異世界開闢の冒険譚。吸血姫となった元男、女神と共に世界を別つ冒険へ出る   作:氷水メルク

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TS吸血姫、自分の身体を見れない

 

「今のおれって血を飲まないといけないと思うか?」

 

 宿の部屋にアメリアとおれ、二人でいるとき。

 ふと改めて頭の中に浮かんだ疑問を口にする。

 

「血を飲みたいんですか?」

 

 いやそうじゃない。

 あの吸血鬼と同じように吸血衝動が起きたら飲まないといけないのかと思っていたんだ。

 だって吸血姫だし。認めたくないけど。

 アメリアはけろっとした顔で言う。

 

「はぁ、蚊娘は大変ですね」

 

「そうなんだよ。大変なんだよ。血が通っていない血液袋の近くにいると」

 

「その血液袋しか頼れる相手がいないとは……、俊さんのコミュニケーション能力には涙しか出ませんね。面白い方の」

 

 なんだこいつ。

 人が真剣に悩んでんのに。

 聞くんじゃなかった。

 アメリアは意地の悪い顔で後ろからおれの頬を突いてくる。

 

「なんだったら私の血液でも吸ってみます? そうしたら少しくらい俊さんの心身が清潔になるかもしれませんよ?」

 

「いや、お前からは死んでも嫌だわ」

 

「まぁ、死にぞこないの蚊娘が私の血を吸ったら浄化されますけどね!」

 

「嫌だわ~、クソオブクソ女の血で死ぬとか嫌だわ~。どうせ死ぬなら超絶可愛い美少女天使様の血で死にたいですわ、女神様」

 

「知ってます? 天使って大体が両性具有ですよ?」

 

 ……それは、うん。

 男の娘と考えたらそれはそれで。

 アメリアはもう一度、おれの頬をムニムニと手のひらで弄りながら訪ねてくる。

 

「ロリコンでショタコンでホモレズとか始末に負えませんね。それで、こんなことを聞き出すために話したのではないでしょう?」

 

「そうそう、なんか吸血鬼を倒した直後翼が生えるようになっているんだけどさ。この世界、本当にステータスって無いんだよな?」

 

 吸血鬼を倒した後におれたちがそそくさと退散したのには理由がある。

 あの時、吸血鬼を倒した後新機能が解放されるかのように出せなかった翼を出せるようになったのである。

 少し背中を力ませると、何かが生えたような感覚がする。手足と言うわけじゃないが、神経がつながっているように感じる。

 吸血姫の象徴のひとつともいえる翼がおれの背から生えていた。

 

「止めてくれません? 相方がそんなドブネズミの翼持っているとか」

 

「……そういや、コウモリってネズミの仲間だったっけか。……って、誰がドブネズミだゴラァ!」

 

「申し訳ございません。ネズミじゃなくて亀でしたね。ノロノロしてましたし」

 

 こいつほんとに。

 ……いや待てよ? あの吸血鬼はどうやってアメリアを倒したんだ。

 

「それですか? 何かいきなり命令される文言が聞こえたんです。そしたら身体がその……熱くなってしまいまして……あの」

 

「戦闘中に発情してんじゃねぇーよ尻軽女」

 

「いや違うんですよ! 死にぞこない風情に発情とかほんとに! 本当にありませんからね!! 天から流星群が降り注ぐくらいあり得ない話です」

 

「……ハッ」

 

「うわぁ、そういう態度とります? 俊ちゃんの悩み相談に乗ってあげませんよ?」

 

 まぁうん。アメリアがどんな性癖を持っていても受け入れようじゃないか。

 例え穢されるのが趣味な清楚系だとしても。おれだけは温かく受け入れようじゃないか。

 おれはアメリアの肩を軽めに叩いておく。

 そして何も言わずにサムズアップしておく。

 心の中で満面の笑みを浮かべながらこう思う。

 

 アメリアが死の間際に発情したなんて話聞いたら吸血とかどうでも良くなったわ!

 ありがとう、夜の女神!

 

「根暗ロリコン、表に出てください。灰があると宿の人に迷惑ですからね!」

 

 この後、取っ組み合いに発展するまで喧嘩したら宿の女将に怒られた。

 

  *  *  *

 

 翼を出せるようになってから、飛行の練習がてら深夜帯誰もいない森に行くことにした。

 月明かりひとつない明るい景色。冷たくも温かくもない無機質な風がおれの肌を撫でる。

 この身体は睡眠を取る必要がない。おかげで誰に見られることなく深夜に活動できる。

 その状況下で飛行の練習をし始めるようになってから少し。

 

 最初こそ少ししか上がらなかったが徐々に浮遊感を感じ始め、遂には飛ぶことに成功した。

 その時、アメリアに内緒で少しはしゃいでしまった。

 あの時の煽りは心に来たけど、何も言い返せなかった。

 

 全身に突き抜けるような風なんてまず感じなかったから、酷く新鮮な気分を味わえた。

 あれは本当に新鮮な心地だった。実に。

 そんな翼での飛行と並行して魔法の練習も始めていた。

 これに関して餅は餅屋ということもあり、昼間にアメリアから教わっていた。

 おれが初めて頼んだ時、アメリアの答えは芳しくなかった。

 

「多分私たちの使う魔法とはかなりかけ離れてますよ?」

 

「……かけ離れてる?」

 

「聞き返すまでの空白は何も言わないでおきましょう。なんでしょうかね? 原理が違う? 名前は同じだけど陰陽、魔法、チャクラみたいな細分化されている状態とでも言えばいいんでしょうかね?」

 

「スキルで使うのと身体で発動するのはまるで違う?」

 

「ですね。私たちの魔力は体の中を常に巡回してるんです。ちょっと俊さんに流してみますね!」

 

 アメリアがおれの手を握ってくる。

 途端にアメリアから流れ浸み込んでくる何か。

 風呂場に入った時と感覚が似ているかもしれない。

 アメリアの魔力だからなのか、強大な力なのに決して荒々しいわけじゃない。

 この感じはまさに……。

 

「納豆や腐った生卵の風呂に入っているかのような気分だ」

 

「フンッ!」

 

 アメリアはもう片方の手でさらに、おれの手を強く握ってくる。

 おれは声にならない叫びをあげてその場にうずくまる。

 

「どうです? 気持ちいいですか? 思わず昇天する心地よさですよね!」

 

「死ぬ! 流石に死ぬから! 生卵の窯茹で地獄が!」

 

「ほう、まだ言いますか?」

 

「マジすんませんでした」

 

 そりゃ女神の魔力だからな神聖なものだよな。

 流石に命の危険を感じたので謝っておく。

 

「まったく、流した魔力を元に戻しますね」

 

 徐々に身体から熱が消えていく。

 力も戻るようになっていく。

 手を握ったままそれでも蹲るおれに、アメリアは手を握ったまま見下ろしてくる。

 

「終わりました、大丈夫ですか?」

 

「……死ぬかと思った」

 

「そりゃ自業自得でしょうに。それで俊さん。何か分かりましたか?」

 

 おお、そうだった。

 魔法を使うために魔力を感じる練習してたんだった。

 ……なるほど、やっぱり根幹は違うようだ。

 なんというか、アメリアに魔力を流されたことで魔法の欄が解放されたって感じがする。

 こういうのはあくまで感覚でしかないから言葉にできない何かでしかないんだけど。

 何がきっかけで解放されるのかまるで分からないな。

 一度攻撃を受けることとか?

 それだと何か違うな。

 

「身体が学習しているとかじゃないですか?」

 

「学習?」

 

「元々俊さんの身体が精神に反して無垢だったって話です」

 

「攻撃を受けることでその無垢な身体が学習していったと」

 

 だから無垢。おれの身体は何も知らず、吸血姫の身体は知っている。

 なんかよく分からない理論だな。

 攻撃を受けたことや見たことで、本能的にそれがなんであるのかを分析したってところだろうか。

 おれの身体にしては難解すぎるよ。

 

「攻撃を受けて新しい扉を開くとか、俊さんってばドM~!」

 

「別に気持ちよくなってないが? 今も怒りと殺意満々だが?」

 

「その割にまだ私の手を握っているのは何でですかね?」

 

「それはお前がまだ握ってくるからだろうが!」

 

「はいはい、そういうことにしておきますよ」

 

 アメリアはニマニマとウザく笑ってくる。

 超うぜぇ。

 あと、いい加減手を放せや。

 

「じゃあ俊ちゃん! 森に行きましょう!」

 

「またか」

 

「あといい加減お風呂入ってくれません? すごく臭いです」

 

「……いやあの、そちらにつきましてはね? ほらっ、おれってば健全男子なのでそのね?」

 

 アメリアの臭い発言に関して言えば、煽りでも何でもなく事実である。

 いや、おれもさ。

 女子が臭うとか嫌なんだけどさ。

 多分、クッソ汗くさいと思うけどさ。

 なんかね。

 DTだから恥ずかしいんよ。

 自分の身体だけどさ。

 中身男子高校生でロリコンだけどさ。

 なんかこう性癖の権化に触れるというか、いけないことをしているような気分になりそうで。

 

「拗らせ童貞って本当に面倒くさいですね。それともひとりじゃできないでちゅか? お姉ちゃんがやってあげまちょうか?」

 

「……頼みます」

 

「いや、そこまで拗らせていると流石にドン引きですよ。……仕方ないですね、やってあげますので女の子の身体について学びましょうか」

 

 アメリアはため息をついて、何もない空間から桶を取り出した。

 手のひらからお湯を流して満杯にすると、今度はおれの服に手を掛ける。

 

「脱ぎ方とか分かります?」

 

「……まったく」

 

「ですよね~。ちょっと調べるので動かないでくださいね」

 

 アメリアはおれの服をしばらくの間、じっと注視する。

 その後、ひとつ顎に手を寄せて頷いて早速おれの服の取り外しに掛かった。

 ゴスロリ服って色々と面倒そうなのに、アメリアの手はてきぱきと動いていく。

 そうして気づけば全て剥ぎ取られていった。

 

「洗濯もこっちでやっておきましょう。分からないでしょう?」

 

「まぁ……うん」

 

「随分と素直ですね。あぁ、子犬は可愛いですもんね!」 

 

「……ははっ」

 

「重症ですね」

 

 アメリアは頬を引きつらせ、目を閉じるようにおれを指示する。

 なのでその通りにおれは目を瞑る。

 タオルが肌の上を走る感触に耐える。

 タオルは腹を通り胸に達する。

 

「はい、もう少しですよ。今度は自分でやってくださいね。それともまたお姉ちゃんに頼ります?」

 

「……できれば」

 

「……今度一緒にお風呂行きましょうか。流石に生きていけませんよ、それ」

 

 アメリアがなんか言っているけど、突っ込みを入れる元気はもうない。

 初心とかではないんだよ。

 なんか単純に悪いことをしている気分ってだけで。

 うん。

 

 この後、アメリアはおれに服を着せてくれるまで黙々と手を動かしてくれた。




なんだかんだ言いながら一緒の部屋に泊まっている二人
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