失われし英雄譚【一次募集終了】   作:雪兎の手

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新年明けてから初投稿です。


第一話【ファーストインパクト】

「さて、早速だが来巣探偵事務所へようこそ。私はここの所長を務めているアルカ・ロンジェナートだ。

よろしく」

「俺は櫟肇です。助けてもらったんですよね? ありがとうございました」

 

 あの後目が覚めた俺は、直後に部屋を訪れたアルカさんに連れられて事務所らしき場所を通って応接室へと案内されていた。

最初の部屋からこの応接室までの内装はアンティーク調で統一されていて、オフィスというよりは喫茶店や図書館のような雰囲気に近いかもしれない。

 

「探偵事務所って言ってましたけど、アルカさんは探偵なんですか?」

「いや、表向きに探偵事務所というだけで、一般のそれとは異なるものだよ。この場所は異能の調査及び、異能がらみの事件の解決を目的としている」

 

 アルカさんは言いながら紅茶を二人分淹れるとこちらにカップを置いてくれた。

しかしこの人、美人だな。赤みがかった美しい黒髪を腰まで伸ばし、きっちりと着こなしたスーツがアルカさんのミステリアスな雰囲気によく似合っている。

 

「その異能っていうのはなんなんですか? 噂には聞いたことありますけど」

「異能とは超常の力。未だ起源も条件も不明だが、ある日突然一人一つ異能を獲得し、それに伴って魔力を得る。

異能を会得した者は異能者と呼ばれる」

「俺もそうなんですか?まだあまり実感が……」

「ふむ。通常であれば異能者は異能に目覚めた時に己の異能を自覚するものだけど……君の場合は気を失っていたからかもしれないね」

 

 まだまだ謎の多い力みたいだ。

 

「しかし君が異能を持っているのは間違いないよ。私の異能『感知網』が保証しよう」

 

 言いながらアルカさんが手をひらひらと振る。目を凝らすと、たしかに半透明の糸のようなものを見てとれた。あれが異能。彼女も異能者なのか。

まあ事務所の所長だと言っていたしそれも当たり前か。

 そしておそらくだが、名前から察するにあの糸を使って様々な情報を得ることができるのだろう。

 

「ちなみに、異能の内容までは分からないよ。私の異能で分かるのは、糸に触れた対象者が、事前に指定した条件に合っているか否かのみだから」

「なるほど……」

 

 そこまで話すと、アルカさんが真剣な顔つきになってこちらを見つめてくる。

 

「ところで、だ。詳細は不明ながら君には異能が芽生えたわけだが」

「はあ」

「君さえよければ私たちの仲間にならないか? 私たちとしては異能者となった君を保護監視下におけるし、君も自分の力について知ることができる。ともに活動してくれるならしっかりと鍛えるし、もちろん報酬も出そう」

 

 正直言ってまだよくわからない。だけど平凡な自分に宿った異能に興味があるし、俺を襲った女の件もある。それにアルカさんには助けてもらった恩があるしな。俺の答えは既に決まっていた。

 

「よろしくお願いします!!!」

「うん、良い返事だ」

 

勢いよく頭を下げながら告げた返事に、彼女は満足げに笑って頷いた。

 

 

◇◇◇

 

 

それからほどなくして。俺はアルカさんに先導してもらいながら事務所の廊下を移動していた。

 

「書類等はあとで確認してもらうとして……まずは軽くメンバーの紹介をしようか。今日は全員ではないけど何人かは訓練場にいるはずだよ」

「ここに所属しているということは、やっぱりみんな異能を持っているんですか?」

「ああ。皆なんらかの異能を持っている者だ。異能者を相手にする性質上、普通の人間では危険すぎるからね」

「なるほど、だからこんな街中に訓練場なんてあるんですね」

 

目覚めたらこの建物の中だったので気付かなかったのだが、この探偵事務所はなかなかに大きな建物かもしれない。田舎の公民館くらいの広さじゃないだろうか。いや、実際どうなのかはわからないけど。

 

「着いたよ。ここが我が探偵事務所の誇る訓練場さ」

「えええ!? 想像してたより広いですね!?」

 

連れてこられた訓練場は思っていたよりもしっかりとしている施設だった。

下は砂地。壁際には大小さまざまな大きさの的や人形が立ち並んでおり、銃の射撃場みたいだ。

四方が壁に囲われているので刑務所の運動場のようにも思えた。

 

そんな訓練場には先客がいた。

訓練中だったのだろうか、三人の男女……それと、犬? が組手のようなものをしていた。

彼らは俺の驚いて出た声に気付いたのだろうか、こちらへと向かってくる。

 

「アル! その人だれ? 新人?」

「そうだよ。まだ契約はしていないけどね」

「俺、櫟肇って言います。はじめは難しい方の字です。よろしくお願いします! 異能は、まだ使い方がわかりません!」

 

自己紹介をして頭を下げる。こういうのは最初が重要だからな。とりあえず元気よく挨拶をしておいた。

俺の自己紹介を受けて、三人もそれぞれ挨拶を返してくれる。

 

「初めまして、あたしは灰吼宮 楼歌(あくみや ろうか)!すっごい読み辛い名前だから、あなたの好きなように呼んでいいよ! ちなみに異能は『灰色狼』。ほら見て!私の相棒の狼を呼び出せるんだよ!」

まず最初に挨拶してくれたのは楼歌ちゃん。太もものあたりまで伸ばした少し癖のある灰色髪が特徴的な少女だ。背丈と雰囲気から察するに歳は中学生ぐらいだろうか。

そして異能は狼を呼び出すというもの。巨大な狼も出せるらしい。勝てる気がしない……。

 

「はじめまして。私は煉谷 氷愛(ねりや ひめ)と言います。異能は現象系の『火竜』です。これからよろしくお願いしますね」

続いて煉谷さんも挨拶をしてくれた。水色の三つ編みと白い肌、アンダーリムの赤い眼鏡が特徴的な女性だ。アルカさんも美人だが、煉谷さんも地味な印象に負けないぐらい容姿が整っている。

異能は、名前から竜に変身でもするのかと思ったら、簡単に言えば熱を操る能力なんだとか。詳しいことは分からないが便利そうな能力だ。

 

「俺は来巣探偵事務所に所属している、葉月 宗介(はづき そうすけ)。異能は『雷人』。これからよろしくな肇君」

最後は葉月さん。ウルフカットの黒髪に色白の肌、茶色の瞳をした男性。穏やかな雰囲気の優しいそうな人だ。戦闘もこなすくらいだから筋肉ムキムキのおじさんが出てくるかと思ったがそんなことはなかった。

異能は雷を操ることができるという能力。ヒーロー映画に出てきそうな能力だ。俺の異能もこういうものだと嬉しいんだけど、どうなのだろう。

 

各々の紹介が終わったところでアルカさんが口を開いた。

 

「今いるのはこれで全員だね。メンバーは後二人いるんだけど、まあ後日改めて挨拶すればいいだろう。さて肇君、なにか聞きたいことはあるかい? なんでも聞くと良いよ」

「あ、それじゃあ一つ気になったんですけど。楼歌ちゃんって中学生くらいですよね? さっき危険なこともあると言っていたので、子供がいるのが意外でした」

「ふむ……」

「……」

「あ……」

「ふっ……」

 

俺が疑問を口にしたとたん、その場の空気が静まり返った。

 

アルカさんは何も答えず、灰吼宮ちゃんは俯いていて表情がわからない。

煉谷さんは驚いたように口元に手をやり、葉月さんも口元を抑えている。葉月さん、笑いをこらえてないか?

 

とりあえず自分の一言によってこの状況になってしまったのは間違いない。なんだ、子供扱いは嫌だったのか!?

 

「あー、えっと、()()()()()()。ごめんね? 別に子供扱いしているわけじゃ」

「……ない」

「え?」

「私は中学生じゃない! もう28歳のお姉さんなんだから!!!」

「ぐへぁッ!?」

 

楼歌ちゃ───いや、灰吼宮さんの拳を受けて、俺の体が宙を舞う。

車に轢かれるってこんな感じなのか、などと変な思考をしながら地面に激突し、ごろごろと転がりながらやがて止まった。

殴られた顔面と強打した背中の痛みに苦しみつつ、俺はもう二度とこんな過ちをするまいと心に誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後ほど、灰吼宮さんにはしっかり謝罪して許してもらうことができた。良かった……。




あとがきでは出てきた異能を載せていきます。



異能:『感知網』
使用者:アルカ・ロンジェナート
透明の糸を張り巡らし、意図に触れた相手が、事前に指定した条件に合っていた場合、異能使用者に対して反応を返す能力。
街を覆うほどの射程距離を誇るが、攻撃力は皆無であり、糸も自分自身で現地に行って張り付けていかねばならない。


異能:『灰色狼』
使用者:灰吼宮 楼歌
魔力で象った狼を使役する眷属系の異能。


異能:『火竜』
使用者:煉谷 氷愛
自身の周囲にある熱エネルギーを吸収し、蓄え、自由自在に操る現象系の異能。


異能:『雷人』
使用者:葉月 宗介
体中から雷を放出し、自由自在に操る現象系の異能。


異能:『????』
使用者:櫟 肇
詳細不明。
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