異世界開闢の冒険譚。吸血姫となった元男、女神と共に世界を別つ冒険へ出る 作:氷水メルク
「ふわーぁあ」
窓から太陽の光が差し込んだところでおれは一つあくびをしてベッドから抜け出し、腕を伸ばして肩を慣らす。
アメリアも早く起きていたようで、着替えさせてもらう。
「いい加減自分で服着ません?」
「やだ」
「……はぁ、直接でなくとも画面超しとかで見たこととか無いんですか? あっ、そういえば男の娘が性癖でしたっけ? そりゃ見たことないですよね、ごめんなさい」
「勝手に疑問を口にして、勝手にあらぬ方向で自己解決しようとすんの止めてくれませんかね? 夜の女神」
「その夜の女神に育てられている俊さんは、さぞや妖精か天使でしょうね。ならそれらしき蝶の舞を披露してみたらどうですか? 男性の前で」
「反面教師って知ってるか? ほんと、こうはなりたくないもんだわ。あーやだやだ」
なんて軽口を叩き合っているうちに、俺は寝巻から着替えさせ終わっていた。
無地の白シャツにボロボロの短パン。
簡単に言えばこの世界の奴隷衣装なのだが……、良さそうな服が無いうえにアメリアから選んでもらったものはどうも可愛い系しかなかったために、この服装になった。
姿こそ奴隷そのものだが首輪が無いので、周りからは普通に扱ってもらっている。
「ほんと、似合ってますよ。精神が外見に現れたって感じで。フフッ」
「服は動きやすさと機能性は重視するものだから」
「……ならスカートとか穿いたらどうです? 公衆の面前でも平然とパンチラを晒す女でしょう?」
「お前じゃねーんだ。そんなことするかよ」
と、言い合いはこれくらいにしておれたちは食堂に降りてくる。
この前、食堂でも似たような言い合いをしていたら女将に怒られたのである。
ここでは自重しろ、飯がまずくなるって。
流石に食事時で下の話や血の話はまずかった。
男性陣にめっちゃ引かれたどころか、女性陣からもクッソ嫌そうな顔を向けられたのである。
裏でやるどころか表でおおっぴろげにしている分、陰湿さはどこにも無いと思うけどやはりTPOは大事だった。
怒られて以来、食堂でそういう会話は止めた。
けれど外ではやはり平然と叩きあっているので、周囲からおれとアメリアはクッソ仲悪くて汚いけど妙に清々しいコンビとして周知されていたりする。
やっぱり陰湿さが無いからだろうか?
「陰でもお互い変わらない態度なんだろうなって妙な安心感と、お互い罵倒しまくっている割には一緒に部屋で暮らしているという点から、お互い気兼ねなく言い合える仲なんじゃないかとのことらしいです」
「だから心を読むなよ。そうやって人の心に無遠慮に入り込むからお前は性格が悪いんだぞ……。あぁ、性格が悪いから無遠慮に入り込めるんだったな。すまんな、ほんと考えなしだったわ」
「えぇ、考えなしにも程があります。女性は陰では罵倒しあっているというその固定観念、それをおれは分かっているんだって態度ほんと童貞の醜悪さを詰め込んだみたいで気持ち悪いですよ!」
「はっ、甘いな! 真の童貞とは女の子同士仲が良いと幻想を抱く物よ! そこから拗れると罵倒しまくるという考えになる。童貞への理解度がまだまだだな!」
「可哀想に。拗れに拗れて女の子と話すのが怖くなってしまったと自分の心に嘘を付き。本当は付き合いたいけど相手の心が分からないから怖いと、自分の心を棚上げするんですね」
「しゃーない。誰も彼もお前みたいに心は読めないんだ。女の子との関係がない以上、創作物や実際のいじめを見て、女性への考え方が拗れるのはしょうがな――」
なんて売り言葉に買い言葉で話をし始めからだろうか。
トレイを持ったおれとアメリアの前に宿の女将さんが立ちはだかる。
腰に手を当て、弁慶の如く仁王立ち。
すぅと息を吸い込んでいき、地震が起きたと錯覚するほどの声で叫んだ。
「またあんたらは……。いい加減にしな! みな、あの男どもの顔を! 商売の良い迷惑だよ、クソイン、女ども!」
女将さんの指さす方を見れば、何やら深海の如く暗い表情で手が止まっている男性陣。
……なんか、ごめん。
結局おれとアメリアは宿の女将にいつもより高い代金でご飯を貰う。
周囲から暗い眼差しを向けられる中、お互い椅子に着き、両手を合わせてから食事を開始する。
「ダンジョンとかどうです? 見つかりました?」
「ん? ひや、みふはらはいへほ――」
「口の中全部飲み込んで喋るという、当たり前のことすら忘れたんですか? 可哀想に」
アメリアにジト目を向けられ、煽られたのでおれは口の中の物を飲み込む。
「知らない。そういうアメリアはどうなんだよ」
「その……忘れちゃいました。テヘヘ?」
「悪い、トイレ行くわ……」
おれはわざと口を抑え込んで吐きそうな振りをしてみる。
すると何やら射殺す眼光が女将から向けられてくる。
食事中は止めろってことね、はいはい分かってますよっと。
おれは急いでご飯を口に詰め込み、水で胃へ強制的に落とす。
「ごち」
「ごちそうさまでした」
おれとアメリアが手を合わせるのは同時だった。
食事を食べ終え、食器を片付けるのを見るに、どうやら考えていることは一緒らしい。
これでおれたちの食事時は終わったのだ。
お互いの顔を見て、したり顔を浮かべる。
「で、さっきなんて言い掛けたんです?」
「だから童貞の女性に対する考え方は拗れに拗れて、最終的にお前のような女がいる店に向かうって話をだな?」
「もうアンタラ金返すからこの宿から出てけ!」
追い出された。
まぁ、当たり前だけど。
今日でこの宿を出ていくつもりだったので金が浮いたわ。
アメリアが呆れる。
「うっわぁ、流石吸血姫といっても悪魔よりの種族ですね」
「神はいつだって人間の斜め上を行く。お前に言われたくはない」
「というかこれ、私たちの評判最悪も最悪の良いところじゃないですか?」
「大丈夫、ある程度落ちたら後はもういくら落ちても同じだからな!」
マイナス100まで来たらもう1000まで落ちても一緒一緒!
おれのこのキャラはそういう最悪な評判の詰め合わせで構成されています。
吸血鬼を倒した英雄に一部の冒険者は憧れを抱き、そしてその本性を知って憧れは塵に消える。
憧れと理解は全くの別物ってのがよく分かるね。
そんなわけで宿を追い出されて町の噴水広場までやってきたおれたち。
すぐ近くまでやってきて止まったのは、何やら何かの紋章を付けた馬車だった。
アメリアの夜の女神としての評判が遂に遠くまで広がったのか。
なんてな、あの紋章確かこの国の物だし。
吸血鬼を倒したことと何か関係性があるのだろう。
やがて馬車の扉が開かれ、高級そうな衣装に身を包み降りてくる使者らしき若い男性。
階段を降りてきた途端、遠目に眺めている女性陣がキャーキャーと色めき立ち始めた。
貴族っぽい見た目の男性は、おれの横をすり抜ける。
お面のように貼り付けた薄気味悪い笑顔を浮かべ、恭しく頭を下げた。
「私はジュリアンと申します。あなたを城に招待しに来ました」
「えと、私ですか」
困惑気味にアメリアは自分に指を向けると、ジュリアンと名乗る男性は肯定するように頷いた。
「はい、貴女ですシュン様。吸血鬼の件で、国王カズキ様のお呼びです」
男の言葉におれは小さく腹を抱えた。
私からしてみれば陰でも陽でも周りを鑑みない会話する人は一生ごめんです。
ちょっと口を悪くするつもりがとんでもない方向にキャラたちが舵を切り始めるものだから、なんかもう対処できませんねこれ。