流星群に願いを 作:キチガイの人
腰がお亡くなりになって物理的にPC前に座れず投稿遅れました。今も痛いですがピーク程じゃないので大丈夫です。
皆様もお体にはお気を付けください。
「……オイ、テメェら。そンちっせェ脳味噌ン中には『自重』って二文字は入ってねェの──」
「やっべ、くっそ美味ぇ! はー、今世初の焼肉くっそ美味ぇわ。あ、店員さん。ロース3人前追加で」
「カルビうまー! 私も焼肉屋は初めてだよっ。中々行く機会とかなかったし、同棲してからは質素倹約?ってシオンが言ってたからね」
「曲がりなりにも俺たちは養子勢だから、仕送り貰っている身としては、豪遊なんざ出来ねぇだろ。将来何が起こるか分らんし、貯蓄も必要だしなぁ。それに、他人の金で食う焼肉は美味いって至言もある。星野だってアイドルで売れだしたら、こういう店でお偉いさんと飯食うことになると思うぜ」
「……うーん、でもこういうのって仲の良い人と一緒に食べるってのが良いんじゃないの?
「仕事なんだから仕方ないだろ。あ、肉焼けた。ほい」
「ありがとー。んー、こっちも美味しいっ」
「………」
何とも言えない表情で俺とアイドル様の食事を見守る大学生の青年を横目に、俺はんなのお構いなしに他人の金で焼肉を豪遊していた。個室タイプの焼肉屋なので会合・密談にはピッタリのお店であり、何より扱っている肉が上質で美味しい。
数年前までバリバリ孤児だった俺たちには、誰かから奢ってもらわないと入ろうとも思わない店だった。
現在の時系列は原作でアイドル様を刺殺した実行犯と原作前倒しで邂逅し、その実行犯は俺の前世の腐れ縁であることが判明した後。
俺も相手側も積もる話は多く、しかしアイドル様の前では語れないことも多くあるが、それでも十数年ぶりの再会もかねて、こうして焼肉屋で奢ってもらっている。今世の年齢的には先達にあたる実行犯が自らロハだから食って行けと言質をとり、俺とコイツとの間に遠慮の二文字は存在しないので、俺は全くもって気にせず肉を食らう。
後に見るであろう伝票に顔を引きつらせる実行犯。
先の苦言も伝票に記載される金額が5桁超えたが故のものだったのだろう。
自重せんけどな。前世の俺に飯代で7万出させたの忘れてないからな? 俺たちの間で『自重』やら『遠慮』が存在しない理由である。
「しっかし、ホントに久しぶりだな。息災だったか?」
「フン、おかげさまでなァ。テメェの方こそ……愉快なことになってるじゃねェか」
「だろ? 助けて」(懇願)
「あァ、検討に検討を重ね検討を加速しとくわ」
「何も決まらんだろソレ」
クククっと愉快そうに嗤う実行犯。
あの総理元気にしてっかなぁ。
「えっと、あのー……」
「……──リョースケ。テメェらアイドルにとっちゃ有象無象の一人で、そこにいる阿保の前世の腐れ縁だ。好きに呼べばいい」
「あはは……ごめんね? 昔から人の名前を覚えるのが苦手でさー。あと、シオンから別の呼び方で君のことは聞いてたから、そっちの方で覚えちゃって……」
「ンじゃもう、それでいいンじゃねェの?」
彼女に声をかけられた原作の実行犯は、酷くつまらなそうに細めていた眼を若干見開く。そこにかつての腐れ縁の意志が介在しているように見えず、どこか別の誰かの感情が出ているようにも見えたが、それは一瞬の事だった。まるで、アイドル様に認知されたことを喜ぶように。
……もしかして原作の彼が
真相はぶっきらぼうに対応する腐れ縁しか分らない。
もしかして、この段階からアイドル様が原作実行犯を認知するとは思わなかった。今までの俺は彼女の殺害実行犯であった『リョースケ』を仮想敵として動いていたからな。こうやって焼肉を奢ってもらえるなんざ、夢にも見なかったくらいだ。まぁ、一番の驚きは、原作実行犯にウチの馬鹿がインストールされている事実なのだが。
二度と会うことはないと思っていた奴に再会すると、なんかこう感慨深いものが
「そう? じゃあ、これからよろしくねっ──熟女キラー君♪」
「………」
「ごめんて」
リョースケが花束差し出しながらナイフをブッ刺しそうな瞳を俺に向けてきた。いや、今のコイツなら花束もブッ刺してきそうな気迫があった。
実際に二度と会うと思ってなかったもので、アイドル様が時折聞いてくる前世の話で、勝手にコイツ含む腐れ縁等の名前を出すのも如何なものかと思い、
余談だが田中のことをアイドル様は『ロリコンちゃん』と呼んでいる。田中は満足そうに頷いていた。
そう、原作実行犯が彼女を襲うことはないのである。なぜなら、リョースケがインストールしてしまったのは、年齢的に熟れた女性こそ至高と豪語する生粋の熟女キラーなのだから。
元から人妻・熟女好きの腐れ縁だったが、例の恋人詐欺事件でそれが決定打となってしまい、『50未満は小娘』と迷言を残した男である。もちろん、異性の観点から見るとアイドル様なんてアウトオブ眼中であり、推す推さない以前に興味の対象外とも言える。仮にファンだとしても、原作程の過激思想に陥ることはないだろう。
性格性癖が終わっている知人ではあるが、アイドル様の友人枠としては安全な部類の異性でもある。
『推しの子』作品でヌいたキャラは?とかいう下世話な話題になったとき、名だたる魅力的な女性陣の数々に目もくれず、「五反田カントクのかーちゃん」と即答した男である。面構えが違う。
「……ダメ?」
「星野は逆になんでそれがOKだと思ったん? 非人道的な渾名つけたの俺だけど」
「それ以外なら……人妻ニア君?」
「苺プロに
「悪かったって……」
最終的にはアイドル様に実行犯の名前を何とか叩き込むことで双方同意することになった。やっぱり今後お世話になるであろう人の名前は覚えておいて損はないからね。この娘、未だに社長の名前覚えてないが。
でもミヤコ様の名前は違わず覚えてるんだよなぁ。曰く、「ライバルの名前は覚えておかないとねっ」との事。何の話だろうか?
「……いや、ほら! お前も俺と同じ立場だったら名前出さないだろ!?」
「テメェの前世の名前に価値ねェから普通に出すが?」
「それはそれで酷くない? 人妻ニアだの熟女キラーだの、前世でも散々言われとったやん。お前だって俺のこと散々馬鹿にしたくせによ。なんだっけ? お前俺んことなんて言ってたけ?」
「おっぱい星人」
ド直球に来やがったなコイツ。
否定しないけど。
「……ふーん、やっぱり大きい娘が好きなんだねー。話は変わるけど、私もそこそこの大きさにはなってきたんだよね?」
「それは良かったな」
「………」
俺が焼いた肉をアイドル様に取られたんだが?
リョースケに「うっわ……」とガチトーンでドン引かれたんだが?
閑話休題。
「つか、よくもまぁ俺……というか星野の方か。居場所が分かったな」
「はン、こちとら探偵業を営んでンだ。テメェらの行動範囲、居場所を特定するなンざ朝飯前だっての。舐めてンじゃねェぞ」
「舐めてるわけじゃな──は? 探偵? お前大学生じゃないのか?」
原作のリョースケは大学生と記載があったはず。
俺もてっきり人妻ニアがインストールされてしまったコイツも大学に進学していると思っていたが、後で話を聞いたところ「ここが『推しの子』の世界線で、オレがリョースケだと分かった時点で、進学を諦めた」との事。
そりゃ原作知識持っていた場合、推定黒幕の次くらいに殺っとかなきゃいけない人物だもんな。その対策として、原作でも情報量が少ないことを逆手に取り、『大学生のリョースケ』の『大学生』の部分を消したわけだ。
しかしながら、大学進学しないとなると就職しなければならないのが現代日本。どうやらコイツも例に漏れず親ガチャで爆死してしまったようで、親元離れて途中再会した田中と探偵業を営んでいると口にした。ストーカー気質だった原作実行犯が、この世界線では探偵としてターゲットをストーカーしているのは何とも不思議な感覚だ。
あと田中の野郎。リョースケが人妻ニアに成り下がっているの知ってて言わなかったな? 許せへん。
「探偵、かぁ。あ、もしかして私も依頼とかしていい感じなの?」
「あァ、別に金払いと依頼内容が正当なものだったら受けてやらなくもねェが……」
「シオンの身辺調査も?」
「それ本人の目の前で言う?」
ここでアイドル様の本領発揮と言わんばかりに、ちょうど相手に魅力的に見えるよう上目遣いの角度で依頼するのは卑怯だろう。相手が人妻ニア兼熟女キラーでなければ瞬殺だったぞ。多分。
アイドル様は笑いながら「シオンも動画デビューで人気出てきたからね」と、特に女性関係で探ってほしいなぁと、別世界線で自身を殺害した男に頼んでいた。不貞を疑われるのは心外だし、そもそもビジネスパートナーなんだけど?
「女性関係っつーても、俺にやましいことなんざ一切ないぞ。前世今世万年童貞の俺を舐めるな」
「私抜きで女の子に会ったりとかしてない? 食事とかは?」
「え? あー……食事なら、ミヤコ様と2回ほど飯行ったなぁ。あと、『B小町』の──さんに事務所で手料理振舞ったのと、星野が前に出てた番組の音響さんの外食に同伴したぐらいか?」
「アイドル、正式な依頼なら田中を通せ。金額もアイツと交渉すりゃ、状況も鑑みて割り引いてくれンだろ」
「分かった」
何で俺がストーカーされる立場になるねん。
俺の文句は見事なまでに流されるのであった。
「……まぁ、その依頼は一旦おいておこう。とりあえずリョースケがお前で良かったわ。俺の心配が一つ解消されたのは素直に喜ぶべきなんだろうな」
しかしながら、リョースケがこのザマなので、肝心の推定黒幕の行動が本当に予測できなくなったのは辛い。つまりこの世界線では星野を殺害しようとする実行犯が誰なのか分からなくなったことを意味する。
ドームライブ前の殺人事件を何が何でも阻止しなければならない以上、不確定要素は極力排除しておきたかったのは事実。その観点から見れば、原作実行犯が熟女好きに退化していたのは不運とも言えよう。俺自身、リョースケの顔を見た瞬間に
分かりやすく顔で犯人を判断できないのは少々面倒だ。チェストん前、名前訊くんは女々か?
だが全部が全部悪いこととも言えん。原作のようにリョースケと推定黒幕の邂逅の可能性があることを考えると、本丸である推定黒幕の首に王手をかけられる好機なのは確か。
情報に強い田中の協力もあることを踏まえると、むしろ好都合とも捉えられる。あんまり使いたくない手だが、いざというときは俺が推定黒幕を仕留めればいいだけの話。大丈夫、前世の俺と同じ結末をプレゼントしてやんよ。
俺が今後の計画を思案していると、原作実行犯の携帯から着信音が響く。
断りを入れることなく電話に出たリョースケは、電話奥の相手に滞在場と少ししたら帰る旨を短く報告して電話を切る。
少し気になったので、俺は茶化しながら聞いてみる。
「誰? もしかして彼女とか?」
「ンなわけ。探偵事務所に住み着いてる、マイペースクソ野郎からだよ。ったく……」
「アイツもこっち居んのかよ」
自己中心的なマイペースクソ野郎な腐れ縁その2が、俺たちと同じように転生していることに驚く俺。アイドル様も話だけは耳にしており、母親がド畜生だった方の腐れ縁である。俺の知人が軒並み生まれ変わっている件について。それ以外の転生者情報を探ってみたが、リョースケも田中とマイペースクソ野郎しか知らなかったと口にし、逆に大将の存在にも驚愕の表情を浮かべていた。
俺含めると5人か。
原作知識持ちの同志はこれで4人目である。
アイツもいればアイドル様の将来も安泰だな。
ガハハ風呂入って来るわ的な心境でいると、原作実行犯は言葉をつづけた。
「居るも何も、そこのアイドルはマイペースクソ野郎に会ってるだろうが」
「え、私? そんな人いたかな……?」
「ワークショップでエンカウントしたって言ってたぞアイツ。カミキヒカルって愉快な名前してンだけど」
「カミキ君って転生者なの!?」
アイドル様が「すっごい偶然だねっ」と笑うのを横目に、俺は天を仰いだ。
……何もしてないのに原作壊れたんだけど。
♦♦♦
『おっかえりー、焼肉美味しかった? 美味しかった? 美味しかった?』
『うっせェな。少し奢って来ただけだっての』
『こっちはコンビニ弁当美味しかったよ。ハハッ』
『僻むな。黙れ。こちとらそれどころじゃねェんだよ、クソが』
『あらら、荒れてらっしゃる様子。どしたん? 話聞こか?』
『星野 アイの彼氏、あのヤンデレ製造機の転生体だったわ』
『え゛!? あれもココいんの!? まーた男女問わず脳みそ焼いてんのかなぁ。あ、もしかしてアイちゃんの脳も焼いてくれたのかな? それなら僕は大助かりなんだけど』
『何が大助かりだ、クソが。洒落にならねェくらいにヤベェ状況だっての。よりにもよって、どうしてアイツがアイの彼氏やってんだよ、おかしいだろうが。あァ、もう面倒臭ぇ。ホント面倒臭ぇ!』
『……何か問題でもあった?』
『問題ってレベルじゃねェわ。田中も知ってて放置してるとか頭どうにかしてンのか? 牡蠣狂いもどうして……あァ、
『……ほーう、で? 僕はどうすればいい? 何をすればいい?』
『とりあえず──
【主人公】
原作知識持ちの転生者。これまでの推定黒幕への対策は何だったのだろうか?
【星野 アイ】
現役アイドル様。正式に付き合ってないけど、心の中では既に恋人だと思ってる。つまり自分に内緒で女性と二人きりで食事するのは実質浮気。
【カミキヒカル】
原作知識持ちの転生者。原作ではダウナー系イケメンだが、今作だと表情豊か。何なら銀魂の銀さん並みに顔芸するし、幽霊苦手なので、先日の心霊ドッキリ番組で『ドラえもん』の歌を半泣きで熱唱した。
【リョースケ】
原作知識持ちの転生者。ミヤコさんへの印象は『確かに人妻なンだが……どう見ても若いよなァ……』。
【田中 太郎】
原作知識持ちの転生者。出番なし。愉悦部顧問。
【???】
原作を履修してない転生者。出番なし。前世の主人公の妹。裏設定として、本作は当初主人公死亡で幕を閉じる予定だったが、コイツの出現で死亡√が半強制的に消滅した。
次回:負の遺産