流星群に願いを   作:キチガイの人

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 これから、汚いカミキと粗野なリョースケとの交友パートを執筆しようと思いましたが、「早くストーリー進めろや」とご指摘を受けましたので本編進めます。ただし、今後シリアスが続くかと。
 高評価、感想ありがとうございます。


023

 昔、私は賑やかな家庭に憧れていた。

 お母さんに捨てられ、嘘で塗り固められた私には、一生縁のない話になるんだろうなって思ってた。他人の顔色を伺いながら、とにかく誰からも嫌われないような生き方をしてきた。

 そこから彼に会って、大将とも出会って、私の人生はあの時から一変した。家庭……とはちょっと違うかもしれないけど、アイドルになるまでの数年間は、まるで夢のような日々だった。今は彼と大将と3人で、っていう機会は少なくなってしまったけれど、当時の私にとって2人は大切な人だった。

 

 そして今。

 その『大切な人』は少しずつ増えている気がする。

 

 

「──ヒカル、今すぐ後ろ向いて後頭部に手を回せ。んで、片膝をつけ」

 

「待って待って待って!? 僕はまだ悪いこと何もしてないよ!? 部屋入っただけでその仕打ちは酷くないかな!?」

 

「じゃあ……えーっと、やっぱあったわ。これは何?」

 

「…………………………ちょっと辛いソースです」

 

「何スコヴィルよ」

 

「……710万くらい?」

 

「殺す気か」

 

 

 彼が食事を作ると聞きつけたカミキ君やリョースケ君、そして同性の友達の田中君が自宅にやってきた。私も入居時に大将から貰ったちゃぶ台や、人数分の座布団を用意して待機していた。しかし、入って来て早々、彼は手を拳銃の形に作って、カミキ君を鋭い視線で睨む。

 何事かって思ったけど、彼はカミキ君のポケットに入っていた小さい瓶について怒っているようだった。

 既に座布団に座って携帯をポチポチしていた田中君に聞いてみる。

 

 ……関係のない話になるけど、田中君ってこんなに美人さんだったんだ。どうしても男の子の格好ばっかりで格好いいイメージが強かったから、今日のように清楚な格好を見ていると、不思議と何でか分からないけど危機感を覚える。

 主に女子力の分野で負けた気分。

 

 

「……田中君はあれ何か知ってる?」

 

「ん? ……あぁ、あれですか。『ザ・ソース』という激辛ソースですね。前世でも見たことはありましたが、まさか今世でも目にするとは思いませんでした」

 

「シオンが怒ってるってことは、すっごく辛いの?」

 

「星野さんはタバスコとか使ったことはありませんか?」

 

「あー、あれ? 前にシオンも使ってたから、私も使ってみたんだけどさー。辛くて泣きそうになっちゃったよー。私って辛い物が苦手みたい。……もしかして、タバスコより辛いの?」

 

「そのタバスコの約3,300倍の辛さと言われています」

 

「………」

 

 

 そんなものが存在しちゃっていいの……?

 私が何とも言えない表情をしていると、田中君が苦笑いでカミキ君の持ってきた小瓶の危険性を語る。

 

 

「そもそも『スコヴィル』というものが唐辛子の辛さを示す単位でして、タバスコが2,500~5,000と聞いたことがあります。ヒカルの言っていた710万がどれほどの数字か……星野さんもご理解いただけますと幸いです」

 

「そ、それを今日の料理に入れようとしたってこと?」

 

「星野さんの食するものに入れようとは、流石のヒカルもしないでしょうよ。下手すればアイドル業に支障が出かねないレベルのシロモノですし。貴女以外の食うものにぶち込もうとしただけでしょう。私たちは前世で経験済ですから」

 

「田中君なら大丈夫なの? そのソース」

 

「絶っっっっっっっっっっっっ対に断固拒否させていただきます」

 

 

 川の上流から流したら生態系変わるレベルの劇物なんて死んでも御免です、と整った顔を歪ませながら首を横に振る田中君。彼の必死さ、彼女の拒絶具合から、私は間違っても口に入れてはいけないものと確信する。

 そんなソースどこで手に入れたの?と思ったけど、カミキ君曰く、劇団の先輩から譲り受けたと言ってた。ララライって辛い物好きな人が多いのかな?

 

 危険な瓶を没収したシオンはため息をつきながら、少し離れた場所で座布団に座っていたリョースケ君にも疑いの目を向ける。

 リョースケ君は自身の鞄を探り始める。

 

 

「お前も変なもん持ってきてないだろうな? ウチの星野は辛いもん苦手なんだよ」

 

「はァ? オレはテメェの好きなもンをわざわざ持ってきてやったんだぜ? 感謝してほしいぐらいだ。ほらよォ」

 

 

 そう言いながらリョースケ君が取り出したのは──『18禁』とデカデカに書かれた小さなピンク色の箱だった。もちろん、リョースケ君以外のここにいる人間は全員が未成年。

 私は思わず彼とリョースケ君との会話に口を出してしまう。

 

 ……いや、私もそーゆーことに興味がないわけじゃないんだけどさぁ、あんまりシオンをそっち方面で刺激しないで欲しいんだけどなぁ。ただでさえ、他の『B小町』メンバーがシオンを誘惑することに困っているのに。

 

 

「……シオンは15歳だよ? そんなエッチなもの渡さないで欲しいなぁ」

 

「ンァ? これのどこがエロいンだ?」

 

「確かに一見すると18禁のエロゲ風のパッケージだよなぁ、それ」

 

 

 リョースケ君は不審そうに首を傾げたけど、シオンの言葉に「なるほどなァ」と納得した表情に変わる。どっからどう見てもエッチなビデオとかゲームにしか見えないんだけど。精神年齢的には大丈夫かもしれないし、シオンも成人してエロゲを自由にやりたいって言ってたし。

 ずっと不思議に思ってたんだけど、どうしてシオンはそういったゲームをしたいんだろう? 理想的な女の子とそういったことをしたいって意味なのかな?

 画面の奥にいる女の子よりも、私の方が絶対にいいと思うんだけどなー。ビジュアル的にも自信はあるし、胸もそこそこの大きさもあるし、アイドルって付加価値もあるし、私とシた方が気持ちいと思うんだけど。

 

 そんな私に田中君が耳打ちしてくる。

 

 

「星野さん、星野さん、それえっちい物じゃないですよ」

 

「そ、そうなの!?」

 

「日本国内で市販で売られているものでは、一番辛いと思われているカレーですね。スコヴィル値は知りませんが、星野さんが食するのは非常に危険です。『辛い』より先に『痛い』の感情が生まれますよ」

 

 

 罰ゲーム感覚で使うと洒落にならないくらい痛い目に遭いますよ、と忠告してくれる田中君だったけど、それよりも私の中に純粋な疑問が発生した。

 

 

「もしかしてみんなって辛い物好きなの?」

 

「全然。むしろ苦手な方ですよ」

 

「辛いものに詳しいし、シオンも辛い物持ってくるって確信しているくらいに、二人が持ってきているのに……?」

 

「星野さん、一つ良いことを教えてあげましょう。大将さんを除いた、ここにいる転生組は皆が、互いが互いを『酷い目に遭えばいいのに』という理念の下で動いているクソ野郎共の集まりです。無論、そのベクトルを(他の方々)に向けることは一切ありませんが」

 

 

 シオン達が互いに互いを『腐れ縁』って言っている理由が分かった気がする。

 それとなく「シオンのフェイクニュースの時も?」と聞いてみると、田中君は微笑みながら「私たちの玩具が勝手に過度に虐められるのは解釈違いです」と言われた。これを互いが互いに思っていると。悔しいけど、何だかんだ言いつつシオンが一番信頼しているのが彼らなんだと感じた。

 私も経験したことがないから上手く言葉にできないけど、普通の友達関係よりも、深いところで本音が言い合える仲なんだろうなーって。

 

 そんな感じで田中君と彼のことについて話を聞いていると、シオンが「あ!?」とキッチンの方で大きな声を出す。たぶん何かやらかした時の叫びだった。

 リョースケ君が「どうしたァ?」と座りながら大声でシオンの方に声を飛ばす。

 

 

「──やっべ、豚肉買い忘れてたわ。ちょっと近所のスーパー行ってくるわ」

 

「ちょっとちょっと、大丈夫? 今日は豚汁作るって言ってたじゃーん。豚肉入ってない豚汁とか、みそ汁と何が違うのさ」

 

「オラ早よ高級豚バラ買って来いよ」

 

「おっけ。貝原探偵事務所(リョースケん家)宛に領収書切っとくな」

 

「オイゴルァ待てシオンテメェ待てゴルァ」

 

 

 リョースケ君の静止も聞かず、シオンは慌てたように上着を羽織って外に出る。近所のスーパーだとそんなに遠くないから、すぐに買って帰ってくるだろう。高級なお肉を買いに行くなら、どれだけ時間がかかるか分からないけど。

 

 シオンが外に出たのを確認したカミキ君は、私が座る位置とはちゃぶ台を挟んで対面の座布団に座り、身を乗り出しながら私に話しかけてくる。

 それに若干身を引いてしまう私。特に彼が苦手だとか距離感が近いと言う意味ではないよ? 最近はテレビ番組とかでも共演する機会とかあるし、シオン以外で一番気が合うと言うか……なんか波長が合っているような気がするのが彼だし。

 ただ単純にカミキ君が劇薬(ザ・ソース)を持っていると知っているから怖かっただけの話。

 

 

「あれからシオンと何か進展があった?」

 

「んー、最近は仕事で忙しい分、スキンシップを倍以上に増やしているけど……あんまり変わってないかなぁ。言葉で『好き』って伝えてるんだけど、何とかに腕押しってやつ?」

 

「『暖簾(のれん)に腕押し』だねぇ。あぁ、あんまり効果ないのね。それは困ったなぁ」

 

 

 この話題にリョースケ君も口を挟んで来る。

 

 

「なまじ前世でも彼女居ねェ童貞陰キャだったからなァ、アイツ。ましてや好意の感情拗らせてる面倒臭ェ馬鹿な上に、そのお相手が天下のアイドル様と来た日にァ、好意向けられたとしても否定から入ってんじゃねェの?」

 

「もしかしてアイドルになったのは失敗だったかな?」

 

「そこまではオレも知らねェよ」

 

 

 最初はシオンに振り向いて貰えると思って始めて、嫌なこともあったけど楽しいこともあったアイドル業。その選択を間違っていると思いたくはないけれど、一番の目的が遠のいているかもしれない状況を考えると、やっぱ間違ってたのかなって思う。

 人気が出てアイドル以外の仕事も増えて、シオンと一緒に居る時間が減っているのは薄々気づいていた。彼は彼で仕事に集中し過ぎて、自主的に残業することも多くなった。ミヤコさんから体調を心配されるレベルで。

 アイドルである私が彼にとって『自分とは別次元の存在』と思われているのであれば……私はどうすればよかったんだろう?

 

 

「……やはり、彼の意識を変えさせる一撃が必要かと」

 

「そうは言うけどさー。具体案は? あの生来の頑固者って、よほどのことがない限り、自身の事となると認識って変えないじゃーん」

 

「他人の意見を取り入れて反映する柔軟性は持ち合わせてンのに、自分の内面の事だと頑として変えようとしねェもンなァ。自分変えるくらいなら、言われ続けることを我慢するタイプだからなァ、アイツ」

 

 

 あれこれ案が出てくるけど、それが彼の考えを変えさせるほどのものかと言われると、正直ちょっとうーん……ってなるの繰り返し。

 絶対に彼を諦めるつもりはないけど。

 

 

「それはそれとして話を切ってしまうんですが」

 

「なんだァ?」

 

「シオン、財布忘れてます」

 

「毎週日曜夜6時30分かな?」

 

 

 私がシオンのところに持ってくよーっと伝えると、近所のスーパー以外に行ってるのならどこにいるのか分からないので帰っておいでと言いつつ、3人は「いってらー」と送り出してくれる。

 玄関の鍵を閉めることなく家を出た私は、夕焼け色の空の下を駆け足でシオンを追いかける。

 

 追いかける足は軽かった。シオンと今後の関係を思えば、まだ手探りの状況ではあるけれど、それでも私の悩みを聞いてくれて、一緒に考えてくれる人たちがいる。

 大将とはちょっと違う関係。多分、これが『友達』なんじゃないかなって、今まで大将とシオン以外でそこまで深い関係を作らなかった私は、最近はその正体に薄々気づいて来た。『B小町』の面々とも仲がいいが、あの3人にほど自分の心中を明かせていない。

 そして、シオンと一緒になるための話をする。そういった関係が私にとっては初めてで、そして心地よいと感じていた。

 

 まだまだ時間はかかるだろうけど、いつか私の想いがシオンに届くと信じて。

 彼らと一緒なら、いつか、きっと。

 

 

 

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 ふと前方に見慣れた背中を見つける。

 家を出てからずいぶん時間が経つのに、まだ家の近くに居たんだーっと、その時の私は呑気に駆けて

 

 

 

 

 

「……ぇ?」

 

 

 

 

 

 私は知ることになる。

 シオンのことをどれだけ想っても、シオンが私をどう思うかはまた別の話なのだと。

 いつか、きっと、そう考えたところで、待ってくれるかはシオン次第だったのだと。

 

 

 

 

 

 シオンが女の子と抱きしめ合っている姿を見て──私の視界は真っ暗になった。

 

 

 

 




【主人公】
 原作知識持ちの転生者。前世では世界一辛い飴で綿あめ作って腐れ縁共にプレゼントしたテロリスト。

【星野 アイ】
 現役アイドル様。原作は知らんけど、本作では辛い物苦手設定。

【カミキヒカル】
 原作知識持ちの転生者。前世では腐れ縁共の使っていた冷水の入ったボトルに『ザ・ソース』を1粒垂れ流したテロリスト。

【リョースケ】
 原作知識持ちの転生者。前世では18禁カレーを通常のレトルトと偽って腐れ縁に振舞ったテロリスト。

【田中 太郎】
 原作知識持ちの転生者。前世では世界一辛いチョコをバレンタインに腐れ縁に渡し、血のバレンタインにしたテロリスト。

【???】
 原作を履修してない転生者。出番なし。外見は外見は『崩壊スターレイル』のカフカをイメージ。



 次回:(色んな意味で)壊れた天才
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