レグロスの勇者道~少年は真の勇者を目指して進む~ 作:太洋 心
「……」
レグロスはただ空を見つめていた。
そこには先ほどの砲撃で穿たれて大きな穴を開けた雲。
そして晴天が広がっている。
景色だけなら清々しいことこの上ない――だが。
「レグロス、無事か」
「先輩方、先生も」
そんなところへ駆けつけたのはグストル達だった。
「急に奴らが撤退をした……なにが起こった?」
「僕にもよくは……恐らくウツシと呼ばれた彼がやられたからかと」
「……勝ったのか」
グストルの声音には称賛と少しの驚きが混じっている。
強者である彼が敗北に驚く程度にはウツシもまた強者だった。
おそらくそういう事なのだろう。
「えぇなんとか勝ちました……でも」
「でも、どうしたんですー?」
「逃げられましたね、多分」
レグロスがそう判断した理由はただ一つ。
最後の砲撃で手ごたえが感じられなかったからだ。
砲撃なのに手ごたえ、というのもなにかおかしい感じはするが。
「ま、とりあえず全員無事だったんだから良かったじゃない」
「そのとおりだ、とにかく今の内に予定通り拠点へ撤退すべきだろう。それでいいか、グストル」
「えぇ問題ないです、行くぞレグロス」
「……はい」
色々と気になる事は未だにある。
一体ウツシは何者だったのか。
何故こうも互いに不思議な感覚を感じたのか。
どうにもそこにはなにか、只ならぬものがある――レグロスはそう思えてならなかった。
(だけど……)
今は考えなくてもいい。
何故ならこの答えはいつか必ず辿り着く。
その確信があった。
理由はただ一つ。
(彼は……ウツシは多分生きている、ならきっとまた現れる)
その時か、さらに先か。
きっといつか自分達の間にあるなにかを知る日が来る。
レグロスはそう考えつつグストル達と共に拠点に戻っていった。
――まだ他に考えるべきこと、やるべきことは残っているのだから。
◇ ◇ ◇ ◇
「ッ……ぐっ」
「オイオイ、だらしネェぞォ? ウツシィ」
「うるさい……!」
暗い空間の中。
ボロボロのウツシは苛立ちを隠すこともなくグルイを睨み付ける。
(負けた……奴に、完全に)
変えようのない忌々しい事実。
それがウツシの心をジワジワと蝕んでいく。
そもそも何故こんなにもレグロスに対し不思議なものを感じるのか。
ウツシ自身もそこはハッキリと理解出来ていない。
(不愉快だ……奴の存在が俺の中の何かをザワつかせる)
ウツシは得体のしれないその感覚を”不愉快”と称する。
だからこそ。
「奴……レグロス、とか呼ばれてたな」
「おォ? そうだナァ」
「あいつは俺が殺す――邪魔はするなよ」
排除せねばならない。
ターゲットの命を奪い闇に葬る
幼い頃からそんな組織にいながらウツシは初めて明確な敵意と殺意を持って刃を振るう決意をした。
◇ ◇ ◇ ◇
「始末屋とやらは撤退か、思いのほかだらしない」
「ですが契約は切れておりません、次回以降に期待したいところですね」
「そのように上手くいけばいいですけれど」
暗闇の中で数人の男女がそんな言葉を交わす。
その声音はどことなく楽しそうで、けれどどこか悍ましさを感じさせる。
「ヴェルトロ……あの阿呆が調子の乗って勝手な真似をしたばかりに……」
「怒ったところで無駄だ、ヴェルトロは勇者サフェロによって葬られているのだから」
『……』
ヴェルトロ。
それは先日、愚かにも派手に動いた挙句に勇者の手で始末された
だが、その死を惜しんでいる者など一人もいない。
彼ら自身に仲間意識が薄いというのもあるのだろうが、なによりもそんな愚か者のせいで面倒なことになっているのだ。
ハッキリ言って惜しんでやる理由はなかった。
「……このような話をしたところで意味はないな、のんびりとした日々を過ごす余裕は我々にはない」
「この世界も露見しました、入口を閉じたとしても勇者達ならこじ開けられる」
「面倒な話です、ですがどうするのですか?」
「彼らは人間だ、来るとしても準備がいるだろう」
そう発言した男は椅子に腰かけたまま、口元を歪ませる。
「我々も少し準備を進めて……先手を取ってやろうじゃないか」
その眼は暗闇の中でも怪しげに輝きを放っていた。
同時に周囲にいる者達も歪んだ笑みを浮かべている。
「了解致しました……準備の方はお任せを」
「人類との正面衝突、になるのかしら。まぁ遅かれ早かれね」
「その通りだ……我々の野望、
一瞬の雷光。
その光が暗かった室内を照らしだす。
「我々、壊人の手で使命を果たし……世界を破壊し新世界を創造する」
無数の壊人達はその意見に賛同するように各々が声を上げて笑い出すのだった。
――それぞれの思い、思惑を胸に、世界は少しずつ進んでいく。
大きなうねりを上げながら。