流星群に願いを   作:キチガイの人

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 更新遅くなりました。風邪拗らせた挙句、喘息発作で召されてました。39.0はツライ。
 あとアイ視点回です。9歳視点で言葉選ぶの難しい。


005

 私が施設に来たあの日。

 彼のことを紹介されたあの日。

 

 出会った瞬間、私は気づいてしまった。

 彼は──私と同じ『嘘吐き』なのだと。

 

 

今和泉(いまいずみ) シオンです。以後よろしく』

 

 

 彼はそう自己紹介を終えると、私なんて見ていないように自分の部屋に入った。

 その後も、何度か彼と顔を合わせることがあったけど、彼は私の事なんて全然見ようとしなかった。他にいた施設の子たちとは楽しくおしゃべりをして、自分より下の子を職員の人に代わって世話をしてあげたりと、とても親切で優しい少年──のように見えた。

 

 でも、私は知っている。

 それが彼の『嘘』なのだと。

 今まで何度も何度も何度も何度も何度も何度も、お母さんに振り向いてもらえるよう努力して、本当の自分を見せないで相手にあわせる『嘘』をついてきたのだ。彼の言ってることや、やっていることも、他の人に合わせた『嘘』であると、私は気づくことが出来た。

 

 

『職員さん、干してた衣服の収納場所って、ここでいいっすか? あ、了解です』

 

『お、××。サッカーやるんか? 頑張れよ……なに? 人数が足りない? しゃーねぇなぁ、俺がゴールキーパーやってやるよ』

 

『はぁ、まーた○○が△△を泣かしやがった。ほーれ、悪いことをしたら謝る。人生の基本ルールだ。……おっけおっけ、○○も謝れて偉いな。△△も、これで許してくれないか? もしまた○○が変な事したら、○○のデザート食っていいからよ。俺が許す。……うん、これで仲直りだ』

 

『ふぅ、掃除完了っと。あ、院長さん、今日はお日柄も良く──え、何で施設の掃除をしているのかってことですか? 暇なんですよ、えぇ、本当に。洒落にならないくらい』

 

 

 彼は施設の誰とでも仲良くなり、私と同じ『嘘』で自分を隠して接していた。

 ……私はあれだけ頑張って『嘘』をつき続けて、それでもお母さんに褒めて貰うことも、振り向いてもらうこともなかったのに。彼は、私と同じ『噓』をつき続けているのに、どうして私は上手くいかないんだろう。どうして、彼はあんなにも上手なのだろう。

 

 たぶん、彼も私が『噓吐き』だと知っている。

 自分と同じだから、彼は私と話をしようとしないんだと思う。

 

 施設の廊下ですれ違っても頭を軽く下げるだけで彼は私の方を見ないし、ご飯を食べるときも必要なことしか話さないし、学校でも他の子たちと『噓』を上手く使って仲良くしていて、私なんかと話をすることもなかった。

 わざと彼は私を避けている。

 わざと彼は私を無視している。

 

 あんまりいい気持ではなかったけど、お母さんが迎えに来てくれるまでの辛抱だった。

 彼と同じ『噓吐き』な私。だけど、彼のように周りの人たちと仲良くすることはできなかった。お友達は出来なかった。

 

 だから──私はお母さんを待つ。

 いつか迎えに来てくれると信じて。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 あれから1年が経過した。

 お母さんは1か月前に、お外に出られるようになったらしい。

 

 

 

 

 

 でも──お母さんは私を迎えに来てくれなかった。

 

 

 

 

 

 待っていたのに。

 ずっと待って、いたのに。

 ずっと、ずーっと、待っていたのに。

 

 私は、お母さんに捨てられた。

 

 職員さんが「アイちゃんの親御さん、釈放されたのに迎えに来ないのよ。このまま来るつもりはないのかしらねぇ」という話を聞いて、私の頭の中はぐちゃぐちゃになった。

 何も考えられず、とにかく一人になりたかった。外で雨が降っているなんて知らない。べちゃべちゃに濡れた道を、私は走った。途中で靴が脱げたことも知ってたけど、そんなの関係なかった。遠くへ、遠くへ、ヘンな考えがぐるぐる回って、頭が痛くなって、熱くなって、拭っても拭っても涙が止まらなくて。

 

 私はよく知らない場所の公園に辿り着いた。

 雨だから、誰もいない。濡れたブランコに座って、私は地面の一点ををぼーっと見つめる。……思えば、お母さんに遊園地どころか、公園にも連れて行って貰えなかったなぁ。

 

 ……私はこれから、どうすればいいのかな?

 もうお母さん以外に家族はいなかったし、お母さんは私を捨てたし、私の居場所は居心地の悪い養護施設しかない。それに、養護施設にずっとお世話になれるわけじゃないと聞いたことがある。

 誰からも『愛して』貰えず、誰からも必要とされていない私。施設を出れば、一人ぼっちになっちゃう。

 

 ただ、愛して貰いたかっただけなのに。

 ただ、側に居て欲しかっただけなのに。

 それは悪いこと、だったのかな? 私なんかが望んじゃいけなかったのかな?

 

 私は──いらない子だったのかな。

 

 雨は今でも降り続けている。このままだと風邪をひいちゃうかもしれない。人間って風邪でも悪くなれば死んじゃうこともあるって、どこかで聞いたことがある。

 ……もう、このまま死んじゃおうかな。誰も悲しんでくれないだろうし、いらない子は消えたほうが迷惑かからないし。

 

 それとも、私が死んだら、さすがのお母さんも悲しんでくれるかな?って思っていた時、地面がビシャビシャ鳴る音がした。誰かが私に近づいて来るのが分かった。

 

 

「……誰?」

 

「お迎えの時間だ。職員のおばちゃんが心配してっぞ」

 

 

 私は驚いた。今まで私のことを無視し続けていた人が、ビニール傘と私が脱ぎ捨てた靴を持って、迎えに来るなんて。

 少しだけ視線を上げて彼を見た。とても困ったような表情をしており、いつものような軽い感じで『嘘』をついていたときのような雰囲気もなく、これが本来の彼なんだと私は感じた。どうして私に『嘘』を見せないのかは分からないけど。

 

 帰りは彼が私を負ぶってくれることになった。男の人に背負ってもらうどころか、男の人に触れたこともなかったので、本音では少し怖かった。それでも途中で落ちないように、彼の首元に腕を回して、一生懸命にしがみついた。

 怖かったのは少しの間だけだった。

 彼のことを良く知らないし、私のことを無視してくる嫌な人だと思ってたのに、どうしてこんなに心が温かくなるんだろう? 彼に背負って貰っている状況がとても心地よく、このまま寝てしまいそうなくらい安心している自分にも驚いている。

 

 ……そういえば、彼は私と同じで両親に捨てられたと聞いたことがある。

 だから、少し気になった。私はとても悲しかったけど、彼も同じだったのかと。同じように捨てられた彼は、これからどのように生きるのかと。

 

 私は自分のことを──お母さんに捨てられたことを話した。途中、我慢できず泣いてしまったが、それでも彼は最後まで話を聞いてくれた。

 私も聞いてみた。君は寂しくなかったの?って。

 

 

「俺は……そうだな。両親の顔すら知らないから、寂しいとか考えなかったわ。そもそも、生まれてから今に至るまで、他人に期待したことがないし、期待すること自体が間違っていると思ってるからな、俺は」

 

「……ごめん、難しかったか。あーっと、どう言えばいいんかなぁ。星野が悲しいと思うのは、そっちのお母さんが迎えに来てくれるって思ってたから、こうやって捨てられちまったことが嫌だったんだろ?」

 

「だから、俺は最初から大きく期待しないし、信用もしない。信じているから、裏切られた時に悲しいって気持ちが大きくなるんだと思う」

 

「そそ。星野はお母さんが迎えに来てくれるって『信じてた』のに、捨てられたせいで『裏切られた』って悲しくなってるんだと、俺は思ってる。なら、最初から信じることをしなきゃいい」

 

 

 私は彼が言っていることが信じられなかった。

 期待、しない? 彼が両親だろうと捨てる人間は捨てるんだから、そんなのに期待すること自体が間違っていると言った。

 

 分からない。

 彼は寂しくないの? 

 ……誰かに、愛して欲しくないの?

 

 私には……そんなの分からないよ。必要として欲しい。愛してほしい。

 もう、ひとりぼっちは嫌だから。

 

 

「あ、最初に言っておくけど──俺のことは絶対に信じるな。俺は、必ず星野を裏切るぞ」

 

「別に星野を率先して嫌うって話じゃない。こんなモノ好きと友達になりたいってんなら止めはしない。でも、俺は、俺の考えで、これが星野にとって最善だと思うことを、俺自身が考えて動く。中には星野が思ってたのと違う行動をするだろう」

 

「だから、俺を信じないでくれ。期待しないでくれ。星野がして欲しい事と、俺がこうした方がいいという考えは、どこかで必ず絶対に違ってくる。それなら、最初から俺に期待しない方が、星野も今のように悲しくならないと思うよ。そっちの方が、俺も星野も楽でいい」

 

 

 私からは彼の頭の後ろ側しか見えないので、彼が何を考えているのか分からない。最初の言葉に、私の胸がキュッと苦しくなったのは事実。

 でも、彼の言葉に『噓』は何一つなかった。

 私の為だと思うことを、彼の考えで行うと。

 

 首元に回す腕の力が強くなるのを感じた。初めてだった。他の誰かから初めて、言葉で、私の為に、私を想って行動してくれると言ってくれた。誰にも、お母さんからも言われたことはなかったのに、彼は私に言ってくれたのだ。

 泣くのを堪えるのが難しかった。

 私を『見て』くれた人に初めて会ったかもしれない。信じないで、裏切るよって彼は言うけれど、それは私がお母さんに期待し過ぎていた状況で、彼の行動で私が泣かないように言ってくれたのかもしれない。そのくらい、彼の言葉は温かかった。

 

 その後、彼と一緒に、初めてお湯を注ぐタイプじゃないラーメンを食べた。

 ラーメンも美味しくて温かかった。ラーメン屋の大将さんも優しかった。途中でお母さんを思い出して泣いちゃったけど、迷惑そうな顔をされることもなく、彼も大将さんも黙って見守ってくれた。

 

 私は今日、初めて人の温かさを知った。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「──っ! ……はぁ……はぁ……」

 

 

 その日の夜、自分の部屋で寝ていた私は目を覚ました。おでこや首元が汗で濡れていて、凄く気持ち悪かった。ベッドから降りて、タオルを取って汗を拭く。

 

 嫌な夢を見た。

 お母さんから、面と向かって「お前なんて産まなければよかった」と言われる夢だ。夢だと分かった今でも胸がドクドクと鳴って、昼にたくさん泣いたはずなのに、また涙が流れてしまい、タオルで拭いて誤魔化す。

 私は彼のように、簡単にお母さんを忘れられなかったのかもしれない。

 

 私はベッドの上に乗って、体育座りをする。

 夜の1時だから、朝になるまでまだ時間がある。学校もあるから、このまま寝ないといけないのは分かっている。でも、また寝たらお母さんの夢を見てしまいそうで、怖かった。

 またお母さんに捨てられ続ける夢を見たくなかった。

 

 どうしよう。

 どうしよう。

 

 そう考えているうちに、私の足はふらっと自分の部屋の扉に向かっていた。同じ部屋で寝ている子を起こさないように開けて、暗い廊下に出る。

 ペタペタと音を立てて、私は目的の部屋の前に辿り着く。

 静かに扉を開けて、音を立てないように中に入り、ゆっくり扉を閉める。二人用の部屋だけど、使っているのは彼一人だけと聞いたことがある。ベッドには静かに寝ている彼の姿。

 

 

「お邪魔、しまーす……」

 

 

 音にならないくらい小さな声色で、ベッドで眠る彼に近づく。

 お母さんの夢を見たくないけど、寝たら見てしまう。そう考えた時、思い出したのは彼の背中。背負って貰った時の心地よさを思い出し、あの時だけはお母さんのことを忘れることが出来るくらい安心した。

 

 

 

 それなら──彼と一緒に寝ればいい。

 

 

 

 と、考えた。

 

 

「……ごめんね?」

 

 

 私は彼の掛け布団の中に潜り込み、彼の胸板に自分の顔を押し付けるような形で添う。

 彼の何がそうさせるのか。私が思った通り、彼の懐はとても心地よく、そして安心できる匂いで心が温かくなり、瞼が重くなるのを感じた。

 

 朝起きた時、彼は驚くだろうか。

 怒られるかな? その時は謝って、また添い寝してもらえるよう言葉にしよう。

 だって彼は──シオン君は、私のことを唯一『見て』くれている人だから。

 

 

 

 

 

 

 いつの間にか朝になっていた。

 お母さんの夢は見なかった。

 

 シオン君は「お゛お゛ぉ゛ん! お゛ね゛ぇさぁ゛ん! み゛ぃ゛はどこで間違えたに゛ゃあ゛あ゛ん!?」と頭を抱えていた。

 

 ……お姉さんって誰かな?(嫉妬)

 

 

 

 




【主人公】
 原作知識持ちの転生者。まだアイドル様は究極で完璧じゃないので、処世術としての噓は主人公が上。ちなみにアイドル様はコイツから様々なものをラーニングし、原作以上のフィジカルモンスターになるのを彼はまだ知らない。

【星野 アイ】
 後の大人気アイドル様。まだ『他人の顔色を伺う嘘』なので、友達ができていない。今後思考が「どうやったら彼が自分から離れないようにできるか」にシフトチェンジし、主人公や大将から様々な要素をラーニングする。



 次回:プランB
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