流星群に願いを 作:キチガイの人
我々はハナからおまけです お星様の引き立て役Bです(あんな破天荒アイドルと一緒にすんな、の意)
全てがあの子のお陰なわけない 洒落臭い 妬み嫉妬なんてないわけがない(彼氏いるのいいなぁ、の意)
これはネタじゃない からこそ許せない 完璧じゃない君じゃ許せない 自分を許せない 誰よりも強い君以外は認めない(ここまで苦労したんだからせめて結果を残して……、の社長の心の叫び)
──YOASOBI『アイドル』より抜粋──
都内某所のカフェにある野外席にて、俺はブラックコーヒーを飲みながら待ち人の到来を望む。まだこの時期にスマートフォンは存在しないので、俺はオッサンの如く新聞を広げながら時間を潰していた。
……某FGOの
自作した最初期のカルデア制服に身を包んでいる男子中学生。普通に考えればおかしい以外の何物でもないが、自宅からカフェまでの道中ではすれ違う全員に二度見された。それが「なんで野郎がスカート履いてるんや」みたいな視線ではなく、「あの娘可愛くね?」的な視線だったのは記憶に新しい。
何なら何名かの男性に声をかけられたくらいだ。
声出せば男なので、言葉を交わせばすぐに去ってくれたが。ぐだ子可愛いもんね。
なぜこんなややこしい格好をしているのか。
待ち人が
スマートフォンが普及していない現在進行形にて、俺の姿そのものがオーパーツに近い。というか社長やアイドル様からも「新しい女モノのコスプレしている」程度の感想しか生まれないが、同じ境遇の人間からすれば俺の姿格好そのものが目印になる。
簡単に言えば、この格好の元ネタ知ってる人間は全員転生者なのだ。きのこ以外は。
ぶっちゃけ俺と待ち人は面識があるので、こんな面倒なことはしなくても分かるのだが、この格好をしていた方が分かりやすいのは事実。あと驚かしてやろ精神もある。
なんてアホみたいなことを考えた結果の出で立ちで待っていると、この席に近づいてくる音が聞こえた。俺は小さくため息をつきながら新聞を畳む。
どうやら待ち人がやっと来たらしい。
「よぅ、遅かったな。よくここが──」
俺はニヤニヤ笑いながら振り返り──そのまま固まった。
歩いて来たのは一人の少女。そんなに直視しなくても遠目からでも美少女だと判別できるくらいには整った顔立ちをしており、アイドル様を筆頭とした芸能界に蔓延る美男美女の面を見てきた俺でも、その少女は頭に『美』がついていてもおかしくない女の子だった。
雰囲気的には寡黙な深窓の令嬢といった感じだろうか?
ゆったりと軽く後方に縛った長い黒髪を揺らしながら、その透き通った空色の瞳を俺に向けている。男ならナンパの類かと勘繰ったのだが、ここまで完成された美少女だと、この女装野郎の席にわざわざ向かってくる理由が分からない。造花の百合でも咲かせる気かもしれない。
それにしても……原作キャラじゃないのは間違いないが、どっかでか見たことある瞳だ。が、俺がそれ以上考えるのを脳が拒絶する。
なんか見たことがあるのである。
俺は絶対に認めたくないが。
その少女は口を開く。
儚げな笑みを浮かべながら。
「──ロリロリローリ」
「テメェ田中かよおおおおおおおおおおおっっ!!!!???」
俺の魂の叫びだった。
♦♦♦
俺とアイドル様の元クラスメイトで、俺と同じ転生者である『田中 太郎』は、注文を聞きに来た男性店員に慣れたように注文を告げ、童貞なのか知らんけど男性店員は赤面させながら奥に引っ込んでいく。
その様子を仏頂面でコーヒー飲みながら眺める俺。
コイツ驚かしてやろうという当初の目的は鳴りを潜め、かつての腐れ縁にぶっきらぼうに雑談を持ちかけるのだった。
「……俺の記憶が正しければ、お前は男だった気がするんだが?」
「ブーメランがお上手ですね」
「それはつまり俺と同じ女装ってことか?」
「天然モノですよ。正直に申しまして、貴方のソレは女装の域を超えている気がしますが。今世でも健在なんですねぇ」
美少女は上品に微笑む。
俺のは胸はまな板だし、喉仏隠してねぇし、この髪もウィッグだし。どっからどう見ても女装だろうがとツッコミたくなったが、それ以上に目前の女(?)が爆弾を投下してくるものだから、その機会は永遠に失われることになる。
「名前経歴含め、どう考えても男だと思うぞ。普通は」
「普通はそうですよねぇ。小中共に男性として学校には在籍しておりますし、■■の疑問は当然かと思われます。理由としては……そうですね、
「いくら『推しの子』世界だからって、んな毒親・毒家庭の博覧会せんくても……」
「前世もそんなもんでしょう。前世ではインターネットの普及で白日の下に晒されることとなりましたが、昔からこういった非常識な家庭なんて普通にありましたよ。前世の貴方の御両親がSSR級だったと言うだけの話ですね」
「世知辛い世の中だなオイ」
なんか原作キャラや転生者共の両親事情を聴く度に、俺の前世の両親の株が爆上がりするのバグか何かだろ。……いや、俺とかいう無能の愚息と、妹とかいう扱いづらい天才を産んでしまっただけで、ちゃんと二人とも大学まで出してくれたんだから、世間から見ても最高の両親だったのかもしれん。
今さら爆上がりしたところで、俺が前世の両親に感謝しているのは何回死んだところで変わらんが。そんな最高の両親より先に死にやがった親不孝の見本みたいなムーヴをしてしまったことが、本当に心残りだわ。生まれ変わったとしても、その両親には未来永劫、金輪際会うことはできないというオマケ付きである。
「しかし、本当にこの身体は不便ですよ。男装して生活しなければなりませんし、男子トイレは個室縛り。水泳などの授業も当然見学。加えて、どんどん女性らしい肉付きになりつつもある。まったくもって面倒極まりない」
「男装して学校生活送るとか少女漫画だけの世界だと思ってたわ。そういや、今世のお前ん家、そこそこいいとこの家庭だったな。そこら辺も原因?」
「ご名答。大将殿同様、絶対に家を出てやりますよ」
微笑んでいるが目は笑ってなかった。
どうやら、かなりのストレスを貯め込んでいるようだ。
「まぁ、温泉で女湯入れるのは最大級の利点ですが」
「コイツ女にしたの最大級のミスだろ」
「無論、私のモットーは『YES!ロリータ、NO!タッチ』ですので。幼き幼女の裸体を脳裏に焼き付けるだけです。何か問題でも?」
「ガワだけ見ていると、ただの中学生女子が幼女を眺めているだけなのに、こうも事情を知ってると犯罪以外の何物でもないのやべぇわ。
司法側すれば「んな転生案件まで考慮しとらんわ」としか返ってこないだろう。転生を考慮するのを期待する方が間違っているか。転生とかいう非科学的なシステムなんて普通信じないだろうし。
俺も司法側なら絶対に頭抱える。
唯一の救い(?)は、性転換したが故の苦労が洒落にならないくらい多いことだろうか? 前世では自身のことはあまり話さない男だったが、女性として生を受けてからの愚痴が止まらないわ止まらないわ。コイツ自身が小学生の頃は
そんな事情もあり、俺と会うことも両親には伝えてないとかなんとか。
俺も女装してきてよかったわ。
「──なんですよ、えぇ。そうは思いませんか?」
「はえー。そんな苦労もあるんだな。あれだな。星野にはもちっと優しくするか……」
「あ、それと貴方にとっては物凄くどうでもいいことですが、おっぱいって肩凝ります」
「その話詳しく」(開眼)
「精神年齢アラサー童貞の食いつきが凄い件について。むしろ哀れに見えますよ。何なら揉みます?」
「是非……と言いたいところだが、お前の乳揉んでも虚しさが勝りそう」
ガワも美少女だし、声も芸術的。そんな完璧で究極なアイドル様とは別ベクトルの完璧で究極なTS美少女な太郎ちゃんだが、アイドル様との相違点として双丘が立派な点にある。あくまでも二人を比較して、である。
クール系無表情美少女が自身の両乳を鷲掴みながら首を傾げて誘ってくる姿は、ちょうど注文の品を持ってきた男性店員を亡き者にしてしまったが、俺としてはどうしても前世の腐れ縁の印象が拭えない。
あれだ。物凄いエッチなドストライク二次元美少女の名前がオカンの名前と同じだったみたいな感情だ。あれは非常に辛い。
「もしかして星野さんも私の性別はご存知ではない?」
「お前が言っとらんなら知らんとちゃう? 知らんけど。お前んこと君付けしてたし、知らん方に一票」
「ふむ……つまり、私と貴方の邂逅はスキャンダルになりかねないと? まぁ、貴方の姿を見て同一人物と断定するのは難しいとは思いますが。それよりも、
「バレんやろ」
俺はカップに残っていたコーヒーを飲み干す。
「アイツ、今日はララライのワークショップ行ったし」
田中は目を細めた。
「……なるほど、もうそのような時期なんですね」
「そゆこと。やっと、って言うべきなのかもしれんな」
俺は彼女(?)の反応に肩をすくめる。
なんも俺は悪くはないが、以降の言葉が言い訳じみて聴こえるのは何故だろう?
そこそこ大成したアイドル様は、今日ちょうどこの時間帯は、劇団『ララライ』のワークショップに赴いている。この頃の劇団はそこまで大きくはないにせよ、アイドル以外の仕事も増えてきたアイドル様にとっては良い経験になるだろう──という
俺もその案件を止める理由がなかったし、止める権限をそもそも持ち合わせていなかった。まぁ、アイドル様に行くなと言えば、十中八九行かないほどの関係を築いたような気がするが、それでも俺は止めなかった。
肝心のアイドル様は止めなくても面倒臭いなぁ……と愚痴っていたが、渋々と俺の服を着て行きやがった。彼女は同棲相手からの強奪方法以外に、服の入手方法を知らんのだろうか?
原作だとココでアイドル様は推定黒幕と会って恋に落ち、鏑木さんのサポートの下、肉体関係を持った末に双子を産む流れだったはず。ある意味で推定黒幕に命を狙われるきっかけとも言えなくもないが、そこのところは心配する必要はない。俺が絶対にそんなことはさせないし、大将や田中のサポートもある。
問題は事の中心人物であるアイドル様が、ちゃんと推定黒幕と関係を持ってくれるのかの話だが、俺はそこまで心配してない。どうやら原作の必須イベント……例を挙げるとすれば『母親が迎えに来ない』や『社長のスカウト』というイベントが起きている以上、推定黒幕との関係構築は起こるべくして起こるもんだと個人的には思っている。
参加者の中に推定黒幕の名前もあったことから、これはもう確定事項だろうと推測する。
要約すると彼女の人生という名の舞台で、俺はもうお役御免になるのである。
長いようで短かったなぁってのが素直な感想である。
「貴方の思惑はある程度耳に入れましたが、そもそも貴方という『彼氏』を作った彼女が、果たして別の男と関係を持つのでしょうか? 星野さんの話を聞く限りだと、とてもそうなるとは思いませんが」
「なんだ、お前らしくもない。人の好意という感情ほど移ろいやすいモンは存在しないってのは、前世の俺ん周囲を見てりゃ一目瞭然だろう? 口で『好き』だの『愛してる』だの言ったところで、そこに確実性なんてのはありゃせんよ」
幸にも不幸にも芸能界という魑魅魍魎が跋扈するトンデモ世界に、僅かながらでも関わってしまったがせいで、それがどういう世界なのか俺は百聞と一見によって知った。
苺プロでそれなりの立場を確立してしまった俺だが、正直言って辞めたい。テレビやら何やらの裏側を見て面白いかと言えば、面白い時も確かにあるにはあるが、それ以上に「うっわ」とドン引くようなことが多いのが現実だ。
短い期間であったが、それでも断言できる。コレは安定志向の俺には向いてない職種だ。
そんな背後まっくろくろすけな芸能界。普通の女の子な面を持つアイドル様だが、それでも彼女の性質上『向いている』ことに変わりはなく。
んな世界において、男女間の肉体関係なんざコミュニケーションの一種に過ぎない。原作でも十秒でちいかわになれる天才子役様に、ミヤコ様が言ってただろう? 貞操観念ある人間ほど辛い業種だって。そういうことである。
なのでアイドル様が他の男と関係を持ったところで、俺はそこまで意外には思わない。あの嘘の仮面で他者を魅了するアイドルだぞ? 彼女が男とヤることヤってても、俺はそれに気づくだろう自信はないし、それを止める権利も義務もない。あくまでも俺と彼女はビジネスパートナー同士であり、同棲しているだけの赤の他人なのだから。
「………」
「どうした、急に眉間を揉んで。具合悪いのか?」
「……いえ。何でも。ただ、
「ん?」
どういう意味だろうか?
「どっちにせよ今日以降で分かることだろうさ。そうすりゃ俺も苺プロに在籍する意味がなくなる。そろそろ高校受験も視野に入れて動かねぇといかんし、大将とも話をすり合わせて地方に逃げる準備もせんとなぁ」
「東京の学校でもいいのでは?」
「あっちがどう思うか知らんけど、普通に考えてビジネスパートナーとは言え彼氏扱いしてた奴とか、別の男の子供産むのに邪魔だろうが。常識的に考えて。アイドル様がどう思うのか知らんけど。つか俺が気まずいから逃げる」
「それもそうですね」
あとはアイドル様が刺殺されるのを防ぐだけであり、それは先の話である。田中も彼女と同じ地域で動くって話だから、監視はコイツに任せて問題ないはず。
TS娘の何か含みのある視線は気になるが、俺の思考は「長年の夢だった公務員になって安定した収入を得る」に移り変わっていたので、そこまで深くは考えなかった。
♦♦♦
「──たっだいまー!」
「おかえり。ワークショップ楽しかったか?」
「全然!」
「んな自信満々に言わんでも……」
「……あー、でも面白い人はいたかなぁ。金髪でそこそこイケメンだった男の子がいてさー。無意識に気になって、つい目で追っちゃうような不思議な子だったよ」
「……そうか」
「でも男の子の方は、私のことを見た瞬間に奇声をあげて逃げちゃったけどね」
「……
【主人公】
原作知識持ちの転生者。余談だが大将の暴露話は序の口で、もっとヤバい問題が推定黒幕と実行犯から語られる予定。
【星野 アイ】
現役アイドル様。推定黒幕への第一印象は「四足歩行で逃げ回る面白人間」。
【カミキヒカル】
原作知識持ちの転生者。出番なし。三└(┐卍^o^)卍ドゥルルルルル(逃走)
【リョースケ】
原作知識持ちの転生者。出番なし。このゲーム実況してる女装野郎、例のアイツじゃね?(発見)
【田中 太郎】
原作知識持ちの転生者。♀。男装って言っても男物の服着てサラシ巻くだけ。まぁ、名前なんて所詮は他者を区別するための識別番号代わりですし? 外見は『崩壊スターレイル』のルアンメェイをイメージ。
【???】
原作を履修してない転生者。前世の主人公の妹。着々と主人公に会うために裏工作中。最初に言っとくが今世でも女です。
次回:主人公VS実行犯