流星群に願いを   作:キチガイの人

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「──プランCに移行する」

 

「……フフッ」

 

「おいゴルァ、大将。今笑ったか?」

 

 

 場所だけで言えば安心と信頼の『西国無双』で、親の顔より見たラーメンを摂取しながら、俺の発言に噴出した非国民にジト目を向けた。

 

 時系列で言えば、俺がサンスクリット語で発狂した数日後である。

 俺は半強制的に契約書にサインさせられ、斎藤社長と面談したのち、改めてアイドル様(予定)はアイドル様に昇格したのだった。ついでに俺は事務員として苺プロダクションに勤務することになったのでした。原作キャラに会える楽しみよりも、一体全体何がどうしてそうなった?という悲壮感が大多数を占めている。

 最初は『俺が苺プロに所属し、アイとの交際を認めること。俺が退職したらアイも自動的に退職します』なんてアホなことが書かれた特約条項つきの契約書なんざ、サインする気など1ミリもなかった。しかし、そのことを彼女に告げたら、後に一世を風靡する天才的アイドル様は「それじゃあ私もアイドルやらない。スカウトの人にお断りの電話しとくね」とほざいたので、俺は巧みな話術を用いてアイドル様と交渉し、最終的には泣いて馬謖をブッた斬る想いで泣く泣くサインしたのだった。

 え、交渉の結果? 少しでも成功してたら、んなことになっとらんわ。天地人、全てがアイドル様に味方している状況で、どうやって俺が彼女に勝てと?

 

 アイドル様がアイドルになって、推定黒幕のサイコキラーと関係を進めないと双子が生まれない。そうなると、アクアとルビーのてぇてぇ未来が閉ざされてしまう。俺に残された選択肢は、諦めてアイドル様と同じ事務所でアルバイトをするしか道はなかった。

 なんという策士。なんという卑劣な選択肢。

 んで、俺が彼女のアイドルデビューを待ち望んでいるなど、普通ならだれも知る由もない。彼女に教唆した裏切り者が居るはずなのだ。

 

 俺の目の前に。

 

 

「星野に俺の前世バレしたのは大将だろ? いやホントマジで何してくれちゃってんの? 面白くもないし、全然笑えないんだけど?」

 

「私は星野君が望んだ答えを伝えたまでであり、君からも『黙っていて欲しい』などと言われたことは記憶にない。彼女との今後の関係を踏まえて、共有すべき内容であったと判断して提供しただけの事。何か問題でも?」

 

「大ありだろうが。原作通りに行かなかったらどうする?」

 

「……少年の言う、その原作通りとやらが、私にとっては最善とは思わぬがな」

 

 

 当初で不可能とされていた、苺プロに所属することが叶った以上、俺だって原作通りのまま突っ走り、彼女を死なせるような未来は極力回避するつもりだ。故の、プランCである。

 彼女が親に捨てられた、彼女がスカウトされた。その原作の流れでも重要な2項目が達成された以上、俺には『主要イベントは半強制的に起こりうるのでは?』という推測が生まれた。そして、スカウトされているが、余計なオプションである俺も付随することになったので、『そのイベントにはある程度介入可能』ということが証明された。悲しいことに。

 となると、俺の現段階での目標は『アイドル様と推定黒幕の関係構築をサポートし、彼女の刺殺される未来を回避する』ことになる。

 

 結果論で言えば良かったものの、どうにも大将には別の思惑があるようにしか思えない。

 加えて、その大将の思惑にアイドル様も全面的に賛同しているようにも見受けられる。正直に言って、嫌な予感しかしないのだ。

 

 

「少年の『後の原作キャラも大切にしたい』という気持ちも理解できなくもない。しかし、今の私が望むことは星野君の幸せだ。そして、星野君が少年と共にと望んでいる以上、私はその背中を押したいと思っている。少年だって彼女のことを悪くは思ってないのだろう?」

 

「俺の個人的感情なんざ、どうだっていいんだよ」

 

「どうでもいいと言うのなら、星野君の願いを優先させてもいいのでは?」

 

「……じゃあ、こう言い換えよう。『出る杭に代わって打たれ続けるのは生前だけで十分だ』ってな」

 

 

 前世の妹と今世のアイドル様。

 ベクトルは違えども、双方とも世間で注目される、又はされるであろう人間だ。俺は前世の教訓から、世の中には『有名税』と称して、表で輝く人間には何をしても構わないと考える、どうしようもない異常者が存在すると学んだ。

 そして、そういった連中は、その周囲にいる人間にも何をしてもいいと考えるアホなのだと理解した。何食ったらその結論に至るんだろうな。そこは理解できない。

 

 アイドル様はアイドルじゃなかったから、今までは傍でフォローしてきたが、彼女がアイドルの道を進むのであれば話は別だ。俺の判断が決め手風を装っているが、彼女が相談してきたときの顔は『やってみたい』と物語っていた。

 天才の近くにいたところでロクなことがない。

 彼女を陰ながら助けると決めた手前、適度に関わりつつも、あくまでも知人友人の関係に留める……というのは、結構難しい気もするが。

 

 ただ、大将はあくまでも彼の視点から見る『星野 アイ』を優先的に動くらしい。そりゃあ、原作知らなければアクアとルビーの生誕なんぞ二の次だろう。

 なので俺は共感できるよう話を変えてみる。

 

 

「……俺はさ、見てみたいんだよね。原作では決して叶わなかった『アイが、アクアとルビーが笑いながら、中高と上がっていくであろう双子の成長を見守る』っていう、遥か遠き理想郷を」

 

「……ふぅむ、まぁ、分からなくもない」

 

「その光景に原作にはない邪魔者(今和泉 シオン)は必要ない。三ツ星レストランの料理に、素人が七味唐辛子を1瓶ぶっかけるレベルだ。蛇足どころの話じゃねぇ。蛇に足描いて、手も付け足してモヒカン追加する暴挙だぞ」

 

 

 二次創作でも書かれていることが多かったアイドル様生存IF。こうであって欲しかったと願わずにはいられないし、転生した身で叶うのであれば、それを現実にしてみたいと思うのは間違いではないはず。

 俺が見たいのはアイと双子、何なら斎藤社長とミヤコさんとの和気藹々とした、変哲もない日常風景なのだ。そこに、前世で某School Daysの伊藤誠レベルに嫌われていた俺を追加してどうする? 誰が得するんだよその地獄みたいな風景。

 

 

「分かった分かった、じゃあさ、大将。──百合の間に『フヒッ……僕も混ぜてよ……』って、よう分からん男が入ってきたら、どうする?」

 

「R18G表現はどこまで許される?」

 

「その返しが怖ぇよ。あー、うん。俺にはそのレベルの邪魔者だって思ってくれればいい」

 

 

 この人って百合過激派だっけ?

 かつての腐れ縁の一人にロリコンがいて、『ロリがストーカーに襲われているのを見た時、お前はどう行動する?』って聞いたとき、その少女が嫌がっている、又は我慢している時は、と前置きし『まずは爪を全て剥いで四肢を切断し、手足は火葬後に彼の両親に着払いで送ります。下半身をプレス機で圧縮加工したのち、目をアイスピックで抉り、肺部分をナイフで刺し、血で溺死する前に溶鉱炉に投げ捨てます』と言ってたのを思い出した。あいつ人じゃねぇ。

 大将のは冗談だってわかるけど、ロリコンはマジで目がヤバかったからなぁ。

 俺もロリコン野郎のようなベクトルの人間に殺されたかもしれんね。十数回刺されたし。

 

 

「まぁ、そういうこった。まずは星野と推定黒幕をどうくっつけるか……そもそも邂逅イベントって発生するのか考えるのが先か

 

「──たのもーっ」

 

「イラッシャイマセエエエエエエエエッッッ!?」

 

 

 今後の計画を大将と練ろうとした矢先、苺プロに足を運んでいたはずのアイドル様が降臨なさり、俺の口から悲鳴混じりの声が絞り出される。

 腹抱えて笑っている大将は後でシバく。

 

 不思議そうに首を傾げている完璧で究極になる予定のアイドル様は、そそくさとカウンター席に座る。ご丁寧に俺の横に座するので、俺は何とも言えない表情になったが、対するアイドル様は嬉しそうにニコニコ笑っている。

 誰もを魅了するような笑みが、逆に俺の不安を煽るんだけどね。

 

 

「色々と手続してきたよ。結構面倒だね、アレ」

 

「そりゃそういうもんやろ」

 

「星野君、昼飯がまだなのであれば、何か食べていくかね?」

 

「ラーメンお願いしますっ」

 

 

 注文したアイドル様はぐでーっと机に顔を突っ伏す。

 何十枚の書類にサインすることなど、社会人になれば日常茶飯事になる現象ではあるが、世間を知らないであろう中学1年生の女の子には大変だっただろう。

 とりあえず慮って「おつかれさん」と言葉をかけると、何が嬉しいのか知らんが「えへへ」と笑うアイドル様。まずは斎藤夫妻の養子になるための手続き、次にアイドル活動のためのアレコレを経て、初めてアイドルデビューを果たすのだと、前にアイドル様が語ったことを思い出す。

 何かアドバイスでも出来たらよかったのだが、前世では養子になったことも芸能界に進出したこともないので、ただでさえ役に立たない俺の最大のアドバンテージ(前世の知識)も意味を成さなかった。

 

 養護施設と苺プロの事務所ってそこまで遠くないので、引っ越ししたとしても学区が変わらないため転校等の心配はないと聞いた。

 大将の養子となった俺も、こっから自由で解放された一人暮らし生活の始まりでもある。学区変わらない程度の、ちょうどいい物件を見つけたので、とりあえず契約する方向性で話は進めている。家賃などの金銭的負担は大きくなるが、大将が負担してくれると言っていた。二つ返事で了承した点は不可解だが、その点においては大将に感謝している。

 

 

「引越しの進み具合はどうよ」

 

「荷物をまとめるのは終わった感じかなぁ。そもそもモノが少ないし」

 

「いつ運び出すん? 何なら手伝うぞ」

 

「ありがとー。運び出す日程はまだ決まってないかなっ」

 

 

 オイオイ、決まってないってどういうことだよ。斎藤社長としてもアイドルとして活動するためのレッスンや準備は早めに始めたいだろうから、引越し等の面倒ごとは早めに片づけたいはず。

 それが決まってないとは……どうしたんだ、社長。

 

 

「だって君次第なんだもーん」

 

「は? 俺?」

 

 

 俺の疑問に「だって君が家をまだ決めてないから──」と言葉を続けるアイドル様。

 

 

 

 

 

「──君と一緒の家に住むんだから、当たり前でしょ?」

 

 

 

 

 

 核兵器並みのトンデモ発言を投下してきた。

 無論、俺はそんなの知らない。

 

 

「ダディャーナザン⁉ オンドゥルルラギッタンディスカー!」

 

「こらこら、私の前世の家名を晒すんじゃない」

 

 

 この男は知っているだろうとオンドゥル語で訴えてみると、大将は否定することはなかった。つまりアイドル様は最初から俺と同棲する気満々であり、大将が不動産に行ったとき「それなりの広さは欲しいな……」と、一人で住むにはやや広い賃貸をなぜか勧めてきた理由がやっと判明するのだった。この男、契約の際のアドバイスだけでなく、こんなところにまで手を回していたとは。

 それは前世で一人暮らしをしてきたときに、妹が突撃してきて「一緒に住みます!」と言ってきたときを彷彿とさせ、しわしわピカチュウみたいな表情になる俺。

 今世ではせっかく一人暮らし生活を満喫できると思ったのに。エロ本購入したら隠さんといけないやんけ。

 

 あとアイドル様が「大将の前世の苗字ってタチバナなんだ……」と驚いている。

 漢字は元ネタとは違うけど、期せずして被ってしまった。

 

 

「自分が何の職業するのか本当に理解しているのか? つか俺の前世は聞いたんだろ。なら、俺がどういう人間なのか理解したはずだ。こんなのと一緒に住む必要はないんだぞ」

 

「君の前世を知って、それでも私は君と一緒に居たいと思ったからいいのっ。私が、私の意志で、シオンと一緒に居たいんだよ? それとも……嫌?」

 

「あぁ、嫌っつーたらどうする? 諦めてくれんの?」

 

「え? 諦めないけど」

 

 

 そう、アイドル様はそういう女である。

 愛を知らない生き物だったアイドル様は、俺という世界のバグと出会ってしまったことにより、『好き』の感情を勘違いしている傾向にある。

 どっかでか修正しないといけないと思っているものの、誰一人として協力してくれる同胞がいない。大将以外の転生者である腐れ縁にも協力を求めたが、「彼女が幸せなら、それでいいんじゃないですか?」とあしらわれてしまった。

 このままじゃ手遅れになってしまう。どないするん?

 

 

「こんな可愛い女の子と二人っきりで住めるんだよ? もっと喜んでいいと思うんだけどなぁ。……施設だと他の人の目もあったし、イロイロなことが出来るかも?」

 

 

 超絶美少女は俺をからかうように、そしてどこか期待するように俺の顔を覗きながら笑う。これが前世の記憶もない普通の男子だったら、心肺停止どころの話じゃない大惨事が起こるのだが、残念ながら目前に居るのは精神年齢アラサーの転生者である。

 なので、俺も笑顔で返すのだった。

 

 

 

 

 

「──俺、巨乳で年上のおねーさんが好みなんだ」

 

 

 

 

 

 後日、俺はクッソ不機嫌なアイドル様との同棲の為に引っ越し作業をするのだった。

 

 

 

 




【主人公】
 原作知識持ちの転生者。巨乳年上が好み。

【大将】
 原作を履修してない転生者。ちなみに原作云々の話はアイに話していない。

【星野 アイ】
 未来の人気アイドル様。主人公の好みなんて関係ない

【カミキヒカル】
 原作知識持ちの転生者。出番なし。原作の『他者の弱みに付け込んで思考誘導する』能力は健在だが、今作の彼は自身の生存にその能力を全振りしている。自身の命の重みの方が重要。

【リョースケ】
 原作知識持ちの転生者。出番なし。『狂信的なストーカー気質』を探偵業を営むことでプラスに使っている。

【???】
 原作知識持ちの転生者。出番なし。ロリコン。

【???】
 原作を履修してない転生者。出番なし。前世の主人公の妹。
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