流星群に願いを 作:キチガイの人
2023/11/19 本文修正 アラフォー→アラサー
自身が転生者であると自覚したとき、俺は既に天涯孤独の身であった。これは両親が事故等の理由で亡くなったとかではなく、赤子の状態で児童養護施設に預けられていた……というオチ。孤児RTAをした記憶はないが、悲しいことに今世では両親から捨てられたらしい。
児童養護施設の職員さんが今世の俺にとって親代わりなようなものなのだろう。だからと言って、両親の愛情に餓えているわけではないが。
ひとまずは『幼少期は非常に苦労した』という言葉を以て、赤子から現在に至るまでの回想は割愛させていただこう。前世との年齢を合わせると、それなりのオジサンになってしまう俺なので、子供のフリをするのが辛かった。
赤子からの転生で定番である『いい年こいてママのおっぱいを吸う』なんて、想像しただけでも赤面モノの体験をしなかったことだけは幸いだった。けど、親がいないせいで苦労することが圧倒的に大きいので、捨てたことを許す気など毛頭ない。
転生したときに薄々と勘付いたことだが、ここは『前世の俺がいた世界とは違う、現代日本』らしい。最初は少し過去にタイムスリップしたんかな?としか思ってなかったが──漫画とかでよくあるようなエセ日本らしさが点在しているのだ。
俺が知っている現代日本にはなく、逆に俺が知っている現代日本にあるものがない。
著作権を意識したような、妙にかすったようなナニカは存在するので、改めてココが俺の知る日本ではないと痛感した。『ミドジャン』って何なんだよ。『ヤンジャン』はどこ行ったんだよ。
となると、一つの疑問が脳裏に浮かぶ。
ここって『なんの作品の世界線の日本』なのだろうか、と。
ただ単純に、前世の俺がいた日本とは別の世界線の日本の可能性が高いことは認めよう。しかし、サブカルチャー大好き人間な俺にとって、やっぱり漫画やアニメの世界線というのは憧れを持つなと言うほうが難しい。
……まぁ、そんじょそこらのローファンタジー世界線だと非常に困るんだけどね。小心者で非力な俺が、学園モノファンタジーとかで生き残れる気がしない。
そんな少年の心を内に秘めて日々を過ごす精神年齢アラサーの転生者。文面にすると、やべぇ男だな。
そんな俺の心配をよそに、養護施設ライフは淡々と過ぎていく。
やっぱり、ただのエセ日本か。馬鹿なこと考えてないで、将来に向けて人生設計を明確化していくかー、と人生チャートを組み始めた小学生中盤のある日。
「──星野 アイです。よろしくお願いします」
俺は養護施設に入ってきた可愛らしい女の子の自己紹介を聞き──芸能界がとんでもねぇことになる作品に転生したことを悟った。
♦♦♦
「──大将、ここ『推しの子』の世界だわ」
完璧で究極なアイドルの進化前と邂逅した次の日。最寄りのラーメン屋『西国無双』に駆けこんだ俺は、店主の男が作ったチャーハンを味わいながら呟いた。
細身の筋肉質な若き青年──大将は、カウンター席の俺の言葉を聞き、洗い物をしていた手を止める。もちろん、今日はこのラーメン屋は定休日なので、ここには俺と大将しかいない。常人から見れば「お前頭おかしいんか?」と言われるような発言をしても、ここにはラーメン屋の店主しかいないのだ。
「ほぅ? その根拠は?」
「ん? 確か『かぐや様』も共通の世界線共有してんだっけ? 俺、かぐや様履修してないんだよなぁ。やらかしたわ。……あぁ、でな?
「良かったではないか、少年。この前は『警察が無能過ぎて、ここクトゥルフ神話世界線か疑わしくなってきた』と嘆いてただろう?」
ここを漫画原作の世界線と断言する頭のおかしい小学生。
しかし、前世の知人で今世の転生者仲間の大将は、俺の言葉を疑う素振りすら見せず、顎に手を当てて考え込み始めた。
「ところで、私は『推しの子』という漫画を知らないが、どういう話かね?」
「えっと……ちょっと待ってな。あーっと、確か主人公の勤める総合病院に推しのアイドルが妊婦として受診しに来て、出産直前でそのアイドルのストーカーに殺害されて、そのアイドルが産んだ双子の兄に転生してだな」
「いかにもオタクの願望を具現化したような作品ではないか。大方、その双子が母親に憧れて芸能界でのトップを目指すとか、そういう『ありきたりな話』なのだろう」
「そのアイドルがドームライブ前日に、ストーカーに殺害されて、殺人教唆をしたであろう黒幕に復讐するために芸能界入りする双子の話」
「そういうドロッドロした方面での王道外れは求めてないのだが」
でも要約するとそういう話なんだよなぁ。
困惑する大将の反応をおかずに、チャーハンを食らう小学生な俺。
「少年、君の入所している養護施設に来た少女は……まさか」
「そうよ、そのまさかよ。天下無双のアイドル様の幼少期だな。そっからアイドルにスカウトされて、芸能界で推定黒幕と子を成し、双子の存在を隠してアイドル活動を続け──夢だったドームライブ前日に命を落とす」
あれは本当に衝撃的だった。原作1巻を読んだ次の日は仕事が手につかず、アニメ1話を鑑賞して虚無虚無プリンになったのは懐かしい思い出だ。少なくないオタクの情緒を木っ端微塵にしながら、原作の表舞台から退場した伝説のアイドル。原作・現実問わず、彼女の死はあらゆる人間の心に影を落とし続けていると言っても過言じゃない。
そんな伝説のアイドルが誕生する前の話、いわゆる『エピソード ゼロ』とも呼べる時間軸を、俺と大将は生きているのだろう。まさかアイのアイドルデビューの生き証人になるとは、当時の原作を読んでいた俺には思いもしなかっただろう。
すると、大将は奇妙なことを口走った。
何かを悟ったように、大将は俺の顔をニヤニヤ見ながらおちょくってきやがる。
「つまり、少年は死する運命の少女を助けるわけだな? 完成された物語の改編など愚の骨頂だが、少女の命を救うとするのならば、それも悪くない」
「は?」
「は?」
大将は何か勘違いしてないか?
「──大将、寝言は寝て言え。俺は星野を助ける気なんて、毛頭ないぞ?」
だからこそ、養護施設では彼女と互いに自己紹介すらしてないし、今に至るまで彼女の存在をガン無視しているのだ。彼女も俺と会話をするつもりも必要性もないので、互いに干渉することはこの先もないだろう。あとは彼女がスカウトされるのを待つだけである。
俺の言葉に不快感を示す大将。
眉をひそめ俺を糾弾する。
「見殺しにすると?」
「人聞きの悪いこと言うなや。大将は原作読んだことねぇだろうが。あのな、例のアイドルに関しては
原作を知っている俺だからこそ、この環境下で俺ができることは皆無であり、あとは流れに従ってアイドルの少女が死するのを指をくわえて待つしかないのを知っている。
大将も言ってたじゃん。この作品は本当に何もかもが『ドロッドロ』してやがんだよ。
「大前提として、俺は特殊な才能を持った人間でもなければ、神でも仏でもないことは理解してほしい。ただのラーメン大好きなチー牛なんだよ、俺は」
「後半部分はいるかね?」
「まず推定黒幕ってのが、アイドル様と肉体関係を持った、双子の血の繋がった父親と予想されている。原作で確定する前に俺死んだから、正確なところは分からん。んで、この父親ってのが『自身の価値基準で才ある人間の滅びに悦びを感じるサイコキラー』という、なんとも救いがたい性格をしている曲者なんだよ。手を下した自分の命に重みを感じるとかなんとか言って」
「『がくしゅうそうち』を持った控えのポケモン的存在なのだな」
「最近のポケモンって『がくしゅうそうち』なくても、控えに経験値入るんやで」
「なんとっ!?」
脱線したので話を戻す。
「アイドル様は自他ともに認める才能の塊、一番星の生まれ変わりなんよ。つまりな、このサイコパスを何とかしない限り、遅かれ早かれアイドル様は死ぬことが確定してるわけ」
『推しの子』における彼女の生存ルートを制作する際に、二次創作関連でネックなのがそのサイコパスポケモンなのである。自身に殺害の嫌疑がかけられない立ち回りと、足跡を残さない狡猾さも兼ね備えた超危険人物。ぶっちゃけコイツ殺せば何もかもが終わる気がするが、俺は前科持ちになりたくないし、肝心のコイツが今何をしているのかさっぱりわからん。
そして、彼が彼女と会うのは15歳のとき。この時期には彼は劇団に所属し頭角を現しているし、もうその時点で俺には彼を止める術はない。接点がそもそもないからな。ましてや原作2巻以降は、プロダクションの代表取締役という社会的地位まで確立させているのだ。一介の孤児スタートの転生者にどうこうできる範疇を超えている。これが詰んでいる理由の1つ。
「そう、コイツが存在する限りアイドル様の生存は絶望的。ストーカーの方を何とかしようと思っても無意味。そのストーカーを早期に潰したとしても、代わりの鉄砲玉が用意されるだけ。じゃあ、ドームライブ前日を取り押さえようとしても、肝心のアイドル様のご自宅が分からん」
そもそも、アイドル様が転居した矢先に、自宅に押し入ったストーカーに刺殺される。双子兄は新居を知る人物はごく少数であり、ストーカーに殺害を教唆したのが、その住所を知ることが出来る父親……ってな推理で、復讐劇が始まるのだ。
部外者の俺ではアイドル様の自宅の位置が分からない以上、助ける以前の話になってくる。
「少年の言いたいことは理解できたが、それは彼女との関係がスカウト後に断たれたときの話だろう? こういうのはどうだろうか。アルバイトでもなんでも、彼女と同じ事務所で働き、彼女を支えながら対策を練る……というのは」
「どこの世界に、思春期真っ只中の感受性の強い看板アイドル様と同じ養護施設出身の同世代の小僧をアルバイトとして雇う馬鹿が存在すんだよ。どう解釈しても厄ネタじゃねぇか。むしろ金輪際アイドル様に近づくなって塩撒かれるわ」
社長的にはアイドル様の周囲に男がいること自体が損失に繋がる。俺が社長だとしても、商品価値が下がる要因は率先して排除する。つまり、どう逆立ちしてもアイドル様と働くなんてことは夢物語にも等しいと断言しよう。
詰んでいる理由の2つ目だ。
俺には苺プロで働けるだけの実績も信頼も経歴も何一つ存在しない。
「逆の発想を持とう。その少女をアイドルにさせない……というのは? 芸能界で才覚を発揮するせいで、その快楽殺人教唆犯は狙ってくるのだろう?」
「……在野で諸葛亮を見つけたら?」
「登用する」
「………」
「………」
「そゆこと」
むしろ大手の事務所にスカウトでもされた日には、爆速で人気アイドルに上り詰めるポテンシャル持ちだぞアレ。そしてカミキチェックが入ってエンドよ。
つーか、逆に最悪の結果が待っている可能性もある。あの芸能界やぞ。こわーいオジサンたちが彼女を食い物にする未来なんぞ容易に想像できるわ。そしたら、某終末患者唯一の救済ルートが消滅する可能性もあるわけだ。
読み物としては斬新で面白かったが、いざリアルとなって原作接触ルートを走破するとなると、これほどクソなシナリオはない。人生はリセマラできねぇんだぞ。チートくれ神様。
「……少年、そのサイコキラーから少女を寝取れ。それしかない」
「……ハッ(嘲笑)」
「鼻で笑ったな?」
そりゃ笑いたくもなるだろう。
この馬鹿は自分がどれほど愉快な冗談を言ったのか理解してないらしい。
サイコキラーで危険人物な推定黒幕だが、ルックスに関しては他の追随を許さないレベルで高い。何より、当時のアイドル様が彼に惹かれるような何かを見出したのは、話の流れを知る人は大まかに知ってはいるだろう。
それほどまでに彼女は『愛』に餓えていたのだろう。
で、だ。俺が彼に勝るものがあるとでも? あるのは倫理観ぐらいやぞ。
「俺に彼女を振り向かせるような魅力があれば話は違うんだが、ルックスが下の下。財力は皆無。彼女の求める『愛』を、生憎だが俺は持ち合わせていない。今世で両親がいない俺が、彼女にできることは『共感』のみだ。んなのアイドル様は求めちゃいないだろう」
「つまり、彼女を救うことは不可能と」
「助けられるんなら助けるわ。でも、さっきも言った通り、俺は非力な一般転生者に過ぎない。そして小心者だ。彼女を救えるほど俺の腕は大きくないし、彼女を救うために推定黒幕の殺害を目論むほど堕ちちゃいないぜ」
最終的に俺と大将の下した決断は『静観』だった。
二次創作のように、颯爽と彼女を救えるのならどんなに良かったか。しかし、残念なことに彼女の目前に現れた転生者は、利己的な小心者だった。
結末を知っているのに、その運命を変えることが出来ない。下手に変えようものなら、原作2巻以降のキャラが被害を受ける可能性もある。原作知識持ちながら転生することが、これほどの苦痛を生むとは思わなかった。
「……これ、もう呪いだよなぁ」
せめて献花には赴こう。
それが俺にできる最大の贖罪なのだから。
そして、彼女との交流がないままに1年が経過した。
「──シオン君、ちょっと頼みごとがあるのだけど」
「どうしましたか?」
「アイちゃんを探してきて欲しいの。施設の中に居ないらしくって。……やっぱり、ショックなのかしらねぇ」
未来のアイドル様が施設から脱走したらしい。
……原作にあったっけ? この展開。
【主人公】
原作知識持ちの転生者。転生特典として『自身の顔がチー牛に見える』チートを授かっているが、本人含め誰も知らない。外見は『崩壊崩壊スターレイル』の男主人公イメージ。
【大将】
原作を履修してない転生者。主人公とは前世からの知り合い。CV.中村悠一。
次回:原作崩壊の音