異世界開闢の冒険譚。吸血姫となった元男、女神と共に世界を別つ冒険へ出る 作:氷水メルク
城で夜を明かした次の日、おれとアメリアは当初の目的通り、森のダンジョンへと向かっていた。
それまでの間も山あり谷あり。
朝になったらマヤが突撃かましてきて服を選んであげるとか言いだしてきて。
抵抗したらそれはそれで長引きそうなので人形に徹した結果、一時間ほど拘束されて。
その上今ここにあいそうな服は無いかなと一言一蹴されて解放されて。
朝食を食べてアメリアといざ合流し、町の外に繰り出そうとしたところで町の警邏兵に捕まった。
いわゆる補導である。
こんな時間に子どもが学校に行かず何をしているんだと小言を言われ。
そもそも学校に通っていない、別の国の者だと説得を試みたところ、またもや一時間ほど消費して。
解放されたころにはもう既に、日が高く昇りきった後である。
あの警邏兵、自分のミスをおれのせいにしやがって。
間違ったのはお前なんだから、謝るのはお前だというのに、なんでおれが謝らねばならんのだ。
隣では警邏兵に補導されたところくらいから、ずっとアメリアが面白そうに腹を抱えて笑う。
「学校行かないんですか? 特に道徳とか受けた方が良いと思いますよ?」
「道徳心なんざ養わなくても生きていける。むしろ真っ先に捨てるのが道徳というものだ」
「この世から道徳が無くなったら、世紀末が始まります」
「あれは法と秩序が無いから始まったんだ。道徳が無くなろうとも世紀末は始まらねぇよ」
売り言葉に恨み言葉をぶつけるのも面倒くさくなるほど既に疲れた。
はぁ、和樹め。一言くらい言っておけよ。
マヤも、おれとほとんど変わらない背丈なのに学校とか通ってないじゃん。
なんで補導とかあるんだろ。
傍から考えれば、知らない人にいきなり話しかけられるってことだぞ?
相手の身にもなれってもんだ。
「ちなみにですけど、この時間帯で補導してくる方が本来おかしな話なんですけどね。日本ですと補導は深夜からとなっています。必要だと判断された場合、深夜帯以外でも補導される可能性がありますが、それでも町を歩いている程度で補導はないですね」
「……そういや、普通にアメリアもいたよな?」
「あの警邏兵の心の中でも聞きます? 主に不純、汚らわしい、猥褻といった内容ですが」
「どうでもいいわ」
赤の他人の性癖とか聞いても何とも思わんやろ。
むしろ気持ち悪いわ。
いきなり話しかけられて自分の性癖はこうこうこうでけっこうどぎついんですよ、って初対面の人に言われてみ?
男女問わず軽蔑するだろこんなの。
そんな感じでグダグダだべりながら歩くこと数十分、おれとアメリアは森につく。
相変わらず何か良く分からない不思議な気配を感じさせる森だ。
背中を自分以外の人が指を走っていくかのような。
身体の嫌な部分を直接触れられているかのような。
「やはりダンジョンですね」
「んじゃ、さっさと杭を打ちに行くか」
おれとアメリアが森に一歩踏み出すと、黄昏の世界が盛大に出迎えてくれる。
黄みがかった葉をつける木々。
安永の木漏れ日からは温かい風が吹いてくる。
外の景色とはえらい違いだ。
まるでここだけ外の世界から隔絶されているような。
異世界の中の異世界に来たみたいだ。
そして、ダンジョンはすぐにおれたちへ洗礼を浴びせてきた。
おれとアメリアの前に二十は軽く超えそうな数のオーガが現れる。
「があぁ」
……幼稚園児の年中かって思うくらい、めちゃくちゃ小さい奴らが。
大量のオーガはこちらを視認すると、威嚇するかのように両腕を上げる。
さっ、殺すか。
「ですねー」
おれの考えにアメリアが賛同して殲滅を開始する。
思った以上にこいつらは弱い。
宵闇小悪魔をひと薙ぎするだけで、纏めて吹っ飛んでいく。
アメリアは光の槍を頭上に現出すると、魔物相手目掛けて一斉掃射。
光と闇が乱舞する。
弾けて混ざり爆発する。
もはやそこにあるのは戦いではなく掃除だ。
戦いは同じレベル同士の者でないと発生しないとはよく言ったものである。
次から次へと登場する魔物たちが、戦いの余波でさらに吹き飛び、流れ弾に当たり死滅する。
魔法を放ちながら二人で移動しているので、もう何の魔物が出ているのか分からない。
骨や肉片、この世に生きていた存在ひとつ残さず綺麗に消し飛ばしまくっている。
「魔物はやっぱ存在が悪ですからね、穢らわしきは掃除に限ります」
「お前の隣に魔物いるけどな」
「そういえばそうですね。ついでに掃除しておきますか!」
「あっ、やっても良いけどこの先回復するまで五感のいくつかが死ぬが?」
「はっ、女神を舐めない方が良いですよ? いくら弱体化しても死にぞこないなら指先ひとつでこと足ります」
互いに不敵な笑みを浮かべる。
言葉の叩きあいをしている最中でも、爆風と爆発音は鳴りやまない。
圧倒的な暴力が、ブルドーザーのように魔物壁を抉りまくっていくのだ。
……ところでこいつらいったい何体いるのだろうか?
もう既に一万は倒しているような気もするけど。
お互いにお互い、自然回復を持っているせいで魔力枯渇とか無いんだけど。
流石にこうも魔法をずっと打ちっぱなしというのは疲れてくる。
いっそ、森を凍らせるか?
「多分ですが、ダンジョンなので何かギミックがあるのではないかと。そのギミックを完全無視して突き進んでいるので、敵がこうわんさか出てきているのかと」
「いや数多過ぎて草」
「昼頃に出発しても良かったですね。休憩とかします?」
「広場に出たらそれで」
じゃあそうしますか、とアメリアと共に魔法連射で突き進む。
晴れ時々爆炎。
いや、時々じゃないわ。
常に爆炎に見舞われているわ。
それでも森は燃えない。
流石の異世界である。
* * *
良さそうな広場を見つけて一休憩したおれとアメリアは再び進軍を開始する。
面白いことに休んでいる最中は敵が一切出てこなかった。
アメリアの予想たてた、おれたちがギミックをガン無視しているという説は奇しくも立証された。
まぁ、立証されたからなんだって話なわけだけどさ。
途中からミノタウロスだったり、修羅っぽい真っ赤な身体の大男だったり、武装に武装を施した豪族っぽい何かとか、般若の表情をした鬼子母神とかが現れたけど全部狩った。
全部一撃で屠れるので、よもやギミック無視のペナルティーが仕事をしていないのである。
なんかもう雑談感覚で今まで過ごしてきて、ふと思ったことを聞いてみる。
「そういやさ、女神にもこれってくんの?」
「これっていうと……。あぁ、男だと三日に一回は必ずくるあれですか。今その話します?」
「暇だし。散々煽ってきてなんだが、くんのかなぁって」
「まぁ、神話ってそういう物の集合体ですし。俊さんも発散……へぇ、意外ですね」
「そりゃやり方知らねぇし」
「適度な運動で発散できる人もいるので、そちらを試してみては? 教えてあげるのもやぶさかではありませんが」
「嫌だ」
「フフッ、俊さんってば軟化しましたね」
軟化って何がだよ。
おれは変わってないっての。
多少下の話を交えながら進んでいると、道の途切れた開けた場所へ出てくる。
奥にはなにやら文字の刻まれた石碑。
感覚的にどうやら奥地に来たらしい。
アメリアが石碑に書かれた言葉を音読する。
「今まで出てきた魔物の共通点を答えろ」
「鬼」
おれの即答に石碑が白く輝きだす。
石碑から眩い閃光を放たれる。
逃れるように手で目元を仰いだおれが、恐る恐る目を開けてみると、既に石碑は無くなっていた。
代わりに合ったのは地下へと続く石作の階段。
どうやらクイズに正解したようだ。
……いや、簡単すぎるだろ。
桃太郎に登場する鬼の元ネタとか、悪鬼とかミノタウロスとか鬼子母神とかゴブリンとかオーガとか何なら吸血姫もとい吸血鬼のおれとか。
全部鬼じゃん。
むしろ鬼以外の答えを聞かせてほしいんだが?
「角、二本足とかあるそうですよ。牛鬼とかいませんでしたでしょう?」
「いや、二本足入れたらもうまずいだろ。次からこういうクイズ作るときはひとつじゃなく、二つ三つにしろよ」
「その意見は天界に持ち帰って深く真摯に検討をするよう言っておきますね」
それ結局採用しない奴じゃん。
検討するからにはちゃんと検討しろよ。
そんなどうでも良いことは置いといて、階段を降りてみるとその先には地面に大きな五芒星が描かれた祭壇が広がっていた。
「これです。世界と世界を繋ぐ魔法陣は。女神の権限でしか破壊できないのでちょっと待っていてください」
「破壊? 杭を打つのではなく?」
「どっちも同じようなもんですよ。万が一杭を抜かれて再び異世界召喚可能になったら、困るのは私ですし」
その辺突っ込む必要ないから別に良いか。
アメリアの言う通り、何らかの要因でまた異世界召喚可能になりましたじゃここまでやってきた意味がない。
アメリアは五芒星の中央へと立つ。
何かの詩を紡ぎだすと魔法陣から光の玉が溢れて踊りだす。
何だ?
アメリアは何の言語を話している?
この脳が直接拒否反応を起こしてくる言語は何だ?
……止めておこう。
心理を覗いて死にたくないし。
光の玉が放出されるたびに五芒星の色が薄くなっていく。
光は徐々にアメリアの身体へと吸い込まれて行っている。
……気のせいか、アメリアの身体が光り輝いているように見えた。
もしかしてこれ、アメリアの強化イベントだったりする?
姿形はなにひとつ変わっていないのに、肌に色気がプラスされている。
なんて考えている時点でもう終わったようだ。
アメリアは胸を一撫でして分かりやすく安堵する。
「先ほどの質問ですがそうですね。魔法陣に使っていた力を私の身体に戻しました。強化というよりかは取り戻したの方が正しいです」
「……既におれの力と同等くらい無いか?」
「それはどうでしょうね。しかしこれで並大抵の異能力なら何とかなると思います」
「もうおれいらなくね?」
「戦力は多いに越したことはありませんよね?」
アメリアはそう言いながら脅すように、自分の手に光の槍を作り出して見せる。
脅迫じゃん。
懇願から脅迫に変わったんだけど。
「まぁ、全てが終わったら願望でも何でも叶えてあげますよ。私の分身をあげても良いです」
「自惚れんなよ、女神!」
「だから……あれあれ~、夜の女神とは言わなくなりましたね~。俊さんってば可愛いんですから」
おれはアメリアからそっぽを向いて、この場所からさっさと出ようとする。
別に、今のアメリアに勝てないってだけだし。
それ以外他意は無いし。
なに勘違いしてんのか知らんけど。
「俊さん、ツンの時期ですか~?」
「……」
頬を突いてくるアメリアを無視して、おれたちはダンジョンの外を目指す。
行きは怖い、帰りはよいよい。
ギミックの再発動なんかは特になく、魔物と遭遇することなくおれたちはダンジョンを出る。
時刻はすっかり夕方。
茜色で彩られた空がいっぱいに広がる。
あの森、まるで南極の白夜のようにずっと明るかったな。
二人会話をしている中、歩いてくるは浮浪者を思わす二十代くらいの男性。
髪はボサボサ。体形はガリガリで。ボロボロな白いシャツに身を包んでいる。
そんな見るからに弱そうなのにおれの頭から警報が鳴りやまない。
男性はおれたちの姿を視認した瞬間「足を止めろ!!」と命令口調で大きな声を上げる。
すると突然、おれの足が地面に縫い付けられたかのように動けなくなる。
――足が全く動かない。
命令口調、異能力、転移者。
そうかこいつは転移者か!
「喋るな!!」
「――! ――!」
命令でおれの喉が使えなくなる。
やっぱり声で命令を出しているのか。
ふーん、種さえ分かれば後は簡単だな。
「すごい、すごいぞ! ぼくちゃんに与えられた天からのギフト! ぐふふ、これで美少女を思いのまま! さて、さっそく何を命令しようか」
あぁ、申し訳ないけどさ。
動けない、声が出ない、そんな状態でも倒せるんだよね。
相性悪いよね。
「おおっと、ぼくちゃんの名は浜田拓、勇者で――」
誰かは分からないがその自称勇者に光の槍が直撃した。
涎を垂らしながら二度三度バウンドした虫は、そのまま倒れて動かなくなった。
「……魔法って無詠唱で、特に身体の動作無しで発動できるのよね。次があったら気を付けろよ。もう聞こえてないと思うけど」
それでも気になるので一応虫の動脈に触って生きていることを確認しておく。
能力が切れたからね。
指を手首に触れてみると、血流がどくどく動いているのを感じる。
うん、生きているわ。
おれは虫を肩に担ぎ、ついでにインベントリからロープがわりになりそうなものを噛ましておく。
噛ましたものもう使えないわ。
最悪だわ。
黄昏の下、アメリアは腰に手を当て良い笑顔をする。
「理性を無くした人は人にあらず。よって人間に害を成す魔物は駆除に限りますね!」
元のなろう版とかなり展開が違います。
一番の原因は俊とアメリア、二人の性格によるものが多いです。
なろう、カクヨムですとラスボスを張ったキャラなのに、こっちルートですとボロ雑巾のように扱われています。
えぇ、こいつラスボスです。
そういうわけで次回、最終回になりますね。