異世界開闢の冒険譚。吸血姫となった元男、女神と共に世界を別つ冒険へ出る   作:氷水メルク

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異世界開闢の冒険譚

 

 よく分からないけど命令を聞かせる系異能力を持った転移者と戦った翌日。

 おれはアメリアを置いて、和樹と向かい合うように座っていた。

 内容としては昨日戦った転移者に付いての報告である。

 両脇にマヤとガルグを控えさせた和樹は、フムと一言呟いて、「大変だったな」と労いの言葉をぶつけてきた。

 

「命令形って油断すると一撃なんだってな」

 

「現実改変異能力の融通が利かないところのひとつでもあるんだがな。外から狙撃すれば一撃ってな」

 

 和樹は指で鉄砲を撃つ仕草をする。

 本来、その不意の攻撃をも無効化するのが現実改変能力だと思うけどな。

 例えば反射するだとか、別世界に送り込むだとかさ。

 つか、当たり前のように現実改変異能力がいること自体に恐怖を覚える今日この頃。

 アメリアが考えている以上に、この世界って不安定なんじゃないのか?

 今回戦ったのが現実改変能力ではなく、単なる命令形で本当に助かったよ。

 おれはソファーの背もたれへ甘えるように身体を預ける。

 

「で、その……名前忘れたけど、あいつはどこに行ったんだ?」

 

「処刑、能力を剥奪して尋問して解放した」

 

「……能力を剥奪した?」

 

「転移者が社会を乱した時に行われる刑罰だ。この世界で転移者は魔力を使えねぇ。お前みたいな異能力じゃない限りな? 能力を失い、魔力も持たない。そんな世界で転移者が生きていけるかと言われれば?」

 

 得意げな顔をする和樹に、おれは呆れて見せる。

 

「それもう死刑にした方が早いだろ」

 

「少しの希望を持たせておくことも大事だ。そこから立て直した転移者も大勢いるんだから」

 

 その希望から這い上がってこれるような人物像を、残念ながらしていなかったんだけどな。

 あれで成りあがったらむしろすげぇよ。

 まぁ、そんな微塵も興味のないことなんてどうでもよくて、おれは少し気になることがあったので尋ねてみる。

 

「その能力剥奪っておれにも効くのか?」

 

「いや、効かねぇよ。お前のは常時発動のパッシブ型だ。そういう奴には効かねぇんだよ」

 

 あっけらかんと答えて見せる和樹。

 その瞳はマジのマジという感情が良く伝わってくる。

 おれは自分の服が皺だらけになるのも、ソファーが必要以上に汚れるのも無視して、横に項垂れる。

 

「せっかく男に戻れるチャンスだったのにぃ」

 

「良いじゃねぇか。さっきも言ったが、能力を無くした転移者の行きつく先なんて碌なもんじゃねぇよ。魔法も使えない、スキルも使えない、そんな状態でどうやって女神のお役目をこなすんだよ」

 

「誰でも良いらしいし、和樹の国の転移者に任せれば良いんじゃね?」

 

「サボり魔め」

 

 まっ、どうせ和樹が手伝ってくれないことは百も承知なのでやりますか。

 ほんと、あのクソ女神め。

 マジで終わらせたら覚えとけよ、あいつ。

 和樹は大変ご満足そうに笑う。

 

「まっ、全てが終わって行く先が無ければ俺の国に来いよ。雇ってやる」

 

「嫌だわぁ。お前の下に付くくらいなら魔王にでもなりたい」

 

「女神さまが同じ轍を踏むぞ」

 

 言うな。

 それくらい、おれも分かっているんだから。

 和樹はなおも楽しそうに続ける。

 

「まっ、お前はこれから大変な時間を味わうことになるんだがな?」

 

「大変な時間?」

 

「そっ、大変な時間。もういいぞ、マヤ!」

 

 和樹の使命を受けて隣に居たマヤが「はぁーい!」と元気良く手を挙げた。

 はい? 何がもういいぞ、何です?

 首を傾げるおれに和樹は含み笑いを浮かべる。

 

「昨日今日約束してたじゃねぇか。服屋行くんだろ?」

 

「はぁ? いや、はぁ?」

 

「女子の買い物は長いぞ? 俺もこれから仕事があるんで、行って良し!」

 

 和樹は無慈悲にGOサインを出す。

 待ってましたとばかりにマヤが動いておれの腕を取る。

 止めて、もう疲れた。

 今日はもうゴロゴロしていたい。

 一日働いたら丸一日休みたい。

 明後日本気出すからせめて今日は止めて!

 なんておれの悲痛な思いは届くわけもなく。

 この世界のエルフがどうなのかは定かではないが、異常に筋力の強いマヤに引き摺られるようにして部屋を出る。

 マジで、誰か助けてくれ!

 

  *  *  *

 

 お湯から浮き出た湯気がガラスや床、壁に水滴を作り出す。

 温泉特有の硫黄臭さを掻き消す、薔薇の香りが充満する。

 異世界に来て何度目かの……冷静になって考えてみれば二回だわ。

 昨日、初めて異世界に来て風呂に入ったわ。

 それまでシャワーか身体を拭いてもらうくらいだったわ。

 日本では毎日風呂に入らないと気が済まない体質だったのに、気づけばもう慣れたもんなんだなぁと感心に浸る。

 慣れたものだと言えば、今こうしておれがひとりで風呂に入っているのもそうだろう。

 自分の身体を直視する。

 小さく緩やかな曲線を描く二つの胸に、とても岩を余裕で砕けるとは思えない柔腕。

 それと吸血姫の白い肌。

 はぁと、おれはため息を漏らす。

 見たところでなんか感情が湧き立つことのない、女の子の身体がそこにある。

 ひとえに女子の身体に興奮しなくなったのではなく、多分自分の身体だから興奮も何もないのだろう。

 おれはナルシストじゃないしね。

 

 あぁ、温かいと身体を存分に伸ばしまくっていると、不意に風呂の扉が開かれた。

 音に脊髄反射して顔だけ向けて見れば、タオルを体に巻いたアメリアが入ってきた。

 アメリアはおれを目ざとく見つけると、物凄く不思議そうな顔をする。

 

「俊さんひとりですか?」

 

「ひとりなのか一匹なのか。吸血姫を数える時、どれが正しいか」

 

「あぁ、この唐突に中二病に入る感じ。俊さんですね」

 

 アメリアは「一匹が正しいんじゃないですか~」なんて答えながら、近くのシャワーで身体を洗い出す。

 アメリアって風呂に入るとき、身体を洗うのが先なんだ。

 うちの家族は風呂に入ってから身体を洗うから、風呂のお湯が毎度汚いんだよね。

 

「普通に迷惑な上に、死にぞこないの穢れが浮かんだ湯船にみんなを浸からせるつもりですか」

 

「つい、やっちゃったぜ」

 

「まったく」

 

 身体を洗ったアメリアはおれの隣に、ゆっくりと足先から浸かっていった。

 それからおれの腹に手を置いて、「フンッ!」と一呼吸でおれを湯船に沈めてきた。

 

「なんて格好で入っているんですかだらしない」

 

「広い湯船だと一度はこうしてみたい、そんな夢です」

 

「そんな夢……、せいぜいひとりか私と二人きりの時だけにしてくださいね」

 

「分かってる分かってる」

 

 何も言わずにボーっと天井を見つめる。

 こうして何もしていない時間が今のおれには結構幸せな時間に思える。

 部屋で同じことの繰り返しよりかは、少し忙しい方が心身共に健康でいられる気がする。

 そんな年より臭いことを考えてみる。

 ……おれには合わないな、こういうキャラ。

 風呂の暖かさが睡魔を手招く。

 少しだけ目を瞑り、眠気に負けないよう意識する。

 首を少し、アメリアの方に傾けて。

 あぁそうだ。

 これだけは言っておかないと。

 

「ちょっと、熱く――」

 

「……昨日は助かった。ありがとなー……」

 

「……普段、それくらいでいれば可愛いんですけどね」

 

 アメリアはおれの腹に腕を伸ばして抱き寄せてくる。

 身体を預けている安心からか、何とか耐えていた睡魔にも勝てなくなってきて。

 

「のぼせそうになったら出ますので、安心して寝ていてください」

 

 その言葉が聞こえた時、おれは意識を手放した。

 

  *  *  *

 

 次の日、いつの間にかベッドで寝ていたおれは服を着替えて、いつものように宵闇小悪魔を担ぎ合える。

 隣で既に準備が終わっておれを見てくるアメリアに小首を傾げて。

 

「何度目かの疑問なんだけど、朝に起きて夜に寝る吸血姫ってどうなんだろ」

 

「女神と一緒に居る時点で、割と矛盾に矛盾を重ねているのでそんな気にしなくても良いんじゃないです?」

 

「あぁ、やっぱそう思う?」

 

「俊さんって色んな意味で異常ですからね」

 

 おいこらどういう意味だ。

 

「どういう意味もそのままの意味ですよ。ここに来る前と比べて随分とまぁ余裕が出来ちゃって。そんなに会いたかった男に出会えて嬉しかったんですか?」

 

「語弊を招く言い方は止めろや」

 

「そうやってあんまり言い返さなくなったのが何よりの証拠ですよ!」

 

 これは……まぁ、そうね。

 そうかもしれない。

 なんとなく前と比べて、精神に余裕が出てきた感じする。

 和樹の無事が分かったからだろうな。

 

「それじゃあ行こうか!」

 

 異世界に来る時と逆に。

 今度はおれから、アメリアの手首を持って連れ出す。

 これから再び始まるのだ。

 地球世界とこの異世界を別つ、開闢の冒険。

 異世界開闢の冒険譚が。




開闢の意味そもそも間違っていますけどね。
まぁ、そんなわけでこの小説は終わりを迎えました。
ご愛読ありがとうございました!
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