流星群に願いを   作:キチガイの人

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 まだ前回は声とかなかったので『出番なし』扱いってことで一つ。今回は主人公視点です。『推しの子』キャラが誰一人として出ない回です。
 次回は汚ねぇカミキ視点です。
 高評価、感想ありがとうございます。


024

 汚いカミキヒカルや性癖のベクトルがひん曲がったリョースケとの邂逅のように、再会と言うものは思ったほどにドラマティックなものではないらしい。テレビやネット、紙媒体で見られる『感動的な再会』というものは、所詮は空想の産物に過ぎないのだろう。テレビは基本ヤラセ、俺がアイドル様に引きずられるように練り歩いた世界で学んだことだ。

 故に、始まりはいつも突然であり、こちらに考える余裕も感慨に浸る時間も与えてくれない。

 いつだって人生は不確定のオンパレードなのだから。

 

 だからこそ、その再会も俺にとっては想定外だった。

 まさか──アイツにまた会うとは。

 

 

 

 

 

「──兄様(あにさま)

 

 

 

 

 

 豚汁作るって言ったのに豚肉を買い忘れると言う最大級のやらかしをしてしまった俺は、西日の明かりが少々目に優しくない時間を駆ける。

 俺ん家の周辺は住宅街にはなっているが、人通りは他の地域と比べて非常に少ない。ウチには天下のアイドル様が同棲しているので、むしろ野次馬にネタを提供しないようにという配慮から、今の貸家が選ばれたくらいだ。

 大将の物件判断基準がアイドル様に極振りしている件について。

 

 そんな人通りの少ない筈の道を進んでいると、対面から一人の少女が歩いているのが目についた。いつもであれば通り過ぎる人間に意識を割くことはない俺だが、この時ばかりは前方からゆったりと歩いてくる少女に意識が向いた。

 桑の実色(くわのみいろ)紫檀色(したんいろ)の中間のような美しくも珍しい色の髪を後方に束ね、抜群のプロポーションを引っ提げて歩いてくる。俺が社長のようなプロデューサー業も兼任しているのであれば、迷いなくスカウトするために動いたとしても何ら不思議ではない、ある意味でアイドル様とはベクトルの違った美少女であった。

 しかし、俺の思考を支配するのは、その彼女の『目』だ。俺の自意識過剰であれば笑い話の一つに加えられるのだが、どうにも彼女は赤の他人であろう俺を目的として歩いている気がしてならない。その髪と同じ色の瞳から感じられる、確信と束縛がそれを物語っている。

 

 だが、前述したように、俺と彼女は赤の他人のはずだ。会ったことがあるとすれば、まず忘れることはない佇まいだし、かといってアイドル様の関係者かと言われると……なんか違う気もする。

 俺と彼女との距離が近づき、「やっぱ会ったことねぇよなぁ」と思ってすれ違うだろうと思った矢先、彼女から放たれた言葉が()()である。

 

 

「……は?」

 

「お久しぶりです、兄様。このアザミ、一日千秋の思いでお待ちしておりましたわ」

 

 

 俺のことを『兄様』なんて呼ぶ人間なんて、前世今世含めて唯一人しか居らず、加えて『アザミ』という()()()()()を持ち出したことで、それは決定打となってしまった。

 

 だからこそ、俺は間抜け面を晒す。

 彼女が『前世の妹』であることを確信し、同時に疑問も浮かぶわけだ。

 

 

「おまっ、えっ? あ、アザミ? お前、どうしてここに?」

 

「どうして、とは?」

 

 

 彼女は心底不思議そうに、こてんと首を傾げた。

 ……確かに、彼女が自身の実妹だった人間と認識すれば、外見がまるっきり違えど不図した仕草に面影は残っている。

 

 

「兄様の元に実妹(わたくし)が馳せ参じるのは当然の事でしょう?」

 

「そういう意味で聞いたわけじゃないんだけど……え? お前って俺のことが嫌いじゃなかったっけ? それがどうして、何で俺のところに戻って来るって話になるん?」

 

「兄様を……嫌う……? ……あぁ、確かに兄様と最期には距離を置いていましたが、それはわたくしが浅はかにも、世間一般の常識論にとらわれ『私が距離をとれば誹謗中傷が緩和されるのでは?』と愚考した結果であり、兄様を嫌うなど天変地異が起ころうともあり得ません」

 

 

 彼女は優しく微笑んだのち、その表情を歪めて目を逸らしながら舌打ちをする。

 

 

「……しかし、本当に見通しが甘かったと認めざるを得ませんわ。わたくしが目を離したせいで、兄様を死なせてしまった。生前、そして今に至るまで、わたくしの最大の過ちと言えましょう。申し訳ございませんでした」

 

「い、や、もう過ぎたことだし別にいいよ。うん」

 

「あぁ、兄様。心配しないでくださいまし」

 

 

 前世の実妹は艶めかしく微笑む。

 その真っ黒い深淵のような瞳を、狂気で満たしながら。

 

 

 

 

 

「──兄様の誹謗中傷に直接加担した有象無象は、一切の例外なく残すことなく処分して、わたくしは後腐れなく自害してきましたので」

 

 

 

 

 

 一瞬、俺は何を言っているのか分らなかった。

 その様子を察知したのか、前世の実妹は面白おかしそうに自身の復讐劇を語る。

 

 

「兄様を誹謗中傷したネット掲示板の連中も、兄様を直接的に危害を加えた屑共も、人口だけ無駄に多い大陸の工作員の方々も──兄様の死に関与している者はみなさん全員きっちり綺麗さっぱり、あの世に送りました。まさかまさか、自分たちは殺めていいのに、他人から殺されるのはダメ……などと虫のいい話はございませんもの」

 

「………」

 

「あぁ、もちろん、わたくしは()()()()()手を下しておりませんわ。だって、そうでしょう? ()()()()()()()()()()()()()()()()()。わたくしの日頃の行いが良い為か、それとも最愛の兄様を亡くしたわたくしを神様が憐れんだのか知りませんが。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………」

 

 

 因果応報ってことですね、とクスクス笑うアザミ。

 そんな彼女を見ていた俺は、内心『コイツ、原作カミキヒカルよりヤバいことやってない?』と冷や汗をかくのだった。少なくとも、俺が生きていた時はここまで過激な行動をとるような娘ではなかったと記憶しているので……うん、もしかしなくても俺の死因が彼女を狂わせてしまったのだろう。俺もあそこで死ぬとは思ってなかったから、死後のフォロー何ぞ何一つできなかった。

 あと腐れ縁共へ「俺死んだあとは妹ってどうなった?」と聞いた時、もれなく全員が目を逸らした理由に納得した。そりゃあ、嬉々として原作カミキヒカルLv100みたいなことしてたら、兄貴である俺に言いたくはないわな。

 

 

「殺る事を済ませたのち、他にすることもなかったので自殺し、こうやって再び兄様と会うことが叶ったわけです。転生したときは自暴自棄になりましたが、自死は正解だったと言えましょう」

 

「は? 今、なんつった? 自殺?」

 

「えぇ。だって──兄様のいない世界に価値なんて存在しませんもの。それとも自殺の方法でしょうか? 首を吊ることも考えたのですが、自身の死体を弄られるのは我慢なりませんでしたので、適当に工業用の溶鉱炉に飛び込んで焼死しときました」

 

 

 自身の死に関して楽観的に語っていた前世の実妹だったが、その言葉は俺の表情の変化と共に尻すぼみになっていった。あれほど余裕そうに、そして楽しそうに自身の悪逆性を語っていた妹が、なぜか不安そうに首を傾げるのだった。

 

 こんなことは初めてだ。脳からプチっと何かが切れるような幻聴、カラカラに乾いてしまった喉、目頭が異様なまでに熱い状況。彼女に近づくために歩き出そうとするが、その足取りも思った以上におぼつかなく、手に違和感があるのか、その自覚がないのに手を広げたり握りしめたりしている。

 確かに初めてであり、俺は何らかの病気にでも感染したのではないかと一瞬は思った。

 けれども、理由はすぐに見つかった。

 

 多分、俺は怒っているのだろう。

 

 

「………」

 

「え、えと……」

 

 

 傲岸不遜で自信家な前世の実妹には珍しく、無言で彼女に触れられる距離まで近づいて来た俺に戸惑っている様子。先ほどの邪魔な奴全員間接的に殺しました!と遠回しに言った人間と同一人物とは思えないくらい、彼女の目には不安と動揺が浮かんでいた。

 

 俺は──前世の実妹を静かに抱きしめた。

 ドクッドクッと心拍音が聞こえるくらい抱擁する。十数年ぶりに、唯一の肉親がココに存在し、生きていることを実感する。

 

 

「あ、兄様!?」

 

「──こぉんの、馬鹿野郎がああああああああああああ!!」

 

「ひぇい!?」

 

 

 そんな俺がいきなり絶叫したもんだから、アザミは珍妙な声を上げる。

 

 

「何が天才だよお前本当は馬鹿なんじゃないか!? 溶鉱炉での焼死って何だよ!? お前自分の命を何だと思ってんだ!? ちったぁ残された両親の身にもなってみろやぁ!」

 

「お前まで死ぬことはなかっただろうがっ! 自分から何で死んでんだよ! しかも溶鉱炉って……おま……熱かっただろう!? 痛かっただろう!? 恐かっただろう!? 少しは自身のことも考えてくれよぉ!」

 

「おま、お前さぁ、お前さぁあああああ! 俺よりハイスペックな脳みそ持ってんだからさぁ! もう少し賢く生きられなかったんかよ!? どうしてっ、お前がそんな苦労をぉ……! くそっ、ちくしょう……!」

 

 

 腐れ縁共がこの場所にいたのなら「今年の『お前が言うな』大賞はお前だわ」と茶化されること間違いなしだが、ここには前世の兄妹しか存在しないので、俺は一切気にすることはない。

 とにかく死ぬほど悔しかった。

 原作カミキ紛いの悪逆非道を行ったとしても、コイツが俺の最初にして最後の妹であることに変わらない。そもそもの話、彼女がそこまでの強硬手段を取った原因として、俺の死もある程度は含まれているので、彼女の過ちは俺にも責任がある。

 俺と違って、あのクソッタレな世界で賢く生きる術を知っていたのにもかかわらず、俺のせいで道を外させてしまい、あろうことか自殺するまでに追い詰めてしまった。そんな自分への不甲斐なさや、彼女の心境を考えると涙が出てくる。

 

 

「ごめん……ほんっと、駄目な兄貴でごめんなぁ……」

 

「ちがっ、そんなっ、兄様はダメなんかじゃ……! わたくしの方こそ、ごめんなさ──」

 

 

 互いによる泣きながらの謝罪合戦は十数分ほど続く。

 姿形が前世と異なれど、やってることは丸っきり一緒なので、結局は俺たちは兄妹なんだなぁと痛感することとなった。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 ひとしきり泣いた後、そう言えば腹をすかしているであろう約4名のことを思い出し、近くのスーパーに向かおうとする。

 このタイミングで俺がサザエさんしていることに気づいて、アザミに断りを入れて自宅に戻ろうとしたのだが、

 

 

「兄様、財布はわたくしが所持してます故、戻る必要はないかと」

 

 

 元妹が懐から財布を取り出しながら制止した。

 ここに前世の実妹から金を出してもらうクズ兄貴が爆誕したのであった。前世の父母に知られたら脳天にチェスト(物理)ブチかまされるんだろうなぁと、半笑いしながらスーパーまでの道のりを歩く。

 

 

「……ところでアザミ。一つだけ聞きたいんだが……もしかして今世のお前って良いところのお嬢さん? 財布ん中、諭吉の束が一杯だったんだけど」

 

「──兄様はご存じかとは思いますが、わたくしは二足歩行の知的生命体が大嫌いです。摩訶不思議なことに前世で兄様に危害を加えた有象無象が消えた時、それはもう嬉しくて嬉しくて仕方がありませんでした。わたくしは生来、そういう人間であることをお忘れなきよう」

 

「俺の質問の答えになってないけど……うん、確かにそうやな」

 

 

 アザミの人間嫌いはいつからだったろうか? 前世の両親も悩ませていた案件であり、コイツはとにかく自分ひっくるめた人間という種族を死ぬほど嫌悪していた。どうやらその設定は今世でも健在なようで、俺は思わず天を仰ぐ。

 単純にIQの差で意思疎通ができないことへの他者への見下し……要するにコミュニケーション障害の一種による弊害なのでは?と思ったが、腐れ縁曰く「でも猫の皮を被って他者との交流も行っているように見受けられます。コミュ障とは違うような……もう純粋に人間が嫌いなだけでは?」と。

 

 

「加えて、今世で兄様が存命であると確信するまで、少々……えぇ、()()荒れていた時期がありまして、それはもう全てを手当たり次第に」

 

「それ本当に少々? なんか聞くのが怖くなったんだけど」

 

「話を戻しまして。良いところのお嬢さん……と申しますか、正確に言いますとわたくしが事実上の現当主ですので、あながち間違ってはおりませんわ。わたくしが兄様を探すのに必死だというのに、苗字が同じなだけの有象無象の権力闘争に巻き込まれまして」

 

「は、はえー。た、大変だったんだなぁ」

 

「えぇ。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、大変悲しいことではありますが、わたくしが現当主を引き継いだ次第でございます」

 

 

 言葉とは対照的に元妹は心底楽しそうに、身内の不幸を嘆いている。俺としては「あぁ、殺ったんだろうなー」と諦観の境地に至っていた。転生組全員が家族関係に闇を抱えていたが、この天才的妹は全てを解決してしまったらしい。俺の脳裏に『謀殺』の二文字が浮かんだ。

 余談だが『アザミ』とは前世の名前。今世の名前を聞いてみたが、その苗字を聞いて驚いた。俺でも知っているような、それこそ普通に生活していて知らない者は居ないレベルの、バリッバリの財閥令嬢だった。

 

 俺は周囲を無意識に見渡した。

 このご令嬢をスーパーに同行させた挙句、金を出させて本当に大丈夫なのか心配になってきた。

 

 

「他に何もやらかしてないだろうな……?」

 

「やらかし、でしょうか? わたくし、中高大一貫の女子校に在籍しているのですが」

 

「きっと俺の想像の埒外なお嬢様学校なんだろうなぁ」

 

「兄様が見つからなくて死ぬほどイライラしていた時に、わたくしが発信源と知られぬように『淫夢』という概念を流行らせました」

 

「殺傷能力のないサリンばら撒いたんか!? よりにもよってお嬢様学校に!?」

 

 

 総人口約13億、400もの核を保有する超大国が危険視した概念を、あろうことか閉鎖的なお嬢様学校で流行らすとか正気の沙汰じゃない。

 コイツマジで何やってんの?

 

 

「ホモガキがお嬢様学校に一定数いるとか頭おかしくなるぞコレ」

 

「一定数と申しますか、私以外全員と申しますか」

 

「……もうやだぁ、この世界」

 

「悪気はありました」

 

 

 淫夢厨と化したお嬢様が数年後に世に放たれる事実を想像し、比例して俺の監督責任が問われる状況に、いたずらっ子のように微笑む元妹の隣で頭を抱えるのだった。

 

 

 

 

 




【主人公】
 原作知識持ちの転生者。↓のやらかしで監督責任が問われる悲しき男。

【アザミ】
 原作を履修してない転生者。前世の主人公の妹。名前の由来は夏に咲く花。花言葉は『独立』『報復』『厳格』『触れないで』『人間嫌い』。



 次回:カミキはやっぱりカミキ
 2024/3/3追記:投稿が来週になりそうです。許してヒヤシンス。

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