流星群に願いを   作:キチガイの人

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 2023/10/29 あとがき修正


006

 

 

「──プランBに移行する」

 

「安易なルート変更はガバの元、と小学校で習わんかったかね?」

 

「前世でも今世でも習わんかったなぁ」

 

 

 いつもの『西国無双』で時間を潰す俺。

 お座敷席で唐揚げを食す俺と、小学校のガキに頼んだ仕事の成果に目を通す大将。進化前のアイドル様と職員のおばちゃんによって、俺の完璧で崇高な計画は破綻してしまったので、計画の練り直しを余儀なくされた可哀想な俺。

 しかし、大将は共感してくれるどころか、馬鹿を見るような目を向けてくるのは何でだろう。外的要因の影響が強すぎただけで、俺のムーヴはあの日まで悪くなかったはずなんだが。

 

 

「状況を整理しよう。正直、俺を取り巻く現状はかなりマズいことになってる」

 

「あれから1週間も経ってないが……そこまで変わるものかね?」

 

「アイドル様が俺の自室に引っ越してきた。母親から捨てられたトラウマを盾に、毎日毎日添い寝を強要されている。学校では授業中以外はコバンザメみたいにくっついてくるようになった。施設の職員さんから生暖かい目を向けられるようになった。隙を晒すと俺の懐に潜り込んでくる。スキンシップがクッソ多い。……挙げたらキリがねぇ」

 

「世間一般ではそれを『詰み』と呼ぶ」

 

 

 今の養護施設では、俺と彼女は仲が物凄く良いルームメイトみたいな扱いになっている。

 SAN値直葬でニャンちゅう化してしまったが、その間にとんとん拍子で全てが決まってしまった。元々2人部屋を1人で広々と使っていただけに、彼女が『一緒じゃないとお母さんに捨てられる夢を見ちゃう』とか言いやがったせいで、養護施設側にすんなりと彼女の意見が全面的に受け入れられたのだ。無論、男女を同じ部屋にすることの弊害を添えて院長に抗議したが、「しっかり者の今和泉君なら大丈夫でしょ」で切り捨てられた。まさか信頼の積み重ねが仇になる日が来るとは思わんかった。

 そんで、夜になると勝手に俺のベッドに侵入してくるアイドル様。最初は苦言を呈してみたが、彼女の「……ダメ?」という涙目の懇願の前に崩れ去った。俺は無力だった。あの表情を前にしてもなお、拒否することが出来る人間と人生交代したいです。

 

 彼女のスキンシップの増加は小学校でも顕著となり、年頃の女の子という立場を理解せず、時間問わず俺にべったりなのだ。彼女の事情を知っている教師陣は止めもしねぇし、同じクラスのガキんちょ共は冷やかしてくるし、鬱陶しいったらありゃしねぇ。

 

 マジでホントにどうしてこうなった。

 顔面偏差値Fラン男の戯言だけで、彼女の態度や依存先はこうも変わってしまうものだろうか? ぶっちゃけ甘く見てた。原作において父親との描写がなかったので、男性との免疫なんざ皆無だと思ってた。そして俺はブサイク(直球)である。顔立ちの良い白馬の王子様ならまだしも、俺は温玉が似合いそうなチーズな牛丼が好きそうな男である。言っていることも戯言、言っている奴も戯言。好かれる要素など微塵もないはずだった。

 え、待って。彼女はもしかしてチョロインだった……?

 推定黒幕への恋慕も、彼女がチョロインが故の過ちだとでも言いたいのか? でも依存先を俺に設定している時点で、このアホみたいな理論にも信憑性が出てくるんだよなぁ。

 

 

「……まぁ、大将の言も一理ある。この状況下で、今さらアイドル様と他人の関係に戻れるなんざ思ってねぇよ。そこはもう、諦めた」

 

「ラーメンを食べに来た彼女の様子から見て、少年が無理にでも突き放そうものなら……自殺くらいは考えそうではあるな。黒幕からの死は逃れられる結果とはなるが、私もそのような結末は認めんぞ?」

 

「お前なんか勘違いしてないか? 俺はアイドル様の死の運命改編が不可能に近いって話をしただけで、死んでほしいなんざ微塵も思っとらんわ」

 

 

 例の事件からそんなに時間は立っていない。

 しかし、彼女との短時間の交流だけでも若干絆されている自分がいる。

 

 お世辞にも学力が高いわけではなく、人の名前が覚えられない。人の顔色を伺うような『嘘』が癖になっているせいで、友達も思うようにできない。家庭環境のせいで、一般常識の欠如も見られる。完璧で究極とは程遠い存在。

 そう──彼女はただ単純に愛情に餓えているだけの、普通の女の子なのだ。あれから俺の名前を間違えず言えるようになったし、俺の仲介の元、友達も徐々にだが増えつつはある。学力は……まぁ、手助けはしているとだけ言っておこう。暇さえあれば俺にすり寄って甘えてくるので、彼女の経歴を知っているだけに、ついつい甘やかしてしまう自分がいる。そして、俺の反応に彼女は笑顔を向けてくる。

 

 んで、添い寝は毎日行う。

 彼女の満足そうな、それこそ人生のピークだと言わんばかりの安心した表情を見て、俺の心はズタズタに引き裂かれる気分を毎日味わっている。俺は──この女の子を見殺しにするのか、と。

 絆される可能性は十分あったから、俺は彼女に必要最低限の接触しかしてこなかったのだ。原作の『星野 アイ』というキャラが、俺は好きだった。つか嫌いなら、たかだかアニメキャラの死でリアルに影響を及ぼさないし、虚無虚無プリンになったりしない。少しでも関わろうものなら、絶対に情が移るのは目に見えていた。

 

 そんで、結果はこのザマだ。

 最後まで責任を持てないくせに、こうして中途半端に関わろうとしやがる。そんな自分の馬鹿さ加減にイライラし、俺のちっぽけな脳みそじゃ救済ルートが思い浮かばず、自分の無力さにさらにイライラが加速する。

 

 

「だから、俺は決めた。彼女がアイドルとしてスカウトされるまで、考えられる期間は約3年。12歳でアイドル始めてた気がするから、中学入ってすぐ辺りかもな」

 

「彼女はそんな幼い年齢で、芸能界という魔境に飛び込むのかね。なんと勇敢な」

 

「すげぇよな、ホント。そんで、俺はその間──俺が考える限りの知識を振り絞って、アイドル様に最高の『思い出』を提供する。スカウトされた時点で、彼女の意志に関わらず、俺は今後彼女との接触は不可となるんだ。原作でアイドル様の回想とかに、小学校の記憶ってなかった気がするし、原作だとロクな思い出がなかったと思われる」

 

「母親に捨てられて間もない頃だ。そう簡単に割り切れるものではなかろう」

 

「そこら辺が原因なんやろなってのは俺でもわかる。なら、その小学生の期間で、彼女に楽しい楽しい思い出を作ってやろうじゃねぇか」

 

 

 アイドルになれば、俺はお払い箱になる。というか、おそらく彼女をスカウトするであろう斎藤社長からの接触禁止を言い渡されるのが目に見えている。アイドルに男なんざ御法度だしね。彼女のポテンシャルを考えると、金を積んでも離れさせたいだろう。

 俺も彼女のアイドル人生の汚点だけにはなりたくない。なんなら高校・大学は首都圏から遠く離れたところを志望しようかな。物理的に距離が遠くなれば、アイドルの多忙さも考慮して、そのうち俺の事なんざ忘れるだろう。

 

 

「つわけで、すまんが大将にも協力してもらうぞ。卒業式で泣けるくらい彩り溢れた学校生活をエンジョイさせてやらぁ」

 

「若者を支えるのが先達の務め。よかろう、その時は馳せ参じて見せよう。……しかし、星野君は本当にアイドルになるのだろうか? ならない可能性はないのかね?」

 

「………」

 

「……少年?」

 

 

 それは俺も考えた。

 それが一番じゃないかと、考えもした。彼女の意思次第だが、スカウトの有象無象は俺と大将が何とか凌いで、彼女に普通の人生を歩ませる道も考えはしたのだ。

 

 

「……大将には言ってなかったよな。将来、アイツが産むであろう双子の娘の方は、彼女のファンだった終末患者の生まれ変わりなんだよ」

 

「……は?」

 

「もしアイツがアイドルの道を選ばなかったとき、代わりのアイドルを推すのか、他の趣味を見つけるのかは俺にもわからねぇ。ただ、場合によっては……その終末患者は何にも希望を見出せず、大好きな先生に看取ってもらったことが唯一の思い出になりかねん」

 

 

 そのルートだとアイドル様は推定黒幕と子を成さないので、彼女から産まれる子が終末患者の生まれ変わりじゃない可能性も十分ある。あの転生システムが明言されてないからな。

 人生一度きりが世の常で在り、死んだら終わりが当たり前。でも、俺たちがこうして転生しており、原作でも彼女の転生が描写されている以上、終末患者さんにも第二の人生で笑顔で暮らしてほしいと願うのは間違いだろうか? 俺が推定黒幕に安易に手を出せないもう一つの理由でもある。もしかすると黒幕の遺伝子も転生条件に含まれている可能性がある以上、双子の転生を害する行動はとりたくない。アクルビは尊いんだよ。

 

 アイドル様を生かそうとすると、終末患者が報われず。

 終末患者の転生ルートを守ろうとすると、アイドル様がドームライブ前日に刺殺される。

 

 なんというジレンマ。クソッタレが。

 いっそのこと、アイドル様が推定黒幕さんと子を成した瞬間に、黒幕さんが「悟空うううううう!!!」とか叫びながら、宙に浮いて爆発四散してくんねぇかなって週に7回ぐらい思ってる。

 どうして『推しの子』世界線と『ドラゴンボール』世界線は繋がってないんだよ。おかしいだろうが。(無茶ぶり)

 

 

「アイドル様が推定黒幕と肉体関係を持って、転生双子が生まれないと、原作の流れ的にヒロイン候補の一人が曇るし、ヒロイン候補その2は飛び降り自殺する可能性もあるな。うっわ」

 

「……なんなのだ、この世界は。私は星野君に健やかに暮らしてほしいだけなのだが、どうしてトロッコ問題が発生する?」

 

「それだけ多方面に影響のあるアイドル様ってことなんだろ」

 

 

 原作主人公不在が一番ヤバいと思うし、かといってアイドル様が刺殺された時点で、原作主人公の復讐まっしぐらルートが確定し、それが幸せかって言えば苦行一択の悪手だし、黒幕無視すればヒロイン候補たちや双子妹が黒幕に狙われる可能性もあるし。

 いやホントマジで何なのこの親ガチャ失敗時点で救済不可のクソシナリオ。

 考えるだけで頭痛くなってくるわ。

 

 

「……まぁ、そゆことで。アイドル様も大将のラーメン気に入ったみたいだし、また彼女連れて店に来るわ。次の定休日に来てもOK?」

 

「構わんよ、最高の一杯を用意しよう。……ほれ、今回の給与だ」

 

「あざーっす。……ん? このゴマ団子何?」

 

「星野君へのデザートだ。私にはこれくらいしか出来ん。渡しておいてくれんかね?」

 

「了承した。必ず渡そう」

 

 

 飯も食い終わり、給与とアイドル様への手土産も手に入れた俺は、そそくさと店を後にしようとする。

 

 

「……少年」

 

「ん?」

 

「原作を知るからこそ、後の影響を危惧する気持ちは理解できる。しかし、私にとって原作とやらの範囲で関わりがあるのは星野君一人のみだ。私としては、彼女を助けたい。それに話を聞く限りだと、星野君は少年に対して特別な感情を抱いているのではないのかね? もし星野君がアイドルの道ではなく、少年と共に歩む道を選んだ場合──それでも少年は、突き放すのか?」

 

「え、大将。何言ってんの?」

 

 

 俺は思わず振り向いた。

 大将がとんでもない勘違いをしているようなので、俺はそれを修正しようと口を開く。

 

 それが不変の定理が如く。

 それが当然至極であるかの如く。

 

 

 

 

 

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 俺の前世を知っているくせに、勘違いも甚だしい。

 大将には困ったものだ。

 

 

「………」

 

「んじゃ、また来週」

 

 

 俺は今度こそ店を後にするのだった。

 

 

 

 

 

『……前世から続く自己肯定感の低さは、死んでも治らんとは。まぁ、あの家庭環境では、自然とそうなってしまうのも無理はない、か。まったく……星野君は、厄介なひねくれ者に依存してしまったらしいな。はたしてどうなることやら』

 

 

 

 

 

 大将の呟きは俺の耳に入ることはなかった。

 

 

 

 




【主人公】
 原作知識持ちの転生者。自己肯定感の低さは筋金入り。おかげでチー牛チートにも一切気づかないし、指摘されても笑い飛ばす。コイツの過去は後に明かされるかも。

【大将】
 原作を履修してない転生者。原作よりもアイ救済優先で動く。

【星野 アイ】
 未来の人気アイドル様。後にファンから『初手牽制型アイドル』『彼氏持ちをデビュー時に明かす無敵の(アイドル)』『彼氏にもファンができる系アイドル』『女装した彼氏君ちゃんとユニット組んで欲しい』と言われるフィジカルモンスター。



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