バッタオーグになりまして   作:呼び水の主

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Chapter 3.0:Accelerating instinct.
私の名前


 

 一面瓦礫と化した灰色の海辺を水平線から顔を出した太陽が照らす。

 静かに揺れる波に反射した陽光が睨み合う両者の横顔を浮かび上がらせた。

 

 多脚戦車、あるいは巨大な鉄の怪獣と化したアリ・アブオーグメントが《変身》を終えた男へ呼びかける。

 

「結城丈二?なるほど、それが貴方のそちら側の名前(コードネーム)というワケね、コウモリオーグ。いえ、アンチSHOCKER同盟の結城丈二さん?それともその姿、こう呼んだ方がよろしくて?」

 

 AⅡオーグの声が焦土に響き渡る。

 

「……」

 

「4人目の仮面ライダー(裏切り者)!」

 

 その声に、結城丈二は僅かに顔を上げた。

 仮面ライダー。その名は私には相応しくないし、欲しいとも思わない。

 あの小僧の言葉を借りるなら、笑顔を守る正義のヒーロー。

 

 ──私がかつて目指した夢は。

 ──この心に宿った新たな熱は。しかし。

 仮面ライダー、その生き様に、私は辿り着けない。

 確たる理由も覚悟もなく、ただ状況に流されてコウモリの如く裏切りを働いた自分には、その名は眩しすぎる。

 ──ゆえに。

 

「ひとつだけ訂正しておく。私は仮面ライダーではない」

 

 今は借り物の、この姿の名を名乗ろう。

 《MASKED RIDER←MAN SYSTEM Mark-Ⅳ》

 

「私の名はライダー……。ライダーマン!」

「ライダーマン、ライダーマンですって?ヒトの名を残した中途半端なシステムで、このワタクシを倒せると?いいでしょう!同盟の新型のパワーがどれほどのものか、ワタクシ自らテストして差し上げますわ!」

 

 AⅡオーグの叫びとともに、彼女の背部のコンテナがスライドし無数の黒い塊が群れをなして空中へ飛び出した。

 

「チィッ!例の小型爆弾の群れ!スウォーム兵器かッ!」

 

 コウモリオーグの翼を両腕の装甲から露出させ、それらを迎撃する。

 翼を使った風圧で吹き飛ばすが、数が多すぎて決定打にはならない。

 ジリジリと後退させられていく。クッ、敵はまだ様子見の一手を打ったに過ぎないというのに、この厄介さとは!対オーグメントを想定した新型の面目躍如といったところか!そんなやつをこの私が相手をすることになるとは……!まったく。怨むぞ、バッタくん!

 

「……ふぅん?ライダーマン、その程度なら我らの障害足り得ないですわね。先程から使うのはコウモリの能力ばかり。同盟の新型は未完成というワケ?」

「敵基地から吸い出したデータにライダーシステムなる項目を確認。解析を開始します」

「……必要ないかもしれないわ。装着者がオーグメントだという点を抜きにしても、この機動力、この攻撃力ならば相手にもならない。とんだ肩透かしね?いいわ、そろそろ死になさいな!ライダーマン!」

 

『FULL CHARGE』

 

 AⅡオーグを覆う大具足が6つの脚を地面へと深く突き刺しボディを固定する。背負うコンテナがサソリの尾のように前面へと展開し、胴体に内蔵された加速器が甲高い悲鳴をあげ、バチバチとド派手な蒼白い電光を散らす砲口がライダーマンを捉えた。ウォン…ウォン…ウォン…ウォォォォォ…と獣のように唸りをあげ、その身に溜めた破壊の奔流を解き放たんと、自らの女王の命を待つ。

 その姿は、まさに破壊の化身の体現のようだった。

 女王の引き絞るようにして放たれた鋭い一声により、ソレの咆哮が空気を揺らした。

 

「ファイエル!」

『ォォォオオオオオオ……!』

 

 ヴン……ッ!

 加速器によって光速近くまで加速された荷電粒子が蒼白いビームと化して解き放たれる。瞬間、世界から音が消えた。

 一瞬の暗転。否、世界の色がモノクロになり、音も、色も、そのひと時だけ世界から消えた。

 

 ズ・ズ・ズ……。

 海へ向かって一直線に伸びる破壊の跡。焼け溶けて再度固まったコンクリが一筋の線となって海の彼方へと道を引いた。遥か彼方の水平線で巨大な水柱が上がり、一拍おいてズン!という腹に響く音がクイーンのセンサーを揺らした。

 

「記録、完了」

「オホホホ……。素晴らしい!実戦テストはパーフェクトッ!ですわ!」

「ファウストから接収した新型、伊達ではありませんでしたな」

「これが《G兵器》の力……!ワタクシの加速器のスペックが本来の想定の1/10ですって?フ、フフフ!これさえあれば米軍など相手にもならないじゃない!」

 

 そう言って興奮したクイーンがシューシューと白煙を吐き出す《怪物》の口に手を添える。高温に熱され赤熱化したソレを、愛おしそうに撫で回した。怪物は自らの吐き出した熱線の行先を睨んだまま威風堂々とした佇まいで微動だにしなかった。

その異様が、AⅡオーグにはなんとも頼もしいものに映る。

 

「これでSHOCKERの日本全土侵攻も10年繰り上がります」

「あああ、なんて吉報!早急に死神博士に報告差し上げねばね?……ふぅ。試射目標が仮面ライダーでないのは唯一残念ですけれど」

「はい。……、センサーが?」

「なに?報告なさい!」

「センサーに、感あり!?も、目標健在ッ!?目標は健在です!」

「ば、馬鹿な……ッ!?」

 

 副官の報告に弾かれるように目線を飛ばしたクイーンが見たのは信じられない光景だった。轟轟とコンクリが吐き出す焦げ臭い煙の先に、一人たつ男のシルエットが孤独にゆらりと揺れる。

 

「こ、このシルエットは……!?」

 

 

 ※

 

 

 う、うぉぉぉぉぉぉぉ!?

 敵スウォーム兵器をカメパワーで硬化されたコウモリウィングでバッサバッサと斬り落とす。が、そろそろ限界っ!斬るたびに小爆発するドローンで硬化したとはいえ生体パーツ剥き出しのワタシノウィングハボドボドダァ……!(舌を噛んだ)

 

 しかもアリ女の尻から生えたマシンが変形して怪獣めいた化け物になっている!?なんか今にもビームとか撃ちそうなのだが!?

 おのれSHOCKER!潤沢な予算でビックリドッキリメカみたいなトンデモ兵器を作りおって!このスーツにもなにかないのか!?立花とやらぁ!

 

「えぇい!何かないのか!武器は!?グゥ!?」

 

 一瞬の油断が、敵のドローンの急降下を許した。

 突き刺さる爆発を皮切りに、次々と誘爆していく羽虫の大群に、このまま為すすべもなくやられてしまうのか……。

 こんな、ところで!私は!終われないのだ!

 

『衝撃を検知。おはようございます。戦闘行動を開始します』

「……何!?スーツが喋った!?」

『ワタシはマスクドライダーマンシステムマークフォー』

 

 ゴロゴロと転がり爆風から逃れ立ち上がる。

 間違いない。マスクから女性の電子音声が流れている。

 

「貴様は何者だ!?」

『独立型戦闘支援ユニット、通称フォウです。以後、貴方の戦闘をサポートします』

 

 このスーツの戦闘サポートAIか!?

 しかしダメージを受けてから「おはようございます」とは、随分呑気な電子の妖精である……。

 

『各種パラメータ、装着者へリンク完了。脊椎伝導システム開放。フェイズシフト、通電開始。ライダーシステムオールグリーン』

 

 フォウの歌い上げるような声と共に、身体を覆っていた装甲が軽くなっていく。プシ!プシ!と各部から装甲配置や人工補助筋肉、サポートフレームの配置が結城丈二の身体に合わせて適合し、まるで自分の皮膚の一部のように馴染んでいくのがわかる。身体が軽い。先ほどまでの鉄板を着込んでいるかのような重さとは違い、まるで羽を纏っているかのようだ。これならば……!

 最後にブシュー!と気炎を吐くようにスーツが力強く圧縮空気を放出した。

 

『いけます、マスター』

「そのようだ。敵は砲撃態勢だ。何か武器は?」

『こちらをどうぞ』

 

 フォウの声と共に、腰のベルトのホルスターから銃のマガジンのようなモノが迫り上がった。

 

『カセットアーム001。《レーザーブレード》です。腕部スロットへ装填し音声入力で始動します』

「腕部のスロットにこれを……。ん?音声入力?無駄な要素じゃないか?」

『ある統計によれば声出し確認によりヒューマンエラーの発生率を80%抑止可能です。貴方があくまでオーグメントでありヒューマンではないと仰るならば、ワタシはやはりこの言葉を送らざるを得ません。人間は愚かですと』

「思想が強いなお前!?」

『フォウですマスター。二度と間違えないでください』

「えぇい!ままよ!スロットイン!」

 

 こうしている間にも敵の攻撃は絶えず続いている。

 このやりとりすら時間が惜しい!

 

『READY...。ご唱和ください武器の名を』

 

 は、恥ずかしい……。今は結城丈二の青年の姿だが、5分ほど前までオッサンだった自分が掛け声を上げるなど……!なんで音声認識なんだ!色々と改善点だらけではないかダディャーナ!?(噛んだ)

 しかし命は羞恥心と天秤にはかけられない!やむを得ん!

 

『敵、推定荷電粒子砲、臨界。来ます』

「ぬぅ……!レィザァッ!ブレイドッ!!」

『COMPLITE』

 

 腕のスロットに装填されたカセットが腕部装甲と結合し、内部に格納されていたジェネレータを展開。腕部フレームへの固定が完了し、エネルギースリットから蒼白いレーザーで形どられたブレードがヴン!と起動する。

 

「ヌォォォォォォォォォォッ!!」

 

 ライダーマンの右腕がレーザーブレードアームへと変形し、そのまま敵の荷電粒子砲を斬り流した。

 手元でバチバチと粒子がぶつかり合い爆ぜる。

 真っ向から受ければ出力に雲泥の差があるレーザーブレードに勝ち目はない。故に流す。戦闘の心得がない結城だったが、フォウがそれをサポートする。腕部フレームがガクガクと揺れ、マスク内部のモニターが赤く警告音を轟かせた。加速粒子の勢いに負け、身体が押される。このままでは押し負ける。

 

「上がれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 裂帛の気合いと共に、重さに負けそうになる腕を振り抜いた。

 轟ッ、蒸発したコンクリと焼けた装甲の鉄臭い熱気が、結城を包み込んだ。

 そして──

 

 

 ※

 

 

「こ、このシルエットは……!?」

「ライダーマンッ!」

 

 思わず叫んだ二人の姿を見て、ライダーマンのマスクから覗く口がニヤリと不敵に笑った。

 

「どうした、今のが奥の手か?では今度はこちらから行くぞ!」

『READY...』

「スロットイン!マシンガンアーム!」

『COMPLITE』

 

 ライダーマンの右腕が再び変形し、光の剣からマシンガンへと変わる。

 威力は未知数。所詮は同盟の……。

 しかし虎の子の《G兵器》を受け流したその力は!?

 判断は一瞬だった。副官は女王の安全を第一に配下へと指示を飛ばす。

 

「防御陣形!クイーンを守れ!」

「「「イーッ!」」」

 

 女王の下へ集結した40の内15のアリオーグと4のカメバズーカが肉の盾となって女王を守る。

 肉の盾とはいえ戦闘服の前面装甲はレベルⅣ以上。距離にもよるが、ライフルの徹甲弾の直撃すら耐える頑強さを持つ。カメバズーカはそれ以上。

 副官を含む残る25の兵隊アリ達が、猛然とライダーマンへ向けて突進を開始する。

 

「裏切り者に死を──

 

 結城はマシンガンアームのトリガーを引いた。

 秒間100発という驚異的な速度で撃ち出された光弾が、結城の視界を覆い隠した。マシンガンアームはその名に反し実弾は装填されていない。実弾運用も可能だが使用する場合は別途マガジンを補給する必要がある(ちなみにマガジンは同盟の装備と共通規格を採用している)。よって、マシンガンアームはベルトにストックされたエネルギーを消費してレーザーを発射する仕様である。

 それはAⅡオーグの荷電粒子砲に遠く及ばない威力なれど、それを補う斉射数で敵を殲滅する超高燃費超高火力装備である。

 

 光が収束した後、結城の前に立っているのは、クイーンただ1人。

 

「あ、な……?」

「マシンガンアーム、使えるな」

 

 自分の兵隊が見るも無惨に散ったクイーンは、目の前の光景を飲み込まず混乱している。結城はそのまま畳み掛けるべくマシンガンを構え直した。が、トリガーを引いても肝心の弾が出ない。先ほどまでは景気良く吐き出していたというのに。

 

『ありがとうございます。ちなみにエネルギー残量5%です。稼働時間残り3分。マシンガン使用で0.1秒で機能停止します』

「なに!?」

『接近戦を推奨』

「……レィザァ!ブレイドッ!」

『レーザーブレード、パワー低下。ワンセコンドのみ可能』

「1秒!?使えるか!他にないのか!?」

『消費エネルギー0の素晴らしい武装をご提案します。READY...』

「……くそぅ!結局最後は殴り合い(コレ)か!スロットイン!スイングアーム!」

『COMPLITE』

 

 ライダーマンの右フックがクイーンの腹に刺さる。

 棘鉄球が地味にダメージを蓄積していく。

 

「お、おのれ!!!よくもワタクシの部下達を!!!死んで償え!結城ジョージィィィッ!!!」

「スイング、シュートッ!」

 

 ライダーマンの気合と共に、右腕先端の棘鉄球が射出され、多脚戦車の一本の脚の装甲へ突き刺さる。

 

「そんな威力でこの《アルティメット》が倒れるものですかっ!このまま潰れろぉぉぉぉ!」

 

 ライダーマンの武装がささったまま、それを意にも介さずクイーンはその巨体を持って矮小な敵を押し潰さんと暴れ回った。

 マシンガンアームの斉射により背部コンテナも破壊され、頼みのドローンすら封じられた今、その質量を使った物理攻撃は最もライダーマンに致命傷を与える攻撃手段。現状取り得る最適な手段はしかし、最適であるが故に、結城丈二にはお見通しだった。

 

「なんで!潰れない!ワタクシはこんな戦場では負けられないのよ!ワタクシの栄光への花道を!貴様のような虫ケラが邪魔をするなぁぁぁ!」

「今だ!巻き取れ!フォウ!」

「うぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 気付けば、6本の脚がロープによって絡め取られ、身動きが取れないよう固定されている。ズズン!大きな音を立て崩れるモンスター。

 至福の絶頂からの敗北。惨めさが最高潮に達した孤独な女王は、玉座を飛び出し剥き出しの殺意を持ってライダーマンへと肉薄した。

 《アルティメット》を持ち出した上で多数の配下まで失い、このままSHOCKERへ帰れども処分は目に見えている。ならば、この男諸共自爆してやろうではないか!ワタクシの怨念、その身で思い知れ──

 

「ライダーマン!正々堂々、最後は接近戦で勝負なさいな!!」

「……」

『READY...』

「「ハァァァァァァァァァァァァァ!!!」」

 

 太陽が雲に隠れる。その一瞬で、向かい合った2人が同時に駆けた。

 AⅡオーグがライダーマンを抱き締めるように組み付く。

 

「共に死ね!ライダーマンッ──!?」

『EXCEED CHARGE』

「レィザァッ、ブレイドッ……!」

「ぐ、ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 たった1秒だけの光刃が、自爆装置諸共女王の心臓部を刺し貫いた。

 そのまま女はライダーマンにもたれかかり、泡となって消えた。

 

「……まったく、こんな1日は二度とごめん被る」

『戦闘終了。お疲れ様でした。朝食の時間を3時間超過。早急なスイカジャムの摂取を提案します』

「……勘弁してくれ」

 

 エネルギー残量が0になりただ五月蝿いだけの鉄の重りになったハイテクスーツと疲れ切った男の声が、海辺の廃墟に虚しく響く。

 雲から顔を出した太陽だけが、1人と1つの声を聞き穏やかに微笑んでいた。

 

 つづく




シンゴジ世界にSMART BRAIN社が出てるんだもの。
シン仮面ライダーの世界にもきっとあるはず。
この世界のライダーマンはこんな感じです。

本話から第3章です。
イラストが間に合わなかった……
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