流星群に願いを 作:キチガイの人
時は流れ『B小町』のお披露目ライブ初日。
まぁ、ライブとは言ってみたものの、数年後ならいざ知らず、今の『B小町』の知名度は下の下。いくら学生モデルの寄せ集め集団──ビジュアル上位の集合体であろうと、客の入りは数十人と小規模であった。こここから東京ドームで公演する規模まで飛躍すると考えると、なんか、こう……こみ上げてくるものがある。
そして俺はというと、一応は苺プロの関係者ではあるものの、俺の仕事は事務仕事が主であり、現場で俺ができることなど一つもない。アイドル様ならまだしも、俺はアルバイトとはいえ中学生の未成年者だからな。表立ってあまり動けん。
そんなわけで、俺は客席側でアイドル様の勇姿を見守ることとなった。
「「………」」
新規アイドルのグッズに身を包んだ
帰っていいですか?
「おま……大将、おま……」
「どうした、少年。困り事かね?」
どうしたじゃねぇんだよ。
大々的に活動する前のアイドルグループのグッズでフルアーマーしている奴の隣に立ちたくないんだよ。既に活動しているグループならまだしも、これ初披露目だぞ? 初手物販で散財する奴初めて見たわ。周囲の人間からも奇妙なものを見る目で見られてるし。
心なしか我らがアイドル様の関連グッズが多い気もする。大将なりの応援なのだろう。厄介オタク感がひしひしと伝わってくる出で立ちだけど。
「つか物販ってもう始まってたっけ? 今回初ライブだから、ライブ後の販売って聞いた気がするんだけど。それを躊躇なく買う大将もヤバいけど」
「? 何の話だ」
「いや、その仮面ライダー最終フォームみてぇな重装備のことだよ」
「私の手作りだが?」
俺は前世今世含め、初めて『畏れ』というものを他者に抱いた気がする。
現時点での『B小町』における最大のファンは、もしかしたら目前の男なのかもしれない。原作知識が皆無であるがゆえに、俺のように先を見据えているのではなく、今この瞬間のアイドル様を全身全霊で応援している大将。
純粋に彼女を応援できる彼を羨ましく思うが、彼の立場に居ると将来彼女を救えなくなる。原作ルートを突き進めば、彼女のことを一番気にかけている大将が悲しむだろう。悲しむだけならまだしも、この義理堅い男は確実に絶望する。下手すれば、大将が
なので、そうならないよう俺は彼女並びに双子の為に動く。
──そう、
「つか聞きたかったんだけどさ。大将って子役やってたん?」
「……あぁ、やっていたと言えば、確かにそのような時期もあった」
閑話休題、俺は前にアイドル様から聞いたことを大将に問うてみる。俺もこの男が子役でブイブイ言わせてたなんて初めて聞いたからな。そして、社長曰く、今でも名が出るほどの伝説的子役であったらしいので、俺はライブが始まるまでの隙間時間に話題を振ってみたのだ。
大将は懐かしむように語り出す。
「起用されることが多かったからこそ、あたかも天才子役であったかのように語られるのだろう。実際は違う。私という当時の子役は、撮影するにあたって非常に扱いやすい存在だったのだろうよ」
「そのココロは?」
「『その日の気分に撮影が左右されない』ということだ。子供とは気分屋なもの。ドラマなどの撮影など特に、子供の気分一つで延期する可能性だってある。そういう気分の起伏がない……というよりも、精神年齢が成熟していた私は、当時の撮影側にとっては良き駒であったはずだ」
なんか原作でもそんな感じの会話があった気がする。
外見もそこまで悪くはなく、演技力は平凡ではあるが人生経験でカバーし、一般的な子供が演じられないようなものにまで手出し可能。純真無垢な子供を求める役には向いてないものの、時代劇や大河ドラマ、特殊な設定の役柄だと、当時の子役界隈では真っ先に名が挙がるのが大将だったと言う。
例で挙げるとすれば『大人が何らかの理由で子供になってしまった役』だろうか。見た目は子供なのに、口を開けば成熟した大人の雰囲気を醸し出し、その難解な役を演じ切る。まぁ、演じると言うよりも、演じなくても状況的には
ボロが出る前に辞めたって話だけど。
引き際の見極めが上手な男である。
「小さき頃に金を稼ぐとなれば、普通のやり方では十中八九不可能に近い。子役という職業は、私が早めに稼ぎを得るための手段に過ぎなかったわけだ」
「よくもまぁ、
「稼ぎのいくらかを渡せば、喜んで送り出してくれたぞ? 私の貯蓄に手を出される前に、さっさと縁を切ってこうして独立しているわけだが」
「さてはオメー、今世の親と仲悪いな?」
さすが『推しの子』の良心的母親ランキングで、子供を産んですらいないミヤコ様がランキングトップな世界線である。
自身の貯金に手を出されそうになった大将の回避方法も豪快であり、数百万を預けたダミーの通帳を作り、本命に全額貯金していたらしい。さすがに一人ではこの方法は出来なかったらしく、今世の祖父に手伝って貰って、両親の魔の手から資産を守ったと。
通帳作成と、自身が縁を切るまで資金管理をしてくれた祖父には感謝してもしきれないらしい。
「しっかし、その数百万が勿体ねぇなぁ」
「果たしてそうだろうか? その数百万ぽっちで、数千万を守れるのであれば安いものだ。こうして今世の両親から反対されていたラーメン屋も開業することもできた」
「あぁ、ラーメン屋するための資金稼ぎだったのね、子役のアレ」
「あの守銭奴共は役者の道を進んで欲しかったらしいが、私の夢は前世からの大望。そのために子役なんぞに手を出したのだし、手段を親の願望で目的化する気は微塵もなかった。私の中では今世の両親への義理は果たしたつもりだ。親不孝と笑いたければそうするといい」
例の同じ転生者も原作に縛られているので、こうやって前世の無念を今世で果たす大将の行動には好感が持てる。確かにやっていることは親不孝の何物でもないが、今の大将は両親に迷惑をかけていない。養育費だって、一定割合渡していた稼ぎと、勝手に使われた
親だって産んだのがラーメン屋志望の転生者だとは思わなかったのだろう。親の心子知らず、子の心親知らず、育児教育とは難しいものだ。
「という経緯があるからこそ、
「すっげー関係ない話するけどさ。いつから名前呼びし始めたん?」
「他人行儀だから名前で呼んで欲しいと、彼女から打診があったものでな。ついでに『シオンが名前で呼んでくれないよー』って苦情も貰っている。改めたまえ」
「俺は苗字呼びの方で慣れたんで直す気はないで」
名前呼びしたら負けだと思ってる。
色々と。
「手段の目的化、かぁ。ん? でも星野の目的って『嘘でも愛してるって言い続ければ、それが本物になるかもしれない』的なやつじゃなかったけ? ほら、彼女って愛し方の分からない生き物って設定だったし、大将の心配は杞憂なんじゃね?」
「………」
「そのアーニャみたいな笑い方ヤメロ」
某ホームコメディのアーニャ・フォージャーみたいな『よゆうのえみ』を見せつけてくる大将。いい年したオッサンがそれやっても殺意しか湧かん。
オッサンっつーても、大将ってまだ27歳なんだけどね。俺から見れば立派なオッサンよ。
「さて、そろそろライブが始まるぞ。……ところで少年、その、オタ芸なるものは、どのようにすればいいのだ?」
「い、いやー……俺もZ軸のあるアイドルを推したことないから知らん」
なんて大将の過去話で花を咲かせて時間を潰していたところ、待望の『B小町』による初ライブが開幕したのだった。ステージで歌って踊っている美少女集団に、ライブでの作法を知らない俺と大将が戸惑うが、周囲を見てみたら周りもそんな感じの人しかいなかったので、とりあえず彼女らの歌のタイミングを見計らって赤い光る棒を振っている。
さすがにオタ芸をガチでやるような層が弱小事務所の無名アイドルの初ライブには来ないか。逆に、そういった層が新規開拓として来るものだとばかり思ってたが。
4人の少女たちによる初めてのステージ。
まだまだ駆け出しと言った感じの、ぎこちない動きながらも一生懸命に歌って踊っている様は、ステージの光よりも眩く輝いていた。テレビ越しで見るのとは違った臨場感というものがあり、俺も、大将も、周囲の観客もそれに魅せられる。
その中でも一際、目を奪われるのはセンターの『アイ』だ。まだ完璧で究極とは言い難い、アイドルの雛のような彼女ではあるが、それでも一生懸命、精一杯に練習したのだろう。実際、アイドル様は遅くまで練習してたのは知ってたし、魅せ方の研究も拙いながらも頑張っていた。
その目の輝きは雛であろうと一番星。
後に数多の人間を魅了する白き星が、ステージで舞う。
俺はその姿に魅せられてしまう。
あぁ、本当に──
「凄いな、あいつ」
「……なるほど、確かに素晴らしい。少々見くびっていたのかもしれん。完璧で究極なアイドル……だったか? あと数年もすれば、そう称されるのも納得がいく」
大将は感心したように相槌を打つ。
ステージから目を離さず、俺は彼女の勇姿を目に焼き付ける。
「……やっぱ、そうだよなぁ」
「少年?」
彼女の輝かしいステージを見て、魅せられて、俺は確信する。
やはり、俺とアイドル様とでは、生きる世界が違うのだと。
俺は彼女の隣に立つべき人間ではないのだと。
彼女がどれほど願おうとも、彼女が俺をいくら肯定しようとも、周りがそれを許さなくなる。推定黒幕が生きる世界が一緒であり、彼女が望むものを持っていたので、隣に立つことが出来たのだろう。まぁ、隠し通してたので世間に認知されなかった、と言った方が正しいが。
しかし、俺は違う。推定黒幕のような特別な何かを持っているわけではない俺では、彼女の隣に立つことなど烏滸がましいにも程がある。俺一個人の考えではなく、世間がそれを絶対に許しはしない。同程度の才覚を持った人間が彼女の隣に立つのと、ただの一般人が隣に立つのとではわけが違う。
人間の心理的な話である。自身とは圧倒的に差がある人間だと「まぁ、アイツだしな……」と納得できるが、自身と同程度、もしくは下の人間相手だと「アイツが隣にいるのなら、俺だって──」みたいな心境になるのだ。
すると、どのようなことが起こるのか。
アイドル様が被害を被るのである。
より詳しく説明するなら、前世の俺みたいな感じになるのである。天才と凡人が関わってしまったらどうなるのかの最もな例だろう。
隠し通すにはあまりにも爆弾が大きく、俺はそれが爆発した際の責任を取ることが出来ない。それならいっそ、バレる前に爆弾を解体するべきなんじゃないかと考える。俺は、可及的速やかに彼女の元を離れるべきなんじゃないだろうか?
何にも考えてなかった前世の俺は、身の程を弁えず殺された。兄妹仲は不仲ではあったものの、俺の死は実妹にとって愉快なものではなかっただろう。むしろ、不快にさせてしまったことを後悔しているくらいだ。俺はそんなことをアイドル様に強いたくはない。彼女には幸せになってほしい。
推定黒幕とアイドル様がくっつくのを見届けてから、何とかして彼女の元を去ろうと思っていた俺だが、それは俺が心の奥底で彼女と別れたくないと未練がましく思っていただけではないかと考える。
だが、彼女の幸せを真に願うのであれば、あと数年を待つなんて言ってられない。いつ彼女と俺の同棲がバレるか分らんし、世間はそれを許してくれるほど優しくはない。彼女は知らないのだ。世界は自身の想像する数十倍は、自身の不幸を願う奴らが存在するのだと。
ライブも終わりに近づき、最後に彼女らが自己紹介している間にも、俺はどうやって彼女を悲しませることなく別れるかを思案する。
「──『B小町』のセンター、新人アイドルの『アイ』でーす!」
一番は俺への興味を無くしてくれることだが、あまりにも受動的すぎる。でもなぁ。俺がアイドル様を突っぱねようもんなら、彼女はなぜか知らんけど泣いちゃうんだよなぁ。
うーん、何とか、こう……円満に別れる方法はないだろうか?
こういうとき、大将の交渉術が光るのだが、肝心の彼は彼女側の人間だからなぁ。考えるのが本当に面倒だ。くっそ、いっそのこと警察のお世話になってみるか? そうすりゃ物理的にも社会的にも別
「メンバーで唯一の彼氏持ちでーす! そんなんでも大丈夫って人は、推してくれると嬉しいですっ!」
俺は顔面から受け身も取らず倒れる。
顔面からゴツッと出てはいけない音が聞こえる。
「あっ……あっ……」(過呼吸)
「しょ、少ねええええええええええええええええんっっっっっっっ!?」
ここから入れる保険ってないですか?
【主人公】
原作知識持ちの転生者。爆弾を解体する前に起爆された様子。
【大将】
原作を履修してない転生者。コイツの子役成功体験のせいで、コイツの弟の娘さんが苦しむことになる。ね、10秒で泣ける天才子役さん?
【星野 アイ】
駆け出しアイドル様。先行ワンターンキル型アイドル。
【カミキヒカル】
原作知識持ちの転生者。出番なし。いやああああああああああああああ完璧で究極なアイドルが芸能界に来たああああああああああ!!(恐怖)
【リョースケ】
原作知識持ちの転生者。出番なし。ここ『推しの子』世界かよおおおおおおおおおお!? カミキ死ねえええええええええええ!!(殺意)
【???】
原作知識持ちの転生者。出番なし。実は初ライブを観戦している。
【???】
原作を履修してない転生者。出番なし。前世の主人公の妹。今世では裕福な家庭に生まれたが、両親姉妹を家族とは一切思ってない。
次回:狡猾で計算的なアイドル様