バッタオーグになりまして   作:呼び水の主

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 これまでのあらすじ

 コウモリオーグを捕獲、対話した結果、遂にSHOCKERのアジトを突き止めたアンチSHOCKER同盟の面々。
 SHOCKERは新たな侵略兵器『シン・バットヴィルース』を日本中に散布し、全ての人間を残らず自らに従順な改造人間へと変貌させるという恐るべき計画を練っているという。
 それを阻止、そして攫われた妹ユキを助けるべく、バッタオーグメントこと風見志郎は腰のベルトに風を受け、仮面ライダーに変身。
 そして乗り込んだ基地には、自らをサソリと呼ぶ女が待ち受けていた。
「これは罠よ。私はアナタを助けに来たの」
「……何……だと……」

 ゆらりゆらり、サソリの尾が妖しく揺れる。
 指し示す先は天か、地獄か──

 〜バッタオーグになりまして第13話『怪しい女…』〜


怪しい女…

 

「罠ってどういう事だ!答えろよっ!」

「アハッ!言葉通りの意味だよ?シロウくん?」

 

 SHOCKER基地、地下3階。

 オレに掴まれはだけた胸元から、甘い香りが漂ってきそうな、そんな距離でオレと彼女が睨み合う。彼女の細い手が、そっとオレのマスクに包まれた異形の顔を包みこむ。

 

「なにを……ッ」

「やっと、会えた…… ──」

 

 彼女がオレを見つめる。オレは、その哀しげな瞳から目を逸らせない。心が乱れる。なんだ、オレは、この瞳を、知っている?

 彼女の手がマスクからオレの背中へと回される。柔らかな感触と熱が装甲服越しにオレを包み込む。デ、デデデデデ……デッッッッッッッッッ!!ヤワラカッッッッッッッッッッ!!

 

 一刻を争う電撃作戦の真っ最中だってのに。

 オレの理性は。

 彼女の唇が近づいてくる。通路の硬質な白色灯の光を受けて艶やかに輝くソレの隙間から、彼女の豊かな胸の上下とともに溢れる甘い吐息が、装甲の隙間から露出したオレの肌を撫ぜた。

 蠍の毒が、オレの神経を侵す。

 

 ──振り解かないと/抱きしめたい。

 ──彼女の真意は/何もかもどうでもいい。

 ──罠だ/罠でもいい!

 ──いいわけないだろ!/うるせぇ行こう!ドン!!!

 

 こんな美人でbeautifulで大人でadultなおねーさんに抱きつかれてこれ以上正気でいられるか!高校生(元)なオレにはシゲキがツヨツヨすぎてリセイがパァン!超ッッッッッッッッッエキサイティンティンッッッッッッッッッ!!ライトセーバー起動ッッッブォンブォン!かつてないフォースの高まりを感じる!!オラッ!フォースとともにあれっっっ!!!

 

 完全に熱されたオレの理性が彼女の声の続きをかろうじて捉える。

 耳の奥で暴走列車並に駆け巡る血流がうるさくて、もうほとんど耳に入らないはずのその言葉は──

 

「──私の」

 

 オレの意識を──

 

 

 

「私の、お兄ちゃん」

「────────ハ?」

 

 一瞬にして東京湾へと突き落とした。

 

「ハァァァァァァァァァァァァァァァァ!?!?」

 

 ※

 

 肺に大きく息を吸ってー!吐いてー!

 もう一度大きく息を吸ってー!orzの姿勢でせーのっ!

 

「うそだぁぁぁぁぁぁぁ!嘘だぁぁぁ……!!!」

「原語版だとNOOOOOOOOO!NOOOOOOOOO……!!!ってやつね!」

「黙れよぉぉぉぉ!大体な!言っていい嘘と悪い嘘があるでしょうがっ!ユキが、オレの妹がこんなエッチなはずがないだろっっ!!!」

 

 というかそもそも全くの別人である。

 そうだ冷静になれオレのシロウ。

 この人が言ってる発言は全くの嘘。

 妹を奪われたオレの前に現れて、妹を出汁にオレを煽る。まさにショッカーがやりそうな卑劣な罠だ。そうとわかればめちゃくちゃ腹立ってきた……。家族を拉致され残された兄に対しての仕打ちが最低最悪すぎる……。おのれショッカー!!このオレが許さん!!!

 

 怒りのままに正面に立つ彼女の腕を掴む。

 

「やァン……お兄ちゃん、痛いよぉ……キャッ!?」

「悪いけど、遊びは終わりだ、おねーさん」

 

 オレの繰り出した拳が風圧で彼女の髪を揺らした。

 眼前に繰り出された凶器と違わぬその拳に、反撃するでもなく、怯むでもなく、彼女は静かに佇んでいた。

 

「……ハァ。信じられないのも、当然よね。でも私はサソリ・オーグメントのサソリで、今の私はシロウくんの妹のユキちゃんなのよ」

 

 そして、彼女はポツポツと語り出した。

 ユキが攫われたその後。

 その精神の特異性から通常の魂のサルベージでは定着不可能なサソリ・オーグメントを復活させるため、プラーナ()の補完の為に再生の依代にされた事。

 上書きされるはずだったユキのプラーナ()とサソリオーグのプラーナ()が、一つの器の中で同居している事。

 オーグメントとしての、人と異なる規格に耐えられないユキのプラーナ()が休眠状態にある事。

 

 ※

 

 当初のサソリにとって、ソレは戯れに過ぎなかった。

 不幸にも自身の依代にされた幼い少女が何を思い絶望するのか。

 自身の中で摩耗していくプラーナ()の有り様を観察してみよう。そんなmadnessでinhumanなサソリオーグの歪んだ精神が思いついた戯れだった。

 

 そこに明確な理由なんてない。

 父に虐待された人間だった詩織として昏い過去の復讐も、自己防衛の為に生み出したもう一つの人格であるサソリの意思も、一切介在しない純粋な悪意。

 かつてサソリオーグを構成していた2つの人格は、歪み果て、混ざり、捻れ潰えていた。

 最期はどーしよっかなー。発狂して泣き叫ぶ少女の魂を加工して、キャンディにして喰べちゃっおっカナー?

 アッハハ!これぞ本当のlolli(ロリ)pop candyね!!

 悍ましいサソリオーグの悪意を前に無力な少女が1人。

 ──だが、ヤツ(ユキ)は弾けた。

 

「マジカルミラクル〜!ポイズンスティングッッッ!」

「私のドクが!コドクを癒す!」

『心のキズは!みのがせないっ』

「サソリブラック!」『サソリホワイト!』

「『マジカルミラクル⭐︎ふたり揃って!マジクルスコーピオ!!」』

 

「〜ッッッ!アッハハハハハなによ魔法少女なのに毒が武器ってイカてる〜っ!!」

『まほーしょうじょじゃなくてマジクルなのっ!それにちょっと斜に構えた王道から外れた要素をメインに据える事で歳の割にマセた私たちの世代にブッ刺さったのがこのマジクルシリーズなんだよ?私の世代のマジクルは出刃包丁がメイン武装だったんだけどPTAからクレームが入って急遽十徳ナイフに変更になっちゃったんだー。それもまた渋くてかっこいいんだよ!』

「うわ急に喋るじゃん……。なっちゃったんだー、じゃないでしょ。なに十徳ナイフって。私の子供のときから随分kidsたちの娯楽も殺伐としちゃってるのね……」

『サソリちゃんもこーゆーポイントはおさえておいてねっ!わたしのともだちなんだからマジクルは必須科目だよ!』

「トモ、ダチ……?私が?」

『うん……』

「あら、またおねむの時間?もうちょっと我慢なさいよ。私まだ喋り足りないんだけどー?」

『サソリちゃんは歳の割に元気だねぇ……』

「オイいまなんつった?」

『zzz...』

「あ、寝やがったコイツ!」

 

 ……なんか、普通にEXCITE EXCITEしちゃってるわ私。

 妹とか、いたらこんな感じだったのかしらね。

 まあ、あんな親の元にもう1人の犠牲者がいなくて良かったと思……、なに?この思考は?私が、こんな、マトモなコト考えるのダメでしょ?今更……っ!

 

 傍らで眠りにつくソレを感情を殺した眼で見下ろす。

 頭部に備わったサソリの尾のような器官がソレの首筋を一突きせんと狙いを定めた。

 

『……サソリちゃん、あしたもあそぼうねぇ』

「ッッッ」

 

 ユキのまだまだ小さな手が、サソリの指を握っていた。

 

「なん、なのよっ。ほんと……」

 

 かつて与えられなかった安寧。

 古い記憶。SHOCKERから逃げ出す機会を捨てた選択に後悔はない。

 心なき操り人形に仕立て上げ、数多の女たちを肉壁に暴れ回った怪物としての自分にも。

 だが、これは。このあたたかな光はなに?

 掴み取りたくて、けどそれがどんな光かも知らず。

 絶望の果てに消え去った夢想の産物が。

 やがて探すことすら諦めた希望が、こんな醜い怪物に取り込まれたの?

 

「Bull shit!」

 

 私はサソリオーグ。かつて人としてあった詩織と、人としての世界に絶望し生まれ落ちたサソリとしての人格。歪み果て、流れ着いたココロの残骸が今のワタシ。

 ワタシに希望はなく、夢も、理想も。ただ破滅を望んで暴れ回るだけのMonster。

 

 そんなワタシに今更、こんな強いヒカリを見せたらさぁ。

 ──奪い取りたく、なったちゃうじゃなぁい?

 

 貴方はワタシ。ワタシは貴女。

 幸せなユキとしての魂。優しい両親。頼れる兄。

 全部、ぜんぶ、私のもの。そうよね?ユキ?

 ワタシたち、友達だもんね?

 

 ※

 

 彼女の揺れる瞳に、死んでも忘れない妹のはにかんだ笑顔を覗き見た気がした。根拠のない直感が、オレの中のプラーナ()が、彼女がユキだとオレに告げている。

 ──志郎、その女は……!どこかで、もう一人のオレが呟いた気がした。

 

「まさか。……ほんとうに、ユキなのか……?」

 

 茫然としたオレの呟きに、彼女はニコリと微笑んで……。

 

「ハイ、スキありィ!」

「ガハッ……!?」

 

 腹部から飛び出たナイフが、オレの血を受けてぬらぬらと輝いていた。

 

 




バッタくん「あのアホ……」
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