流星群に願いを 作:キチガイの人
感想通り、普通おかしいですよね? 変ですよね?
そんなん──狂ってますよね?
スタなんとかで飲み物を買おうとしたことが始まりだった。ここの抹茶ラテは前に彼が奢ってくれて、とても美味しかったのは覚えているし、彼もコレが好きだったのは記憶していた。未だに人の名前を覚えるのは苦手だけど、彼のことはちゃんと記憶に留めている。
留めているからこそ、最近の彼が元気がないことに気づいていた。いかにも普通そうに振舞っている、誰にでも親切な彼。それが『嘘』なのは、同じ『嘘吐き』だった私にはお見通しだった。大将が言うには『キャラを作っている』かな? 私も彼も、仮初を演じて本当の自分を表に出さない。
そんな私が不満に思っていることは、本当の私は彼や大将の前でしか見せないけど、彼が本当の自分と言うものを私の前で出したことがない点。別に彼がどんな人だろうと、あの時私を救ってくれたことに変わりはないし、受け入れる覚悟はあるんだけどね。それを彼に言っても「何の話?」ってとぼけるし、大将も「……私からはノーコメントで」って教えてくれない。好感度がまだ足りないのかな? もっと甘えなきゃ。
抹茶ラテをプレゼントしたら少しは元気出してくれるかなーって考えながら店に入ろうとしたとき、知らないおじさんに声をかけられた。なんかスカウトがどうのこうのって話だとか。話聞くだけでも抹茶ラテ奢ってくれるって聞いて、思わずOKしちゃった。
私のお小遣いは彼から毎月少しずつ貰ってるから、そんなに多くない。同じ施設の子はそもそも貰ってないし、彼が密かに渡していることも職員さんには秘密なので、私の手持ちはそんなに多くない。ラテ代が浮くのは嬉しかった。
……後から大将に「知らない人について行くのは、君の安全上控えた方がいいぞ?」と言われた。言われて思い出した。じゃっどん、忘れてた。あ、『じゃっどん』って『~だけど』とかって意味らしい。彼が時々使うから、私も無意識に使うことがある。
「──スカウトって言うから何かと思えば、アイドル? 私が? 笑っちゃう話だね」
「今うちの事務所で中学生モデルたちでユニットを組もうとしている所でな、君ならセンターも狙えると思う」
この金髪の黒眼鏡のおじさんはアイドルのスカウトだった。
アイドルってあれでしょ? なんかテレビで見る人たちでしょ? 笑顔を振り撒いて、みんなを笑顔にするような、そんな純粋な存在でしょ?
施設のテレビとかで流れているのを時々だけど見かけたことはある。
「興味ないです」
「いや、絶対向いてる。保証する」
「………」
正直に言って、私の心には何も響かなかった。
私に向いてないと思うのは当然だとして、一番の理由が彼の趣向だ。
長いのか短いのか分からない付き合いだけど、彼はアイドルに何の興味もない。前にテレビを見てた時に他の施設の子から質問されてた時も「今どきのハイカラなアイドルはよう分らん」と困ったように対応していた。
キャラ作りモードの彼だったけど、発言自体には嘘は含まれてなかったので、本当に関心も興味もないんだろうなーってのは思った。アイドルに関しては私個人もそこまでって話だし。
でも、この人グイグイ来るなぁ。
どう断ろうかな?
「止めといたほうが良いと思うよ。私、施設の子だし」
「………」
「私……片親なんだけど、小さい頃にお母さんが窃盗で捕まっちゃって、その間施設に預けられて。──でも、お母さん釈放されても、迎えに来てくれなかったんだぁ」
あの頃の私って荒れてたからなぁ。毎晩お母さんの夢とか見てたし、その内容も全然良くなかったし、もし彼がいなければ私ってどうなってたんだろ? 彼がいなければ大将とも会ってなかったと思うし……うーん。
もし彼と大将と出会わなかったら。
……どうしよ、どうなるか分からないけど、とにかくヤバそうってのは思った。
「まぁ、良いんだけどね。殴られるより、施設にいるほうが遥かにマシに思えるし」
「………」
「肉親からも愛されなかった私だよ? そんな人にアイドルなんて出来ないでしょ。こんな私はファンをきっと愛せないし、ファンからも愛されないよ」
今は何ともなかったけど、彼が私の頭を撫でようと手を伸ばした時、私は無意識に一歩引いてしまったことがある。それはお母さんに殴られたことを思い出したからであり、彼にもそのことは伝えた。君のことが嫌ってわけじゃないんだよって意味を込めて。
その時彼は「え、あ。あー……そういう? いや、俺こそすまん。良く考えりゃ、女の子の頭を撫でようとするのはデリカシー無さ過ぎたな……」って許してくれた。許してくれた云々よりも、話の流れ的に今後二度と頭を撫でて貰えない雰囲気だったので、頑張って説得した。とりあえず『星野 アイという女は定期的にシオンに頭を撫でて貰わないと死ぬ生き物』と教え込んだ。
彼は「瞬時に絶滅しそうな種族やな……」と呆れてたけど。
そんなことより、今はアイドルの話。前に彼から教えてもらった『衝撃的な話で相手の思考回路を破壊し、会話の主導権を握る』戦法を使ってみた。これで引いてくれるかなって思った。
実際には本当のことだしね。私の『愛』は彼と、大将にしか向かない。私の愛情は、人生で一番大切な人である彼と、私のお父さん的存在な大将にしか向けられない。前と違って友達も増えた私だけど、自分の中で愛せるだろうなって人は、この世に2人しか存在しない。
それに、アイドルってボランティアじゃないでしょ? お金も関わってくることなら、ファンを愛せない私はなおさら相応しくないと思うけどね。
……けど、おじさんは諦めなかった。
「良いんじゃねぇの。そもそも普通の人間に向いてる仕事じゃないし、そういう経歴も個性じゃん」
「……で、でも。アイドルってみんなに『愛してるぞー』とか言うじゃん。私が言ったら嘘に……」
「嘘でいいんだよ」
むしろ客は綺麗な嘘を求めている、嘘を吐けるのも才能だと、金髪のおじさんは笑った。そして、「嘘でも愛してると言えば、そのうち本当になるかもしれない」とも言葉をつづけた。
私は、その言葉に目を見開いた。そこの言葉が心を動かした。
私が心の底から彼──今和泉 シオンを愛しているのは本当だ。私にとって彼はもう人生になくてはならない存在だし、彼の居ない人生なんて考えられない。けど、私の愛は彼に届いているのか不安になることがある。私の言葉に反応を示してくれる彼だけど、さっきも言ったように、彼は私に本当の自分を見せてくれない。
それに、彼は私に『必ず裏切る』と口にしたことがある。私の為なら、私の意志に反する行動もすると。私は彼とずっと、ずっと一緒に居たい。私の傍で生きてほしい。それが、彼にちゃんと伝わっている、私の『愛』が本当に届いているのか、不安でいっぱいだった。
でも、もしアイドルになれば、私の『愛』に確信が持てるかもしれない。
彼に私の『愛』が正しく届けられるかもしれない。
私を『見て』くれるかもしれない。
そう考えると、金髪のおじさんのスカウトが魅力的に見える。
……あ、でも大丈夫かな?
「……ねぇ、アイドルって恋愛厳禁だよね?」
「一般的にはそうだが……」
「私、彼氏いるんだけど。あと別れる気は一切ないけど。それでもアイドルできるの?」
「……事務所的には別れて欲しいが、隠し通せば何とかなるだろ」
個人的にはアイドルやってみようかなって思ったが、その前に大切なことをスカウトのおじさんに聞く。
彼とは
金髪のおじさんは全然OKと口にしたけど、それは『嘘』。あれだね。おじさんの目を見る限りだと、隙あらば彼に私から離れるよう言うつもりの目だ。そして、私の為なら彼は喜んで私から離れていくだろう。私死んじゃう。
アイドルもやってみたい。でも彼とは一緒に居たい。
欲を言えば、これを機に彼と同棲したい。施設には不特定多数の人がいたから自重してたけど、同棲出来ればもっとイチャイチャできる気がする。
どうしよっかなーと少し悩んで、答えが出なかったので、
「その話、いったん持ち帰っていい? 1週間以内には決めるから」
「あぁ、分かった。可否に関わらず連絡をくれると嬉しい。連絡先は名刺に載ってる」
「はーい」
彼にすぐにでも相談したいけど、なんか嫌な予感がした。
私は店を出た後に、施設には戻らずに『西国無双』へと向かった。確か彼は施設の掃除で忙しいはずだから、定休日だけど店には大将しかいないはず。
お父さんに相談してみよう。
♦♦♦
「──アイドルにスカウトされた、と」
「うん」
カウンター席に座り、大将が作ってくれたチャーハンを食べながら今日あったことを説明し、大将が「そうか……」と少し考えているうちに完食する。白米苦手で、ご飯モノも手を付けない私。米系は昔からガラス片とか入ってそうで嫌だったからだけど、大将が作ってくれたものは安心して口に入れられる。何より美味しい。
中華は大将が得意だけど、話によると彼も料理が得意らしい。
食べてみたいなぁ。
「私としてはアイドルをやってみたい。でもアイドルをするとなると、たぶんスカウトのおじさんはシオンに私から離れるよう話をすると思う。シオンも私の為なら離れて行っちゃうと思う。それは絶対に嫌」
「慧眼だな、星野君。確かに少年ならそうするだろう」
「そこで相談なんだけど……アイドルやりつつ、彼と一緒に居る方法ってないかな?」
その言葉に厨房で皿洗いをしていた大将は眉間に皺を寄せながら「そう、だな……」と考えるしぐさをする。考え込む大将の様子を見て、彼から教わったことから推測するに、答えは知っているけれども私に教えていいのか?って感じの悩み方に見えた。
私と彼は噓吐きだけど、大将はそうじゃない。むしろ、嘘が苦手って言ってもしっくりくるくらい、嘘をついているとすぐにわかる。そして、考えていることも分かりやすく表情に出る。私が大将を信用する理由の一つでもある。
大将は大きくため息をついて頭を搔きながら、私を見据える。
その目に私は少し固まった。いつもの優しい大将じゃなく、その瞳には鋭い『何か』が込められているように、私を見定めている?ようにも見えた。
叱るときはちゃんと叱ってくれる大将だけど、こんなのは初めて。
「……少年ばかりの肩を持つのも、そろそろ潮時なのかもしれんな。このままでは
「え?」
「星野君、君に語らねばならぬ話がある」
皿洗いを止め、手を拭きながら大将は私の対面に立つ。
思わず私も姿勢を正したくらいだ。
「誇張無く、正直に言おう。星野君は少年と離れたくないと口にしたが、このままだと確実に、タイミングは分かりかねるが、少年は星野君の元を去るだろう。これはどれだけ星野君が少年を想おうとも、避けることが出来ない絶対事項とも言える。……このままの話であればだがな」
「このまま……?」
彼が離れていく、その言葉に胸が締め付けられる感じだったけど、私は大将の最後の言葉に、縋りつくように詳しい話を求めた。
「これは別に星野君が何か悪いと言う話ではないと断っておこう。これは純粋に、君の知らない少年の話が関わってくる。というか普通に考えて突拍子もなくて誰にも語ってないだけだが」
「突拍子もない?」
「常人であれば信じられず、むしろ私と少年が狂っていると思われても不思議ではない。そういった類の狂言だ。しかし、星野君の願いである『今和泉 シオンと添い遂げたい』を現実とするのであれば、その戯言を受け入れなければならない。年端も行かぬ少女に狂人になれと選択を迫る辺り、私も存外に悪い大人なのだなと痛感する」
「………」
「聞きたくなければそれでも構わん。信じないと言うのであれば、それもまた一興。ただ、少年の傍に居たいと言うのであれば、この妄言を信じぬ限り絶望的だ。不可能と言い換えてもいい。少年が星野君に自分は相応しくないと言っていたが、ある点で言えば的を射た発言ともとれるな。君に彼の過去を受け止める覚悟はあるかね?」
「え、大将。シオンが『自分に星野は相応しくない』って言ってたの? それって私のことを少しは意識してくれてるってことだよね? やった♪」
「ほしのくんは、つおいなぁ」
なんか大将の呂律が回ってないけど気のせい。
これ少しは脈ありってコトだよね? あー、でも彼は嘘吐きだからなぁ。今度確かめよう。
「それって私がシオンと一緒に居るために必要なことなんだよね? なら信じるよ。何より、大将は私に隠し事はするけど、嘘はつかないもん。私は、彼と大将を信じるよ」
「……それは光栄なことだ。よかろう、では語ろうではないか。少年の──前世の話を」
「前世?」
歪な家庭環境と周囲の悪意、重なる不運によって壊れてしまった、心優しき一人の青年の、23年の生の物語を、な。
大将はそう語り始めた。
【主人公】
原作知識持ちの転生者。自身のあずかり知らぬところで過去を暴露される。
【大将】
原作を履修してない転生者。メタ的発言だが、ここで彼の過去をバラさないと、主人公の過去を語ってくれそうな人間が推定黒幕と実行犯しかいない。
【星野 アイ】
未来の人気アイドル様。これもう原作における彼女の人生目標である『誰かを愛したい』は達成されているのでは? 原作よりも強かに育っている様子。
【斉藤 壱護】
苺プロダクションの創設者。今作における絶対的な被害者。
【カミキヒカル】
原作知識持ちの転生者。出番なし。アイのことを『息子をけしかけてくるかもしれない死神』だと思っている。原作では自業自得だが、今作だと完全な被害者。
【リョースケ】
原作知識持ちの転生者。出番なし。後にアイをテレビで見かけて「カミキ殺さなきゃ……」って話になる。