流星群に願いを 作:キチガイの人
そんなわけで主人公視点回です。
高評価、感想ありがとうございます。
『いやー、今日のライブも凄かったねぇ。……アイちゃんの最後のアレさえなければ』
「アイツどうしたんだろな。後で聞いてみるわ」
事務所でカタカタとデスクワークしつつ、携帯で雑談してきやがるヒカル君の相手をする俺。その話題は『B小町』のライブの件だった。社長やミヤコ様からは俺が現場に赴くことを提案されたが、自身の仕事が残っていると言い訳して現在に至る。
ぶっちゃけると急ぎの仕事ってわけじゃないので、
諸事情とか言ってみたものの、ただ単純にアイドル様と距離を置いているだけである。
最近、腐れ縁3人衆の行動が怪しい……というか、長年の付き合いから「コイツら何か企んでるよなぁ」と疑い始めている俺。ホントに証拠も何もなく勘だけの感覚なのだが、いつぞやの大将と重なったからだ。つまり、アイツらアイドル様寄りじゃね?って話である。
そんな背景もあり、別口の協力者──前世の実妹に相談してみたところ「徐々に距離を置いてみてはいかがでしょう? 相手側から接近してきても、丁重に距離を離すことが重要です。急いては事を仕損じる可能性もございますので」とアドバイスをもらった。アイドル様の名前を出さず、相手側の自由を尊重したいという前置きで、どうすればいいのかと相談した回答だった。何でもありだと
妹に相談したことをヒカルに零したところ、ダウナー系イケメンの原作サイコパス野郎は「……あーあ、超厄介な娘がシオンのバックについちゃったかぁ」と頭を抱えたそうな。
は? 俺ん妹の何が厄介だって?(シスコン風逆ギレ)
『アイちゃんって持病とかないよね? 原作でも今世でも。僕はそこんところ知らんし、無人島生活ん時は特にそういった予兆はなかったけど』
「健康体だったはずなんだがなぁ。単純に過労なんじゃね?」
『ちょっとちょっと、過労死とか洒落にならないんだけどホント。ピタゴラスイッチ方式で巡りにめぐって僕のせいとか言われて、双子に命狙われるとか勘弁してよ?』
「さすが汚いカミキヒカル、自分の心配第一か。そこまで自分本位だと逆に尊敬するわ」
『シオンが「アイちゃんのことが心配なんだ」っていう僕の発言を、文字通り解釈してくれれば苦労しないんだけどねぇ』
確かに自己都合の言葉の方が信用できるってのは否定しない。
互いが互いを罠に嵌めることしか考えていないが故の弊害とも言えよう。
俺とヒカルの話をしている『アイのアレ』というのは、今日のライブの最後の方で起こったトラブルの話である。
ライブ自体は普通に成功して、あとは舞台から降りるだけ──という段階で、『B小町』のセンターアイドルが舞台上で倒れたのだ。俺は直に見てないし、それをミヤコ様からの連絡で正式に知ることになるのだが、会場に行っていた原作の黒幕曰く「なんかヤムチャみたいに倒れた。すぐに起き上がったから、この後病院にでも行くんじゃない?」らしいが。
距離を置いていると言ったものの、ちゃんと毎日三食は食わせているし、睡眠時間も無理矢理確保させている。俺の知っている範囲外で無茶をしているってのあれば話は別だが、俺の把握している限りでは彼女の体調不良の原因に思い至らない。
他のアイドルメンバーも知らなそうとミヤコ様も言ってたので、後はもう病院の診断結果次第だな。
俺の脳裏に一瞬だけ『もしかして他の男とヤって妊娠したのでは?』と原作準拠の予想が過った。ヒカルとなら予定調和だけれども、コイツの口ぶりからしてその線はないと思うけどね。
ないとは思うけど、業界のお偉いさんやら、俳優のヤリチン野郎に無理矢理孕まされたって話じゃないよな? そうなると俺は原作アクアと同じようなことをしなきゃいけなくなるんだが?
「はぁ……アザミなら正確に症状が分かると思うんだが、アイツ今忙しいと思うから迷惑かけたくないんだよ」
『え、そなの?』
「本人曰く文化祭(?)っぽい何かで大忙しなんだと」
今世の両親とは良好な関係を築くことが出来ず、不慮の事故らしきもので血族の大半を失ってしまった前世の実妹。俺と彼女の関係は戸籍上で言えば赤の他人でしかないけれど、それでも前世の肉親なのは事実であり、前世の両親の代わりができるのが俺だけ──という状況。
彼女の在籍する学園で文化祭みたいなことをすると聞いた時、前世の兄貴分として彼女の活躍を記憶に留めようと、彼女のクラスだったり出し物の詳細を聞こうとしたが、アザミは俺に一切を話すことはなかった。
むしろ、来ないで欲しいと頭を下げられたレベルである。
……よくよく考えたら、前世の兄貴分ヅラした男が、今世まで出しゃばって来るのは邪魔だったかもしれない。俺は内心反省したが、
『──兄様、本当に申し訳ございません。当学園の芸術祭に関してですが、兄様の御眼鏡に適うような出し物は一切ございません。芸術祭の見学はご再考願えませんでしょうか?』
『……あ、あぁ。そうだよな。アザミも思春期真っ只中だし、見られたくないこともあるよな。俺の配慮不足だった。本当にスマン』
『兄様が謝るようなことなど何一つございません。これはわたくし……えぇと……はい、わたくしの問題でございますので。加えて、わたくしは学園の生徒会長なので、出し物等の参加はしませんわ。来ても何一つ面白くないかと』
『アザミが頑張っている姿を見るだけでも、十分行く価値はあると思うけどね』
『本当に、申し訳ございません。正直なところを申しますと、兄様を当学園の芸術祭──通称・
『あ、うん。分かった。行くの止めるわ』
そういやアザミのやらかしによって、彼女の母校はホモガキの巣窟と化していたことを思い出した。そんなホモの祭典に興味はないので即断念する。
うっすらと話を聞く限りだと、アザミが在籍する学園の芸術祭は、生徒多数の要望によりゲイ♂術祭になってしまったのだとか。義務教育の敗北が脳裏に過る。俺は日本の上層階級の将来が心配で心配でたまらない。
『お前ん所の教職員共は無能の集まりなんか?』
『お伝えしたではありませんか。ホモガキは
『それ教職も含まれてたん!?』
『平凡な成績のわたくしが生徒会長を担っている理由の大半がそれですもの』
以上の背景もあり、今回の学校行事の見学は見送られることになった。中高大一貫校で、教職にまで汚染が広がっていることを鑑みて、俺が彼女の学園に足を踏み入れたいとは決して思わないが。本当なら兄貴として全校生徒の親御さん一人一人に、アザミを引き連れて土下座するべき案件なのは確かだけどね。
「っつーわけで、アザミは今は動けん」
『ツッコミどころ満載でワロタ。というかアザミちゃんが平凡な成績とか何の冗談?』
「……今世のアイツ、偏差値50なんよ」
『は?』
ヒカルのガチトーンの「は?」に苦笑いするしかない俺。
いや、気持ちはわかる。俺も何の冗談かと何度も聞いたぐらいだ。
アザミ曰く、前世の教訓を経て学内偏差値50をキープしているらしい。お嬢様学校とはいえ、そこそこの難易度を誇る学校なので、そこでの50は世間一般だと頭が良い部類ではあるが。
『えぇ、わたくしの学内偏差値は50です。ちゃんと学園の全生徒の成績から定期考査の点数を予測し、ちゃんと50をキープしております。だって──出る杭となって兄様にご迷惑をおかけしたくありませんもの。わたくしは平凡で模範的な一学生に過ぎません』
不慮の事故で繰り上げ人事的に現当主となったアザミは、世間では遠い親戚の後ろ盾が実権を握っていると思われており、彼女の評価は『お飾りの財閥の現当主にて、平凡な能しか持たぬガキ』らしい。
前世を知る身としては「んな馬鹿な」って感想しか浮かばんけど、
自身の才は自身のためにしか使わないと言う鉄の意志を感じた。ウチの妹であればガラケーが普及する現代日本に今すぐにでもスマートフォン革命を起こせるだろうし、実際に数世代先のPCを自身用に勝手に組んだと言っていた。
知識を社会に還元する気は一ミクロもないらしい。気持ちは分からんでもないが。
「話を戻すけど、んな感じでアザミは大忙しってコト」
『ふぅん……』
「どしたん? アイツに何か用あった? 話聞こか?」
『別に何でもないよー。覚悟決めたタイミングといい、やっぱり彼女は『持っている』人なんだなーって思っただけ。主人公気質ってやつ?』
意味深なヒカルの言葉の意味を問おうとしたが、そこで事務所の玄関が開く音がした。おそらく誰かが帰って来たのだろう。事務所には俺一人だけなので、玄関で出迎えるために席を立とうとする。
「誰か帰って来たわ。んじゃ切るぞ」
『りょ。まぁ、あれだね』
「ん?」
『さぱっと死せい、黄泉路の先陣じゃ。誉れじゃ』
「え、ごめん。俺死ぬん?」
すっごい不吉な言葉を残したヒカルから電話を切られた。
俺は首を傾げつつ、事務所の玄関側に足を運ぶと、そこには病院に行ったと思っていたアイドル様が靴を脱ぐ姿を目にする。パッと見た限りでは外傷はないことは確認できたが、それでも俺は困惑の感情を乗せながら彼女を気遣う言葉を述べる。
「お前ライブで倒れたんだって聞いたぞ。大丈夫なのか?」
「んー? 全然大丈夫だよー。でも佐藤社長から今日はもう休んでいいって言われたから、先に車でリョースケ君に送ってもらっただけだし」
その言葉は嘘ではないと言わんばかりに、事務所のリビング的場所にあったソファーへ向かうアイドル様。俺としては病院で検査を受けるべきだと考えるが、彼女はそうは思ってないらしい。自身の
……まぁ、後の俺は彼女の行動の意味を理解するのだが。そりゃそうだ。倒れたこと自体が
「つーかーれーたー」
「お疲れさん。なんか飲むか?」
「今はいいかな。それよりもぎゅーっとさせて」
「仕事残ってるから無理」
接触は極力控える。
急ぎの仕事なんて何一つないが、妹のアドバイスを実践するために嘘を口にする俺。それを知ってか知らずか、アイドル様は不満そうに頬を膨らませる。
「……シオンって最近私を避けてるよね?」
「忙しいからそう思ってるだけじゃないか?」
「じゃあ、私の事抱きしめて頭撫でてキスして」
「最後のは人生で一度もしたことないんだが? つかビジネスパートナーの俺に言うなよ。さっさと他に彼氏でも作って、そいつに甘えろや」
アイドル様の無理難題を、ビジネスパートナーという立場からあしらう。それこそ『星野 アイ』という少女がアイドルとしてデビューした当時から、俺と彼女との間で繰り広げられる言い合いのようなもの。苺プロの面々にとっては見慣れた日常であり、俺にしては挨拶みたいなノリの会話だった。
前世から俺は頑固気質の自覚はあったが、アイドル様も負けじと詰め寄って来るので、それが数年続けば日常風景になるのは無理もないだろう。
俺の素っ気ない態度にアイドル様が不貞腐れる。
それがいつもの流れであった。
そう──
「──そっかぁ。そーだよねー。うんうん、やっぱり彼の言った通りだよね。このままじゃ、何にも進まないうちに、他の誰かに獲られちゃうなぁ」
「……星野?」
「そんなの──絶対に認めない」
デスクワークに戻ろうとした俺の肩を掴んだアイドル様に無理矢理振り向かせられ、俺の視点はぐるんと一回転して、気づけば床に仰向けに倒れていた。綺麗に鮮やかに痛みもなく倒された俺は、アイドル様が足を引っかけて綺麗に背負い投げされたことを理解した。
……え、俺、アイドル様に背負い投げされたん?
仰向けに倒れた俺の両手を、自身の両手で拘束するように、俺の腹部に馬乗りになるアイドル様。
その表情は笑っていたが、目は一切笑っていなかった。
「あははっ、田中君に護身用で背負い投げを教えてもらった甲斐があったなぁ。私もシオンにするとは思わなかったけど」
「ほ、星野? え、え?」
ここに来てようやく。
ようやく。
俺は彼女がトンデモないことを、やらかそうとしていると認識することに成功する。
「大将は言ってたよ。『彼は他者を想いやることはできても、自身を想いやることが出来ない人間だから、受け身の姿勢ではアイ君の望む関係にはなれない』って」
「リョースケ君は言ってたよ。『他人のことを考えて行動するのなら、そもそも告白なンて迷惑以外の何物でもない。愛情はいつだって自身の感情の押し付けだ』って」
「田中君は言ってたよ。『議論なんて野蛮。ここは穏便に
「カミキ君は言ってたよ。『愛し合って結ばれる関係があるのなら──結ばれた後に愛を知る関係もアリなんじゃね?』って」
転生者組の迷言が最悪の形で俺に牙を向いている件について。
水を欲する魚のように口をパクパクさせる俺に、彼女は今世最大の問題発言を投げかけてきたのだった。
「私、君と愛し合いたい。君の赤ちゃんが欲しい。だから──シよ?」
そんで001話に繋がるってワケ。
【主人公】
原作知識持ちの転生者。誰か助けて。
【星野 アイ】
現役アイドル様。逃がさない。
【カミキヒカル】
原作知識持ちの転生者。主人公の気持ちを考えてアドバイスしろって? そんなんしてたら世紀跨ぐわ。
【リョースケ】
原作知識持ちの転生者。ふと『これ原作の修正力で双子がそのままのビジュアルで生まれたら、アイとカミキの不貞疑惑が浮上するのでは?』と思ったり。
【田中 太郎】
原作知識持ちの転生者。コイツが護身術を教えました。まぁ、勉強しかしてこなかったモヤシ主人公と、無人島生活してたアイドル様じゃ体力勝負にならん。
【アザミ】
原作を履修してない転生者。偏差値50なのでアクアやあかねより学力は下。何を言おうとも、数字がそれを証明している。
次回:裏切り者