宿儺の評価も上がるんだよなぁ。
呪術廻戦のツートップを思い、ちょっとばかり萎えていると七海さんが言った。
「それで、呪術について何か知りたいことでも?そろそろ時間なのでできれば手短にお願いしますが」
「あっ!じゃあ、結界術について教えてください!」
もう土下座でもするんじゃないかという勢いで俺はお願いした。
七海さんは、はぁと一息ついてから語り始める。
「私も結界術は得意ではありませんが、高専で学んだ理論くらいは教えることができます。それでよろしけれ――」
「是非!!」
俺はそれから、七海さんに結界術の理論を教えてもらった。めちゃくちゃ有意義な時間だった。
「それでは、私はこれで。もう会うことはないでしょうが、危険なことに関わることのないようにしてくださいね」
「はい!」
渋谷事変とかいう地雷には関わる気満々だけど。
そうして、七海さんの姿が見えなくなるまで俺は彼を見送った。
マジで今日は最高の一日だった。
渋谷事変まで残り――7年