流星群に願いを 作:キチガイの人
あと数話で修羅場回に移行しようかと。
今のアイドル様は『多忙を極める』という表現をするのが正しいのだろう。最初はアイドル活動が大半だったのだが、人気が出ればメディアでの活動も増え、俺たち転生組の知る『完璧で究極のアイドル様』に近づきつつある。
それと比例して、俺とアイドル様が一緒に居る時間も必然と減ってきた。
そりゃそうだ。相手は天下無双の今を風靡する人気アイドル、俺は事務所の学生バイトに過ぎない。原作のネームドですらない一般モブな俺と関わっていたことが間違いなのだと、この世界が暗に告げているようにも思える。
俺としては何の不満もないが。
むしろ予定調和とも言える。
原作のように推定黒幕と殺害実行犯が無害と分かった以上、俺は安心してアイツらにアイドル様を任せることが出来るからな。
カミキヒカルとアイドル様との逢瀬も増えているらしく、俺のあずかり知らぬところで頻繫に会っていると田中から聞いた。原作もこうやって事務所が知らん所で楽しくおかしく会って、双子が生まれたんかなぁと思うと感慨深い。
つかもう、ヒカルとアイドル様、そのまま結婚すりゃ良くね? 原作の推定黒幕は存在しちゃいけない特級呪物だったが、今世の推定黒幕はマイペースキチガイ二次元の鬱展開大好きクソ野郎ってなだけで、それ以外は比較的普通の感性を持った人間だし。しかもガワはイケメンときた。ララライでの実績もある。優良物件では?
「あれから星野と上手くいってるか?」
『うん、それはもうバッチリ。万事上手く、それこそシオンが言ってた
「そのラインナップにリョースケが入っている理由は分からんが、それは楽しそうで何より。あと、未だに就寝時間が重なると無許可で俺のベッドに入ってくるの止めるよう言ってくれん? 俺が言っても全然聞かんのよ、あの娘」
『りょ。
なんか違和感のある言い回しをするヒカル氏。転生の下地となる身体が影響しているのか、それとも他に思惑があるのか知らん。少なくともアイドル様を害するようなことはしないだろうと、不思議な安心感はある。
そんな芸能界組+αを他所に、俺は一人で中学校の図書館で黙々と勉学に励んでいた。紛いなりにも義務教育課程の途中を生きる身なので、教科書と資料集をおっぴろげて、学校側から出された課題と睨めっこしているのであった。
人生二周目と高をくくっていたが、前世の俺はFラン大学出身の平凡な人間である。小学校の勉学なんざ鼻ほじっても楽勝だったが、中学後半にもなると……うん、結構色んなことを忘れているなって思い知らされた。そこらの学生より幾分かアドバンテージはあるものの、難しい内容は普通に難しい。
学力チートなんてなかったんや。
「──隣失礼しますね」
「ん。ここに来るなんて珍しいな」
図書館の長机の一角を占領し、色んな意味で苦学生している俺の横の席に、中性的な声色を響かせて、俺の承諾を得る前に勝手に座る学ラン姿のイケメン。
もしかしなくても田中である。
当学校ではアイドル様とは別ベクトルで人気のある生徒でもある。イケメンムーヴかます男装の麗人なんざ、人気が出ないはずもないだろう?
「こうやって会うのは久しぶりですね。お仕事の方は大丈夫で?」
「1億年と2千年ぶりに休みだよ。大将んとこの仕事も今日はないってハナシだったから、こうやって勉強しているってとこ。再来週は悲しいことに学期末テストだろ?」
「おっと、そんな時期でしたか」
「……余裕ってか? 羨ましいこった」
普段から学力を有する人間にとって、テストなんて「そんな日だった」程度の認識なのだろう。腐れ縁の中では一番頭が良かったコイツや、言わずもがな前世の妹がそれに該当する。試験対策をしているこっちが空しくなってくるわ。
凡人はコツコツと実るか分らん努力するをするのみである。
とある人が言ってたな。──最後に信じられるのは日々の積み重ねだ、と。
「星野さんと一緒ではないのですか?」
「アイツは今日は仕事」
「……あぁ、県外がどうのこうのって言ってましたねぇ。そういう貴方は、彼女の為にノートまで作っていると。相変わらずお優しい」
「俺がアイツのためにできることなんて高が知れてるからな。できることやってるってだけ」
「そう卑屈にならずとも。過度な自虐は相手を不快にさせるだけですよ」
「何気ないツイートに『見ていて不愉快になりました』ってクソリプ送って絡んで来るガイジ感出すなよ。目についたものに自分の情緒をお気持ち表明せんと気が済まんのか?」
勝手に俺の言動を茶化し、お気持ち表明してくる腐れ縁に、鼻で笑いながら対応する俺。しかし、こういったやりとりも前世含めると両手では数えきれないレベルで問答している仲ではあるので、彼女も「クソリプ失礼しますね」と意を介した様子はない。
大前提として、ヒカルやリョースケ含む、俺たちの関係は戦略的互恵関係──利害の一致により生まれた、スタンドプレーから発生するチームワークみたいなものだ。
自身の『益』を見出さないと、そもそも動こうとしない。逆に利益あれば団結するので、ある意味では信頼があるのだが。
「アイツの分のノート作りも、高校受験見据えれば俺にとってプラスになるんよ。地方の進学校狙いだと特に、な」
「そんなこと言ってましたね。ねらい目はどの辺で?」
「鶴か甲か中」
「古巣に戻る気満々ですね」
ネットで気軽に情報収集できるような時代であれば他の候補も選択肢に入ってくるのだろうけど、今はスマホすら存在しない世界であることを忘れてはいけない。ヒカルとの電話だって折り畳み式の携帯電話使ってんだぞ。
携帯パカパカ開くの面倒なんよ。最初見た時なんざ「STANDING BYとか言ってCOMPLETEするんか?」って某仮面ライダー思い出したわ。
早く画面タッチさせてくれ。
そんな俺にとって、彼女とは物理的に離れた高校となると、前世で知る学校を候補に考えた方が手っ取り早い。一応、同じ名称の学校があるのは確認済なので、あとは俺が学力を向上させるのと、アイドル様が俺から脱却してくれるのを待つだけなのだ。
俺の圧縮言語で、田中はどの高校を選択肢として挙げているのか理解した様子。
「しかし……本当に物理的に遠い場所を選んだようで。気軽に会えないとなると、星野さんが悲しむとは考えなかったのですか?」
「アイドルとして活動していくであろう星野と、高校受験に向けて奮闘している俺では、目指す場所が違うってのは当たり前だろうが。アイドル目指したきっかけが俺の言葉だったとしてもさ。今はヒカルとのイチャコラでそれどころじゃないと思うし」
「前々から疑問に思っているのですが、星野さんとアレが恋仲になると、何を根拠にそう思うのでしょうか。私はそうは見えませんが」
田中の阿呆は首を傾げている。
俺はため息をつきながら教科書から視線を外す。
「アイツって洒落にならんくらい異性に対して態度が一貫してるんよ。ファンに対しても、マジで人類皆平等って言いかねんレベルで、社長も星野のスタンスに口に出すくらい、
「……そういえば、確かにそうですね。人によって適切な対応を取る方だとは思ってましたが、この前のライブの握手会の時も、あぁ、なるほど。対一になると、そうですね。それを指摘されないと、そう感じない立ち振る舞いをしているのも驚きです」
「だろ? けど、カミキヒカルに対しては違う。いや、違ったって言うべきか。今までロクに名前すら覚えなかったアイツだが、ヒカルの名前だけは比較的短時間で覚えたんよ。……やっぱり、原作でもそうだったんだろうけど、『何か』を本能レベルで感じ取ってるんだと思うぜ。カミキの話題になると、少し違うから」
小学校からの付き合いだと、こういった小さい違いも見えてくる。ヒカルとの対応の差というのも、事務所の面々にも、それこそファン含めた部外者には巧妙に隠されている。俺も長年隣に居なければ気づかなかっただろう。
さすが原作で特大の嘘抱えて人生を疾走した女である。
そう遠くないうちに、俺も長年の付き合い程度では見抜くことが出来なくなるのであろう。
「ってなわけで、星野もヒカルんことを満更でもないって感じで意識してるってコト。そう遠くないうちにくっつくんじゃねぇの?」
「………」
「どないした」
「……そこまで彼女の機微に気づいているのに……なぜ……?」
なんか珍獣を見るような視線には納得いかなかった。
「ヒカルから聞かされた話によると、星野と長期ロケ行ってきたって。なんかレギュラー化するんじゃないのって話だから、これを皮切にイケメン美女カップルが周知されればいいなって」
「……あなたというパートナーがいる状態で、他に乗り換えるのは普通に炎上するのでは?」
「ガチガチの貞操観念持ちは芸能界生き残るのは厳しいって
「納得するかはファン次第でしょうけどね」
アイドルがチー牛と付き合って発狂する人よりも、アイドルがイケメンと付き合って発狂する人間の方が少ないと思うけどなぁ。あ、この世界線だと、どっかの馬鹿のせいで『チー牛』が『チーズ牛丼が添え物になる系美少女』って意味だったわ。百合の花が咲くところだった。
どっかの阿呆のせいで、俗語が使いにくいったらありゃしない。チー牛って言葉は使いやすかったんだけどなぁ。
「前々から疑問に思っているんですが、貴方は本当に星野さんからの好意に気づいてないんですか?」
「一瞬の気の迷いだろ。あれで好意だと勘違いする方がおかしいと思う」
「そのココロは?」
「……普通にさ、いや、ホントに、普通に、常識的に考えてさ。文章化してみようよ。──『前世でネットでいじめられてた冴えない青年が、転生してアイドルに好意を抱かれている件について』って。客観的に見てどう思うよ?」
「寝言は寝て死ねって思います。使い古されたなろう小説のタイトルですか?」
「そんなタイトルあっても本を手に取る自信ないぜ。俺を取り巻く環境ってそんな感じよ。そんで
田中はなおも「貴方って本当に面倒臭い思考回路してますね。まぁ、そんな面倒臭いから彼女から離してもらえないんでしょうね。自分の事しか考えない面倒臭くないつまらん人間よりは、他人の為に四苦八苦する面倒な人間の方が面白いですし」と、よう分らんことを言い始める始末。
俺は適当に見切りをつけて、学生の本分を全うするのだった。
「──星野さんを焚きつける、あと一押しする『きっかけ』が必要ですね。さて」
♦♦♦
「「「「「………」」」」」
事務所のオープンスペースにて。俺やミヤコ様、『B小町』の面々がチベットスナギツネの表情で、とあるテレビ番組を視聴している。
それは俺たちの世界線でも見たことのある番組だった。この世界線でも存在していたのかと感慨深くなると同時に、ヒカルが言っていたのはこれだったのかと俺はようやく知ることになった。別の仕事にかかりっきりで、アイドル様がどの番組に出るのか知らなかったと言うのもある。
いや、あのさ。
まさかだよ? まさか
『釣ったどおおおおおおおおお!!!』
ビジュアルが天元突破している完璧で究極のアイドル様が、『いきなり! 黄〇伝説』の『1ヶ月1万円節約生活』で、早々に金銭使い果たして無人島生活してると思わんやん?
よう分らんカラフルな魚を釣って満足そうな笑みを浮かべている姿は誰もを魅了してしまいそうだけど、それよりも「アイツ何やってんの?」の感情が強い。あと、付き添いの斎藤社長が頑張ってんなぁ、無人島でスーツ姿は動きにくそうだなぁって感じ。
1ヶ月1万円生活で相方役をしているカミキヒカル氏も、素潜りで見るような例のスーツと銛、獲ってきた魚を引っ提げて、イケメンフェイスを携えて帰還している。
やっていることがアイドルと男優のそれじゃない感が凄いのだが。
『ん~! この魚美味しいね!』
『素揚げして塩かけるだけで美味しくなるもんだねぇ』
『あと星が超綺麗だねっ!』
『人工物の光が皆無だからねぇ』
『今度はシオンも連れて来ようよ』(画面右端に女装した俺のトリミング写真付き)
『ナイスアイディア! オファー出してみよっか』
俺のあずかり知らぬところで、無人島に拉致られることがお茶の間で確定されたんだが?
おい、社長。後方で丸出すんじゃねぇ。俺はOKしとらん。
後でネットの反応を調べてみて、俺は天を仰ぐのだった。
『アイが初手で全自動卵割り機買って、カミキと無人島行くの草』
『このコンビおもろい』
『シオン君ちゃんが地上波デビュー確定したな』
『アイとカミキがシオン君ちゃん取り合ってるってマ?』
『修羅場回来たな……』
百合と薔薇の造花が咲き乱れてるんだけど。
【主人公】
原作知識持ちの転生者。本作のターゲット
【大将】
原作を履修してない転生者。出番なし。本作の共犯者。
【星野 アイ】
中堅アイドル様。本作の共犯者。
【カミキヒカル】
原作知識持ちの転生者。本作の黒幕。
【リョースケ】
原作知識持ちの転生者。出番なし。本作の共犯者。
【田中 太郎】
原作知識持ちの転生者。本作の共犯者。
【???】
原作を履修してない転生者。出番なし。本作の後の共犯者。
次回:('A`)< うへ~、何もしてないのに原作めちゃくちゃだよ~