流星群に願いを 作:キチガイの人
プランBに移行してから1年の月日が経過し、俺とアイドル様はピッカピカの小学5年生になった。身体的成長の差の関係で、小柄だったアイドル様の身長が俺に近づきつつある恐怖に怯える以外に、この1年で特に問題はなかった。
原作にないイレギュラーが発生するかと考えもしたが、そういったこともなく、小学校と養護施設、時々ラーメン屋を転々としながら生活してきた。
母親に捨てられるショッキングなイベントから時間が経過した関係なのか、アイドル様にも笑顔が戻りつつある。小学校の友達とも友好的に談笑する機会も増え、その可愛らしい外見から同学年の男子にも人気があった。その笑顔が素で出ているのか、それとも嘘で塗り固められた虚構なのか、俺にはもう知る由もない。原作の時系列で、彼女は『嘘』でしか相手に接することが出来ないって話だった気がするし、おそらくは後者なのだと推測する。今後、俺は彼女の『本当の顔』を知ることはないのだろう。
ところで、彼女との添い寝っていつ終わるんでしょうか? 前までは週一で聞いてたんだけど、この話題を出す度に「い、嫌だった? き、君が嫌なら……うぅ……」と泣き始めるので、途中から話題に上がることすらなくなった。まぁ、斎藤社長がスカウトに来るまでの話だし、彼女の好きにさせよう。
……なんか彼女の依存度が上がった気がするんすけど、これ本当に彼女と円満に別れられるんすかね? なんか心配になってきたんだけど。
閑話休題。
5年生である俺たちは、文化祭では『演劇』をすることになった。なんかよく分からん役職である『文化委員』とやらに就任している俺なので、演目や配役等は俺主導で決めることになった。
こうして高学年になると、俺みたいなチー牛の言うことを聞くような人間はいない。というか、悲しいことに小学校の頃からカースト制度は存在し、もちろんのこと俺みたいなブサイク(直喩)は最底辺と言っても過言ではない。前のリレーが異常だったんや。
そして、今回の俺は文化祭における意気込みは皆無である。しいて言うなら、アイドル様に経験を積んで欲しいな程度の思惑はあるが、これが彼女の為になるのか分らん。既に彼女の『嘘』すら見抜けない俺には、もう彼女にしてやれることなんて数えるほどしかないだろう。添い寝とかハグとか頭撫でるとか抱き枕代わりとか。妙だな……?
「──はーい、席ついて。文化祭の演劇の件を決めっぞー」
「「「「「………(スッ)」」」」」
「………」
それはそれとして、5学年のクラスメイト諸君は優秀で素直で良い子ばかりだな。チー牛の戯言に、文句ひとつ出ることなく全員が黙って席に着く。
やっぱり俺がクラスの問題児枠扱い説が真実味を帯びてきたな。俺何も悪いことしとらんのに。
確かに『白組を勝たせると豪語し、実際に勝利に導いた3年のヤベー奴』みたいな噂が流され、校内では『××小の
「とりあえず前回のアンケートで『ごんぎつね』『ちいちゃんのかげおくり』『美女と野獣』『テニヌの王子様』で集計を取ったところ、僅差で『美女と野獣』に決定しました。台本に関しては有志製作の下、既に完成しておりますので、今回は配役を決めたいと思います。んじゃ、まずは美女のベル役から。やりたい奴……又は推薦どぞ」
板書は田中に任せ、俺はさっくりと配役を決めていく。
物語のヒロイン役をやりたいって女の子や、でも主役級かぁって尻込みする女の子もいる。しかしながら、誠に残念なことに、このクラスにはリアル美少女が在籍しているのだ。
「はーい、私は星野ちゃんを推薦しまーす」
「あ、私もアイちゃんがいいと思います!」
「ピッタリなんじゃない?」
案の定というか、予定調和と言うべきか。
完璧で究極なアイドル様候補の少女の名が挙がる。
「そんじゃ星野がベル役でおけ?」
「えっ、ちょっと! 私には無理だよー」
それ以外が美女役やろうもんなら、お前がその役を食っちまうやろ……とは口には出さないが、アイドル様の謙遜に俺は小さくため息をつく。まだアイドルも役者もしたことのない、自信が身についてない頃の彼女だ。彼女の謙遜も本音何だと思われる。
焦りながら首を横に振る彼女をどう説得するのか。それとも別の推薦や候補者が現れるのか。
ボケーっと様子を観察していると、クラスメイトの女の子が説得を試みる。
「アイちゃんやらないの?」
「私は今回は裏方の方がいいかなぁ。だって主役みたいなやつじゃん。私にはちょっと難しいかなーって」
「──野獣兼王子様役が今和泉君だとしても?」
「え?」
「ゑ?」
思わず俺も声が出た。
裏方で小道具製作に励む気満々だったので、役をやるつもりは微塵もなかった。大前提として、今回の演目は『美女と野獣』であり、『美女とチー牛』じゃないのである。野獣の魔法が解けても、チー牛は温玉付きにもならないのである。
シナリオ名を冠する役は俺には荷が重い。
「そ、それならやってみようかな──」
「俺は演劇出れんぞ。文化委員な俺は文化祭審査員に割り振られているから、演目等に関しては極力だが役として参加しないように言われてるし。……でも、今さ、星野は『やる』って言ったよな?」
何となく、そう、何となくだが変な役を押し付けられる気がしたので、審査担当は立候補形式だったが、事前にそちら側に加入していたのだ。面倒な役を面白半分で押し付けられても、身内ノリみたいで見ている観客がしらけるのは目に見えるので、こうして予防線を張っとくのが吉である。とか思っての行動だったが、まさか主役級を押し付けられるのは予想外だったが。保険って重要だね。
残念ながら、このアイドル様はそこまで考えていなかったようで、クラスメイトの女子勢の後押しもあることだし、今後の練習がてら頑張って頂こう。
「で、対の野獣兼王子様役をやりたい野郎どもはおるか?」
「「「はいっ!」」」
田中にアイドル様の名を書くよう指示しつつ、俺は対の野獣役を決める。アイドル様はガワは超一級品で校内でも人気は高く、こうして相手役になれるのならと男子の数名が名乗りを上げる。彼らにとってはお近づきになれるチャンスなので、逃してなるものかと意気込んでいる様子。
アイドル様は「ちょ、ちょっと!?」と声を発そうとするが無視一択。一応は『やる』と言質は頂いたので、諦めて頑張って。つか、俺が野獣役になることの可否が、アイドル様がベル役を引き受けるか否かの選択肢に影響を及ぼす理由が分からん。
……以降、我らがクラスは『美女と野獣』の演目を成功させるために、一丸となって練習に励むことになる。裏方勢は自宅でも小道具製作に従事し、壇上に上がる者たちも遅くまで学校に残って練習していたのは記憶に新しい。リアルでは珍しく、皆が協力して楽しめていたのではないだろうか。実際に文化祭では『最優秀クラス賞』を獲得することになる。
だがしかし、文化祭が終わるまでの間、なんか知らんけど女子勢から俺を見る目が非常に冷たかったのは解せなかった。いや、チー牛の扱いなんてそんなもんか。存在するだけで犯罪って俺の知人も半泣きで言ってた気がする。見事に野獣役に選ばれた男子も、途中俺に「星野さんの相手が非常に辛い。代わってほしい」と言ってきたので、俺は笑いながら「知らんがな」と答えておいた。そのまま頑張って演技磨いて劇団『ララライ』を目指してもろて。
余談だが、文化祭が終わるまでの間、アイドル様の機嫌がヤバいくらいに悪かった。
どうしてだろう?
♦♦♦
「──少年、星野君。文化祭での演劇、素晴らしかったぞ。特に星野君のベル役は、素人目の私でも感動した。クラスの雰囲気も悪くはなかったし、個人的には人生で見た中で最高と言っても過言ではないだろう。……が」
「いい加減、機嫌直せよー。審査満場一致で、良かった言うてたやん」
「むーっ」
保護者枠で文化祭を見に来ていた大将からの賛辞だったが、肝心の主役であったアイドル様にはあまり響かなかったようで、可愛らしく頬を膨らませながら俺の腕に抱き着いている。というか、役が決まってから今までずっとこんな感じで、俺は変わらぬ様子に肩をすくめるのだった。
せっかく大将が見に来てくれたのに、彼の感想でも満足しないようだ。ちなみに大将はラーメン屋が定休日らしい。奇遇だね。ところで、俺とアイドル様の学校行事で、外部から見に来れるタイプの行事には、なぜか都合よくラーメン屋が定休日らしく、大将は欠かさず足を運んで来てくれる。奇遇だね。
そんな俺たちの様子を見て、大将はやれやれと首を横に振る。
俺も同じ気分だった。
「少年は何かしらの役で参加しなかったのかね?」
「俺は表に立つのは面倒。そんなのは顔面偏差値が高い奴がやればいいんだよ。そのために事前に審査側に参加してたわけだし」
「……シオンはずるいっ」
「ハッ、やりたくないなら事前に予防線を張るのは当然ってな。そして、ちょうど文化祭審査員の仕事もあった。
「むーっ!」
「痛い痛い痛い、そんな怒ることないだろ?」
たかが俺がスポットの当たる舞台に立たなかっただけじゃん。そうならないよう動いたのは俺だが、ここまでアイドル様が不機嫌になる理由が理解できん。
クラスメイトも担任と副担も、そして観客も審査員も褒めていた。これ以上、何が不満なのだろう。
気になって聞いてみたところ、
「……私は君と演劇やりたかった。シオンが野獣役をしてほしかった」
「はい?」
なんとも、しょーもない理由だった。
アイドル様と今回の野獣兼王子様役の男子に関しても、カップリングが良かったと噂があったくらいだ。やっぱ美男美女の組み合わせは至高だと思うし、特に『美女と野獣』という題目だと、それは顕著に表れるだろう。
俺なんかが野獣役をしたところで誰も得しないし面白くもない。ましてや、ベル役を際立たせる舞台装置にすらならん。『最優秀クラス賞』を逃した可能性すらある。
と、アイドル様に理を説いてみたが、彼女は納得しなかった。
そこで大将が的外れな言葉を耳打ちしてくる。
「少年、星野君は純粋に、君と演劇をしたかったのだろう。外見云々は関係ない。自身の見た目を貶すのは結構だが……そうだな、星野君は外見など気にしていない。少年の内面を見て、それでも共に演じたいと言っている、と言えば理解できるかね? そろそろ彼女の好意に気づくべきだと思うが」
「詭弁だな。その言葉を真に受ける馬鹿がどこにいる? 現実見ろや大将。古今東西、内面が重要って言葉には、枕詞に『相応の外見を持っているものとする』がつくんだよ。ましてや外見内面が壊滅的な俺は論外ってことだ。早くそれを星野にも気づいてほしいんだけどねぇ……」
雛が初めて見た奴を親と認識する習性がある。同じように、アイドル様という母親に捨てられた雛は、都合よく迎えに来ただけの俺を『親』と認識しているだけであり、時間が経てば目を覚ますだろう。問題があるとすれば、そのタイミングが一向に来ない点である。はよ。
というか、大将の好意論には辟易としてしまう。
俺が
でなければ、俺は──
「ねぇ、聞いてる?」
「んぁ?」
「もし次に演劇やるとしたら、君と一緒がいいって言ったのっ。もし君が裏方やるんだったら、私も裏方になるからねっ」
「おいおい、それじゃあ一生裏方だぞ?」
「それでもっ」
現実に引き戻された俺は、アイドル様のワガママにため息をつく。こうなると頑として意見を変えないからな、この欲張りさんは。
最終的に俺はそれで折れることになるが、最後の年は演劇とかやるんだろうか? やるとしても裏方になるとか、非常に勿体ない気もする。アイドルにスカウトされりゃ、今後彼女とも会うこともなくなるだろうしなぁ。
それなら、今日の彼女の晴れ姿、もっと網膜に焼き付けとけばよかったわ。
絶対だからね!という彼女の言葉に、俺は適当に返すのだった。
……この行為が、
【主人公】
原作知識持ちの転生者。前世で『お前なんか生まれてこなければよかった』『消えてほしい』『生きてるだけで迷惑』と言われ続けたため、自己肯定感皆無。
【大将】
原作を履修してない転生者。↑の鈍感男の鈍感のせいで孤軍奮闘中。アイが推定黒幕という名の助っ人と出会うまでの辛抱。
【星野 アイ】
未来の人気アイドル様。『使える手は何でも使わなきゃ、逆に相手に失礼だろう』という有難いお言葉を頂く。そうだね☆