流星群に願いを 作:キチガイの人
次回からアイドル編……つまりアイドル様の反攻作戦が始まります。主人公(の胃が)死にます。
余談ですが、転生者は計6人です。それ以上は増やしたくないです。
私と少年には生まれる前の記憶。別の人間として生きてきた記憶がある。
生まれ変わり、転生、憑依……どの言葉を当てはめるのが正しいのか分らんが、難しく考えなくてよい。私も彼も、どうしてそうなったのかまでは分からんからな。
重要なのは、少年には『今和泉 シオン』として生を受ける前に、似て非なる別世界線で生きてきた記憶があると言うことだ。星野君にとって重要なのは、その事実ではないのかね?
「う、うん……」
さて、少年の前世に関する話だが……ここで一つ、星野君に詫びねばならぬことがある。少年の過去云々と高説を垂れてみたが、非常に残念なお知らせだ。
私はそこまで彼の過去に関して詳しくない。
「え?」
私と少年の関係は知り合いの人程度なのだよ。
少年の父親が私の友人でな。彼の父親関連なら面白エピソードを延々と語れるのだが、少年個人の話となると、大まかな流れなようなものしか語れん。
これが彼の
「そ、そんなことないよっ。彼の過去を知れるだけでも嬉しいし。物凄く気になるし」
はははっ、嬉しいことを言ってくれる。
よろしい、ならば私の知る彼の軌跡を語ろうではないか。
前世の少年は、少し苗字が有名なだけの一般家庭であった。
小さき頃の少年には一度会ったが、とても聡明な子であった。同年時の自身と比較しても、他に出しても恥ずかしくない立派な男であった。このまま健やかに育つのだろうと希望を持っていた。
そう──普通
問題は少年の一つ下の妹の方だった。
いや、問題と言うのは彼女に失礼だろう。彼女は何も悪くはないし、後にあのような惨劇になるとは、誰も想像だにしなかったのだから。
「何が、あったの?」
彼の妹は天才だった。
文字通りの天才。もはや天災と言い換えてもしっくりくるぐらい、彼女は様々な分野において才能の塊のような少女だった。これが神童ともてはやされるレベルだったら良かったものの、年月が経つごとに彼女の才は洗練されていってな。容姿端麗、文武両道、才色兼備……それらの熟語が陳腐な誉め言葉と揶揄されるくらい、彼女は何をやらせても大成する鬼才だった。
鳶が鷹を産む……子の躍進を願う親から見れば、彼の妹のような子が理想だと言えよう。
当時の私ですら、彼女の才には年甲斐もなく嫉妬してしまったくらいだ。私が長い年月をかけて積み重ねた研鑽を、易々と乗り越えていくだろうと容易に想像できるくらいに優秀な子であった。
しかし、鳶が鷹を産んだ時、先に生まれた鳶は重圧を感じずに生きられるのだろうか? 第三者から見れば、愚かな兄と優れた妹。月とスッポンのような差を、果たして世間は許してくれるのだろうか?
無論、兄である少年は努力した。妹に負けぬよう、人一倍努力した。
けれども、所詮は凡人の努力。例えるならば……そうだな。兄が定期考査で高得点を取ろうとも、妹は全国模試で全科目満点を叩き出す。友が教えていた剣術に関しても、僅か1年で立場が逆転したと聞いたな。勉学も、スポーツも、芸術も、社交力でさえも、兄より妹が数段も秀でていた。
彼も嘆いていたよ。まるで
「……なんで? どうして? どうしてその子は、シオンにそんな意地悪なことをするの?」
なに、簡単な話だ。
彼女は単に、彼に褒めて貰いたかったのだ。
「へっ?」
どれだけ自身の才を見せつけてくる妹だろうと、自身の努力を否定するような結果を残す妹だろうと、少年は『兄』であり、彼女は『妹』だ。称賛するべきところは褒め、改善点があれば可能な限り一緒に考える。自身の個人的嫉妬心や劣等感を切り離して、彼は他者に寄り添うことのできる人間だった。
そして、妹も妹の方での苦労もある。どれだけ結果を残そうとも、周囲の評価は『■■なら出来て当然』といったものだった。
両親に関しても……あれはなぁ。兄と妹の公平を期すために、我が友は褒めることをしなかった。どうしてそんなことで褒めるのか、どうして私の方が結果を出したのに同じ扱いなのか、そういった不満を出さぬ故の処置だったのだろうが……いや、流石の私も他にやりようがあったのではと思わないことはない。逆に双方を均等に評価しようと兄妹の母親であったが……前述の問題点でかなり苦労していたようだ。私とて、同じ状況であれば最善が思い浮かばん。
そんな中、彼女を正当に……とは言わずとも、心の底から「よくやった」と褒めるのは自身の兄だけだったのだ。それが彼女の成果自慢を加速させ、少年はなんか勝手に傷つく変な構図が出来上がっていたらしいが。
まぁ、あの少年は男女関係なく『たらし』だったからな。
何も知らぬ第三者からは愚兄と言われようとも、実際に彼と接した人間は感じ方が違う。なんなんだろうな、彼は昔からなぜか他者の懐への入り方が上手いと言うか、良好な関係を築くのが得手なのだろう。自身の心の内は絶対に明かさぬのにな。
しかも無意識に相手の望む行動をするものだから、生粋の女たらしと言われてたとか。
「……仲の良い女の子はいたのかな?」
ん?
「そもそもシオンって前世は恋人はいたの? 結婚してたの? もしかして……そういう、え、エッチな関係の女の子とかいたの? 子供は居たの?」(圧)
い、いや、私は分からんなぁ。
少なくとも生涯独身であったし、あの鈍感男は常に「彼女出来る気がしねぇ」とかほざいていた。その言葉から推測するに、向けられる感情がどうであろうと、恋仲はいなかったと思われるぞ。うん。
そうに違いない。
「ふーん……」
詳しい話は本人から聞き給え。(丸投げ)
少年の自己評価の低さは『天才の妹と比べられていた故の劣等感』が始まりだ。こればっかりはもう、少年を責められないし、妹の方も悪いわけではない。
「それが、シオンが壊れちゃった理由……」
いや、違う。
言っただろう、始まりだと。
「……え」
こんなのは序の口だ。
少年の悲劇は大学1年の頃だ。
地方の大学に進学した少年だが、妹の方は躍進が衰えることはなかった。それこそ首都圏の某有名大学にストレート合格できる学力は有しており、なんなら他大学からの推薦すらも後を絶たなかった。
そんな中、妹は某海外大学の誘致を受けた。何と言ったか……宇宙開発、だったか? あまりにもの話のスケールに、私も詳しいことは分からなかったが、そういった研究をしている教授からの推薦だったと聞く。彼女が兄とベタベタしてた片手間に書いてた小論が評価されたのだとか。そんなことある?レベルの話なので、私も最初は何の冗談かと思ったが、どうやら彼女の小論は宇宙開発技術革新の一歩となるとかなんとか。
……星野君、そんな目をぐるぐる回さなくても良い。彼女の才が海外大学推薦を招くほどの領域になっていただけの話だ。それ以上のことは私も分らん。次元が違い過ぎる。待遇も良く、断る理由が見つからなかった。
「それで妹さんは外国の大学に行くことになったの?」
妹はその話を二つ返事で切り捨てた。
「え!?」
妹は最初から兄と同じ大学に行くと決めていたからと、その海外教授の推薦を始めとする、全ての推薦を断って、地元民の間でしか知らなさそうな大学に進学した。持ち前の社交性で全てを円満に断って、相手方も納得したのだから、世間の彼女への評価は上がることとなる。
貧富の1万円の価値みたいなものだ。貧者にとって1万円はまごうことなき大金だが、富者にとっては端金に過ぎない。彼女にとって海外留学なんぞ端金程度の価値しかなかったのだろう。
こうして妹は地方の大学に進学することになる。
そう、
「妹さんはちゃんと断ったんだよね? 誰も迷惑が掛かってないように聞こえるし、何か問題があったの?」
……ネットのまとめサイトを皮切りに、とある噂が流れ始めた。
──
「──は?」
言わずもがな、完全にフェイクニュース、嘘だ。
君の慕う少年は身内に何の理由もなく暴力・暴言を振るうような男ではない。
しかし、だ。その根拠の欠片もないフェイクニュースはどんどん増えて、マスコミにも取り上げられ、尋常じゃない速度で拡散されることになった。私たちのいた世界では画像や動画の加工技術が若干進歩していてな。本物と見間違うほどの加工動画を証拠として拡散し、瞬く間に日本中に広がった。
私は無論の事、彼との交友のある人間は、彼がそのようなことをする人間ではないと知っていた。彼の家族は家庭内暴力を否認し、友人たちはネットで嘘だと拡散し、彼の妹も理路整然と矛盾点を指摘し否定した。
だが、そんなものは関係なかった。あの頃の私は、人の悪意と言うものを過小評価していた。世間は彼の家族の言葉を隠蔽と批難し、友人たちの努力を擁護と嘲笑い、当事者であるはずの妹の発言すら『言わされている』と耳を傾けてもらえなかった。
彼は世間では『絶対的な悪』として認知され、正義の名のもとに誹謗中傷が当たり前のように正当化されていた。自己評価の低いあの少年があまり世間の評価など気にしない性格であったことも、彼らの正義執行に拍車がかかったと思われる。おぞましいとは、こういうことを言うのだろうな。反応がないことをいいことに、否定しないのは事実だからと決めつけ、遠慮なく石を投げる者たち。人という生き物は、正義の為ならばどこまでも残酷になれるのだと、私は思い知ったよ。
「どうしてっ、どうしてぇっ!? シオンは何も悪いことしてないのに!? どうしてみんな、彼のことをそんなに責めるの!?」
悪くない? いいや、違う。
少年は悪人なのだよ、彼らの中ではな。
だから石を投げることは正しいことであり、石を投げる自分たちは正しいのだ。悪いことをしている人間には何をしてもいいのだ。
彼の実家に脅迫文を送ることも、悪戯として彼の実家にピザを100枚送ることも、彼の自宅にデリヘルを呼ぶことも、彼の学生時代の個人情報を晒すことも、加工した卑劣なフェイク動画を流すことも、彼の写真を燃やした動画をアップロードすることも、それらの動画に関して肯定的な意見を送ることも、実家や彼の自宅に凸して取材することも、事実を歪め偏向報道をニュースとしてお茶の間に送ることも、彼の在学していた学校にクレームを何百と送ることも、以上のことを彼の友人にすることすらも。
彼らにとっては『正義』なのだ。
全くもって反吐が出る。
「どうして……だって、彼は……どうして……誰がっ、誰がっ」
これは世間一般では『炎上』と呼ばれるモノであり、当事者他が反応さえしなければ普通は沈静化するもの。下手に反応するから、それを楽しむ輩が広げていくのだ。反応さえしなかった少年の対応は本来は正しいもののはずだった。
しかしながら、それが悪意を持って徒党を組んだ者たちの攻撃であれば話は違う。
当時の私は想像すらしなかったよ。まさかフェイクニュースを拡散して煽ったのは、彼の妹の狂信的なファンと、隣国の連中だとは、な。彼女の栄達を阻害した愚兄を恨む連中と、有名な教授からの推薦を
「………」
さすがの妹もブチ切れて、フェイクニュースを流したであろう
が、訴えられた側の1人が自殺した。
これが更に正義執行を加速させ、もはや解決できる範疇を超える話になってしまった。
自宅に届く脅迫文は増し、彼が内定を貰った会社にまでクレームを連日送られ、1年目にしてクビになったと聞いたときは、呆れて声も出なかった。
そんな状況下でも、彼は終始いつものように振舞っていた、事が起きた初めから、亡くなる直前まで、自身の弱った姿を決して誰にも見せなかった。今世の彼を見ていると、そう『演じていた』可能性が高いが、自己肯定感も尊厳すらも粉々に破壊された少年は、それでもいつものように笑っていた。
職を失った彼に家業を手伝ってみないかと私が誘い、それが承諾された次の日だったか。
彼は彼女のファンに刺殺された。
死因は数十回刺されたことによる多量出血によるもの。実行犯は彼女に訴訟された者の一人だった。
「うぅ……ぐすっ……うぅぅぅっっ……」
今世の少年が口にする「俺の前世って、いったい何だったんだろう……」という言葉、私も同じ気持ちだ。振り返って言葉にしてみると、一層のこと思ってしまう。
前半はまだしも、第三者の理不尽な悪意に振り回された彼の人生に、意味はあったのだろうかと。
「……あるよ」
ほう?
「意味はあるよ。シオンは、私と会うために生まれてきたんだよ。ぐすっ……だって、彼は私の一番大切な人だから」
……はははっ、そうか。
なるほど、なるほど、2度目の人生こそが本命と。
私は少年が歿して間もない頃に、食あたりで死んだ身だ。息子が殺され、娘すらも自殺し、自身の子を短期間で双方失った友を、一番辛かったであろう時期に傍で支えることすらできなかった愚か者だ。故に、私は今世で縁のあった友の息子を支えることが、天命と悟った。少年を見守ることが、私が友への唯一の贖罪だとな。
星野君。少年の前世は、幸せだとは言い難い。
だからこそ、証明してほしい。彼の魂は、君のためにあったのだと。彼の人生に意味があったのだと。あの心優しき頑固者の、不幸で彩られた人生のレールを、君の手で壊してほしい。
「うん、任せてっ」
そのためであれば、■■ ■■──いや、この
【主人公】
原作知識持ちの転生者。どーせ次回以降からアイドル様に振り回されるコメディが待ち受けている。
【大将】
原作を履修してない転生者。今世の名は
【星野 アイ】
未来の人気アイドル様。彼と自身の人生のレールぶっ壊して繋げたらハッピーエンドよ。
【カミキヒカル】
原作知識持ちの転生者。出番なし。主人公とは前世の腐れ縁。
【リョースケ】
原作知識持ちの転生者。出番なし。主人公とは前世の腐れ縁。
【???】
原作知識持ちの転生者。出番なし。主人公とは前世の腐れ縁。
【???】
原作を履修してない転生者。前世の主人公の妹。