流星群に願いを 作:キチガイの人
余談ですが『アザミ』は色に複数種類あり、紫だと『気品』『高貴』『威厳』の花言葉があります。マイナス的な意味だけじゃないってことですね。
今作はマイナス的意味も含めて、彼女を体現してますが。
高評価、感想ありがとうございます。
アイちゃんが駆け足で出ていく姿を笑顔で手を振りながら見送って、彼女の姿が完全に視界から消えた瞬間、家の中で思い思いのことをしていた3名は机を囲んで小声で会話する。
小声で会話する意味はない。
「……何分ぐらいで戻って来ると思う?」
「肉買いに行くだけなら半時もかからないのでは?
「ここの治安はそンなに悪くねェし、大丈夫だろ」
太郎の不穏な言葉をリョースケは切り捨てる。
アイドルとして売れに売れている彼女の身の心配はしてもし足りないだろうけど、この立地はそういうのも考慮した大将が選んだ物件でもある。若干古いけどセキュリティはそこそこ良いし、必要最低限の必需品が売っている店は徒歩の範囲内。苺プロからもそんな遠くないっていう好立地。
よくもこんな痒い所に手が届く物件を見つけたもんだと逆に感心したぐらいだ。
大将って原作知らない勢だよね? あの人がここまで気にかけてるってことは、めっちゃ絆されてるじゃん、アイちゃんに。
「で? で? で?」
「大王」
「ちゃうわ。アイちゃんとシオンの馬鹿は関係進んでるの?」
「馬鹿かテメェ。逆に進んでいると思ってンのか?」
リョースケは鼻を鳴らしながら嘲笑う。
「東京ディズ〇ーランドのチケットを2回アイとシオンの阿呆に渡したんだが、一切進展ねェのマジで意味わかんねェ。童貞陰キャ風情が一丁前に身の程を弁えやがってクソが」
「へー、あの二人はディズ〇ーデートに2回も行ったのかぁ」
「正確には1回だな。最初に各々に1枚ずつ渡したってのに、あのシオンのクソッタレが自費で追加購入して他のアイドル共に渡して送り出してやがった」
「控えめに言って馬鹿でしょアイツ」
だから2回目渡す時はアイちゃんにシオンの分も渡したし、わざわざリョースケが車出してネズミの城に連行したんだとか。そんで帰って来た時にデートの感想を聞いたところ、二人が口揃えて「「アトラクション楽しかった」」と進展なさそうな感想を提出されて、企画立案者のリョースケは両手で顔を覆ったのだとか。
前世では物理的にハハッとは遠かったし、今世も裕福とは言えない生い立ちで、ハハッに行く機会がなかったのは理解してるけどさぁ。
僕は僕でアイちゃんに少ない恋愛関連のアドバイスをひねり出して提供しているけど、どうも成果が見られないんだよねぇ。原作より幾分かマシになったとはいえ、恋愛初心者のアイちゃんが攻略しているのが、あの朴念仁の頑固者だから仕方ない。
というか薄々気づいてたんだけど、いや、前世からそうなんだろうけど、シオンって『Love』の方の好きって感情を理解していない節がある。何なら原作アイちゃんよりも、他人を愛するってことを知らないモンスターだし、当の本人がそれを必要としてないから原作アイちゃんよりも質が悪い。
お陰様で僕らが苦労することになる。はー、クソ。
「……一つ質問を投げてもよろしいでしょうか?」
「どぞどぞ」
「当初の話になるのですが、貴方たちは星野さんとシオンがくっつくことに反対派だったのでは? いつからそのような方向転換を?」
確かにそんな話もあったね。
様々な要因から断念したけど。
「一番の理由が、アイちゃんへの説得ができるビジョンが見えなかったからというのもある。シオンのド畜生がアイちゃんの脳をウェルダンどころか炭にしちゃったせいで、原作の主目的を概ね達成しちゃったアイちゃんを作り出した責任を取れって意味合いもある」
「ふむふむ」
「加えて保身のためもあるかなぁ。これはリョースケが強いけど」
むしろリョースケの場合だと、シオンとアイちゃんを恋仲にしようとする目的の主たるものがそれだったりする。
特に、転生者が複数存在すると知ったときから、それは達成せねばならない重要事項でもある。
「この世界線が『推しの子』という漫画原作を軸としたものだってのは、唯一無二の天才的アイドル様を目の当たりにすれば一目瞭然だと思う。そして、原作を知る人間なら、このあとアイちゃんがどのような末路を辿るのか……『アイドル』の再生回数を見れば、ある程度の人間は知ってるはず」
「再生回数が多い=結末を知っている……とは限りませんが、あれだけ話題になれば貴方の考えも間違いではないのかもしれません」
「アイちゃんが死ぬなんて、ここまで関わってしまった以上は僕も避けたい。僕だって人の情くらいは持ち合わせている」
正直言ってララライで会ったときには、僕の知らん所で勝手に死んでくれ感はあったのは白状しよう。でも、実際に言葉を交わして親交を深めた今、この噓吐きながらも健気で必死に『愛』を相手に伝えようと四苦八苦する
知らなければ、赤の他人であれば、そうは思わなかっただろうよ。
けど──カミキヒカルではない
「原作のカミキヒカルと違って、僕は嘘は下手くそだよ。だから、あの
「……メンタル全損してる人間擬きって点を省けば、アレと星野は相性的には悪くねェしな。星野のやらかしに目くじら立てる性格じゃねェし、我儘にも最終的に折れる器もある。細かいことを気にする奴だが、その細かいことを他人に任すくらいなら自分からやるからなァ。原作の『45510』からの星野の心境を鑑みれば」
「で、保身の話に戻るんだけど。万が一にでもアイちゃんが死んじゃった場合、原作を知っているかもしれない、まだ見ぬ転生者は誰が犯人だと思う?」
「……あぁ、そういう」
太郎はあきれた様子だけれども、こちらとしては死活問題なのだ。
十中八九、というか殆ど100パー間違いなく、僕とリョースケが無条件で疑われる。だからリョースケは大学進学を諦めたからね。
僕としては芸能界で女性関係で壮大なトラウマを植え付けられたので、もちろんのことアイちゃんとそういった関係になりたいとはミリ程にも思わない。僕の
本当に薄情なのは自覚しているけど、アイちゃんとシオンがくっつけば、原作で僕の
僕は楽して生きたいからね。(サイコロステーキ先輩風フラグ)
「そんなわけで、今の僕はシオアイ賛同派だよ」
「これで因果がねじ曲がってアクア君とルビーちゃん以外の子までガッツリと生まれて来たら笑えますね」
「僕は笑えないね、それ」
なんて適当な中身のない会話を続けようとした矢先、ガタンッと玄関から大きな音が聞こえた。シオンかアイちゃんか、その双方が帰って来たとしか考えられないが、それにしては帰還が早すぎる状況を訝しむ。スーパーで目的のブツを調達するにしては早すぎるし、じゃあアイちゃんが先に早く帰されてくるパターンか?と予想したけど、あの娘ならシオンと一緒に帰ってくる気がするし。
僕の素朴な疑問は、すぐに最悪な形で答えとして返ってくるのだが。
ドタドタと足音を立てて帰って来た人物──アイちゃんの表情を見て、僕とリョースケはぎょっと内心後ずさる。
アイちゃんの目には光がなかった。あの天真爛漫な少女が、この短期間でここまで生気のない瞳を向けることが出来るのかと、原作読んでた勢の僕は表情を引きつらせる。いや、ね? 黒い星ギラギラとかなら回想シーンとかで見たことあるけどさぁ、そんなのとは全然違う、ハイライト消えた顔なんて想定外なんだけど。
明らかに異常を見せるアイドルは、歩みだけは迷いなく太郎の懐に飛び込む。これが前世だったら即通報してたけど、今世の太郎はなんでか知らないけど、生物学上は女なのだ。
バグだね。修正早くしてよ
「おやおや、星野さん。どうかされましたか?」
「……どう、しよ……シオンが……シオンがぁ……」
「あのロクデナシが何かやらかしましたか?」
「し、知ら……知らない、女、の人と……だ、抱き合って……うぅ……ど、うして……」
「……シオンが星野さんがご存じない女性と道端で互いに抱きしめ合っていたと。そして、それが彼とどのような関係なのか知らない星野さんは、彼を他の人に取られないか心配である、と」
震えた手で太郎の服を掴みながら、言葉にならず必死に首を縦に振るアイちゃん。
メンタル的に限界そうな彼女の様子を尻目に、僕とリョースケは眉をひそめながら互いに顔を見合わせる。太郎のアホみたいに的確な状況把握よりも、彼女が見たであろう光景が到底信じられるものではなかったからだ。
「……シオンが、異性と抱き合う? ノストラダムスの大予言って今年だっけ?」
「もう期限切れだろうがアホか。言いてェことは理解できねェわけじゃねェが」
あの前世今世含め永遠のチェリーボーイたるシオンが、はたして女性と抱き合うなんて転生特典ありでも不可能そうなことが出来るだろうか?
魑魅魍魎が跋扈する芸能界で女たらしにでもジョブチェンジしたのならまだしも、そこまでの器量があるのであれば僕とリョースケはここまで苦労はしない。んな有象無象よりアイちゃんを(性的に)先に食ってくれホント頼むお願いだから。
それともアイちゃんが身近な存在過ぎて恋愛対象として見れないとか? 一緒に風呂入って一緒に寝てることを考えると、十分あり得る。
「それにしても解せねェ。星野が見た女っつーのは誰なンだァ?」
「シオン側から抱き着くってなると、相手は限られてくると思うんだけどねぇ。だって
有り得ない──という単語を口にしようとしたところで、水面に落ちた雫により浮かぶ波紋が如く、背中からブワッと鳥肌が全身へと伝播した。それはリョースケも同じだったようで、小さなうめき声しか口から発することが出来ない。
僕とリョースケの想像は同じ。最悪中の最悪。もし実際に僕らの想像が当たっていたのならば──それこそ止められる人間は地球上でただ一人しか存在しない。こんだけ転生者がいるのなら、彼女もまたどこかで産声をあげていたとしても不思議じゃない。なんせ彼女は僕たちより早い段階で死んだし。
そう、前世で実兄を死に追いやった──特に執拗に粘着した連中を、全部が全部を事故に見せかけて間接的に殺害し、しかも自殺後も関連性を疑われることすらなかった、
原作の復讐鬼たる星野 アクアLv100みたいな思考回路で、原作のカミキヒカルLv100みたいな手法で、実際に復讐を遂げてしまった少女が言っていた。
『あら? わたくしは人殺しなんてしてませんわ。だって──
『例えば……そう、例えばの話』
『残業続きの社畜がいたとして。睡眠時間をろくにとれていないせいで判断力が低下した状況下。いつもの道は工事で通行止め。急いで会社に向かわなければならない時間。そんなときに、人が急に車道へ走ってきてしまった。日頃の疲れかブレーキも間に合わず──あぁ、なんということでしょう。その人を轢き殺してしまったではありませんか』
『さて、そこで問題です』
『この場合、悪いのは誰でしょう? アスファルトが破損しているのを市に連絡し、工事の為に通行止めの状況を作った
『もちろん、轢いた人間が悪いでしょう?』
『しかし、それでもわたくしを人殺しと揶揄するのであれば……そうですわね。確かに、2,729名を殺害した大罪人とも言えましょう』
彼女の明かした手法に僕は震えたものだ。他者の心理状況を綿密に把握し、事故に見せかける状況を即座に作り上げ、加害者は当然の様に自身が悪いのだと自覚しているので、警察司法もそれ以上は検索しない。今生でシオンが小学生時代に扇動して魅せた運動会事件が生ぬるく思えるような思考誘導。
故に、妹ちゃんが自殺したときは、誰も彼女の内なる残虐性に気づくことなく、メンタル的な要因により自殺したのだと遺された誰しもが冥福を祈ったくらいだ。
そんな完全犯罪を成し遂げた上で前世からフェイドアウトした謀殺のプロフェッショナルが、今世でシオンに接触してきた? 何の冗談だよ。
「……太郎、もしかして知ってた?」
「何のことでしょう?」
自身の胸に顔を埋めるアイちゃんの頭を撫でながら、太郎は不思議そうに首を傾げる。しかし、長年の付き合いから、コイツ確信犯だなと察する。
どうしてアイちゃんに不利益なことを、今この段階で太郎がぶち込むのか理解に苦しむけど、賽は投げられた以上どうするのか決める必要がある。何を決めるのかと言えば、アイちゃんにシオンを贄として捧げる計画に、最大にして最悪の障壁が生まれたことによる対策である。
あのシオンの元実妹が前世の段階から兄妹らしからぬ感情を抱いていたことは薄々気づいていたし、今世で最大の障害である『血縁関係』が排除された以上、あの妹ちゃんは前世の祖先のように使える手は何でも使ってでも結果を捥ぎ取りに来るだろう。
そうなると、アレが本気出す前にアイちゃんがシオンを堕とさないといけないのだけど、それができるのなら僕はここで頭を抱えていない。
長期戦では完全に不利。
短期決戦は条件的にほぼ不可能。
悩みに悩んで、それでも答えが出ずに、何が最適解かもわからず、途方に暮れた僕は──
「──アイちゃん、このままだとシオンはその女に取られちゃうだろうねぇ」
「……ぇ」
「シオンもアイちゃんの告白を待つ必要はないんだ。だって、アイちゃんとシオンは
「……い、嫌……嫌」
「女の人とは、どこまで進んでるんだろうね? 少なくとも
「嫌っ、嫌ぁっ、私がっ! 私が先にシオンのことっ……。私が一番っ。だからっ……だからぁっ……!」
彼女の魂の叫びに、僕は口の端を歪めた。
あぁ、僕は──
「シオンを他の女に取られたくないと。でも、今まで頑張ってもシオンは君をそう見ることはなかった。それはいくら時間が経っても変わらないだろう。そう、
「どうすればいい!? どうすればシオンは私から離れなくなる!? な、何でもする! 私、何でもするから!」
「じゃあ、答えは簡単だ」
……もしかしたら、いくら魂が変化しようとも、この身体の持ち主の本質は変わらないのかもしれない。カミキヒカルの本質。
「──既成事実を作ればいい」
そう、
【星野 アイ】
現役アイドル様。主人公とくっつくためなら
【カミキヒカル】
原作知識持ちの転生者。やっちゃったぜ☆
【リョースケ】
原作知識持ちの転生者。やりやがった! マジかよあの野郎ッ! やりやがったッ!?
【田中 太郎】
原作知識持ちの転生者。計画通り。
次回:
2024/3/17追記:投稿来週になりそうです。汚客様にチェストしてぇ。