流星群に願いを 作:キチガイの人
クリスマスは今年もやって来る。というわけで、俺とアイドル様は出会って3回目のクリスマスを迎えることになった。事実上の、彼女と過ごす最後のクリスマスとも言えよう。
アイドル様は近くのスーパーに買い出しに行っており、俺はクリスマス会場である『西国無双』で、黙々とクリスマスツリーの飾りつけをしていた、まぁ、盛大にやるわけでもなく、いつもの3人での細々とした祭りみたいなもんだけどな。
大将は豪勢な昼食を用意している。本当なら夜にパーティーをやるものだが、俺もアイドル様も養護施設暮らしなので、門限的に夜は動くことが出来ない。
「──少年、星野君から君の件で苦情が入っている」
「なんか苦情入るようなことしたっけ?」
大将の言葉に、俺は赤いボールをツリーに飾る。
この赤いの何なんだろ。ずっと疑問に思ってんだよなぁ。
「自身を安易に貶めるような言動だ。星野君曰く、自分のことを大切にしてほしいと、あんまり自分のことを悪く言わないで欲しいと嘆いていた。最近は自虐の傾向が多い、とな」
「おっかしいなぁ。俺、大将に愚痴るときしかチー牛だの人間不信のクソ野郎だの言ってないんだけど」
「それが聞かれていたのではないかね?」
「んな盗み聞きまで気をつけろと言われても困るわ」
アイドル様も俺の自虐に文句を言うとは、相当な暇人らしい。まぁ、来年からは忙しくなるだろうから、今はこんぐらいのスローペースがいいのかもしれんが。
俺は銀色のよう分らん紐をツリーに巻きながら笑う。
「別にいいじゃん、本当の事なんだし。顔面偏差値Fラン、小心者で利己的なクソ野郎。自分を自虐することでかまってちゃんムーヴを醸し出す面倒な男。自覚しても改めようとしない人間の底辺。聞き飽きた自虐が鬱陶しいし、そのスタンスが苛立つし、正直好かれる要素が見当たらない」
「だから、それを止めろと──」
「大将」
ツリーの天辺に星を飾る。
おぉ、百均の飾りと、その辺の松の木だけで、それなりの見た目になるじゃん。これにはアイドル様もニッコリするだろう。
「俺さ、正直言って限界なんよ。自虐してねぇと頭おかしくなってくるんよ。止められねぇ段階まで来てるんよ」
「……何を言っている?」
「ホントに最近は楽しくて楽しくて仕方ないんだ。俺も星野に絆されてんのかねぇ。ずっと、こんな日常が続けば──なんて思わなくもない。だからこそ、忘れちまいそうなんだよ。『■■ ■■は人間として最悪である』『嫌悪されて当然の人間である』『死して当然のクズ野郎である』って、自分の本質ってやつをさ」
「私はそうは思わん。それは君を慕っている星野君への冒涜だ」
「じゃあ、大将。教えてくれよ」
まだツリーの飾りが残ってるな。いっそのこと全部飾ってみるか? この小さな松の木に全部乗っかるとは思わんが、アイドル様との最後のクリスマスだし、いっそ派手派手なツリーで〆てみるのも悪くはないだろう。
飾りを手に取りながら、まるで晩飯の献立を聞くように大将に問う。
「俺は最低最悪の人間なんだよ。そうじゃなきゃ説明つかないんだよ。じゃなきゃ──どうして俺の死はみんなから喜ばれてるんだ? おかしいだろうが」
俺は際限なしにツリーをデコレーションする。
クリスマスツリーを構成する色って、一般的には緑と赤イメージだが、松要素の緑が消えるくらいには飾り立てようかな。
「な、何を……」
「凄いよなぁ、ネットじゃ結構盛り上がってたらしいぜ。寄生虫が死んで清々したとか、諸悪の根源が滅びたとか、無能な味方が一番害悪とか……ヤバくない? これ死んだ人間へのコメントじゃねぇだろ。俺は死刑囚か何かか?」
「死した? ネット? 少年、自身の死後の話など君は知らないはずだ。どこでそれを知った?」
「大将以外の転生者から聞いた。ピンポイントで腐れ縁が転生者やってるとは思わんかったけどね。そいつから聞いたわ。まぁ、前世の俺って個人情報があってないようなもんだったし、ネットのフリー素材的扱いだったし。怖いよねぇ、一生ネットの晒し者ってか」
やっべ、飾り過ぎたか?
ツリーの面影がなくなって来たぞ。
「普通に考えて、ここまで貶されたらさ、俺に問題があるはずだろ。もう自分に言い聞かすしかないだろ。自分は外見内面共に問題があり、死して当然の害虫だったと。そうじゃないと、自分が何で死んだのか分からなくなる」
「……■■」
「ゴローセンセって凄いよ。聖人君子だよ。あ、ゴローセンセって星野が将来産む双子の兄の転生前ね。少なくとも星野が殺される前まで、自身を殺した男への憎悪的描写がなかったような気がするし。同じような死に方したから、余計にスゲェって思っちまう」
もうクリスマスツリーってか、不格好なミラーボールのオブジェみたいになったんだけど。アイドル様がこれをクリスマスツリーと認識してもらえるのか不安になってきた。
これを「これはこれで面白いねっ」って言うのが、我らが天下のアイドル様なんだけどね。
「ここは俺たちの前世とは違う世界線だ。俺をご丁寧に殺しやがった妹のストーカー野郎に復讐することも叶わず、最初から最後まで迷惑をかけちまった親父やおふくろに謝ることもできん。妹は……どうだろ? アイツは俺の事を嫌ってたからなぁ。まぁ、いっか。そうなるとさ、もう自分に落ち度があって死んだって自身を無理矢理納得させるしかないんだよ」
「………」
「そうじゃねぇと、狂っちまう。いや、もう狂ってんのかな? ただ単純に、理不尽に殺されたかもしれないって可能性に、それが万民に歓迎されている状況に、俺は耐えられるほど心が強くない。ヤバい、言ってて情けなくなってきたわ」
とりあえず靴下でもぶら下げておくか。
ツリーだった何かも、緑と赤の靴下によってクリスマスっぽくなる。色彩効果ってスゲー。
「……うん、やっぱダメだな。芸能界なんて俺が過去に受けたアレコレが子供騙しに思えるレベルの魔窟なんだろ? こんな過去のトラウマなんかに引っ張られているような奴は、完璧で究極なアイドル様の隣は相応しくない」
「……少年、もういい」
「ハハッ、何が『星野を助ける気なんて毛頭ない』だ。そもそも、救うだけの気概がないっての。自惚れんなってハナシ。……よくよく考えてみたら、俺がいるべき場所って星野の傍じゃなくて、精神科だよな? まぁ、前世で精神科行ったら『メンタル弱すぎ、心強く持って』をオブラートに包んで長々と説教されたけど」
「少年!」
大将の叫びに俺は手を止める。
俺はいったいどんな顔をしているのだろう? 大将に背を向けている状態なので、どんなツラで言葉を吐いているのか自身含め誰も知らない。……何となくだが、アイドル様の帰還までに表情を戻さないとって使命感はある。
「……すでに起こったことは変えることが出来ない。それはもう、仕方のないことだ。少年の気持ちも同情できなくはない。しかし、現実から目を背けてどうなる?」
「……何が言いたいんだよ」
『私の将来の夢は──シオ、今和泉君とずーっと、一緒に暮らすことですっ』
「少年の思惑そっちのけで、星野君は君と添い遂げる気満々だぞ? スカウトの有無にかかわらず、私は彼女が君と袂を別つ未来が想像できないんだが……」
「だだだだだだだいじょだだだだだだじょだだだじょじょじょ大丈夫大丈夫まだだだだだだだだまままだイケるイケけけけけ」
「バグっている場合ではないぞ?」
まさか小学6年生定番の『将来の夢』の作文で、アイドル様がサプライズ仕込んでくるとは思わなかったじゃん? お陰様で心臓がマジで止まったんだからな。危うく成仏するところだった。
あの担任すら悩ませた世紀の問題作を披露し、やりきったぜ!と言わんばかりに超ドヤ顔をキメるアイドル様を見て、俺はもう斎藤社長に全てを託すお祈りモードに移行しているんだよ。こっから斎藤社長の神の如き手腕によって、アイドル様と俺を何とか引き剝がし、彼女をトップアイドルとしてプロデュースするんだよ。見てろって。
俺らの斎藤社長を信じろ。
「で、でぇじょうぶだ。ドラゴンボールがある」
「星野君が力ずくでブン獲って『シオンとずっと一緒に居られますように』と、
「なんて恐ろしいことを」
俺も簡単に想像できたのが悲しい。
……これ本当にもしかして詰んで──いや、そんなことはないはずだ。まだ双子生誕ルートまでは順調に進むはずなんだ。チェーンロックの大切さは口酸っぱく説明したから、リョースケ襲来イベントは回避できる可能性だってあるんだ……!
自身の表情を正常に戻しながら、大将と将来のことについてアレコレ言い合っていると、アイドル様がビニール袋片手にラーメン屋へご帰還される。そのころには、いつものような表情で彼女を迎えられていたはず。
昼間の3名による寂しくも賑やかなクリスマス会は静かにスタートし、3名の笑い声と共に終えることになる。和洋中の料理に精通している大将の力作に舌鼓を打ち、ところで年末はどないする?と少し先の話も話題に上がる。
この3人はサンタクロースは絶滅した派の集まりなので、枕元に靴下を置く風習はなく、サプライズも何も考えずクリスマスプレゼントを互いに送り合う。世渡り上手なアイドル様は俺と共に大将のプレゼントを考え、並行して大将と二人で俺へのプレゼントも考えていたようだ。なんという策士。
大将は牡蠣柄のハンカチと財布、俺はヒゲメガネと腕時計を貰った。前世持ちは互いに変なものを送り合う風習でもあるのだろうか? そんでアイドル様は大将から鮮やかな深紅の万年筆を貰ってた。年ごろの女の子への贈り物が思い浮かばなかったと彼は申し訳なさそうに謝罪し、アイドル様は綺麗な色だねっと喜んでいらっしゃった。
んで、肝心の俺からアイドル様へのプレゼント。
最後の贈り物になるだろうということで──
「──わぁっ! えっ、これ君が選んでくれたの!?」
「まぁ、な」
無難にピンクのウサギのぬいぐるみを贈呈した。原作における彼女のキービジュアルにおいて、アイドル衣装とセットでウサギの髪飾りが描かれていることが多かった。彼女がウサギ大好きなのか、イメージ戦略の一環か知らんけど、嫌いではないだろうという憶測の元に購入した。
ウサギ要素を抜きにしても可愛い造形なので、喜んではくれるんじゃなかろうかと選んだのだ。
最初は本当にこれでいいんかな?と思ったが、ウサギを愛しそうに抱きしめている様子を見た限りだと、本心は知らんが喜んでいるように見えるので良しとしよう。
「ありがとう、シオン。大事にするね」
「喜んでくれて何より」
「大事にするよ、一生」
「重い重い重い」
花のように微笑む彼女を見ながら、あと少しで彼女との日々が終わることへの寂しさと、この3年間は彼女に記憶の片隅にでも残るような思い出になったのか?と少々の不安と、ここから彼女がトップアイドルとして成長していくだろう将来の期待を覚える。
彼女がアイドルとしてスカウトされた後、大将に養子として拾ってもらい、遠く離れた地方の学校に転校する予定である。会うことを事務所が許すとは思えないが、万が一の保険として俺も遠く離れた地へと赴くのだ。テレビ越しに彼女の勇姿を応援するとしよう。
他には……そうだな、よし。
彼女の未来に、幸多からんことを、俺は密かに願うとしよう。
♦♦♦
中学に進学して少しした頃。
「──アイドルにスカウトされちゃった」
彼女の報告に、ついにこの日が来たかと一瞬だけ表情が強張るのを感じた。そして、すぐに笑顔に戻り「おめでとう」の言葉を口にする。
「私なんかがアイドルなんてできるのかなぁ? ほら、私って
……おそらく俺に選択肢を提示してくるだろうなって予想はあった。だからこそ、俺は何の迷いもなく、彼女の背中を押す選択肢を選ぶ。
「星野ならできるって。俺も応援するからよ」
「……そっか。じゃあ、やってみるね」
彼女は満開の桜のように魅力的な笑顔を浮かべる。
この表情がファンの全てを虜にしていくことを思うと、なんかこう感慨深いものが
ピピッ
「待って何の音」
「いやー、そっかー。シオンは応援してくれるんだね。嬉しいなぁ」
彼女は微笑みながら手に握った小型の機械──ボイスレコーダーをこれ見よがしに俺に見せつける。
オラ、わくわくすっぞ。(震え)
「私もアイドル頑張るね──専属マネージャーさん♪」
「ちょっと待って」
「あ、その顔っ、もしかして信じてない? 確かに社長さんに
「かなり待って」
俺はこの時気づいてしまった。
彼女は我を通してでも、俺を逃がすつもりは一切ないのだと。彼女に妥協、又は諦観の言葉は存在しないのだと。
「シオンは私を助けてくれた。でも、片方が支えるだけじゃフェアじゃないもんね。今度は、私がシオンを守る番だから」
「お願いだから待って」
「だから、私がアイドルになって君を振り向かせて魅せるよ。私の大好きな
「कृपया प्रतीक्ष्यताम्」
俺の中で
【主人公】
原作知識持ちの転生者。ぶっ壊れているというか『正気で狂ってる』状況。過去の深堀は次回か次々回に。
【大将】
原作を履修してない転生者。前世では主人公の父親の親友ポジ。そして今話のアイの最後の問題発言の元凶。
【星野 アイ】
未来の人気アイドル様。逃がすつもりは一切ない。
【カミキヒカル】
原作知識持ちの転生者。出番なし。時系列的には11歳で姫川 愛梨に逆レされ女性恐怖症に陥っている状況。芸能界怖い。正直、役者を辞めたい。
【リョースケ】
原作知識持ちの転生者。出番なし。時系列的には、名前がありきたりでここが『推しの子』世界と気づいてない。
【???】
原作知識持ちの転生者。主人公に死後の状況を教えた協力者。