失われし英雄譚【一次募集終了】   作:雪兎の手

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ギリギリ三月中に間に合いました。


第二話【魔力の効能】

 異能者に目覚めた者は総じて魔力を持つが、その使い道は大きく三つに分類されるという。

 

 

 一つ目はもちろん異能。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その能力のエネルギー源となるのが魔力というわけだ。

 

 二つ目は自身の肉体の回復……これは意識がなくとも()()()()()()本能により自動で行われるようで、俺が受けた傷が回復したのもこれによるものらしい。

 

 三つ目が身体能力の強化。魔力を消費して肉体を強化することで、強化系の異能には敵わないながらも一時的に常人を超えた力を引き出すことができるらしい。

 

 

 なぜらしいらしいという言い方をしているのかというと、俺はこの三つの中で一つも使い方を理解していないからだ。

こんなことは初めてらしく、アルカさん含めあの場のメンバー全員が不思議そうにしていた。

異能者相手に戦うこともある関係上、このまま仕事に出すのはまずいということで、正式に契約を結んだ後に俺の猛特訓が始まったのだった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

来巣探偵事務所、その執務室内にて。

はれて新入社員になった俺と部屋の主であるアルカさんは向かい合って立っていた。

これから異能者としての基礎技能を習得してもらうとのことだが……。

 

「それで、俺はなにをすればいいんですか?」

「まずは回復の練習と魔力の自覚を兼ねて訓練を行っていこうか。とりあえずこちらに手を出してもらえるかな?」

 

俺が尋ねるとアルカさんはなんでもないように片手をこちらに伸ばしてきた。その手には一振りのクラフトナイフが握られている。すごく嫌な予感がするのだが、このまま見つめ合っていても埒が明かない。

 

……ええい、ままよ!

 

俺は仕方なく手を差し出した。

 

「……どうぞ」

「ありがとう。では失礼して」

「いっ!」

 

アルカさんはさっと俺の手を取ったかと思うと、機敏な動きで手のひらの真ん中あたりをナイフで切りつける。

痛みに思わず手を引きそうになるが、アルカさんががっちり掴んでいるのでびくとも動かなかった。

いや力強すぎない? 一応俺も成人男性なんだけど。

これが前に聞いた身体能力の強化というやつなのかもしれない。

 

「落ち着いて。傷に集中するんだ。痛むかい?」

「そりゃっ、切られたんで痛みますけど」

「痛み以外は? なにか他には感じることは?」

 

他の感覚と言われても……。

と思ったが、落ち着いて集中してみると痛み以外にも感じるものがある。

脈動しながら体を巡り、切り傷から流れ出す血の流れ、そして肉が持ち上がり繋がるような感覚。

 

「これは。傷が治った?」

「上手くいったようで良かった。これが異能者の治癒、ひいては魔力の感覚の基本だ。その感覚を忘れないようにね」

「はい! ……そういえば血で部屋を汚しちゃいましたけど大丈夫ですか?」

 

緊張と困惑で忘れていたが、ここは室内。しかも高級そうなアンティーク品が並ぶ執務室だ。

床に敷いてあるカーペットだけでも相当値段がはりそうなもの。

そう思い、急いで足元を確認するも、そこには血どころか汚れ一つないカーペットがあるだけだった。

 

「あれ……? 血の跡も無い?」

「異能者の欠損した肉体はその箇所の再生を行ったときに消滅するからね。血液もまた消えていくから心配は必要ないよ」

「あ、そうなんですね。よかった」

「ひとまず治癒については今のように繰り返して練習しておくように。次は身体能力の強化の習得を目指そうか。まだ館内に慣れていないだろうから一応案内をするよ」

 

そう言うとアルカさんが俺の横を通り抜けて扉へと向かう。

正直何回か来るうちに訓練場の場所くらいなら覚えたのだが、せっかくの厚意を無駄にするのもあまりよくないと思い、俺も後ろに続いた。

 

そして次は身体の強化か。今のところ俺は異能を使えないので、戦力としてはただの生命力の強い一般人レベルでしかない。

自分の身を守るという意味でも早く身に着けたいな。

 

と、考えているとふと気になることに思い至った。丁度良いし、アルカさんに聞いてみよう。

 

「そういえば、魔力は時間経過で回復するって言ってましたけど。もし()()()()()()()()()()()()()()()()どうなるんです?」

 

アルカさんは歩みを止めると、こちらを振り返って真面目な顔で言った。

 

「死ぬよ。正確には、全身が灰のようにボロボロに崩れて消滅する」

「え……」

「過去に異能者同士の戦闘で実際に起きた出来事だ。異能研究会という組織が映像に収めることにも成功している。とはいえ、現時点ではデータが少なすぎてすべての異能者がこうなるとは言い切れないが」

「勝手なイメージですけど、異能者は不死身になるのかと思ってました」

「魔力があれば死なないから半分は正解だけどね。君も魔力が切れそうになったら逃げることも視野に入れて行動するように」

 

俺が忠告に対してはい、と返事をするとアルカさんは一度頷いて部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「紹介しよう。今日の君の訓練に協力してくれる蜥川 蜴信(せきかわ えきのぶ)君だよ」

「ういっす! 俺は蜥川蜴信! 肇君っすよね? 宜しくぅ!」

「よろしくお願いします!」

 

訓練場では上下のジャージを着た金髪の男が待っていた。

陽気でイケメン。かなりモテていそうな人だ。くっ、眩しい……。

 

「えっと、蜥川さん」

「タメだし敬語は無しでいいっすよ。肇君。なんなら俺のことはノブって呼んでもいいっすよ!」

「じゃあ、ノブで。俺も君付けは無しでいいよ。ちょっとくすぐったいし」

 

蜥川さん……ノブに話しかけると気さくに応じてくれた。彼と俺は同い年らしい。

きっとアルカさんもそれを鑑みて彼を訓練の補助者に選んでくれたのだろう。

 

「肇。君は異能がまだ使えない関係上、荒事に対処する場合には肉弾戦が主になるだろう。蜥川君から教わって習得を目指すように」

「はい!」

 

 

──────────

 

 

 

そんなこんなで訓練が始まったのだが……

 

 

「うおおおおおおお!!!」

「頑張るっす! 大事なのは気合っすよ! もっと全力を絞り出して!」

「うがああああああああああああ!!!!!」

 

いまなにをやっているかというと握力測定だ。きっとみんなも学校の体力測定なんかでやったことあると思うが、あの測定器を使って計測を繰り返している。

 

「ど、どう!?」

「うーん。55キロ……最初よりはマシになってるけどまだまだ目標の100キロには遠いすねぇ。強化系の異能でなくてもそれぐらいは余裕で出るはずなんすけど」

 

異能者であればそこまで難しい技術ではない身体強化。

しかし、残念なことに俺にはその才能も無いらしかった。

これまで走力、跳力、打力など様々な角度から試してみたのだが、成果はゼロ。

多少鍛えている一般人程度の身体能力しか発揮することはできず、現在は測りやすい握力で感覚を掴もうとしているところだ。

 

「ノブはすぐ使えるようになったのか?」

「俺の場合は、割とすぐに使えるようになったすけどね。こう……異能を使う時と同じような感覚で」

「そっか。俺も異能が使えればなあ」

 

なにか得られないかと、先ほどできたばかりの友人に話を聞くも、あまり成果は得られずにがくりと肩を落とした。

やはり俺には才能が無いのだろうか……と、ついネガティブなほうに考えてしまう。

そもそも俺の人生、何もいいことなんてなかったし……

 

「まあまあ。そう気負わなくても、異能を使えるようになるまで時間がかかる場合もあるらしいし、鍛錬あるのみっす!」

 

悪い方向へ思考が行きそうになったその時、ノブが笑いながら肩をバンバンと叩いてくる。

彼なりのエールというやつだろう。

正直結構な力で叩かれて痛いのだが、それが逆に悪い思考から抜け出すきっかけとなった。

そうだ。訓練はまだ初日だし、ほんの少しづつだが成長はしている。

そもそも、あの時異能者になったから死ななかったし、あの事件がなければ今も目標の無いままアルバイトをして燻っていたままだっただろう。それに比べれば全然マシなはずだ。

 

「うん、この訓練の途中で異能も目覚めるかもしれないしな。よし! ノブ、今日は夜まで付き合ってくれ!」

「おお! ハジメ、その意気っす! 友達の為ならいくらでも付き合うっすよ!!!」

 

知り合ったばかりの俺の願いに、ノブは自身の胸をドンと叩きながら快く笑顔で応じてくれる。やはりこの人は良い人だ。

俺も早く並び立てるようになりたい。そう、強く決意した。

 

 

 

 

 

結局その日は日付が変わるまで鍛錬と測定を繰り返した。

最後まで決定的な感覚は掴めなかったが、最初に比べれば身体能力はほんのちょっぴり強化できるようになった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

訓練開始から一週間後、来巣探偵事務所内の訓練場にて。

肇は一人、黙々と筋トレメニューをこなしている。

その姿をアルカは廊下の窓から静かに見つめていた。

 

実際のところ、異能者になった者が(たとえそれが戦闘を生業にする者であっても)基礎的なトレーニングをすることはあまり無い。

魔力による強化があれば多少の筋肉量や体格差などあまり関係はなくなるうえ、肉体の再生機能のせいで筋肉の疲労まで修復されてしまうため効率も悪いからだ。

ゆえに、武術等の技術的な鍛錬を除き、肉体自体を鍛えることはまれであり、その分異能の強化に時間を使った方が有意義であると考えられてた。

 

それでも肇が筋トレを続けているのは僅かながら成長が続いているからである。彼の握力は現在───81キロ。たった一週間で+26キロの増加は通常の筋肉肥大のみによるものとは考えにくく、それはつまり彼の魔力によって強化されたものだと推察される。

 

ふむ、とアルカは顎に手を添えて暫し思考に浸る。頭の中で仮定し、理論を構築していく。彼女はこの時間をとても好んでいたし、また大切にもしていた。一見して何も感じられない事象であろうとも、そこには興味深い事実が隠されていることもある。

 

「単純な身体能力の強化にしては効果が微々たるものだ。ならば強化系の異能? いやしかし、そうだとしたら効果が少なすぎる。異能の才、魔力の才が彼にはない? だとしたらその原因は……いやまだそうと決まったわけではないか……」

 

思考が巡る。

アルカは真相を探りに異国まで来るほどに、異能という存在に興味を持っていた。

自身の持つ()()のように血筋も歴史も理論もなく、突如もたらされる限定的な超能力。

まるで神に与えられたかのようなその存在は彼女の知的好奇心を強く刺激する。

 

「ん……」

 

と、その思考を閉ざすようにアルカの脳に情報が伝達される。彼女の異能『感知網』が、とある場所での異能の行使を捉えたのだ。

 

「ちょうど良いタイミングだね。肇と……白銀(しろがね)君に行ってもらおうか」

 

アルカは先ほどまでの思考を中断し、本来の業務へと意識を切り替えた。

来巣探偵事務所が非公認ではあるが、異能犯罪対策課によって存在が認められているのはアルカによる優れた探知能力と事務所に所属するメンバーによる仕事の実績があるからだ。それを疎かにすることはできない。

 

 

『ですから、こちらとしては独立してやっていきたいと考えています。それはこの事務所を立ち上げた時に認められたはず』

『そうか。だがそれはお前の考えであって全く合理的ではない。それに認証に関しては俺は反対だった。俺はお前を完全には信用できないし、お前が失われるリスクもできるだけ取り除いておきたい』

『それも貴方の主観だ。そもそも私がこの能力を持っている以上、選択権は私にある。そのことを忘れないでいただきたい』

 

 

異能犯罪対策課の()()()()()()()()とのやり取りを思い出し、アルカはため息を吐いた。

彼の主張にも一理ある。だが彼女としては、公的機関による縛りはあまり好ましいものではない。

少なくとも自身の研究が一段落するまではこの現状を維持したかった。

 

アルカは一度目を瞑って呼吸し、逸れた思考を振り払った。

今は仕事に集中すべきだ。今度こそ気を取り直し、メールを打ち込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

初夏が近づく中、櫟肇の異能者としての初仕事が直前まで迫っていた。




祈願花さんに投稿していただいた白銀紘平というキャラクターですが、読み方はしろがねこうへいであってますかね?違ったら連絡ください。



今回のこそこそ異能紹介(まだ蜥蜴男は出てないけど一応紹介)。

異能:『感知網』
使用者:アルカ・ロンジェナート
透明の糸を張り巡らし、意図に触れた相手が、事前に指定した条件に合っていた場合、異能使用者に対して反応を返す能力。
街を覆うほどの射程距離を誇るが、攻撃力は皆無であり、糸も自分自身で現地に行って張り付けていかねばならない。

異能:『????』
使用者:櫟 肇
詳細不明。

異能:『蜥蜴男』
使用者:蜥川蜴信
トカゲの獣人になるシンプルな変身・異形化能力。
ただし、変身出来るものが自分が飼育しているトカゲのみという特徴により、能力に幅を持たせる事と低燃費を実現している。
今はまだ1日に2種類しか変身出来ない。
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