流星群に願いを 作:キチガイの人
余談ですが、この作品のコンセプトは「アイの犠牲の代わりに、主人公と斎藤社長の胃が亡くなる物語」です。
友情・努力・勝利。
クッソベッタベタな三原則だが、幼き頃の成功体験というものは、後の将来に少なくない影響を及ぼすだろう。未来のアイドル様に、その成功体験とやらを味わわせてあげたい。皆が一丸となって取り組み、目標に向かって何かを成し遂げさせてあげたい。
しかし、そうなるとアイドル様単体でどうにかするには難しく、こちらが何かしらの手を差し伸べなければ、件の三原則の達成は非常に難しいと思われる。
んじゃまぁ、どうするかって話ですよ。
ただの一般人だった俺にできる方法は限られる。
「さて、諸君らには我々の有利性は十全に理解してもらっただろう。──さぁ、我らが白組の勝利は揺るがぬぞ! バトンを掲げよ! 鉢巻を締めよ! 歴戦の
「「「「「うぉぉぉぉおおおおおお!!」」」」」
「白組の興廃、
「「「「「うぉぉぉぉおおおおおお!!」」」」」
とりあえずクラスのガキんちょ共煽って、協力体制を無理やり作るしかないやろ。
壇上で演説をして士気を高める俺。空気に当てられたのか、雄たけびを上げるクラスの面々。その中で、状況はよく分かってないが、なんか周りが叫んでいるので同調して声を上げるアイドル様。引きつった表情の担任と副担。
たかだか運動会のクラス対抗リレーを煽っただけとは思えない結果に、俺は満足そうに頷く。
事の発端は俺の計画の一つ。冒頭通り『天下のアイドル様にみんなで一致団結したことによる成功体験』を味わわせることに起因する。
この完璧で究極なアイドル様は、原作において同グループ所属の仲間からも『完璧』を求められるくらいには崇拝されていた。んで、原作で彼女が死亡した際に、早々にグループが解散している。これが意味することは、『B小町』というアイドルグループは『アイ』によって全てが成り立っていたということだ。彼女のポテンシャルの高さを表す描写だったんだろうし、彼女を前面に押し出すことによって、ドームライブの一歩手前までこぎ着けたのかもしれない。本当ならば。
裏を返せば全員が全員、アイドル様に全てを背負わせているのだ。ただ愛に餓えていただけの普通の女の子一人に、世の不条理を押し付けていたと言っても過言ではない。俺も彼女の重苦しい運命を見て見ぬふりをしているので、公言して批判するつもりは全くないが。
じゃあ、斎藤社長や他メンバーが全面的に悪いのか?と言われると、俺はそうではないと思う。無論、過度な期待を押し付けるのはいかがなものかと思わなくもないけど、アイドル様はもっと他に頼ることをするべきだったのではないかと俺の貧弱な脳みそは推測する。
あそこで彼女が刺殺されずとも、どこかでか綻びは出ていたのではないだろうか? 全てを救うヒーローは格好いいと思うが、それでも一人で救うには限界がある。
俺なら他人に頼る。人を全面的に信じる俺ではないが、頼るべきところは他人に任せる。それを、この幼少期のアイドル様に身をもって体験していただくのだ。一人で何かを成すのにも限度があるし、もっと他人を頼ってもいいんだよ、と。
そこで、俺は差し迫った運動会のクラス対抗リレーを使うことにした。なんかよく分からん役職である『体育委員』とやらに就任している俺なので、その役職を利用して、担任の先生に許可をもらって壇上に上がらせてもらったのだ。
あんまりこういう表立ってリーダーシップを発揮するのは不得手なのだが、相手は小学生。適当にペラを回して、その気にさせてしまおう。
『クラス対抗リレーの件ですが、このままだと我がクラスは普通に負けます。確実に負けます。悲しいけど負けます。そんで皆様に問います。──恥ずかしくないんか、お前らは』
『『『『『──!?』』』』』
いつもは目立たないチーズ牛丼に唐突に罵倒され、怒りよりも先に混乱するクラスの面々。そして許可を出したはずの教員の方々も目が点になる。
相手を振り向かせたいときは、とりあえず言葉でぶん殴りましょう。何ならインパクトのある言葉で、相手の思考を粉砕するのも一つの手です。
『あーあ、もったいねぇ。もったいねぇ。せっかく勝てるリレーなのによぉ、ハナっから諦めるのは勿体ないと思わん?』
『な、何だよ! どうせ勝てるわけないだろ!』
『ほぅ? それまたどうして?』
『隣のクラスには○○君がいるし、その隣のクラスには××君がいる! どうせ勝てやしない!』
噛みついて来たクラスメイトの男子に、クラス内の数名は頷く。
ウチのクラスにはそういった短距離走の切り札的体育会系の人間がいないので、心のどこかで『どうせ勝てない』と諦めているのだろう。
まぁ、この噛みついてきた子、
ビー玉一袋で買収された少年は、某子供部屋おじさん監督もニッコリの演技力を発揮する。
もしかして原作に出てきてないだけで、そういう才能を持った人間なのかコイツ。まぁ、原作2巻以降の芸能界って、アクルビ世代が天才秀才の魔境以外の何物でもなかったので、この世界そのものが才能ある役者が生まれやすいのかもしれない。
え、前世の俺の世界? あれは藤〇八冠が主人公の世界線だから。アイドル様が芸能界の一番星なら、あの人は将棋界の一番星だから。
『ふーん、つまり……勝てる根拠を提示すれば、諸君らはやる気を出すのかね?』
『な、なにっ……?』
『田中、例の物を』
指を鳴らすと、スッと俺の背後に現れたクラスメイトが、黒板に自作のシートを広げていく。本当ならプロジェクターとか使いたいんだが、この年代にそこまでの設備が小学校に備わっていない。各電化製品メーカーの皆様方、早期開発をお待ちしております。
シートに記載されていたのは──全クラスの短距離走のタイムだった。
この時代の個人情報ガバガバ感はヤバいな、前世なら炎上案件やぞ。
『基本的にクラスの配属は、ランダムでもなければ担当教諭の好みでもない(はず)。問題児から優等生、学力や運動神経の優劣、それらを吟味し、均等になるように割り振られる。難しい言葉を並べたように聞こえるが、このシートを見れば分かってもらえるだろう』
『こ、これはっ……学年全員の短距離走のタイム!?』
『そう、そして合計タイムから考えると、クラス間にそこまでの差が存在しないことが分かる。学年開始時の差なので、他運動部系の面々がどれほど差を広げているのか知らんが、情報収集した田中が言うに、そこまでタイムが変化していることはないと言うことだ』
ホントにサクラの演技力すげぇな。ちょっくら劇団『ララライ』に所属して、命の重み感じてみない? 場合によっては、推定黒幕さんの方が食われそうな気がするけど、それはそれで良し。
『で、でも! いくらタイムに差がないからって、それでも私たちが勝てるわけじゃないでしょ!?』
『まぁ、このままじゃ勝てんわな。が、だからと言って、短期間でタイムを短くすることは難しいけれども、リレーなんて一人が早けりゃ勝てるもんでもない。勝機は十分にある』
噛みついて来たのはクラスメイトの女子、鈴木さん。
はい、
『この前の練習リレーを見て思ったが、他クラスの連中はバトンの渡し方が甘すぎる。この渡し方を矯正するだけで、全体的なタイムはかなり縮まるぞ。俺らが練習すれば、の話だが』
そこで俺はクラスメイト全員、一人一人に目を合わせていく。
小学生のガキんちょ共相手だからできるが、これが中高生相手なら煽れる気がしない。素直で良い子が多い。このクラスに洒落臭ぇ問題児が居ないのも幸いしただろう。そもそもの話、このクラスに問題児いないんよなぁ。
……え、俺が問題児扱いされてる?
『俺たちのクラスには隣クラスのように陸上経験者がいない。この前の練習を見て、俺たちのクラスは他クラスから見れば、敵ではない……眼中にないってことだ。ぶっちゃけビリだったしな』
『じゃあ練習しても無駄じゃない?』
『無駄なわけあるか。しかも、だ。他のクラスは大変だろうなって同情するよ。だって、俺たちのクラスには足早い奴がいないんだぜ? つまり勝って当然なんだ。いやー、プレッシャー凄いだろうなぁ。負けたら言い訳のしようがない。その点、俺たちは前回ビリの立場から、負けたところで失うものが何もない。のびのびとベストコンディションで、チャレンジャーとして挑めるわけだ』
小学生からバトンの渡し方や走り方の矯正などの指導は基本的に行わない。陸上以外でそうする必要もないからなぁ。それを、この段階で提案している俺の方が異常なのである。
勝つと言った以上、良識の範囲内でできることはするつもりだ。
すまんな、他クラスの面々。俺の独善的な大義の犠牲になってくれ。
そんなことを思いながら、俺は最後にクラスの面々に問う。
『一つ、想像してみよう。練習でビリだった俺たちが、運動会当日にすっげぇ鮮やかな走りとバトンパスをして、足早い奴に頼りっきりの他クラスに大差つけてゴールする──どうだ、痛快だろ? 最後に問おう、練習すれば勝てるこの
現実的に考えれば、これに賛同する人間は少ないだろう。チー牛が煽って皆が動くなら苦労しないし、やっぱり面倒だと思う人間は存在する。ましてや、たかだかリレーだ。勝ったところで白組の勝利には微々たる貢献だし、なんなら負けても惜しくはない。
そう、本当ならば。
『ほ、本当に勝てるんだな!?』
『少なくともビリにはならんだろうよ。まぁ、見てなって。今年のクラス対抗リレー、俺が面白くしてやるからよ』
『な、なら俺は練習に参加するぞ!』
『私も参加します!』
『じゃ、じゃあ俺も!』
俺も、私も、と徐々に参加者が増え、最終的にはクラス全員が参加することになった。その結果、冒頭の俺の演説に狂喜乱舞するクラスメイトの図である。
余談だが、クラスメイトの半数には、事前に話は通してあった。
じゃなければクラス全員が俺の提案を受け入れるはずがないだろう。案を通すなら、事前にキーパーソンとなる人物には話を通し、満を持して全体に公開する。これをするかしないかで、事業の成功率は大幅に変わる。社会の常識である。
今回はその賢しい大人の常識で、ちょちょいとクラスを振り回しただけである。
そんなことを知ってか知らずか、担任と副担が俺を見る目がチベットスナギツネなのは納得いかなかった。
♦♦♦
「──で、勝ったと」
「そりゃ余裕よ。いやー、他のクラス連中の啞然としたツラは最高だったわ」
時間は大幅に飛んで、運動会の昼食休憩時間。
クラス対抗リレーに対策を一切していない連中と、放課後に残ってまで練習を重ねた我らがクラスが勝負になるはずもなく、会場の歓声を浴びながら快勝に終わったのだった。
この練習を通して、天下のアイドル様にも仲の良い女友達も幾人かできたようで、俺の当初の目的も無事に果たされることになった。彼女がアイドルとして大成した後も続く関係になるかどうか知らんけど、こういった小さな繋がりが、いつか彼女を助けてくれることになると信じよう。
運動会の昼食時間というのは、一般家庭なら見に来た家族と弁当囲んで食うのが定石だが、俺とアイドル様は共に孤児なので、本当なら2人寂しく個々の弁当を食べるはずだった。だが、それに待ったをかけたのが我らが大将。
俺はともかく、年頃の女の子が、運動会で複数人で弁当を食べる楽しさを味わうことが出来ないのは何事か!と大将は憤り、こうしてビニールシートを敷いて場所確保まで行い、重箱を持参して駆けつけてくれたのだ。重箱には握飯をはじめ、運動会定番の唐揚げやウィンナーなどの豪勢な料理が、可能な限り敷き詰められている。全てが大将の特製である。
初めての他人から作ってもらった重箱タイプのお弁当に、アイドル様はご満悦のようで、ニッコニコしながら鮭の握飯を頬張っている。可愛い。
俺もコンビニ弁当で済ます予定だったので、感謝の言葉を込めながら飯をつつくのだった。美味いわコレ。
「大将もコレ作るの大変だったろ? ホントありがとな」
「確かに今までは運動会用の弁当を作ることなどはなかったが……なに、今日はラーメン屋も定休日であったからな。いつもの業務に比べれば、弁当の用意なんぞ苦でもない」
「大将さん、ありがとうございます」
「喜んでくれて幸いだ。こちらも作った甲斐がある。……リレーでの星野君の勇姿、拝見させてもらった。よく頑張った、偉いぞ」
大将は微笑みながらアイドル様の頭を撫で、彼女はそれを嬉しそうに受け入れる。こうやって、他人から褒めて貰ったこと自体が初めてだったのだろう。目元に若干の涙が見える。マイナス的要素で流れたものではないだろう。
こうして、俺と彼女が出会ってから初めての運動会は、俺たちの所属する白組の勝利で幕を閉じ、アイドル様の成長に大きく貢献するのだった。
……この行為が、将来的に俺自身の首を絞めるとも知らずに。
【主人公】
原作知識持ちの転生者。前世の死因は刺殺。小学校時代に教師陣から『稀代の詐欺師』と言われる。
【大将】
原作を履修してない転生者。前世の死因は牡蠣にあたって死亡。今世でのアイのオトンムーヴが凄まじい。
【星野 アイ】
未来の人気アイドル様。今回の件で主人公から『扇動』スキルを得る。