レグロスの勇者道~少年は真の勇者を目指して進む~   作:太洋 心

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第13話 それぞれが見据えるもの

 あの戦いから一週間近くが経過した。

 負傷したレグロス達は学園サイドの治癒もあって完全に復活を果たし以降はいつも通りの日常へと戻っている。

 ただそんな日々の中にも確実な変化は起きていた。

 

「ふぅ……っ……」

 

 修練場に散らばる訓練用ターゲットの破片。

 その中心に立っているのはジィルだった。

 頬を伝う大粒の汗を拭いながら息を吐き、拳を強く握りしめている。

 

《チッ……!? なんだ、こいつのスピリットの質――》

 

 思い返すのはやはり先日の壊人との戦い。

 そんな中指摘された己のスピリットの質。

 理由ははっきりと分かっている。

 

(後悔はない……だが……)

 

 やろうと思えばもっと早く、そしてもっと強い力を発揮出来た。

 その事実、そして自覚、あの場面ですら躊躇した己の半端さ、その全てがジィルの心に無視の出来ない燻りを生む。

 

(こんなんじゃ駄目だ……まずは精神から乗り越える!)

 

 そんな確かな決意を、相も変わらず表情には出さないままに抱きジィルは再び激しい訓練を開始した。

 

 

◯●

 

 

「……ふぅぅ……」

 

 一方外で汗だくのままに行きを吐くのはヴァルク。

 ずっと走りこんでいたため体中を強い疲労感が襲っている感覚が確かにある。

 それでもヴァルクは再び走り始めた。

 その胸中に渦巻くのもやはり同じく先日の戦いだ。

 

(オレの力は確かに出し尽くした……だが)

 

 知っていたはずだ。

 天才と呼ばれようとも上が存在する事など。

 それでも今回ぶつかった壁はヴァルクが想像するよりも遥かに高かった。

 

(挙句の果てに……助けられなきゃ死んでいた、だと?)

 

 地に伏せる己の有様。

 曲がりなりにも自分の強さにある程度の自信を持って育ったヴァルクにとって、それは屈辱以外のなにものでもない。

 戦いを楽しみ、刺激を求めるスタンスに変化はない。

 だがそれだけでは駄目だという事が魂で理解出来る。

 だからこそヴァルクは傷が癒えてすぐに自身を磨き直し始めたのである。

 

「負けねぇ……オレはこんなところで止まらねぇ……!」

 

 自惚れではなく才能は確かにあるはずなのだ。

 ならばその才能をひたすらに磨き上げるまで。

 超えるべき壁は多く、そのいずれもが今は高く感じられる。

 だからこそ超える価値がある、少なくとも今のヴァルクはそう感じていた。

 

「やってやるよ……!ヴァルク・ディ・ティグレノはまだまだここからだ!」

 

 なお、大量の汗を流しつつ延々と笑いながら走る若き天才を周囲の生徒達はドン引きしながら見つめていたが本人は特に気にしていなかった。

 

 

〇●

 

 

「ティアハちゃん、なにか悩み事?」

 

「え?」

 

 ふと声をかけられた事でティアハはハッとする。

 声のした方向に目を向けるとそこには明るい雰囲気漂う少女がいた。

 彼女の名前はフェロウ・グスティ。

 最近になってティアハが仲良くなり始めた生徒の一人である。

 

「い、いえ。別に悩み事なんて――」

 

「ホントかなぁ……ティアハちゃんって抱え込んじゃいそうなタイプだから心配なんだけど」

 

「う……」

 

 その通りすぎてぐうの音も出ない。

 そんな言葉に詰まるティアハを見てフェロウはにまーっと笑みを見せた。

 

「わっかりやすいなぁ……やっぱり噂になってるこの前の任務?」

 

「……はい」

 

 奇跡的に犠牲者を誰一人出さずに済んだあの緊急任務。

 あの戦いを経てティアハが感じたものは達成感よりも無力感だった。

 多少は力になれた自覚はある。

 だがもっと自分が強ければ、という思考はどうしても消えてくれない。

 

「……それならさ、今日はちょっと気分転換しない?」

 

「気分転換、ですか?」

 

 フェロウの突然の提案にティアハは首を傾げた。

 

「そ!悩んでばかりいても中々解決って出来ないしさ?」

 

 それは良くも悪くも真面目で抱え込みやすいティアハには思いつかない類の選択肢。

 そして同時に一理ある選択肢でもある。

 このまま悩み続けても時間の浪費にしかならない事はティアハも理解していた。

 

「ほら、行こ?娯楽ならこのフェロウちゃんにお任せあれ!」

 

「あ、ちょっ……フェロウさん!?」

 

 こうしてティアハはフェロウに引っ張られていった。

 

(でも……そうですね、一回気分を切り替えてもう一度……頑張らないと)

 

 どこか楽しげに小さな笑みを浮かべながらティアハはそっと決意する。

 今、自分を引っ張ってくれている友人に、そして今も頑張っている最初の友人である彼に恥じない自分であろうと。

 ――そのためにもっと強くなろう、と。

 

◯●

 

 

 そして勿論この男も当然――何かがぶつかり合う音を大きく響かせながら汗を流していた。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

「病み上がりの割には動けてるんじゃない? まぁまだまだである事に変わりないけど」

 

「余裕な顔してるのなんか……腹立ちますね、相変わらず……」

 

 それだけ呟くと滝のように流しているレグロスは地面に倒れ伏す。

 かれこれ結構な時間トレーニングを続けていたからか流石に体力は底を尽きていた。

 対しそれに付きあってくれている己の師は全然平気そうなのが少しだけ癪である。

 

「入学の前と比べれば強くはなってるけど、まぁ予想の範囲内って感じだねぇ」

 

「……」

 

「伸びる余地はいくらでもあるんだ、どうせならここから予想を大きく超えてくれる事を期待してるよ」

 

「師匠の期待はともかく……頑張りはしますよ」

 

 改めて気づかされる師の強さと己の弱さ。

 だがへこたれている暇もない。

 足を止めるという選択肢は最初から存在しない。

 全ては己の夢を叶えるために。

 

「後は経験かな、トレーニングは重要だけど経験の蓄積も成長に必要な要素だからね」

 

「経験……」

 

「ま、そこは心配いらなさそうだよ? 中々に丁度いい機会が巡ってきそうだ」

 

「?」

 

 一体師匠がなにを言っているのか、それはレグロスにも理解は出来なかった。

 だがその表情がちょっと楽し気というのは理解出来たため若干嫌な予感も感じる。

 この師が楽しそうにしてると大抵面倒な事になるのだ。

 子供の頃からの経験則である。

 

「任務のラッシュも落ち着いてきた、と言う事でレグロス……良い経験が積めそうな舞台は用意してあげるよ」

 

 受けるかは君次第だ、みたいな口調だが絶対受けさせるという無駄に強い意思を感じレグロスはため息を吐く。

 ――新しい出会いと戦いの幕が確かに開こうとしていた。

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