バッタオーグになりまして   作:呼び水の主

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共同戦線!

 

「お願い!誰か!誰か、誰か助けてェーー!」

 

 薄暗い教会の中で、1人の若い女が突如現れた怪人から逃げ惑っていた。彼女は結婚式場の下見に来ていたところを、怪人、コンドル・オーグメントに突然襲撃されたのだ。彼女を守ろうとした最愛のパートナーや職員はコンドルオーグに随伴する覆面の男たちによって取り押さえられ、意識を刈り取られていた。

 遂に逃げ場を失い壁を背に腰を抜かした女性を前に、コンドルオーグがその鳥類を模したメカニカルで不気味なマスクの下で舌なめずりをした。

 

「あははっ!おめでとうぅ!貴女は採血の結果、ナノマシン適合率50%と診断されましたぁ!」

「な、なにっ!?なんなの!?」

「覚えがないかなぁ?先月会社から案内のあった定期検診さぁ。アレ、新型の適合者探しの一環なんだよぉ?なかなか見つからなくて苦労してるんだよねぇ。いやぁホント、君に出逢えた奇跡に乾杯」

 

 コンドルオーグのクチバシを象る部分がガシャリと音を立てて開口し、そこから覗くおぞましく変色した口から覗かせた舌で女性のロングヘアをべろりとなぞった。

 

「ヒッ……!?」

「怖がらないでぇ?これから僕らは新しく同僚になるんだよぉ?まぁ、確率は五分五分だけどね。適合に失敗すれば君は死ぬほど苦しんだ後に泡になって消滅!アハ!まるで人魚姫みたいだねぇ!」

 

 コンドルオーグが取り出したのは一本の注射器。しかしその容器の中身には怪しく蠢めくおびただしい数の、極小のナニカが詰められいた。

 

「精々頑張ってニンゲンになって見せてよ。マーメイド?」

 

 女性の首筋を強引に曝け出し、コンドルオーグが注射器を構えた。

 その尋常ならざる怪力に、その粘つくような吐息と口調に、人を恐怖させる為にその風貌に、その女性は涙を両目いっぱいにためながらも、最後の抵抗とばかりに力の限り叫んだ。

 

「誰か、助けて──────!!」

「無駄だってぇ!誰も君を助けに来ない!ほら!早く僕を受け入れてぇ!」

 

 ヴォォォォォォン!

 

「なんだ!?」

 

 女性の叫びに応えるように、獣の咆哮のようなエンジン音が不自然なまでに静謐さを保っていた教会内に木霊した。そして木製で堅牢そうなドアを叩き割り、前面カウルに備わった大きな単眼を煌々と輝かせながら大型バイクが飛び込んできた。

 

「トォッ!」

 

 2人乗りの後ろに跨っていた若い男が急ブレーキをかけたバイクの勢いを利用して前方へと跳躍し、空中で戦闘の構えをとった。

 

「テリャァッ!」

「グァッ!?アンプルが!?」

 

 乱入してきた男の空中キックにより、コンドルオーグが吹き飛ばされその手に持っていた注射器もまた転がり落ちる。

 

「クソ!いいところだったのにぃぃぃぃ!!」

「ハァ!」

 

 その謎の青年はコンドルオーグを蹴り飛ばし、そのまま勢いを殺さず前転着地して徒手空拳で更に肉薄して打撃を加えた。その攻撃のあまりの衝撃に、コンドルオーグは相手がただの人間でない事を悟る。がむしゃらに振るわれた腕による横薙ぎをバク宙で躱し、青年がコンドルオーグから距離を取った。その背後でバイクを運転していたもう1人の乱入者がコンドルオーグの標的になっていた女性を救い出し、再びバイクへと跨った。

 

「シロウさん!」

「その人を連れて行ってください!あとさんじゃなくて呼び捨てでお願いします!」

「わかったわ!シロウも無事で!」

 

 エンジンが再び唸りを上げ、瞬く間に教会から脱出した。

 救助された女性は、あまりの急展開に目を瞬きながら何が起こっているのか、今自分の前でバイクを運転しているおそらく女性だろう細身のライダースーツの人物に声ならぬ声を上げた。

 

「あ、あなた達は……!?」

「私たちは貴女を助けにきたの。だから安心して」

「教会の中にまだ彼がッ!私のパートナーが取り残されてるの!」

「大丈夫」

 

 謎のライダースーツの女は教会を振り返りもせず、けれど揺らがぬ声でこう言った。

 

「仮面ライダーが来たもの」

 

 

 アンチSHOCKER同盟のスクランブルを受けて、政府の用意したセーフハウスからバイクで現場に直行すること10分。

 立花さんの素早い現地の所轄警察との連携がなきゃ、交通整理含めてここまで素早く動けなかっただろう。一分一秒を争う緊急出動。立花さん達が用意してくれたオレ専用のオーグメント対応型魔改造バイクのスピードじゃなきゃ間に合わなかっただろう。狭い裏通りでも小回りが効くから現着も速い!

 

 ちなみにオレは免許がなくて運転できない。けどオーグメント用に調整されたこの文字通り暴れ馬を、同盟の人たちが運転してオレを後ろに跨らせるってのも無理な話。

 免許なしで運転しちゃダメかな?って聞いたんだけど、立花さんや滝さんから滅法怒られた。未成年の無免許運転による事故発生率や死亡事件とか現職の警察官まで来て2時間くらい講習された。いや、まあ、叱ってくれる大人ってのは大事だよっておばあちゃんも言ってたし、オレもつい出来心でいらぬ発言をしてしまったと猛省している。無免許運転、ダメ絶対。

 ルリ子さんからは『免許取れば?』で流された。オレへの返答が軽い。軽くない?

 

 えぇと、16歳で取れる免許は普通二輪まで。排気量50〜400ccの間のバイクのことかぁ。あの、ちなみにこのバイクって……え?排気量3万cc……?万って、ナニ……?え?ジェットエンジン?バイクだよ?戦闘機の話じゃないよ?なになに?空も飛べるから実質戦闘機!?すっげぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?空飛ぶバイクカッコいいぃぃぃぃぃぃぃ!?

 

 じゃなくて!!!

 これ16歳で取れる免許だと絶対乗れないモンスターマシンじゃんかぁ!!!やだぁぁぁぁぁ運転したいぃぃぃぃ!バイクに乗らなきゃライダーじゃないもぉぉぉん!そんなの仮面ウォーカーだもぉぉぉん!!

 そんなオレのバイク乗れない問題はヒロミさんの一言で意外な形で解決した。

 

「あ、私、免許持ってるわよ?」

『そういえば免許マニアだったわね。というより成金趣味の延長というか……』

「ルリルリ。シロウさんの前で成金趣味とかやめてもらえるかしら?」

『だって事実じゃない』

「ハァ〜!?違うんですけどぉ!?多様な人生経験を積むための一環だったんですけどぉ!?」

『普通は人生経験目的で飛行機とか船舶免許は取らないわよ。ねぇ、シロウ』

「エッ!?ヒロミさん飛行機運転できるんですか!?スゴイ!!!!!」

「ヴッ(推しに褒められて気絶する音)」

 

 すなわち、ヒロミさんが運転するバイクに2人乗り作戦である。

 まさかヒロミさんが大型バイクの免許持ってるなんてなぁ。女性が大きい乗り物運転してるのって、なんかギャップがあってカッコいいよね!

 ちなみに、ヒロミさんのライダースーツはボディラインが強調されるタイプのピッチリスーツで相乗りするオレを非常に悩ませた。試練?試練なの……?ヒロミさんも年上らしく堂々としてください!手が触れるたびに「あ……」とか声出したり頬を赤らめるのやめてぇ!妙に恥ずかしがるからこっちもつられてドキドキしちゃうんですよ!うわーん!元健全男子高校生には刺激が強すぎるヨォ!!!

 

『ヒロミ、相手は16歳よ。犯罪だわ……』

「す、好きに年齢とか関係ないでしょう!?」

「ややこしくなるんでルリ子さんはちょっと黙っててくれます?あと、ヒロミさんは、その……。あ、ありがとうございます……?」

「あ、う、うん……。えへへ」

『シロウ、私コーヒーおかわり。ブラックよ』

「飲めないでしょ何言ってんですか!」

 

 あの一件から好意を隠そうとしないヒロミさんに、オレはいつも翻弄されている。学校に通っていた人間だった頃は、女の人にこんなにドキドキするとかなかったし、オレはこの気持ちをどうしたらいいのかサッパリわからない。こんな時、どんな顔すればいいかわからないの……。

『笑えばいいと思うわ』

 真顔で言われても説得力ないですよルリ子さん!

 

 おっと話が逸れたな。それじゃあ回想終わり!

 そういうわけで!仮面ライダー!ただいま現着!!

 SHOCKER!お前らの悪事もここまでだ!人の幸せを祈る結婚式場での蛮行は、このオレが許さないぜ!

 

「変身ッ!ブイッツゥァ!」

 

 ※

 

 コンドルオーグを無事に倒し、襲われていた人々を救出した俺とヒロミさんは後の事を警察に任せセーフハウスへと帰宅した。バイクをガレージに入れて玄関をくぐる。以前は無機質だったこのセーフハウスも劇的ビフォーアフター。ヒロミさんの趣味でセンスのいい和テイストでまとめられた内装と家具がオレたちを出迎える。ただのセーフハウスにここまで予算をかけるなんて、とルリ子さんは呆れていたが。オレは好きだな。なんだか帰ってきた、って感じがする。ここが今のオレたちの家だ。

 

 リビングに入ると中には一文字さんと立花さん、滝さんがいた。

 

「よーう後輩!元気そうでなによりだ」

「一文字さん!」

「ほー?ほんとにカタコト直ったんだな!見た目もなんかオシャレになってないか?」

 

 一文字さんが嬉しそうにオレの肩を軽く叩く。

 いつもニコニコ笑顔で、オレ、この人好きだ……。頼り甲斐のある兄貴分って感じ?

 

「風見志郎。新調したスーツの使い心地はどうだろうか」

 

 立花さんが尋ねてくる。

 オレの新しいスーツ。コウモリオーグ戦でボロボロになったソレを、立花さんが新しく作り直してくれたのだ。もちろん立花さんの手縫とかじゃないよ?

 

「ハイ!動きやすいし、あとカッコいいです!ありがとうございます立花さん!」

「……そうか」

 

 立花さんが眼鏡をクイッと上げて光らせる。あ!眼鏡の人がやるカッコいいポーズ。眼鏡の人がやるカッコいいポーズだ!

 

「さて、我々が集まったのは他でもない」

「これまで散発的に発生していたオーグメントによる襲撃事件、それらを調査した結果、遂にSHOCKERの本拠地と思われる場所を特定した」

 

 立花さんの説明を後ろに控えていた滝さんが引き継ぐ。

 オレがコウモリおっさんを倒してから、これまで13件のオーグメント被害が発生している。それをオレと一文字さん、最近はヒロミさんも加えて対処してきたのである。

 

 SHOCKERの本拠地。遂に、妹を助けることができるかもしれない。待っててくれ、ユキ。にいちゃんが必ず助けてやるからな!

 

 

 

 

【都内某所 3ヶ月前】

 

 とある政府の施設の地下室で、一人の男が拘束されている。

 その男はこの1ヶ月間ここへ拘束され続けていた。

 人ならざる翼や顔を拘束具から覗かせて、男は椅子に縛り付けられていた。

 冷たく無機質な部屋に、カツカツと硬質な床を叩く音が響く。

 常人よりも何倍も優れた感覚期間が遠くからのその音を捉える。

 尋問か。もうそんな時間か、と男は独り言つ。

 体を拘束されても、思考まで縛られていないのは幸いである。

 無限とも感じられる時間の中で、男はその優れた脳を常に回転させることができた。

 

 部屋中に反響していた音が止まり、厳重に施錠された扉が開かれる。

 珍しい事だ、と思った。いつもは強化ガラスごしにこちらを詰問するだけだというのに。

 ギィっと重々しく開いた扉から、眼鏡をかけた髭の男が入室する。いつもの顔ぶれとは違う。なにかしら自分の処遇について変化が起こるのだ、とコウモリオーグメントこと、かつて「多田野」だった男は予感した。

 

「儂はどうなる?」

「我が国は法治国家だ。他のあらゆる犯罪者同様、君にも日本国憲法が適用される」

「フン、素直に死刑だと言い切ればいいものを」

 

 やはり死刑宣告か。

 予想はしていた。情報源にもなりえない脅威をいつまでも飼っておくメリットはない。しかし、コウモリオーグはここで死ぬつもりは毛頭なかった。ここまで大人しく拘束されていたのは、この時のため。

 扉を開けるほど油断したこの瞬間に、体内に仕込んでいた最後のバットヴィルースを利用し、こやつらを操って脱出するのだ。

 

 ククク、ヒィーヒッヒッヒッ!

 コウモリオーグがバットヴィルースを放出しようと顔を上げた瞬間、予想だにしていなかったモノが部屋へと入ってくる。

 

「な!?貴様は!?!?」

 

 そこに立っていたのは、姿形は多少変わっているが、コウモリオーグがこの醜態を晒すことになった元凶にして張本人。

 

「今日から君の()()()()()()()を担当する、風見志郎だ」

「よろしく勇気!!」

「か、仮面ライダーッ!!貴様〜ッ!!」

 

 コウモリオーグにとって史上最悪なカウンセラーが就任してしまった──

 

 




前回から半年開けてしまって誠に申し訳ない。
コメント欄で復帰を望まれてしまっては書かずにいられなかった……。
プロット自体は最終話まであるので必要なのは、モチベだけだ!(某サイボーグ風)
コメントが多いほどモチベーションは維持されますので何卒……。
更新頻度は以前ほどではないですが、完結までお付き合いくださると幸いです。
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